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「シュターナ!エミリア誘拐関与で同行願う!」
「………」
朝から頭痛がする思いのシュターナは目の前のフェリエーラと彼が連れた役人、チワワの様にプルプル震えるエミリアをどうしてくれようかと眉間を揉んだ。
騒然とする校舎前で、内心勝ち誇っていたエミリアはもうどうしようもない。
目立たないわけがないその現場に居合わせた、あるいは駆けつけた黒の一団やシュターナの友人たちは我慢ならぬと抗議しようとしたその時、意外な人物から待ったがかかった。
「フェリエーラ、待て」
「メルベルト、何だと言うんだ?」
宰相の子息であり昨日イチャモンつけてきたメルベルトであった。
「メルベルト様…あの、私…」
あの女怖ーいと言わんばかりの潤んだ瞳で見つめてくるエミリアに、メルベルトは真剣な眼差しで向き直った。
「エミリア、再確認だ。あの少女は本当は君を助けに来たんじゃないか?それを見間違えた可能性は無いか?」
見間違えたもなにも、眠らされていたので見ているはずもなく、エミリアはシュターナが自分を助けに来たことすら知らない。
「いいえ!私を助けてくれたのはシン先生です!眠りの魔法をかけられて気がついたらシン先生に助けて頂いていたんです!」
「…誰に眠りの魔法をかけられたんだ?」
「あ、あの子です!」
指した先にはシュターナ。
シュターナはと言うと、つくならもっとマシな嘘をつけとゲンナリしていた。
エミリアの言い分では拐われた事すら覚えていない事になる。
「メルベルト、さっきから何が言いたい?エミリアがそう言うのならそうなのだろう?」
「しかし、そのシン先生や戦いに参戦した警備の方々と話が違う。それに……」
「なんだ?」
「ヒュバートが自分で拐ったと言っているそうだ」
「っ!」
焦り出すエミリアに呆れるシュターナ。
ボロが出るのが早すぎる。
「えっと…」
言い淀むエミリアにフェリエーラとメルベルトの視線が突き刺さる。
「…幻覚魔法でもかけられましたか?」
適当な事を言うシュターナにハッとしたように、エミリアは
「きっとそうかも……ちょっと様子がおかしかったし」
と堂々と話に乗った。
自分を誘き出すために幻覚魔法を使ったのだ!と言い切ったエミリアにメルベルトは微妙な表情を向けた。
フェリエーラはと言うと、
「勘違いは誰にでもあるさ!」
と謝罪一つなく撤退して行き、野次馬も「なんだ、勘違いか」とあっという間に解散して行った。
しかし、どうもメルベルトは納得できていない雰囲気だ。
「おはようございます、メルベルト様。助けていただきありがとうございます」
昨日の今日で早速ある程度調べてきたようで、その行動力に感心する。
「…警備員にその…彼らがいるのは知っていたが、誰かまでは分からなかったし、仕事の邪魔をしてはならないと思っていたので接触はしなかったが…、調べて今朝話を聞きに行った」
わざわざ黒の一団だと言わずに、“彼ら”と言うあたり約束は守ってくれるタイプらしい。
そわそわと落ち着かない様子で視線を何も無い宙に彷徨わせ、昨日のことをどう言おうか迷っている様に見える。
「…君は…本当に“そう”だったんだな。すまなかった」
「ご理解いただけて良かったです」
それでは、と歩き出せば見守っていた友人達がシュターナに駆け寄って来たのが分かり、その場をそっと離れるメルベルトにエメリーは並んで歩き、声をかけた。
「良いのか?」
「…エミリアの証言を確かなものにしたくて調べたんだがな…」
結果は真逆となってしまった。
初めは「そんなバカな」と憤ったが、シンや警備組の証言とヒュバートの証言は一致しており、齟齬が出たのはエミリアだけだった。
「…エメリーはここ数日彼らと一緒にいるな?どの様な印象だ?」
そう尋ねられ、エメリーはそれぞれの言動を思い返そうとここ数日の記憶を辿る。
エミリアがよく自分に嫌がらせをしてくるというクリスとリリアの二人。
よくよく考えると実際にその場面は見た事がなく、いつもエミリアの言う事を鵜呑みにしていた。
二人とも明るくよくコロコロと表情を変え、邪険にしていたエメリーにも優しく接してくれている。
同盟国の王子であるアスベルと護衛クー。
正義感が強く、不正を許さずと言った印象で、平民にも平等に接し護衛とは兄弟の様に戯れている事もある。
自国の第二王子セリブレート。
兄であるフェリエーラを慕い、将来補佐として支えるのだと口癖の様に言っていたが、ここのところ兄弟仲は芳しくない。
そして黒の一団のシュターナ。
とにかく菓子が美味い。
「……メルベルト、シュターナの菓子は凄いぞ。甘いものが苦手なお前でもきっと食えるものを作ってくれる」
「……」
違うそうじゃない。
そもそも菓子が食えなくともなんの支障もない。
そんな視線に気づかず、エメリーはシュークリームやクレープの話を延々と始めてしまった。
要するに、エメリーが接した彼らは悪い者達ではないという事だ。
宰相となるために僅かなミスも許されない重圧から荒んでいた心を解してくれたのは、エミリアだった。
自分を理解し、分かってくれた。
明るく前向きで、いつも欲しいと思う言葉をくれた彼女は運命の相手だとさえ思った。
しかし、最近の彼女はどこか様子がおかしい。
それはあのシュターナが現れてからだ。
シュターナこそがエミリアに何かしてるのだと思ったが、転んだエミリアを身を挺して庇い助け起こしたり、魔力を奪う奴らが現れた時も率先して救っていた。
更には、シンから聞いた話だ。
彼女の持つ魔法道具を借りるため、敵のアジトの偵察に向かった際、拐われたエミリアを助けるためにシュターナは真っ先に敵陣に乗り込もうとしたと言う。
(流石にシン先生が止めたと言っていたな。そしてその正体は、黒の一団…)
悪を裁き弱きを助ける英雄の様な存在となっている。
(他に仕事が残っていると言っていたな…。一体なんの?警備員達がまだ残っているのは魔力を奪う奴らの残党がいる可能性があるからだと言っていたが、そのことなのか?)
