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放課後、中庭には人だかりができていた。
騒ぎの中心は決まってエミリアとフェリエーラだ。
そして二人と相対しているのは警備組のエクシャ、グレン、ニノ。
主にエクシャが標的とされていた。
「貴族の令嬢を突き飛ばすとは!!!」
見回り中、猛突進してきたエミリア。
勿論三人は避けたのだが、エミリアはエクシャの横でわざと盛大に転んだのだ。
タイミングよくやってきたフェリエーラに、エミリアはエクシャに突き飛ばされたと涙ながらに訴えはじめた。
三人は内心、何故こうなった面倒くさいなと思っていたが、それと同時にもしここで王族のフェリエーラに不敬でも働こうものなら黒の一団のボスであるシュンに責任が行くのではと考え、切り抜ける術を見出せずにいた。
今はまだシュターナが黒の一団のシュンであるとバレるのは良くないと考えているため、シュターナに助けを求めるのは得策ではないと判断した。
そもそも、いまシュターナはフレイザーに報告に行っていて学校に居ない。
が、やってもいない事で謝るなど気分が良いものではない。
「お言葉ですが殿下、エミリア嬢は勝手に躓いて転んだのです。私は突き飛ばしたりなどしておりません」
この女に頭を下げるなど真っ平御免だとその表情にありありと書いて反抗するエクシャに、グレンとニノは苦笑いだ。
「貴様、エミリアが嘘をついているとでも言うつもりか!?」
「はい、その通りです」
「な!?」
王族の自分が警備員ごときに反論されるとは思わなかったのか、フェリエーラは一瞬言葉に詰まったが、エミリアの「私嘘なんかついてません!」という涙ながらの訴えに直ぐに正気にもどった。
「っ、そうだ!エミリアが嘘など吐くわけがない!嘘をついているのはお前の方だ!王族への虚偽は重罪だぞ!」
キャンキャン吠えるこの王子様をさてどうしたものか、と顔を見合わせるグレンとニノ。
そんな二人をよそにエクシャはやっていられないと、
「これ以上用がないのなら失礼致します」
付き合ってられるかと暗に含み、その場を去ろうとしたがそれに更に腹を立てたのは、蔑ろにされたフェリエーラだ。
「貴様!これ以上の無礼は許さん!跪き頭を垂れろ!許しを乞え!!さもなくば貴様らは連帯責任として首を刎ねる!」
「!!?」
(おいおい…この王子様大丈夫?)
(正気じゃないぞ…)
力でねじ伏せる事は容易い。
だが、その後の事が頭を過ぎる。
(…シュンに迷惑をかけることはあってはならない…。そうだ、これはシュンの為の行動。私の頭ひとつで済むなら。奴隷時代はいつものことだった…)
エクシャはキュッと一度目を閉じると両膝を地面についた。
「!おい!!エクシャ!!」
「私の謝罪で済むのなら」
見たことのない暗い目にグレンとニノは息を飲んだ。
見たことの無い表情に低い声は、いつもの彼女とはかけ離れていた。
「フェリエーラ殿下、ならびにエミリア様、申し訳ございませんでした」
野次馬が騒然とする中、エクシャは地面に額をつけた。
その瞬間、ガッ!と後頭部に衝撃が走った。
「っ!」
「もっとだ。額を地にめり込ませろ」
フェリエーラは自身の足でエクシャの頭を踏みつけた。
「っ!」
やり過ぎだとニノが突っかかろうとしたが、それを止めたのはグレンだった。
なぜ止める!?と睨みつけるが、今にもフェリエーラに噛みつきそうなほどの表情で、さらには理性を留めておく為に自身の唇を噛みしめ口端からは血が滴っていた。
グレンも頭に血が上っているのだ。
しかし、ここで手を出せばエクシャの今の行動は無駄になると分かっている。
それを必死に耐えていた。
「ーーっ!申し訳、ございませんでした!」
フェリエーラの足が、ぐりっと更にエクシャを踏みつけ時だ。
今し方まで足の下に居たエクシャの姿が消えた。
「!?どこに行った!?」
「エクシャ、大丈夫?ごめんね遅くなって」
「っ」
“シュン”に抱き抱えられたエクシャはフェリエーラの後方に居た。
金髪碧眼のシュターナでは無い、シュンのいつもの容姿に黒い衣服。
黒の一団のシュンだった。
「シュンちゃん!」
「っはぁー来てくれたか…」
「二人もごめんね。耐えてくれてありがとう」
優しい手つきでエクシャの汚れた頬を撫でれば瞬時にいつもの美しい顔が戻った。
「貴様、何だいきなり!」
「フェリエーラ殿下、貴方の宣戦布告、確かに受けとりました」
「何?」
「私の家族に手を出したこと、後悔させて差し上げますよ。勿論エミリア嬢、貴女も」
「え?」
「それでは失礼」
パチンと指を鳴らせばシュン、エクシャ、グレン、ニノの姿は跡形もなく消えた。
(誰?え?シュン?)
魔法陣もなく姿が消えた事に唖然としているフェリエーラに対し、エミリアは聞き覚えのない名前に困惑していた。
(し、知らない!シュンなんてキャラクター!はっ!まさか…私と同じ、前世の記憶が…?)
