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「…なんだ、あの群れ…」
「こっちに来ているのか!?」
学校の警備員や王族貴族の護衛などの講堂の周囲を警備している者たちが、肉眼で魔物の群れを確認した直後、インカムからシュターナの声が響いた。
『全員講堂へ入ってください』
少女の声に戸惑う者たちをグレン、ニノ、エクシャが大丈夫だと従うように促した。
「して、シュターナよ、策はあるのか?」
「やってみないことには何とも。まぁ……こちらの警備(という名の魔法陣解読)を断っておきながらこの体たらくを起こした何処かの誰かよりは何とかして見せますよ」
「……」
清々しい笑顔で国王に嫌味を言う少女に周囲は凍りついた。
「陛下、あのような者たちに任せるのは…。一刻も早くここから避難を」
エメリーの父親である騎士団の団長はとにかくヴァレルを安全な場所へと移動させたかった。
しかし、魔物の群れが目前まで迫っている今、それは得策とは言えない。
避難中に襲われてバッドエンド待った無しだ。
パチンとシュターナが指を鳴らせば宙にまたあの水晶の映像が映し出された。
今度は今現在の外の様子だ。
魔物と魔人と思わしき者は真っ直ぐにこの講堂へと向かっていて、羽があったりスピードがあるものは今まさに講堂へと突っ込んできた。
「うわぁーーー!」
その衝撃映像に悲鳴があがるが、突っ込んできた魔物は見えない壁に阻まれて跳ね返った。
「私たちが何とかします。皆さんはここでゆっくり見物でもされていて下さい」
あの数の魔物を何とかするだと?
あんな子供に無理に決まっている。
そもそも、あの子供は誰なんだ?
王族や貴族に対し失礼すぎる。
貴族たちの表情からそのような考えがありありと窺い知れる。
そんな事をいちいち気にするシュターナではないし、相手にする気もない。
「さぁ、みんなお仕事の時間だ」
そう言うと、シュターナの周囲にはシン、レイル、マール、エクシャ、グレン、ニノが付き従うように側へと集まった。
教師や警備がなぜ、とざわめく。
「黒の一団、出撃といこう」
黒の一団が警備に居ると言う話は広まっていたが誰かまでは知られていなかったし、まさか牛乳の瓶底のような眼鏡の冴えないシンや、苦労人臭漂うレイルがそうだとは誰も思わない。
唯一マールだけは、竜騎士科の生徒から「流石です!」と尊敬の眼差しを集めていた。
「苦労人臭ってなんだ…解せぬ」
笑いを堪えながら扉へ歩を進め、シュターナは大きく指を鳴らした。
パチンと鳴らすと同時に、一同の着ていたものはいつもの黒い衣装へと変わり、そしてシュターナもシュンへと戻る。
「シュターナ!君も戦うのか!?」
そう声をかけたのは、人混みをかき分け出てきたエメリーだった。
その隣にはメルベルトも居る。
あの魔物の群れと戦うなど、美味しいデザートとお茶を振る舞っていた温和な少女がする事ではない。
二人は自分より年下の少女が心配なのだ。
「お二人とも、ご心配痛み入ります。ですが大丈夫です。私はこう見えて黒の一団の団長なので」
髪や瞳の色は違うがあの優しい笑顔は彼女そのものであったが、発言は聞き捨てならなかった。
「え」
「だ、団長…?」
つまりボスだ。
暫く時が止まった気がした。その間に一団は防御壁の外へ行ってしまった。
「「ええぇーーーー!!!」」
二人の驚きの声が講堂に響いたが、シュンにはもう聞こえなかった。
外へ出ると同時に、魔法で周囲の魔物を一掃した。
出た瞬間襲ってきたのだ。仕方ない。
「さぁ!やるぞ!!」
「程々にしてください、アスベル様」
「何でだよ!?」
しれっとアスベルとクーは剣を抜き一団と共に戦う気満々でそこに居た。
思わず素でツッコんでしまったシュンは悪くない。
「講堂に戻って!」
「だが断る!!」
「護衛!仕事しろ!!」
ドンッ!と直ぐそばで爆発が起きるが、気にせず話は進む。
魔物の群れを目前に立ち止まってしまったシュンをなにも言わずフォローするメンバー。
今話してるから邪魔をするなと、襲い来る魔物を片っ端から排除する。
「シュン、アスベル様は俺がお守りするので戦わせてやってほしいっす。魔力泥棒の事でなにもできなかったのが悔しいんすよ」
「…頼む。足手纏いにはならない」
「…そんな事を気にしているわけじゃない。もし、万が一が有ればこの国とアスベルの国は戦争なんだよ」
「それも分かっている。無茶はしない。危ないと思ったら講堂に戻る。約束する」
いつになく真剣なアスベルにため息を吐くと、パチンと指を鳴らした。
「お!?」
「これ…」
「黒の一団特別仕様」
アスベルの制服とクーの護衛服が黒く染まった。
ありとあらゆる魔法や攻撃を防ぐ、黒い衣だ。