エミリアの不審な言動、気になる黒の一団の動向、そして…
「あのチョコクリームがまたたまらないんだ!」
幼馴染みの変貌…。
「…お前はいつまで菓子の話をしている?竜騎士科は向こうだろう」
「おぉ!もうすぐ授業が始まるな!もう少しでワイバーンとパートナーになれそうなんだ!」
「…順調そうで良かったな…」
さっさと行け、と手をシッシッと振るがエメリーは気にした様子もなく竜騎士科へと向かった。
「あぁ!シュターナの助言のおかげだ!」
「!?」
最後に放ったエメリーの発言にメルベルトは一瞬呆気にとられた。
いつも他人の意見など聞かない男があの少女の助言を聞いたのかと。
この短期間にそれほどまでに心を開いたのが不思議でならなかった。
(なんで!?)
シンの授業中であるにも関わらず、エメリアは別のことに気を取られており、今朝の出来事を思い出しただけでギリギリと歯噛みしそうになる。
(なんでメルベルトまで!)
最近エメリーがエミリアに関わってこようとしない事には当然気付いていた。
更には今朝になってメルベルトまでが、自分の味方をしてくれなかった。
いつもならフェリエーラの様に無条件に味方してくれていたのにだ。
自分の嘘を暴くかの様な行動が腹立たしかった。
(何とか乗り切ったけど、この後のイベントはあと1つ!本当は魔人復活イベントを入れてあと2つだったのに、シュターナが余計な事をするから卒業イベントだけになっちゃったじゃない!)
「…エミリア?」
「!?…え?」
フェリエーラに呼ばれて顔を上げれば授業は終わっており、昼の休憩時間となり、教室にはフェリエーラとエミリアだけとなっていた。
「…顔色が悪い…大丈夫か?」
「…フェリエーラ様…あ、は、はい!少し考え事をしていただけですので…。ご心配をおかけして申し訳ございません…」
「…俺が君の心配をするのは当然だろ?」
よしよしと優しい手つきで頭を撫でられ、恥ずかしそうにはにかむエミリアに、フェリエーラは優しく微笑んだ。
(フェリエーラは大丈夫みたいね。勉強はできるみたいだけど私の事になると本当バカだわ。利用されてるなんて思ってないんでしょうね。…シンは拐われた私を助けに来てくれた。きっとアレはフラグなのよ。イベントが前倒しになったから別のフラグが立ったんだわ!)
