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「おい、そこまでにしてもらうぞ」
「!?お前は!!」
木の影に隠れて魔物を次から次へと召喚していた者を見つけたマール。
学校を襲った者の一人で、恐らく魔力泥棒一味最後の一人だろう。
ヒュバートが聴取ですんなりと自白したのは、きっとこの展開も計画のうちだったのだ。
リーダーである自分が捕まる事で、油断を誘い仲間の一人を逃がす。
そして無数の魔物を召喚できる者なら、復活の魔法陣に警備が数人いたところで多勢に無勢。
生徒を生贄にすると言う最初の目的が果たせなかった時のための、最後の手段として警備の者たちを生贄にしたと言うわけだ。
「ふん、お前も確か竜だったな」
「あぁ、そうだ。だからお前の力は俺には無意味だ」
周囲をあっという間に魔物の群れに囲まれるが、そんな事どうと言うことはない。
どんな魔物であっても竜という最強種には敵わないのだから。
ギッ!と殺気を放つだけで石になったように動かなくなる魔物たち。
勝てるはずもない相手に突っ込む者などいなかった。
「っ!」
「あの魔人とか言うのももう終わりだ。どんなに強くとも相手が悪かった」
「バカな!!魔法使い数百人がかりで封印する様な相手だ!そんな簡単にっ!」
「それから一体どれだけの年月が流れていると思っている?魔法は進化し続けているんだ。昔の魔法使いが使えなかった魔法を現代の魔法使いは使えるようになり、さらには新たな魔法も生み出されている。昔のまま時が止まった魔人に彼の方は倒せない。仮令、圧倒的な魔力があろうともそれを覆す才が彼の方にはある。諦めろ」
必要ならばその場で魔法を作ってしまう様な相手なのだから、と。
「…そんな事信じられるか!!お前たち!怯えるな!相手は一人だ!行けぇ!!!!」
「!?」
主人の無理矢理な命令に「ぐおぉぉおーーー!!!」と雄叫びを上げながら魔物たちはマールへと突進した。
マールは小さく息を吐くと、両腕を竜へと変身させた。
「悪いな」
と、命令に従わざるを得ない魔物たちに謝罪し、両腕に魔力を集め、魔力の渦から無数の火の玉を生み出した。
そしてそれは針の様に細長く伸びて、突進してきた魔物たちを次々に串刺しにしていきあっという間に勝敗はついてしまった。
「…悪くない」
シュンと相談しつつ、試行錯誤し自分で作った魔法の初使用だったが、中々だとほくほくとした気分で魔物を一掃した。
残ったのは一人の敵のみ。
その敵も圧倒的な強さの前に立っているのがやっとといった様子だ。
「この魔法も彼の方の案だ。分かるか?不運なのは魔人の方だ」
「そ、そんな…」
ついにはヘタリとその場に座り込み、戦意喪失となったのだった。
「うぉーー!!」
ズバッ!
「おりゃーー!!」
ドバッ!
「せぇーーーい!!」
ズシャ!
「アスベル様いちいち大声上げてたら体力消耗するっすよーっと」
スパパパパンッ!
「えぇー…なんなのあの子たち…」
「一国の王子様にその護衛にしちゃやるな」
グレンとニノの前でバッタバッタと魔法と剣で魔物を斬り伏せていくアスベル。
一方では一切魔法が使えないにも関わらず見事な腕前で多数の魔物を一撃で瞬殺するクー。
自由に動くアスベルをクーが補佐している。
「俺たちも負けてられないね!」
「黒の一団、切り込み部隊(勝手に今命名)!一気に攻めるぞ!」
「おう!」
剣に魔法を纏い、背中合わせになるとお互い正面に向かって半円形に剣を振ると、纏った魔法が半径10メートルを焼野原へと変えた。
「良い見せ場作んないとな!」
「そしてシュンちゃんにご褒美貰うんだー!」
「お前…」
「さぁ!サクサクいくよー!」
「ったく。シンに殴られない程度にしておけよ!!」
少しの間開けていた周囲があっという間にまた魔物で埋め尽くされていくが、それと同時に再び魔法と剣技を発動すると魔物たちは灰と化す。
二人は二手に分かれて、中心から地上の魔物達をバタバタと倒していくのだった。
空から地上で戦う者を狙おうとする魔物が居ると、一瞬で排除される。
エクシャは魔物を召喚し、上手くフォローに回っていた。
「イズナ!」
そう指示する様に名を呼べばいつかの黒いイタチがその両手を鎌に変え、風に乗って1匹の魔物へと向かった。
それは丁度アスベルとクーを狙っているようで、二人の頭上でその鎌で首を切り落とした。