「肌が剥き身の所には効果ないから、頭は死に物狂いで守ってね」
仕方なしと渋々許したシュンは、魔物の群れから自分たちを守っていてくれたメンバーを振り返った。
「マール!魔物を召喚している人間の確保!」
「了解した」
「シン!レイル!空の魔物を一掃!」
「任せろ」
「分かった」
「グレン!ニノ!地上の魔物を一掃!」
「了解」
「なんなりと、シュンちゃん」
「エクシャ!空と地上、臨機応変にフォローして!」
「お任せください」
「俺たちはどうする!?」
指示はないか?と目を輝かせるアスベルにシュンは「ない!」とあっさり返した。
「指示なんていらないでしょう?」
普段から自由奔放な人間に指示なんて足枷以外のなにものでもない。
そもそも人の指示を聞く気がしない。
「二人は自由に」
「任せろ!」
「承知っす」
全員がバラけた瞬間、シュンの相手となる者から、先制攻撃が来た。
黒い一本の槍がシュン目掛けて飛んできたが、それを一つ指を鳴らして発動した魔法で相殺した。
「荒い挨拶だ」
初めから殺気がビシバシ伝わってきていた。
魔人と呼ばれているソレは、シュンの膨大な魔力に目をつけ標的とした。
シンが気づき駆け寄ろうとするが、シュンは手を振ってそれを止めた。
「シュン!代われ!!」
「ダメだ。アレは私を指名してきた。なら私が相手をするのが礼儀だ」
「っ!」
エミリアを助けに行こうとした時と違う。
明らかにヒュバートよりも強敵だ。
シュンではなく自分が行くべきなのだと分かっているが、シュンの纏う空気が変わった。
なぜ?と思うが理由は分からない。
分かるのはシュンがシンと交代する気がないという事だ。
「ちっ!」
せめて魔物が邪魔しに行かないよう、そして早く手を貸しに行けるよう盛大に魔法を連発するしか、シンに選択肢は無かった。
「話はできるのかな?」
「私を無能扱いするのは止めてもらおう」
「お?言葉が通じた」
ばさりと背中からカラスの羽を出すと、フワリと宙を飛び視線を魔人へと合わせた。
「あなたが魔人と呼ばれている者で間違い無い?」
そう予想していたが、うっかり勘違いなんて恥ずかしいにも程がある。
確認、大事だ。
「そう呼ばれているが、私の名はボルフォートだ。今から死ぬのだ。覚えなくとも良い」
「いや、勝手に決めつけないでね。私はシュン。一応名乗っておこう」
無数の魔物が飛び交う中、二人の周囲にだけやけに空間ができている。
近づいたら一瞬で消されると魔物たちの勘が働いているようだ。
「面白い。その幼さでそのような殺気が出せる事も、その魔力の量も。殺すのは楽しんでからでも良さそうだ」
「いやいや、だから勝手に決めつけないでねって」
「目覚めたばかりでこのご馳走…運がいい」
「……気持ち悪い」
魔力補給という名の“食事”と見られ、背中にゾワっと悪寒が走った。
それを落ち着かせようと自分を抱きしめるように両腕を摩っていると目の前からボルフォートが消えた。
しかし、魔力探知で居場所はバレている。
背後に現れた瞬間今度はシュンが姿を消した。
相手も魔力探知が使えるのだろう。直ぐにシュンの元へと移動した。
姿を消しては追いかけて、追いつかれてはまた消えての応酬を繰り返していたが埒があかないとシュンから仕掛けた。
身体強化し、逃げると見せかけて一瞬背後に現れるが直ぐにまた姿を消してボルフォートの真下に現れた。
「!?」
スキを突かれたボルフォートはその顎に一撃目を喰らうが、ただでやられたりはしなかった。
シュンが殴るために振り上げた右の拳。
右脇はガラ空きだった。
殴られると同時に、ボルフォートはその長い足でシュンの脇に蹴りを見舞った。
「っ!」
魔法で強化していてもその威力は強く、軽いシュンの身体はいとも簡単に地面に叩きつけられた。
「ってて…なんだアレ?殴った感触が無かった…」
まるで霧に触れたかのような感触に、殴ったはずの右手を見た。
物理攻撃が効かない。
「あの光の魔法だけしか効かないとか…?」
エミリアが唯一まともに使えた光の魔法は、多分魔人討伐イベントの要だったのだろうと予想はしていた。
ふむ、と一つ頷くと、今度はその拳に光の魔法を纏わせた。
勿論そうとは気付かないように。更におまけの魔法も付与してある。
「よっと」
と立ち上がると、ボルフォートは楽しそうにシュンを見た。
そうこなくては、とその目が言っている。
「それでこそ甚振りがいがある」
「いや、私はそんな趣味ないから」
こいつ超ドSだよと口角を引き攣らせていると、一瞬で距離を詰められた。
「いらっしゃい」
慌てず、今度は腹目掛けてその拳を振るった。
ボルフォートは片手で受け止めたが、バチッ!と強烈な衝撃に直ぐに手を引いて距離を取った。
