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国の魔法使いが調べたところ、あのボロ屋の地下にあった魔法陣は“魔人”を復活させるためのものだった。
魔人と言うものを知らなかったシュターナ、シン、レイルが興味津々に魔法陣の解読をしようとしたが、機密事項だという事で役人達により、地下から追い出されてしまった。
解読してうっかり発動されては堪ったものではない。
トラップだらけの魔法陣で、解除に時間が掛かるらしく、国の魔法使いたちが時間を掛けて解除していくとのことだった。
魔人とは人と魔物のハーフであった者が、魔物や魔法使いから自身の体内では抑え切れないほどの魔力を奪い取ったもので、そしてそれは自身を迫害した人間達に向けられた。
膨大な魔力でもって国中を蹂躙し、一つの国を滅ぼしたとされる。
休むことなく使い続けた魔力は減少し、それを好機と捉えた人間側が討伐しようと試みたのだが、それでも相手は強かった。
怨み、憎しみ、怒りと負の感情が高まり、倒した相手から魔力を奪い、ついには魔物と人の姿が混同したような姿となった。
魔物でもあり、人でもあったそれを“魔人”と呼ぶようになった。
膨大な力を持つ魔人を倒すことを諦め、人間側は封印することとした。
数百人の魔法使いで作り上げられた封印の魔法陣は、その数百人の命と引き換えに、魔人を封印する事に成功したのだった。
「…なにそれ、怖っ」
フレイザーとヴァレルに呼び出され、事の詳細を伝えるついでに、フレイザーに聞かされた魔人の昔話は、シュターナの背筋を凍らせるには十分だった。
数百人の命と引き換えにやっとこさ封印したと言うのに、それを倒すなどあのエミリアにできるわけがない。
ゲームの中のエミリアは知らないが、自分の知るエミリアには間違いなく無理だ。
「まぁ、もし復活したとしてもお主なら鼻歌まじりになんとかするのであろう」
と断言に近い物言いをするヴァレルに、自分にも限界はあると主張するシュターナだが、それを一笑されるだけで終わった。
「何はともあれ、この調子でもう一つの問題も頼んだぞ?」
「いやなに、シュターナなら問題なかろう」
息子とエミリアを引き離したいヴァレルと、孫娘のクリスに害を成すエミリアとフェリエーラを懲らしめたいフレイザーはそれはそれは期待に満ちた笑顔を向けた。
「はいはい。卒業パーティーの日に吊るし上げるから」
すん、と一瞬にして真顔になったシュターナにいい予感はしない。
「「…」」
卒業パーティー、それは全校生徒とその親が出席し、卒業生の門出を祝う行事。
そこで事を起こすと言う。
「公開処刑…か?」
「第一王位継承権、考え直したほうがいいかもね!」
真顔から一転。
嬉々として言い捨て、瞬時に魔法で消え去ったシュターナを追えるものはこの場には居ない。
いい予感がしないヴァレルは、チラリとフレイザーを見る。
「…フェリエーラの鼻っ柱を折って欲しいとは言ったが……あの様子では心を折る気ではあるまいな?」
「ほっほっほっ、心を折るどころか砕くと言っておりましたよ」
「なにーー!!あれは次期国王だぞ!?そんな事されては困る!!」
「であるから王位継承権を考え直せと言っておったのですよ」
「…なんという事か……」
ズゥーーーン……と効果音がつきそうな程項垂れるヴァレルに、フレイザーは安心させるように
「大丈夫ですよ」
と、声をかける。
「…フレイザー殿…」
やはり冗談か何かなのかと期待の眼差しを向けるが、それは期待外れとなる。
「クリスが守れれば何でも良い!」
「!!!?」
フレイザーは、それはそれはいい笑顔でぐっ!と親指を立てたと言う…。
