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「黒の一団の方とお見受けする!私を一団に加えてはいただけないだろうか!!?」
シュン、レイル、グレン、ニノがギルドへと依頼達成の報告をしていた時だ。
一人の大男が4人の前に現れた。
4人は揃って黒い衣服を纏っており、尚且つ何ヶ月も放置されていた達成困難なキングオーガ率いるオーガの群れを駆逐してきたところであった。
たった4人では無理な仕事ではあるが、黒い服を纏っていた事で納得もいく。
「団員の募集はしていない。他をあたれ」
素っ気なく言い捨てるレイルに一瞬押し黙ったが、男はちらりとシュンを見ると再び口を開いた。
「実力を試す期間だけでも設けていただけないだろうか?」
シュンをちらりと見た瞬間から4人は既にその価値すらないと判断していた。
4人の中では一番華奢なシュンを自分より下に見たことなどすぐに分かったからだ。
「その必要はない。募集していないからな。引き入れないと分かっているのに試用期間なんて必要ないだろ」
取りつく島もない様子のレイルに僅かに歯嚙みし再びシュンへと視線をやった。
「このようなか弱そうな子供ですらいるのにか?」
今、この場にシンやマール、エクシャがいなくて良かったとレイルとグレンは心底思った。
誰か一人でも居れば間違いなくこの男はモザイク処理必須の酷いことになっていた。
「人を見た目で判断している時点で無理だ。それから自分と相手の実力差が分からないのもダメだ」
「それはこの俺がこの少女より弱いと言ってるように聞こえるが?」
流石に心外だと眉間にシワを寄せる男に、レイルは鼻で笑いながら言い放った。
「寧ろこいつよりお前が強ければ直ぐにでもボスの座をくれてやる」
と。
それに呆れた視線をむけるシュン。
グレンとニノは「叩きのめせばいい」とレイルの意見に頷いていた。
ゴクリと生唾を飲む男と、成り行きを見ていたギルドの職員と客達は、騒然となり一気に慌ただしくなった。
黒の一団所属の少女と入団希望の大男が黒の一団のボスの座をかけて勝負をすると言うのだ。
一体いつ!?時間は!?ルールはあるのか!?と沸き立つがそれは一瞬だった。
パチンと指が鳴り、大男はガクンと膝から崩れ落ちた。
「はい、私の勝ち」
「…へ?」
「レイル、時間の無駄だよ」
「こう言う輩には力を見せつけたほうがいい」
男は縫い付けられたように床から立ち上がれずにいた。
「な、何をした!?」
「私の得意なのは魔法だよ。魔法で貴方の下半身を床にくっつけたんだよ。まぁ大丈夫。明日の朝には解けるから」
「ま、魔法!?魔法陣なんてどこにも!!」
「魔法陣?そんなの必要ないよ」
「魔法陣が、必要ない?」
「一々魔法陣を見せていたらどんな魔法を使うか敵にバレちゃうでしょう?だからそんなもの必要ないんだよ。じゃぁそう言うわけだから」
ニッコリと笑顔を残しシュンは移動魔法でグレンとニノを連れて先に帰宅した。
レイルは報酬を受け取ると大男に視線を向けた。
「アレが俺たちの“ボス”だ。お前じゃ一生掛かっても勝てない」
「!!?」
シュンもレイルも高難度の移動魔法を魔法陣無しで使用し、さらに爆弾発言まで残した。
あの少女がボスなのだ、と…。
「神か!!!」
「ふははは!!もっと崇めたまえ!!」
テーブルの上には文字通り噴水のように湧き出るチョコレート。
それを前にテンションマックスのシンとそれを煽るシュン。
「……アレが黒の一団のボスとエースだなんて誰が思うだろうな…」
夢を抱く者にとって、現実は時に残酷だ…。
学校の仕事で留守の間も魔法ですくすくと育った採集されていなかった庭の畑の果物を沢山消費しなければならなくなり、チョコレートフォンデュを今朝方計画していた。
ギルドの仕事が終わりさっさと帰りたかったのに、あの男の足止めにシュンは少なからず苛立っていた。
よって瞬殺したのだ。