「おやおや、ビンゴかな?」
「光の魔法…だけではないな…何をした?」
「当ててみろ!」
指を鳴らすと出てきた双剣。
グレンの指導のもと、そこそこ上達してきているが、今回はその手に握るつもりはないし、慣れない武器で勝てる相手でも無い。
シュンの左右で守護するように現れた剣は、シュンが右手を振ると意思を持っているかのようにボルフォートに向かって飛び出した。
物を浮かせる魔法の応用で、某ロボットアニメのオールレンジ攻撃をヒントにしたものだ。
アレは遠距離攻撃だがこれは剣が自ら攻撃しに行く。
(魔法弾が放てる魔法道具とか良いかもなぁ)
そんな事を考えていると、遠くからレイルが何か言っているのが見えたが、聞こえない。
「後でkwsk●*△□☆!!」
聞こえないったら聞こえない。
ボルフォートが剣を避けるタイミングを見計らい、移動魔法で距離を詰め拳を振るう。
頬に僅かに掠るだけであったが、先程よりも手応えはあり、それは相手にも伝わったようだが、鼻で笑われる程度で傷は直ぐに癒えてしまった。
「面白い。その場で応用がきくのか」
「組み合わせるのって楽しいよね」
「…一つ、二つ、三つ、四つ…ほぉ…魔法を五つ同時に使えるのか」
「残念、八つだよ」
一つ、講堂の防御壁
二つ、飛ぶための部分変身
三つ、オールレンジ攻撃の剣
四つ、拳に宿した光の魔法
五つ、同じく拳に宿したもう一つの魔法
六つ、身体強化
七つ、移動魔法
八つ、魔力探知
同時に複数の魔法が使えるというのは、二つでも非常に珍しい事なのに、それが八つともなると異常さが際立つ。
驚きに目を見開くボルフォートはニヤリと笑みを浮かべた。
「素晴らしい。お前には私の新たな身体となってもらおう」
「…」(肉体が無いのか?だから普通に殴っても効かない?)
「今の私は魔力の集合体でしかないからな」
「…魔力の集合体で体を再現してるって…そんなのありかよ…」
魔力で肉体を再現するなど聞いたこともないし、体の維持と戦闘で膨大な魔力が必要になるし、それだけの魔力を持っていれば相手は恐れ慄くだろう。
大抵の人間は自分の魔力の方が先に無くなるため、余程自信がない限り戦おうなどと思わない。逃げの一手だ。
しかし、誤算だった。
シュンにとってではない。
今の発言で、シュンが恐怖すると思っていたボルフォートは、ポーカーフェイスに包まれたシュンの表情を読めないでいた。
先程のシュンの発言も動揺というより好奇心。
“なにその魔法!知りたい!”
くらいの感情しか乗っていなかった。
シュンは確信したのだ。
自分の拳に付与した光の魔法ともう一つの魔法は正解だったのだと。
(全身魔力の塊なら、魔力を吸い取れば問題ない!!)
ばふっ!と全身とオールレンジ攻撃の剣に光の魔法ともう一つ魔法、魔力を奪う魔法を追加しその精度を上げた。
「随分とやる気だな」
「手加減しなくて良い相手なんて、楽しすぎるでしょっ!!」
身体強化もギリギリまで行い、一気に突進した。
ボルフォートの攻撃を全て避けつつ、魔法や剣でチクチクと攻撃しつつ最大の力を拳に乗せた。
魔法と剣を避けた直後、左からの蹴りを避けるもすかさず剣が脇腹を掠る。
バチバチッ!と衝撃が走り体勢を崩した瞬間を見逃す事なく器用に回転し首へと回し蹴りを見舞った。
「っ!?」
勢いのまま地面に叩きつけられ、先程とは逆の構図となった。
「お?中々良い感じ」
光の魔法で攻撃しダメージを与えつつ魔力を奪う。
触れている時間が長い方がその分大量に魔力を奪えるが、ずっと触れているのは流石に難しいため、中々に骨が折れそうだ。
ボルフォートにとってはまだまだほんの砂粒程度なのだから。
(一度に魔力を奪う方法はある。それだとシンとレイルの協力が必要になるなぁ…)
内心ニヤリと笑み、一先ず時間稼ぎとして手数を増やし出来るだけダメージと魔力を奪うことに専念する事にした。
「あれが…シュターナ」
「いいえ、シュンですわ」
講堂の天井一杯に映し出された映像に、その戦いぶりを初めて目にした人々は驚愕していた。
セリブレートが普段のシュターナから想像つかないと息を呑んだ。
その側には不安げなリリアと、シュンを信じて止まないクリスも同じように映像を見ていた。
「クリスはシュターナ…シュンを信じているのですね」
「はい、あの方はやると言ったらやります。それに何の策も無く突っ込む様な方ではありません」
自分もこの国も他国も、沢山の人々も、幾度となく助けてきたシュンはクリスにとっても英雄だ。
どんな無理難題でもやってのけてきたその力は、尊敬に値する。
相手は確かに計測するには余りにも多すぎる魔力を有する魔人と呼ばれる存在だが、きっとそれすらもなんとかしてくれるのだろうと、どこかで確信していた。