魔力泥棒事件解決から二日後の昼休み、いつものようにテラスに集まる面々の視線はシュターナの手元に釘付けであった。
熱した鉄板の上にジュワッと小気味の良い音を立てて広げられる生地。
薄い生成色を広げ、見事な円を作っていく。
程よく焼けたらひっくり返し、さらに焼く。
焼けた生地を折り畳んで皿へと移すと、粉砂糖を薄くまぶしカットフルーツを彩り良く添えてチョコレートソースをかければ…。
「クレープの完成です」
「おぉ!!」
現代でクレープといえば、生地に具が巻かれて手掴みで食べるところを想像してしまうが、ここにはやんごとなき方々しかいないため、フォークとナイフで食べやすいように生地と具は別にしてある。
レディファーストだと、クリスとリリアに先に配膳をするが、それに文句を言う輩はおらず大人しく順番を待っている。
このデザートタイムはシュターナがルールなのだと、暗黙の了解となっている。
アスベル、セリブレート、エメリー、にも配膳が済み、シュターナが紅茶を入れ直しているところに唯ならぬ気配を纏い一人の男が迫ってきた。
「シュターナ」
「はい?」
メルベルト・オーランド。
エミリアの攻略対象だ。
眉間にシワを寄せ怒り気味なのが誰の目にも明らかだ。
この中で、メルベルトと最も付き合いの長いエメリーが異変を察知しメルベルトとシュターナの間に割って入った。
「そんな怖い顔をしてどうしたんだ?」
「…エメリー…俺はその少女と話がしたいだけだ」
「…」
普段なら自分にそんな表情など見せないため、エメリーは少したじろいでしまった。
「私にどのようなお話が?」
シュターナは鋭い眼光にも怯むことなく、エメリーの横に立つ。
「先日捕まった魔力を奪う連中にエミリアを拐わせたと言うのは本当か」
疑問形ではない。
言い切ったその発言にシュターナではなく、アスベルが真っ先に反論をした。
「シュターナがそんな事するわけない!この前の襲撃の時にみんなを守るために戦ったんだぞ!」
それに「うんうん」と周囲が頷いている。
「アスベル様、貴方には聞いていない」
視線すら向けず、真っ直ぐにシュターナを睨みつけるメルベルト。
エメリーは不安げにシュターナを見下ろしていた。
「私はそのような事、覚えはございません」
真っ直ぐに堂々とメルベルトを見上げる視線に、今度はメルベルトがたじろいだ。
救出こそしたものの、誘拐に加担など不愉快極まりないシュターナは更に言葉を続けた。
「どこから出た話かは存じ上げませんが、確固たる証拠があってのことなのでしょう?それをご提示ください」
「それは拐われた張本人であるエミリアから得た証言だ。拐われた場所でお前を見たと言う当事者の証言なら証拠として十分だ」
強気に振る舞うシュターナにやってやったぞと勝ち誇る視線を向けるが、それに援護をしたのはこれまで黙って成り行きを見ていたクーであった。(正確にはクレープに釘付けだったとも言う)
「俺達が聞いた話とは違うっすね。ね、アスベル様」
「…なに?」
突如口を挟んできた護衛に不愉快そうに表情を崩すメルベルトとは対照的に、クーのセリフを聞いたアスベルが「おぉ!そうだ!」と両手を打った。
「俺はフレイザー閣下から直接話を聞いたんだ!」
アスベルは魔力泥棒を捕まえる事に協力的であったし、フレイザーもそれを容認していた。
成り行きとはいえ知らぬ間に解決してしまったため、フレイザーからアスベルとクーは一連の話を聞いていた。
シンとシュターナがアジトを偵察に行き、そこでたまたまエミリアがさらわれた事を知った。
生贄にされそうになっていたので、急遽救出し、その場の人間は全て捕獲したのだ。
アスベルがそう説明するがメルベルトは鼻で笑い信じようとしない。
「そもそも生徒であるシュターナがなぜ偵察に行く必要がある。何のための警備だ」