テーブルにはフルーツの他にもマシュマロやバゲット、餅、白玉、チーズ、アーモンド、ビスケット、そして一口シュークリームなどが並びバリエーション豊富だ。
「ヤバイ!シュークリーム!ヤバイよシュンちゃん!!ねぇこれアイス!?シュークリームの中身クリームじゃなくてアイスなの!?」
「この白玉やお餅も相性抜群ですね!モチモチして食感も面白いです!」
「バゲットにチョコを染み込ませるのも良いな。生地に練り込んでチョコレートパンとかで普通に売れそうな味だ」
「チーズとチョコか。甘いものだけだと胸焼けおこしそうなレパートリーだが、しょっぱいものを挟むと無限に食えるな」
「ちょっ!シン!お前!それ!!」
ニノ、エクシャ、マール、レイルが各々感想を述べながら楽しんでいると、とんでもない光景がグレンの視界に入った。
ドバドバと流れるチョコをグラスに注ぎそれをそのままゴクゴクと飲み干すシンの姿だ。
「……………………」
プハーと一気飲みしたシンの口周りは子供のように茶色くなっており、流石にそれはないと一同ドン引きしていた。
久しぶりのメンバー揃っての楽しいひと時は長くは続かなかった。
森への侵入者を察知した魔物からエクシャへと連絡が入った。
それは見知った者で、シュンはすぐにその人物を廃城へと招いた。
「ランスロット、どうしたの?」
周りがチョコレートフォンデュを楽しむのを横目に、フレイザーの優秀な配下、ランスロットをリビングの隅のテーブルへと座らせた。
「閣下からの伝言を持ってきた」
ランスロットはちらりとグレンとニノを気にしているようだった。
「?」
「……ルークの居場所が分かった」
「!?」
ガタッと勢いよく席を立ったのはグレンとニノであった。
ルークは友人だったグレンとニノを裏切り、大量の銃と共に姿を消した魔法使いだ。
その居場所が分かったと言うのだから、二人にとっては願ってもない事である。
なぜ裏切ったのかその理由を問いただしたい。
「……分かった。今から閣下のところへ行って詳細を聞いてくる。みんなは待っていて」
「待て!シュン俺たちも行く!」
「そうだよシュンちゃん!俺たちも聞きたい!」
「ダメだ」
それにすかさず反論したのはレイルだ。
なぜだとレイルを見る二人に、冷静にこたえる。
「興奮状態のお前たちが行っても話の邪魔になるだけだ。大人しく待っとけ」
「でも!」
尚食い下がろうとする二人にシュンは別に構わないと許可を出す。
「その代わり、大公閣下の機嫌を損ねるような事をして罰せられても私は知らないよ?」
その一言でグレンとニノは一瞬で冷静さが戻った。
最悪首と胴体がサヨナラしてしまう。物理的に。
「待ってる」
「物わかりがいいね」
元兵士で権力がなんたるかを知っている二人は実に物わかりがいい。
これがシンならこうは行くまいと、チョコレートの噴水に夢中の闇の魔法使いを見た。
「…うん、まぁちょっと行ってくる」
指を鳴らすと直ぐにシュンとランスロットの姿は消えた。
「……シン、シュンに好意があるならせめてチョコレートから離れて見送りぐらいしたらどうですか?」
「?シュンのやつどこか行ったのか?」
「…お前、シュンが好きって言ってたの嘘だろ?」
「……いや、チョコが俺を離してくれなくて…」
「「「「「…………はぁ…」」」」」
シュンと同等の魔力を持ち、いざと言う時にシュンを守れるのはシンだけだと思って色々と助言や協力をしてきたが、この男にシュンを任せるのは止めた方が良さそうだと心の意見が満場一致した…。
「お土産?ないよ?」
「なぜだっ!!」
いつもなら前世で慣れ親しんだ料理を手土産に現れる少女は珍しく手ぶらであったため、「土産は?」と問うたところ予想外の答えが返ってきた。
「シュン、老い先短い年寄りの楽しみを奪ってくれるな」
「大丈夫だよ、閣下はあと50年は生きる」
「いや、もういつあの世からお迎えが来てもおかしくないからな?」
「まぁまぁ、閣下の寿命はさて置き、本題に入ろう」
「…さて置くでない…世知辛いのぉ…」
