表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
53/71

52

(なにこれ!なにこれ!!なにこれ!!!なんなのよ!!!)

校舎の外では戦いの音が派手に響いている。

窓の外を興味深く眺めている者や、怯えて教室の隅で震えている者もいる。

そして、エミリアはフェリエーラの腕の中でブルブルと震えていた。

理由は

(ゲームにこんなイベント無かった!)

と言うものだ。

ゲームでは、昨日のイベントでアリソンが拐われ、魔力を奪われる。そして魔人復活の生贄にされるはずだった。

しかし、拐われることなく彼女は無事に保護された。

(それもこれもあのシュターナのせいよ!!あの子だけ異質だもの。絶対転生者だわ!私の邪魔をしてるんだわ!!)

シュターナのせいでこれから起こるイベントが不確かなものとなってしまった。

イベントをこなさなければシンとアスベルの兄弟サンドエンドどころか、メイン攻略者達との逆ハーエンドさえも無くなってしまう。

自分はヒロインだからどう転んでも不幸にはならないだろうが、問題は卒業間近の戦闘イベントだ。

アリソンを生贄に復活した魔人を倒すイベントがある。

その時に使う光の魔法だけはちゃんと使えるように練習している。

そのイベントで協力してくれる相手で、誰のルートエンドかが分かるのだ。

フェリエーラならフェリエーラが協力してくれるし、逆ハーエンドならメイン攻略者達全員が、兄弟サンドならシンとアスベルが出てきてくれる。

しかし、今ここで敵を倒されたらそのイベント自体が無くなってしまう。

だが、今の状況では倒してくれないと学校や自分の命が危ない。

どちらに転んでも自分の望んだ事にはならないと悟り、その怒りと命が危ないと言う恐怖で体を震わせていた。

「エミリア、大丈夫か?」

「……少しだけ…」

守るように肩を抱き寄せるフェリエーラをチラリと見て、しなだれるように胸に収まる。

が、内心いざとなればフェリエーラを囮にして逃げよう、などと考えているとは露にも思うまい。

エミリアの思考は、シュターナの正体をどう暴こうかと、その算段に切り替わっていた。


魔物は全滅。

魔力も体力も限界に達そうとしていた。

「ぜぇーはぁー…な、なんなんだあのガキ…」

「はぁー…はぁー……くそっ…俺たちは魔物の血をついでいるんだぞ?」

その辺の魔法使いより魔力も体力も高い。

しかし、目の前の少女に指一本触れることができない。

「…化物め…」

「お褒めに預かり光栄です」

パチンと指を鳴らせば地面から巨大な土の手が現れ、男たちを襲う。

避けるので精一杯で、反撃する余裕もない。

それに比べてシュターナは、稲妻で引き離されて以降殆ど動いていない上に、魔法を連発しているにも関わらず余裕の表情だ。

「仕方ない…引くぞ」

「!!しかし!」

「いや、既に何人かは撤退している。俺たちもその方がいい」

「くそっ!!」

納得はいかないが、そうするしかない事は一目瞭然だ。

残っていた魔力を使い三人は移動魔法で逃げて行った。

シュターナは一息つくと辺りを確認するフリをして、魔力探知で周囲を確認した。

屋上にあの嫌な気配はない。

(でも、身体強化した目でしっかりと見えたぞ)