事情を知らないものからすれば尤もだ。
しかしこの場のエメリーとメルベルト以外は、シュターナが黒の一団のシュンだと知っている。
参加していても何ら不思議では無い。
その為ついうっかり口を滑らせるのだ。
「シュターナは黒の一団だ!当然だろう!」
と。
「……アスベル様…それは言っちゃダメなやつっす…」
「…え?あ、」
「…アスベル様後でちょっとお話があります」
「シュターナ!?すまん!!顔が怖いぞ!!」
「うるせーですよ。本当いつになったら“冷静”を覚えるんですか。張っ倒しますよ」
この後エミリアの件の仕事が残っているので、まだ正体をバラされるわけには行かなかったのだ。
「黒の、一団」
マジかと言うようにエメリーがポツリとこぼした。
「あー、あのできればこの事は内密に…」
チラリとエメリーとメルベルトを見れば二人はキラキラとした表情をしていた。
「…はっ、コホン!」
しかし、視線があった途端、メルベルトは一つ咳払いをして険しい表情を作った。
「このような少女がそんなわけないだろう」
確かにそう思うだろうが、しかしだ。
メルベルトもエメリーもシュターナが魔力泥棒と学校で戦っている姿を見ているので、実力は確かにある事を知っている。
それだけで納得できないのも事実であるし、もしそうであればシュターナがエミリアを拐ったのではなく、救出したと言う話の方が信憑性が増す。
だとすれば、エミリアが嘘をついた事になる。
メルベルトはそれを信じたくなかった。
「エミリアが嘘を吐いたとでもいうのか?」
「…恋は人を盲目にしますから。周囲が今の貴方様に何と言おうと貴方様は信じますまい。エミリア様を客観的に見られる様になってから出直していらして下さい。別件で私はまだ学校に留まらなければならないので」
言いがかりの謝罪ならいつでも受け付けますよ、とまでは言わなかった。
相手は貴族。
これ以上プライドを傷つけてもいい事はない。
「…フン…」
メルベルトはそれ以上は何もいう事なく立ち去ろうとするが、シュターナは慌ててそれを止めた。
「あ、あの!この事は内密にお願いしますね!一応、国王陛下と大公閣下のご依頼なので!」
「!!…俺がそんな人間にみえるか?」
「いいえ」
思わぬ大物の影に、僅かに驚きを見せるが直ぐに表情を戻した。
今度こそメルベルトが去った後、ソワソワとして落ち着かないエメリーと今度は視線が合った。
「ほ、本当にお前が黒の一団なのか?」
「……えぇ、そうですが…何か凄く食いつきが良いですね…」
クレープを配膳した時よりも目の輝きが増している。
一体何が彼をそうさせているのか、と首を傾げればセリブレートからその答えが返ってきた。
「ふふ、今や黒の一団と言えば憧れの的ですからね」
ここ数年、突如現れてはどんな問題も解決へと導く正体不明の集団。
報酬ではなく依頼内容で仕事を選び、緊急性の高いものからこなしていく。
富や名誉を求めるでもなく、一国から一団まるごと召抱えようという誘いも一蹴し、弱きを助け悪を挫く。
まさに英雄のような存在だ。
そして、それを不動のものとしたのが、シグアナ国の無血の戦だ。
まぁ、元王族や元貴族たちは若干怪我をさせてしまったが、それ以外の兵士や民は無傷であった。
表向きはフレイザーが指揮を取っていたかのような演出であるが、黒の一団の一部のファンは気付いたのだ。
彼らの独断なのだと。
セリブレートは続ける。
「剣や魔法で戦う術を持つ男子ならば夢に見るほど憧れてしまう存在ですよ」
と。
「………」
シュターナは思わず顔を覆った。
違う、そんな夢見て良い組織じゃないのだ、と。