まるで、孫に相手にされないおじいちゃんのようなやりとりをして、ようやく話をする気になった。
ルークの居場所と、グレンとニノの故郷であるルーズランス国にどこが戦争を仕掛けようとしているのか、である。
「前置きはなしだ。どちらもヘルオキア連邦国だ」
「!?ルーズランス国との同盟国か…」
小さな国が集まりできたヘルオキア連邦国。
何かを決める時、そのそれぞれの小さな国の代表である国王が一か所に集まり、話し合いで決定する。
三度にわたりルーズランス国との戦争に敗れ、敗戦国となったが対等な同盟国として扱われているにも関わらず戦争を仕掛けるとはどう言うことかと首を傾げる。
「正確にはヘルオキア連邦国となる前の、一つの小さな国、今では領地が起こそうとしている」
フレイザーの配下の調べでは、その戦争を起こそうとしている領地は、元々貧しく民も多くはなかったが、連邦に参加することにより人々が行き来するようになった。
同じ連邦国内からの援助もあり農作や商業が盛んになり、潤いを見せていた。
しかし、戦争が始まり敗戦国となった直後その援助は打ち切られた。
理由は、ルーズランス国との戦争で疲弊した連邦国自体の立て直しという事であるが…。
「実際はその領地は今、植民地のような扱いを受けている。確かに戦争で資金がなくなり連邦国は首が回らない状態だ…」
「…自分たちが楽をするために一番立場の弱い領地を生贄にして圧政を強いているって事?」
「その通り」
そんな彼らがなぜ再び戦争を起こそうと言うのか。
「…ルーズランス国にヘルオキア連邦を潰させようとしてる?」
「私も同じ意見だ」
一部のヘルオキア連邦が同盟を破りルーズランス国へ攻め入る。
勿論腹を立てたルーズランス国は報復に出る。
「その領地の腹いせにはなるだろうけど、誰も得をしない気がする」
「いや、現状を打破するには手っ取り早い」
戦争を起こした自分たちは死ぬかもしれないが、少なくとも子供達の未来に連邦の圧政は無いはずだと考えたのだ。
今のためではなく、未来のための戦いだ。
「…それだけじゃ終わらない話だね」
「…あぁ、その武器…銃の調達にルーズランス国の貴族も関わっていて、そして殺された」
「殺したのはルークだと思っていたんだけど、そうとは限らないみたいだね」
その殺された貴族がヘルオキア連邦国の現状を知っていた場合と、ただルークに騙されて何も知らずに銃を集めていた場合。
後者ならただの間抜けだが、もし前者なら植民地扱いされている領地民のことを憂いての行動だ。
そしてその行動を良しとしないルーズランス国もしくはヘルオキア連邦国の“誰か”がその貴族を殺した可能性が出てくる。
「……ヤバイ…思いの外面倒な事になってきた…」
「ちなみに、今ルークはその植民地に居る」
「これは一度ルークに会って話を聞く必要があるね」
「そう簡単に話してくれるかの?」
「まぁ、何とかするよ」
ルークの似顔絵とかあるかと尋ねれば、既に用意されていた。
その足で向かうと、パチンと指を鳴らせばシュンの姿は消えて代わりにシュンの座っていた椅子にはチョココーティングされたフルーツが山盛りに現れた。
“フルーツの消費の手伝いをお願いします”と書かれたメモ付きだ。
「ふふ、あるではないか」
思っていたものと違うが、無いと言っていた土産をちゃんと用意しているあたり律儀な奴だと、苺を一つ摘み口に放り込んだ。
「…ふむ…美味い」
自分とクリスの分を少しだけ取り分け、残りは使用人達へと渡したあと、執務机へと向かいペンを取る。
「学園での無茶振りは流石に申し訳無いと思っているぞ…私も陛下もな」
さらさらと手紙を書いたあと、封をしてランスロットを呼びつけ手紙を渡した。
「ヴァレル国王陛下にこれを」
「承知いたしました」
ランスロットが部屋から出るのを確認したあと、窓へと向き直り晴れ渡る空を眺めた。
「さて、クリスとお茶にでもしよう」
ルークが居るであろう村へとやってくると、そこは殆ど人がおらず、余所者であるシュンは悪い意味で目立っていた。