そのついでと言わんばかりに、鎌を素早く何度も振り下ろすと飛ぶ斬撃が周囲の魔物を次々に切りつけていった。
一撃必殺とは違い、命中率も攻撃力も低いが、この数の魔物だ。
適当に放っても当たる確率は高いし、深傷を与えられなくとも動きを鈍くすることはできる。
エクシャ自身も魔物を叩き落としながら周囲を見回す。
ふと視界に入ったのは、シュンを気にしている様子のシンだった。
得意の闇魔法で次々に魔物を排除していき、空の魔物はそれほど多くはない。
シンに釣られてシュンを見れば魔人と付かず離れずの距離で攻防を繰り広げており、見るからに魔人はシュンを捕まえようとしている様子だ。
それを体術や剣でいなしつつ、攻撃を当てに行く。
周囲の魔物は随分と数が減り、追加の魔物が湧かない事からエクシャはシュンのフォローに回ろうかと考えていた。
しかし、それはシュンにより止められた。
ボルフォートの手から逃れようと移動魔法で距離を取ったと同時に、インカムに通信が入った。
『そのまま反応せずに聞いて。シン、レイル協力して』
と。
「!?」
突然の名指しに自分では無い事に肩を落とすエクシャだが、シュンの声がどこか楽しそうだったのでよしとする。
名指しされた二人は、指示通り無反応のまま魔物の相手をしていく。
シュンの作戦にレイルの眉間にシワが寄っていき、その反対にシンは嬉しそうに「任せろ」と小声で返していた。
魔物が少なくなってきた今、シュンはボルフォートから一気に魔力を奪う作戦へと移った。
悟られず、自然に、油断していたと見せかけて、シュンは右腕を掴ませた。
「っ!?」
「ふん、ちょこまかと。漸く捕まえたぞ」
剣を操り抵抗して見せるが、それはボルフォートの魔法で叩き落とされた。
「さぁ、お前の魔力と体を頂くとしよう!」
「っ!あああぁぁぁぁ!!?」
ボルフォートは掴んだシュンの腕から自分の魔力を流し込み、身体を乗っ取ろうとする。
それをただでやらせる訳もなく、必死で抵抗する…演技をする。
「無駄だ!お前の体はもう」
「なんつって?」
「!?」
苦しんでいたはずのシュンはケロリと言い放った。
「準備完了だ」
「なに!?」
いつの間にかシュンとボルフォートの周囲には幾重にも重なった防御壁が出現していた。
「一個だけだと逃げられるからね。沢山張らせてもらったよ」
「逃げる?そんなことをする訳ないだろう。ようやく体が手に入るというのに!」
ボルフォートが更にシュンに魔力を入れ込もうとするが、二人の第三者によって塞がれた。
「やらせるかよ」
「こいつはお前には荷が重いぞ」
「!?」
背後に現れ身体強化で力一杯ボルフォートの首を掴むシンと、空いていたもう片方の腕を掴み身動きを取れなくするレイル。
そして、シュンは自分の右腕を掴んでいたその手を掴み返した。
「1人でちまちまやってると時間かかるし、抵抗されるからね。一気にいかせてもらうよ!」
3人が魔力を込めるとボルフォートの魔力は一気に吸い取られていった。
「…ふふ」
しかしボルフォートはその余裕を崩さなかった。
その膨大な魔力を3人の体では受け止めきれるわけがなく、魔力過多により肉体が崩壊すると考えたのだ。
「魔力を奪うというならそうすればいい。魔力に精神をも流し込みお前の体を頂く!」
「そんなの計算してるに決まってんじゃん!」
「!?」
ふよふよと周囲を囲む小さな水晶群。
「な、なんだ?」
「別に私たちの体にあなたの魔力を貯める必要はない」
ボルフォートの魔力は奪う先から学校中に散りばめて置いた録画水晶に移していった。
「ついでにボルフォート、あなたの弱点も分かってる」
「!?」
「それでも私を乗っ取れるものならやってみろ!!」
カッ!と一瞬光が光ったが直ぐに治りボルフォートを包み込んでいた。
「うがあぁぉぁぁ!!」
奪われる魔力に弱点の光魔法によりボルフォートの体はサラサラと砂のように崩れ始めた。
「なぜだ!なぜこのようなっ!!」
人が憎い、と叫ぶボルフォートにシュンは一つ頷いた。
「自分を虐げる者が憎いと感じる事は、奴隷になりかけたからよく分かる。でも、だ。やり方が悪かった。復讐をするにしてももっと別のやり方があったはずだよ。…そう、私のように力を見せつけ、民衆を味方につけ、王族や貴族を良いように」
「待て待て待て!それ以上はダメだ!」
「えぇ〜」
いきなりのコントにボルフォートは目を丸くし、シリアスな場面じゃなかったのかとレイルに止められ、シュンは仕方なく口を噤んだ。