ボロボロの城に住み、庭園と呼ばれていただろう場所は畑と化し、日がな一日魔導書を読みふける者も居れば、日向でゴロゴロとしている者も居る。
酒を飲みすぎて二日酔いで仕事にならなかったり、魔力の加減を間違えてあたり一面を焼け野原にしてしまったり、チョコレートを引き出しに隠していたのを忘れて虫の巣になっていたり、訓練用の罠を仕掛けたのを忘れてうっかり自分で引っかかったりと見せてはならない実情の方が多い。
「……君たちの記憶を抹消したい……」
「えぇ!?なんでだ!?」
「良いところばかりが一人歩きしてるって事です…」
シュターナは一つ咳払いをすると真剣な眼差しで一同に向き直った。
「私たちは皆さんの言うような英雄でもなんでもない、ただの人間です。それに評価される為に依頼を受けているわけではありません。失敗しない人間なんてあり得ないし、国王様ですら失敗する事があります。完璧を平民身分の私たちに求めるならば、民を導く貴族であるあなた方は更にその上を求められる事になります。私たちを評価するならば、その覚悟はありますか?」
ゴクリと、誰かの喉が鳴った。
普段の温和な少女ではなく、まるで生徒に説く教師の様であると錯覚してしまうほどの凛々しい姿。
これが、黒の一団の人間なのだ。
せっかくのデザートタイムを台無しにしてしまったなと、指を一つ鳴らすと、冷めた紅茶が瞬時に温められた。
「まぁ、応援して頂けるのは素直に嬉しいのですが、どこぞの国王様や大公様の様な私情剥き出しの依頼はご勘弁くださいね」
と明らかに自分達の国のトップのことであると分かる物言いに、どこぞの国の王様の息子セリブレートとどこぞの国の大公様の孫娘クリスは「申し訳ないです…」と言葉を同時に発したのだった。
「エメリー様」
「…な、なんだ?」
先ほどまでのシュターナを思い浮かべていたエメリーは、いつもの温和な表情のシュターナに安堵の息を吐く。
「エメリー様も、この事は内緒ですよ?」
と、人差し指を口元に当てる姿は普通の少女だ。
「勿論だ!俺は口は堅い方だ!」
「それは良かったです」
さて、残りの休憩時間は、とシュターナの視線がアスベルへと向いた。
同時に、ぐるんとアスベルの頭がそっぽを向く。
「アスベル様説教タイムです」
「いや、済まない…本当に…口が滑ったんだ」
「でしょうね。知ってます。昔からアスベル様のお口は滑らかですからね。初めて会った時も、自分が王子という事を隠そうともしませんでしたからね。その事が不安であり心配なんですよ。いつかどこかで滑らかに失態を犯すのではないかと。そう例えば、式典や催しものとか、物凄く重要な場面でツルッと滑ってしまうのではないか、他にも招かれた令嬢宅でのお茶会とかでもいらん事を言うのではと」
「あ、それはもうあったっすよ。「宝石や持ち物の自慢は飽きた」って言っちゃって御令嬢方を氷漬けにしてます」
「クー!!それは昔の話だろう!今はそんな事言わないぞ!!」
「おいこら前科何犯だ?」
「まてまて!シュターナ!話せば分かる!!ぬあぁー!!どこに!?どこにつれていくのだぁ!!」
「おほほほ、皆様はもう暫くお茶を楽しまれて下さいね!」
ぎゅぅっと耳を摘まれ、ズルズルと引き摺られるアスベルに目が点となって見送るしかできなかったのは致し方ない。
クーが、いつもの事なんで、と面白そうに後を追う。
「…いつもの事なのですね…」
一国の王子の耳を引っ張るなど前代未聞だ。
それだけ仲が良い証拠なのだろう。
「一先ず…」
一同はもう姿が見えないアスベルに向かって合掌するのであった。
ちーん……
こってりとアスベルを絞っている最中、午後の授業が始まり、アスベルは明らかに「助かった」と安堵の表情を浮かべた。
「アスベル、これ以上は本当に支障が出るからね」