内心ほくそ笑みながら、指を鳴らし荒れたテラスを修復し、魔物の死骸も血の一滴も残さない。

そこへ警備組のニノがやってきた。

昨日に引き続きニノはボロボロだ。

「シュターナちゃん!」

「はっ!?…まさか」

「そのまさか!」

ニノは自分のありったけの魔力を奪わせ、別の敵にも追跡魔法を仕掛けたのだ。

得意げに見せた専用の地図には赤い点滅が二つ。同じ所で光っている。

「決まりだね」

「シュターナちゃん、ご褒美が欲しいな!」

「!ふふ、あとでね」

両手を広げてハグを強請る青年は犬のようにも見える。

誰が見ているか分からないテラスですることではないため、今夜の集まりの時にでもと思ったが、ニノは少し不服そうだ。

「みんながいるとすぐ引き離されるんだもん」

「…」

普段の言動から自業自得だろうと思うが、今回の功労者は明らかにニノだ。

少しくらい良いだろうと苦笑いした。

シュターナはコホン、と一つ咳をしたあとスーっと息を吸った。

「警備のお兄さん!怖かったよー!!」

そう言いながらニノに抱きついた。

「あぁーなる程」

これなら駆けつけた警備の人に安堵して抱きついたと言う印象になる。

誰も警備のお兄さんが少女にハグを強請ったとは思うまい。

敵が見ていたら「怖かったのはこっちだ」と言うかもしれないが。

「もう大丈夫だよ。頑張ったね!」

とシュターナの演技に乗り、ハグどころか抱き上げてみんなと合流すべく歩き出した。

少しあとには、学校内の安全が確認され、防御壁は解かれた。


「おい、なんだそれ」

シュターナの部屋に緊急として呼び出された一同が目にしたのは、片腕で軽々とシュターナを抱き上げているニノ。

「さすが騎士だよね。片腕だけなのにすごく安定してる」

「鍛えてるから」

面白そうにバシバシとニノの腕を叩くがビクともしない。

ボロボロの傷だらけだが、それ以上に表情はデレデレだ。

二人のやりとりを見ていたシンは、自分のあまり鍛えられていない腕を思い出し、ショボーンと俯いた。

それを哀れに思ったのか、話を変えるべくレイルがなんの集まりかを問う。

話が本題に入ると流石に腕から下ろされ、シュターナはニノの傷を癒すと、地図をテーブルに広げた。

「ここがアジトで間違い無いと思う」

と、二つの赤い光を指した。

そしてシュターナがニノに抱っこを長時間許した意味も理解した。

ニノがリクエストしたご褒美と、奪われた魔力の補給だろう、と。

「念の為に一度確認はしようと思うんだけど」

アジトの近くまで行き、小さな水晶を飛ばして周辺や室内を確認したい。

それは今夜にでも行う予定だ。

「さて、もう一つ話があるんだ」

地図をニノに返して、シュターナはレイルに向き直った。

「ヒュバート・ベルゲン、彼は敵だよ」

「!?」

レイルの前任の教師だ。

生徒の為にと今は警備についている。

「さっき私が戦ってる時に稲妻で妨害してきたんだよ。屋上で戦況を見てるようだったし、あんなピンポイントで魔力の高い生徒の居る場所に戦力を配置できたのは、彼がスパイだからじゃないかな」

「…なる程。魔力探知が使えるほどの実力があれば移動魔法も使えるな…。使える魔法を全部申告する義務はない」

シンがそう言えばレイルは少し残念そうに頷いた。

生徒が心配で休職中の身でありながら、少しでも役に立とうと見回りを買って出た。

教え子を思う気持ちに共感した身としてはショックであり、それが嘘だったということが悲しかった。

「レイル?」

表情が曇ったレイルを心配し、シュターナは顔を覗き込んだ。

もしや仲が良かったのだろうかと。

「…いや、少し気を許していたからな。敵だと分かったならそれ相応の対応をする」

「……やりづらいなら無理しないでね?」

「問題ない」

「レイルはそう思っててもすぐ表情に出るお人好しだから心配」

「………そう言う心配か」

アジトを確認し潰すまで、こちらがヒュバートが裏切り者だと気付いている事を気づかれるわけにはいかない。

気づかれてしまったら仲間に撤退する様に伝えるはずだし、もしかしたらニノの追跡魔法もバレてしまうかもしれない。

ポーカーフェイスが苦手なレイルの為に短期決戦が必要とされる。

「意識していれば俺だってポーカーフェイスくらい……」

「「「「「「……」」」」」」

「…なんだお前ら、その目は」

「「「「「「…別に…」」」」」」

そっと視線をそらすメンバーに不服そうにしながらも「とにかく」と咳払いをするレイル。

「俺は大丈夫だ」

はっきりと言い放つがメンバーの視線は生温い。

「フラグと言うやつか?」

「そのフラグを回収される前に叩き折ろう」

「シン、シュン取り敢えず暫くの間俺の書庫は立ち入り禁止な」

「「冗談だ」よ」

レイルの書庫は、数年かけてみんなで買い揃えたありとあらゆる本が国立図書館並みに貯蔵されており、そこを主に管理しているのがレイルであった。

言わば司書だ。

部屋や本を綺麗に保つ図書館での司書は、絶対的存在。

そこを立入禁止にされたら、本好きの二人には拷問に等しかった。

シュターナとシンは

「“フラグ”の使い方を覚えるなんてシンもすっかり本の虫だねー」

「お前ほどじゃない」

ジト目で見てくるレイルの視線をなんとかしようと

「さて、じゃぁ今夜水晶を飛ばしてくるから!」

「よし、俺も行こう」

シュターナとシンは話を本題へと無理矢理戻したのだった。

「この事は警備の奴らにも話すのか?」

そう聞いてきたのは警備組のグレン。

どこで情報が漏れるかわからない為、できれば内密にしておきたいが、ヒュバートに警備の情報が渡るのは阻止したい。

そうなると他の警備員達と情報を共有するしかないが、彼らがヒュバートを前に“ヒュバートは裏切り者だ”とバレずに貫けるかという心配もある。

ヒュバートは今、当たり前のように警備に参加している。

「ヒュバートにバレない様に警備員全員にその事をお伝えすれば良いのですよね?」

シュターナが頭を捻っていると、同じように考えていたエクシャが何か思いついたように口を開いた。

それに頷くとエクシャは得意げに笑みを浮かべ、トントンと自身の耳を軽く叩いた。

「!そうか!ヒュバートはインカムを持っていない!」

これならこっそりひっそり警備員だけに伝える事ができる。

念のために誰かにヒュバートを足止めしてもらい、その間に現状を説明しヒュバートに悟られないように接してもらう。

「なら、俺が足止めしよう」

「……」

そう名乗りを上げたレイルに視線が集まる。

「ポーカーフェ…」

「蒸し返すなよ?」

再びジロリと睨まれ口を閉ざすシュターナ。

レイルの背後に“書庫立入禁止”の文字が見えた様な気がして、「お願いします」の意味を込めてコクコクと頷き返事とした。


その日の夜、宣言通りレイルがヒュバートを職員室にて足止めしている間に、先に説明を受けた警備員のリーダーロニキスより下記の様な伝達があった。

『警備員全員に通達。情報漏洩を防ぐ為、表情を変えず黙って聞いてほしい。本日ニノの追跡魔法で敵のアジトらしき場所が発覚。学校の警備を手薄にはできないため、黒の一団の仲間が確証を得る為に今夜確認に行く。それから、ヒュバート・ベルゲンが本日の襲撃の際に敵の援護をしたのが確認された。敵かもしれない為、警備の情報は決して漏らさない様に。この事をヒュバートに悟られない様、これまで通り接してほしい。以上だ』

もう直ぐ決着の時を予感させるには十分であった。















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