「何にせよ、終わりだ」
静かにシンがボルフォートを見る。
「…お前が生きている時にこいつと出会えればよかったのにな」
頭だけになったボルフォートにしか聞こえなかったその声は、憎しみも恨みも敵意も無く、ただ、同情が向けられていた。
魔物は使い手により撤退し、惨状広がる校内はシュンの魔法により一瞬で綺麗になった。
防御壁が解かれた講堂からは国王を始め、生徒や保護者たちがぞろぞろと姿を現した。
「シュン!」
歳上のクリスがドレスの裾を摘み上げ、駆け寄ってきた。
その後ろからはリリアが続く。
「クリスお嬢さんにリリアお嬢さん」
少し身長の高いクリスに抱きつかれ、その横からはリリアが「お怪我はないですか?」と回復魔法の陣を用意していた。
「大丈夫。無傷ですよ」
クリスをやんわりと引き剥がし「ほら」と一回転して見せた。
当然自分で回復済みだ。
安堵する2人の令嬢の後ろから「ゴホン」とヴァレルの咳払いが聞こえ、令嬢2人は慌ててシュンから離れた。
「あぁ…癒しが…」
おっさんより可愛い女の子の方がいいに決まっていると言うのに、空気読めよとジトっと見ればヴァレルはもう一つ気まずそうに咳払いをした。
「黒の一団諸君、大儀であった」
シュンの背後では決めてもいないのに、彼女がボスだと自然とメンバーが並ぶ。
「これにて依頼内容は完遂です」
「うむ、良くやってくれた」
「詳しい報告書は後ほど提出させていただきます」
先ほどまで無礼な子供という認識で見ていた貴族たちも、シュンの並外れた魔法に関心を寄せる者や恐怖する者など様々に視線をよこす。
しかし、そんなもの気にも止めないのがシュンだ。
「長期間に渡りご苦労であった」
「はい。では我々は本日のところは撤退致します」
視界の端でセリブレートやエメリー、メルベルトが何か言いたそうにしていたが、視線だけを向け軽くウィンクすると指を一つ鳴らした。
次の瞬間には黒の一団は跡形もなく消え去っていた。
「我が家!!」
久しぶりの廃城の玄関広間。
城内はすっかりクモの巣だらけだ。
それも魔法であっという間に綺麗になる。
ウキウキと自室へと向かおうとするシュンをシンが引き留めた。
否、警備組以外の3人がシュンに何か聞きたそうにジッと見ている。
「…どうしたの?」
「…お前、その…」
口籠るシンに対して焦れったそうに、代わりにレイルが問うた。
「お前にもあるのか?前世の記憶とやらが」
「…」
突然の質問に眉一つ動かさない。
「…何でそう思うの?」
そう聞き返せば今度はシンが返す。
「あの女の問いに、なんとかというゲームは知らないと言い切ったが前世の記憶とやらの事については何も言わなかっただろう?」
あの時少し迷ったのだ。
聡い彼らのことだ。
きっと気づくだろうと。
「シュンが嘘をついたのは後にも先にも俺と出会った時の「記憶喪失」の事だけだ。言っていない事はあっても嘘は無い。だから、俺たちの前で否定しなかったんだろ?」
「…そうだね。嘘は信用や信頼を無くす。だからみんなには嘘は言わないようにしてた」
「じゃぁやっぱり…」
「あるよ、記憶。この世界では無い別の世界で生きていた記憶が。因みに精神年齢はみんなより上です」
その瞬間、ガクリとレイルが膝から崩れ落ちた。
「え?レイル?」
そんなにショックなのか?と声をかけると、レイルはフルフルと肩を震わせ、ぼそりと何かを呟いた。
「お………た…」
「え?何?」
聞き取れずに聞き返せばガバリと体を起こしたレイルは
「俺は!幼女に養われてはいなかった!!」
「あぁ…レイルずっと気にしてたからな…」
「えぇー…そんな事ー?」
指名手配されていて碌に働けなくて、まだ幼かったシュンの収入頼りだったのをずっと気にしていたらしい。
大手を振ってギルドの仕事をバリバリこなしているのもそれが最大の要因だ。
「長年のつっかえが取れた」
「あぁーそう。良かったね」
反応が思ってたのと違うが、まぁ良いやと苦笑いのシュンであったが、これで済むはずがなかった。
シュン、シン、レイルの後ろからソワソワと流れを見ていた他のメンバーは3人の話が終わると同時にシュンに詰め寄った。
「シュンの世界とはどのような所ですか!?」
「シュンの料理もその世界の知識なのか?」
「前世ではどんな事してたんだ?」
「まってまって!シュンちゃんの中身大人!?え!合法ロr」
「それ以上言わせねぇぞ」
(…うん、やっぱり思ってたのと違う…)