「分かっている!もう絶対に言わない!」
「俺も気をつけとくっすよ」
「クーもいまいち信用できないんだよなぁー」
「えぇー…」
「面白がってる節がある」
「否定はしないっす」
「よし!じゃぁ次は連帯責任てことで!」
「「ええぇぇーーー」」
誰も見ていない所では敬称も敬語もなく、彼らの親しさを表している。
王子とその護衛と平民の少女と明らかな身分違いだが、だからこそアスベルは自分をさらけ出し、なんでも言い合える。
唯一無二の親友だと思っている。
だからだ。
メルベルトの発言が許せなかった。
シュターナは確かに歳下であるが、間違った事は絶対にしない。
些細な判断ミスはあるだろうが、間違っても誰かを襲わせたり拐わせたりする様な人間ではない事を十分に理解している。
シュターナを庇いたかったがための発言がアレだ。
頭の隅では「言ってはダメだ」と分かっていたが、シュターナが犯人の仲間だと言われたのがどうしても嫌だった。
“反省はしている、後悔はしていない”と胸中で笑った。
口にするときっとまた怒られると分かっているから。
だから、また同じ事が起きたら、同じ事をする。
彼女は貶されて良い存在じゃないんだ、と。
その日の夜、シュターナは水晶の録画映像を確認していた。
エミリアが拐われる瞬間を探していたのだ。
一団みんなで手分けして探していると、それを見つけたのはエクシャだった。
「ありました」
と差し出された水晶の映像をみんなに見えるように宙に映し出す。
どうやら校舎の裏の様だ。
しかも夜。
『ヒュバート先生!』
となんでもない様な顔でヒュバートに駆け寄るエミリア。
ヒュバートも教師の皮を被り
『こんな遅くに…危ないので早く帰りなさい』
などと注意をしつつも辺りをさり気なく窺っている。
『私、先生の正体知ってます!あの魔力を奪ってる連中の仲間ですよね?』
『!?』
なぜそれを知っているのか、それはヒュバートだけでなく映像を見ていたシュターナ以外のメンバーも思ったことだ。
ヒュバートも何のことかととぼけているが、エミリアの次の発言に目つきが変わった。
『あのシュターナって子、生贄にぴったりじゃないですか?』
と。
自分がシュターナを誘き出すから捕らえて欲しいと、持ちかけたのだ。
『もう、本当にあの子邪魔しかしないんですよー!先生が捕まえて生贄にしてくれたら、先生も助かるし私も助かるから一石二鳥だと思うんです!』
名案だ!と言わんばかりの表情に、ヒュバートは目を細めた。
『確かに魅力的な話ですね』
『ふふ、認めた』
犯人だと認めたヒュバートに勝ち誇った物言いのエミリアであるが、彼の目の色が変わった事に彼女は気づかない。
『ですが…』
『?』
『必要ありません』
『…え?なんで!?魔人の復活には魔力の高い処女が』
『えぇ、必要です』
音もなくヒュバートは、エミリアの後ろへと回った。
勿論エミリアにはその動きが見えていなかった。
『彼女は、強すぎます。抵抗されては面倒なので、生贄は』
『…っ』
ひたり、とヒュバートの右手の指がエミリアの首に触れ、エミリアはようやく理解した。
『貴女にします』
『ひっ!あ…』
なんの抵抗も出来ずエミリアは魔法でいとも簡単に眠らされてしまった。
『そこまで詳しく知ってしまった貴女を生かしておく必要など、ないでしょう?』
「え?あの子本物の馬鹿なの?」
尤もな感想だ。
全員がニノのその一言にゲンナリとした。
まさかここまで知恵が回らないのかと。
「…うん、まさかとは思ったけどね…これは酷い…。自業自得じゃんね…。誰だよ私が拐わせたとか言ったやつ。こいつだよ」
バッと一気にシュターナに視線が集まった。
何だそれ聞いてないと言う無言の圧力を感じ、今日の出来事を話すと