そうに違いない!と根拠のない自信に満ちた笑顔をフェリエーラに向けると、フェリエーラは安堵した様に頬を緩めた。
今年の卒業式は国王の子息、宰相の子息、騎士団長の子息とこの国の未来を担う者たちが揃って卒業すると言う事もあり、警備は万全だ。
「あなた方の残りの仕事とはこれのことか?」
「………メルベルト様、いきなり如何なさいましたか?」
昼食後のデザートを用意する中、数日前同様突然現れたメルベルトは真剣な眼差しで問うてきた。
アスベルが一瞬警戒したが、シュターナが言っていた“別の仕事”を気にしているだけと分かると、警戒を解いた。
憧れの黒の一団の仕事ってなんだろう?と少年のような気持ちでここ数日を過ごしていたのは、メルベルトだけの秘密だ。
まさかエミリアの悪事の証拠集めとは微塵も思うまい。
「あなた方がここに残っている理由が他に思い当たらない」
この国の王子のメンツが丸潰れになるお手伝いとも言える仕事内容を、その王子の幼馴染みに言えるわけがない。
「企業秘密です」
と笑って誤魔化せば、どこか納得したように一つ頷いた。
「確かにべらべらと仕事内容を話すのは信用が無くなる」
勝手に勘違いしているなと気づいたがそれ以上はその事に関しては何も言わず、指を鳴らして椅子を出現させた。
「メルベルト様も如何ですか?」
「……おい、魔法陣はどうした!?」
「企業秘密です。さぁどうぞ」
もう面倒くさいなぁと内心ゴチリながら、エメリーの横に椅子をセットした。
座ったのを確認すると、何やら「魔法陣なしとは…ますます素晴らしい」とぶつぶつ言い始めており、中身は意外と少年なのだなと少しだけ微笑ましく思えた。
「…しかし、今更ながら俺が加わってもいいのか?」
セリブレートやクリスたちの顔を順に追って見ても、反対するものは居ない。
「この場ではシュターナがルールだ。それだけ分かっていてくれれば良い」
一つ、配膳も身分の順番ではなく、レディーファースト。
一つ、好き嫌いは早めに申告しておく事。
一つ、お残しは許しまへんで。
一つ、お茶とスィーツとおしゃべりを楽しみましょう。
因みに今日は、プリンアラモード。
透明なガラスの器の底にはほんのり甘くほろ苦いカラメルソース。
そこにプリンを乗せて、コンポートにしたリンゴやキウイ、オレンジにピンクグレープフルーツを添えて、しつこくならないくらいのホイップクリームを搾れば完成だ。
滅多に手に入らないその卵はどうしたのかって?この面子なら簡単に手に入るに決まっている。
「酸味のあるオレンジやグレープフルーツと一緒にお召し上がりください。プリンの甘さが抑えられて、メルベルト様でも召し上がれるかと思います」
「!?」
なぜ自分が甘いものが苦手なのを知っているのかと見れば、エメリーが教えてくれたと視線で答えた。
そんな事とは気付かず、エメリーは幸せそうにプリンを口に運んでいた。
黒の一団のファンであるメルベルトが、その団員の一員に良くない印象を抱かれまいと熱心に彼の良さを説いていたのはエメリーとシュターナのみが知る。
これを機に、卒業までの僅かな日数の間、メルベルトが食後のお茶会に参加するようなったのだが、エメリーとメルベルトに変化が現れた。
エミリアの話をしなくなったのだ。
その事を問えば、
「確かに彼女には救われたが、以前ほど慕っているわけではない」
と返ってきた。
フェリエーラに遠慮しているのかとも思ったが、どうやらそうでもないようだ。
(エミリアがゲームと同じ言動をとる事でゲームのシナリオが進み、私がゲームの流れを変えたからバグが起こったとか?)
エミリアと引き離した事で、2人の心境に変化が起こった。
いや、ゲームから解放されたと言って良い。
そうであるならば本来の依頼、四角関係をなんとかしろはミッションコンプリートであるが、後から追加されたフェリエーラの心を折るのがまだである。
卒業までもうすぐそこだ。
「シン先生!」
シンが受け持つ教室のすぐ横にある準備室に、シンは居た。
そして声の主にげっそりとした思いで振り返る。
シュターナ特製弁当タイムが台無しだ。
「…食事中だ。帰れ」
「ご一緒しても良いですか?」
冷たくあしらおうとするが、まるで聞く気がない女に頭痛がする。
態々椅子を運び込み隣に座るエミリアに、隠そうともせずに不快感を露わにするが、当の本人は気付いていないようで手製の弁当を広げ始めた。
「先生のお弁当美味しそうですね!誰が作ってるんですか?私は自分で作りました!」
「…関係ないだろう」
「もしかして彼女ですか!?」
「…お前煩いぞ。今すぐ出て行け」
「っ!」
ピリッと当てられた殺気に、エミリアの体が強張るが、それでも負けじと瞳を潤ませた。
「先生、私が嫌いですか?私は先生が好きなんです…」
「フェリエーラがいるのに他の男に愛を囁くのか?」
鼻で笑えば驚いたように目を丸くする。
今度は大袈裟に胸のあたりで両手を振り、
「ち!違います!私とフェリエーラ様はそのような関係ではありません!ただのお友達です!!」
と言い切った。
「わ、私が本当にあ、あ、愛しているのは…シン先生だけですっ!!」
顔を真っ赤にするエミリアに対し、シンは不快感を更に増し眉間にシワが寄る。
「俺はお前に興味ない。それから、フェリエーラにもちゃんと言ってやれ。“お前など好きではない”とな。向こうはお前を想っているようだからな」
「そんな…先生!私真剣にっ」
「エミリア・アスニア、頭のよろしくないお前にも分かるように言ってやる。俺が想っている女はこの世で一人だけだ。それはお前じゃない。これから先心変わりする事もない」
ギロリと睨みつければその鋭さにエミリアの体は硬直してしまった。
本気の殺気に、足がすくんだ。
「分かったら消えろ」
シンがエミリアからスッと視線を逸らすと、急にエミリアの視界が変わった。
学校の中庭に魔法で飛ばされたのだと、直ぐに気付いた。
「思っている女はただ一人って……」
シュターナが一団の1人だとは知らない為、エミリアが知る限り黒の一団の女はエクシャのみ。
エミリアの怒りの矛先は、エクシャへと向かった。
しかし、それがシュターナ…シュンの逆鱗に触れる事になるとは知る由もない…。