突如現れた少女に困惑する二人に、騒ぎを聞きつけたエメリーとメルベルトが駆け寄って来た。
その表情はとても焦っている。
「フェリエーラ!エミリア!」
「メルベルト、エメリー」
もう既にことは終わった後だと認識した二人は更に焦った。
「フェリエーラ、エクシャという女に手を出したのか!?」
「あの女がエミリアに暴力を振るったからだ。謝罪もせず生意気な」
「馬鹿な!」
「?一体何だと言うのだ?」
「彼らは黒の一団の方々だ!俺たちを守ってくれている方々だぞ!」
そう声を張るメルベルトの発言に周囲が騒ついた。
魔力を奪う奴らの残党が自分たちの命を狙っているかもしれないため、撤退せずに護衛してくれていたのだと。
「だからと言ってエミリアに暴力を振るっていい理由にはならない!」
「見たのか?」
「?」
「エミリアが暴力を振るわれたところを見たのか?」
見ていない。
しかし、エミリアがそう言ったのだ。
現にエミリアは地面に倒れ込んでいた。
メルベルトはエミリアと視線を合わせた。
「エミリア、事実なんだな?王族への虚偽は重罪になるぞ?」
「そんな…酷いです!メルベルト様まで信じてくれないなんてっ!嘘ではありません!!本当に突き飛ばされたんです!!」
「…そうか、事実ならいいんだ…」
「メルベルト!エメリー!お前たちまでエミリアを疑うのか!?」
「いや、そう言うわけじゃ」
「落ち着け、フェリエーラ!確認しただけだ!」
「もう良い!お前たちなど親友でも何でもない!行くぞ!エミリア!!」
「え?!あ、は、はい!」
取り付く島もないフェリエーラに、メルベルトとエメリーは顔を見合わすばかりであった。
「うん、これで良し」
唇を噛みすぎて血が止まらなくなってしまったグレンに回復魔法を施すシュン。
先程と違いいつものシュンの表情だ。
あれからシュターナの部屋へとやってきた四人。
そこにはシン、レイル、マールが既に待機していた。
「レイルが騒ぎが起きた事を知らせに来てくれたんだよ」
「危うくシンも死ぬところだったしな」
「マールを落ち着かせるのに骨が折れた」
比喩ではない。
エクシャが頭を踏まれた瞬間、マールは人混みから飛び出そうとしたが、それを止めたのがシンだった。
肉弾戦でシンがマールに敵うはずもなく、肋骨を二本折られたのだが、移動魔法でシュターナの部屋へと飛びあまり得意ではない防御壁を張ることで何とか抑え込んだ。
マールが暴れまくったせいでシュターナの部屋はボロボロだ。
そのマールだが、エクシャに抱きつき離れないでいた。
「マールもごめんね…もっと早く助けてあげられれば良かった…」
「……シュンが謝る事じゃない…」
漸く顔を上げたマールは、シンの方を気まずそうに見る。
「シン…すまない…大丈夫か?」
「あぁ…だい…」
不自然に切られた言葉。
レイルに回復魔法を施して貰ったため何ら問題ない筈だが、少し何か考えた後脇腹を押さえて蹲り出した。
「いててて、ダメだ立てない。シュン、今夜一晩看病頼む」
「シン、棒読みすぎだよ」
「ちっ」
何言ってんの?と冷たくあしらわれて、シンのライフは人知れず削られた。
「シンくん俺が看病してあげる!」
「死んでも要らん」
「なんで!?」
抱きつこうと突進して来たニノを軽々と躱すシンに、マールとエクシャは、シン達がいつもの空気を何とか作ろうとしている事に気づいた。
シュン、シン、レイルは自分たちの過去や、どういう扱いをされてきたか知っている。
グレンやニノは知らないはずだが、何となく察してはいるようだ。
自分たちが虐げられていた過去を思い出し、悲しまないように、明るく振る舞おうとしているのだと気づき、それが嬉しくてマールとエクシャは顔を見合わせて笑い合ったのだ。
翌日エメリーとメルベルトが、エクシャの件をフェリエーラを庇うように嘆願してきたが、シュターナは自分ではどうしようも無いのだと返した。
そう、フェリエーラとエミリアの処分を決めるのは自分では無く、報告を聞いた国王なのだ。
数日後に迫った卒業式でフェリエーラとエミリアは果たしてどのような表情となるのか…実に楽しみだと内心ほくそ笑んだ。
制服に身を包んだ全ての生徒たちが講堂へと集まった。
卒業生を送るための行事は卒業生の保護者を交えて、歴史上最大規模となっている。
それもそのはず。
次期宰相と言われているメルベルト、次期騎士団長と言われているエメリー、そして次期国王第一王位継承権を持つフェリエーラが同時に卒業するのだ。
厳戒態勢の中壇上には国王ヴァレル、ならびに大公であり理事長であるフレイザーが鎮座しており、ヴァレルの背後には二人の妻も控えている。
さて、いよいよ最終イベントの始まりだ。
卒業式、そして断罪。
裁かれるのは……。