「よし!理由ができた!あの女を消そう!」
とシンが嬉々として拳を握った。
まるで小学生のノリで
「賛成!」
と手を挙げ始めるニノ、マール、エクシャ。
「消しちゃダメだって!」
「行くならちゃんと完全な計画を立てるべきだ」
すっかり止める側から参戦派へと移行したグレンに、項垂れるシュターナ。
眉間を揉みほぐしながら
「待て待てお前ら」
と止める側の苦労を唯一分かり合えるレイルにハッと期待の眼差しを向ける。
だが、最後の砦も崩れた。
「やるなら仕事を完遂してからだ。今やると王と大公の依頼を投げ出す事になる」
「そこ!?」
「当たり前だ。こんなアホ女、もう庇いきれん。死にたいなら勝手に死ねば良い。あ、それから足がつかない様に…」
「あぁーーー!もう!ツッコミが不在!もういいよ!このくだり!どうせエミリアは監獄いきなんだから!」
「成る程!獄中死なら俺たちは疑われない!お前天才だな!」
「シン!お黙り!!」
ガッとおでこを突けば不満げに漸く黙った。
それ程までに腹を立ててくれたのは嬉しいが、これでは当事者の自分が怒れないと、寧ろ冷静になった。
「しかし、この女は敵だ」
真面目なトーンでマールが水晶を睨みつけた。
「そうだよ。シュターナちゃんを嵌めようとしたのは明らかに俺たちに対する宣戦布告だ」
「そんな事言っても、彼女は私が黒の一団だと知らないし、クリスやリリアへの嫌がらせを私がことごとく潰すから嫌ってるだけで、みんなを敵に回したいわけじゃないんだよ」
「なぜ庇うのですか?」
「なぜって…そうでもしなきゃ突撃しちゃうでしょうが!?そこのマール君!さり気なく腕を竜にしないで!?そこのエクシャちゃんも魔物スタンバイしないで!?」
「しかし!しかしっ!!」
「許すまじ!」
「先に廃城に帰ってもらうよ!?」
「もうしない」
「もうしません」
この変わり身である。
よしよしと、頭を撫で兄妹を落ち着かせたあと、僅かに不貞腐れているシンの頭もわしゃわしゃと撫でれば、少し機嫌が戻ってきたのがわかる。
「……?」
シンの横をフと見れば、ニコニコとニノが待機している。
「…どうしたの?」
「え?だってほら!マール、エクシャ、シン君てきたから次くらい俺の番かなって」
ナデナデの順番待ちらしい。
「はいはい、警備員の宿舎に戻るぞ」
「え!?ちょっと!?」
グレンは呆れた様にニノの首根っこを掴み、エクシャに歩み寄った。
移動魔法が使えない二人はエクシャと行動を共にする事が多く、シュターナの部屋への出入りも主にエクシャ頼みだ。
エクシャもニノにナデナデさせまいと、「お休みなさいませ」と一言残し直ぐに魔法で姿を消した。
自分も戻るとレイルとマールが居なくなった直後、シンはどさりと我が物顔でシュターナのベッドへと横たわった。
「…あの女、嫌いだ」
まだ言うか、とベッドに腰掛け、そっぽを向いているシンの頭を撫でる。
「私だって嫌いだよ。でも仕事に支障が出るし、あの子はもう後戻りできない事までやってる。監獄行きか強制労働は免れないんだよ」
「……だからだろ?」
「…え?」
シンがこちらを向いて、少しだけ…しょうがないなと言う表情で笑った。
手を伸ばし、シンはわしゃわしゃと少し乱暴にシュターナの頭を撫でた。
「わっ!?え?なに?」
「何でもない。寝る」
ゴロンと向きをかえて、背中を見せたシンはその後シュターナが「何のことだ!」と問うても返してはくれなかった。
(だから、これ以上貴族であるクリスとリリアが傷つけられない様に自分を標的にした…。自業自得とは言え、未来の無いあの女を少なからず可哀想だと思ってるんだろ?貴族ではなく平民の自分がやられれば少なくとも死罪は免れると思ってるんだろうな……。本当、バカだな…)