年寄りと子供ばかりで、皆お世辞にも良い暮らしをしているとは思えない。
(圧政を強いられているんだから当然か…)
そんな中での若い男はとても目立った。
魔法で畑を耕し、住人達の手助けをするその男と視線が合うと、待っていたかのようにシュンに近づいてきた。
「……思ってたのと違うな…」
「…いきなり何なの?」
男…ルークのまさかの第一声にシュンは一瞬だけたじろいだ。
取り敢えず話をしようと、ルークは木陰へと誘った。
ルークを心配そうに見ていた老婆に「大丈夫だ」と手を振る。
「初めまして。ルークと言います」
「シュンだよ。宜しく。で?何が思ってたのと違うの?」
「あぁ…ごめんね。黒の一団を束ねる人だからもっと大人だと思ってたんだよ」
「自己紹介する前に私が黒の一団だと?」
「このタイミングで会いにくるフレイザー大公の知り合いと言ったらそうだと思って」
黒の一団がフレイザーから名指しで仕事の依頼を受けているのは有名な話だ。
そしてそれをことごとく無視しているのも。
まるで友人のような関係だと思っていた矢先に、フレイザーの子飼がルークを探っていると知り、黒の一団に結びついた。
「僕の友人達がそちらに居るからね。2人のために僕を探しているんじゃないかと思ったんだよ」
友人達とは勿論グレンとニノの事だろう。
「その友人達に罪を着せようとしたのは他ならぬあなたじゃ無いの?」
「…そう取られても仕方ないと思うけど、アレは僕じゃない」
「それを信じるとでも?」
「犯人はルーズランス国のバレッタ伯爵だよ。この地の現状を知り周囲に助力を求めていたロッド侯爵を殺し、その事をヘルオキア連邦に知らせたんだ」
金で雇った魔法使いを送り込み、ロッド侯爵を暗殺。
それを知ったルークは慌てて銃を持って逃げたのだ。
「そのバレッタ伯爵には何の利益が?」
侯爵殺しなど些細な得でやるわけがないし、発覚すれば一発で一家どころか一族根切りだ。
「侯爵の後釜は、侯爵の一人娘の夫でバレッタ伯爵の甥だよ」
「…oh…」
今のところ犯人がバレッタ伯爵だと分かっていない様子だが、分かればロッド侯爵が銃を大量に手に入れ、ヘルオキア連邦に渡しルーズランス国を陥れようとしたと主張するだろう。
しかも銃を集めていたのは一部の人間は知っている為、真実味が増す。
「……なら、そうならない為に先手を打とう」
「……戦争、どうするの?」
この土地の人々にとっては聖戦だ。
子供や孫のための戦いなのだ。
しかし、シュンは鼻を鳴らす。
「君が今話している相手は誰か知っている?私は…黒の一団はこれでも世界的に名前が知れていて、割と国やギルドに融通が利くんだよ。でも個人的な事情で動くわけにはいかないから、ルークが一言ギルドに依頼すればいい。この地を守って、と」
「……うん、何となく、そう言ってくれると思っていたよ」
「え?」
柔らかく安堵の笑み。
誰かに助けを求めたくてもできずに、上の指示をただ忠実に守っていた。
そんな時に新聞の端で見かけた世間がいつの間にかそう呼ぶようになった「黒の一団」と「団長シュン」の名前。
「君は僕の味方だと直ぐにわかったよ」
「…どう言う事?」
「僕にも“二つの記憶”があると言えば分かるかな?」
「!!?前世持ち!」
グレンとニノを行ったことのない廃城へ飛ばしたのは、偶然ではない。
前世での漫画の記憶があったからだ。
そこへルーズランス国の騎士団を送り込めば、直ぐに二人の無実は晴らされるだろうと騎士団も飛ばした。
そのあとグレンとニノが廃城に居着いたのは予想外であったが、漫画のシナリオが崩れて二人が殺し合うことが無くなったのにはホッとしたのだという。
「僕一人では限界がある。戦争は止めたいけどそれじゃぁこの地はずっとこのままだ。だからゆっくり時間を掛けて言われるがまま銃を集めながら君が来るのを待っていたんだ」
「そっか。待たせてごめんね」
「…この“国”を助けて…」
「任せて!」
誤字、脱字報告ありがとうございます!
いつも助かっています!




