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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「と言うわけで、敵のアジトはもうすぐ分かると思うよ」

「中々順調のようで何より」

「思ったより早い展開っすね」

夜にフレイザーへ報告に来れば当たり前のように居るクー。

もりもりとソースとマヨネーズたっぷりのお好み焼きを頬張り、口の周りはソースをつけている。

「いやー流石だよ。あのチャンスを逃さない臨機応変っぷりは!」

普段の変態が嘘のようだと、今日のニノの活躍を自分の事のように喜ぶ姿は母親のようでもある。

本来メンバー全員頭の回転は早いのだ。

ただシュンと言う、先を読むことに長けた更に上をいく人物が居るため、普段は指示を仰いでしまっている。

「さて、ではもう一つの問題はどうなっている?」

「…」

「…」

「…」

「シュン?」

もう一つの問題、エミリアの事を尋ねた途端嬉々としていた表情が無となった。

それが理解できるクーも深いため息を吐いた。

「閣下、あの子のせいでウチのアスベル様が危険に晒されたんすよー」

「なに?」

今日あった事を説明すれば呆れたように眉を寄せた。

魔物と戦っている最中に抱きつき、危うく他国の王子が死ぬところであったのだ。

「アスベル様が国を通して抗議をすれば、エミリアの首が物理的に飛んで問題は解決するんすけどねー」

しかし、それをしないのがアスベルだ。

『生きているのだから問題ない!それにシュターナが来ると信じていたからな!』

と、その一言で終わった。

そう言われてしまえばシュターナとて何も言えない。

エミリア問題を解決する千載一遇のチャンスであったのに。

「でも、どうやら騎士団長の息子のエメリーはエミリア争奪戦から離脱したみたい。最近二人きりでいるところを見ないし、他の二人に遠慮してるみたい。それに今日はエミリアよりも自身の“正義”を優先した風だったし」

これまでならばエミリアが避難すると言えば、安全な場所までついて行っただろう。

しかし、それを見送りその場にとどまった。

騒ぎがおさまった後もエミリアの安否を気にする様子がなかったのだ。

「その代わり、シュターナがいなくなってから頻りに俺やアスベル様にシュターナの事を聞いてきたっすよ」

「え、マジで?心変わり?」

切実にやめて欲しい。

「いや、そう言うんじゃなくて…何というか、シュターナの言動に触発されてるって感じっすね。恋とか愛とかじゃなくて生き様に興味があるみたいな」

「いや、意味が分からん」

恋慕で無くて良かったとお好み焼きを口に運ぶと、思案顔であったフレイザーが一つ頷いた。

「一先ずそちらも順調なようで何より。それから一つ、国王より言伝があってな」

「?私に?」

髭を撫でつけ、少しご立腹の様子でフレイザーは続きを口にする。

「うむ…以前よりセリブレート殿下から、フェリエーラ殿下の学園での様子をヴァレル王とラテファリア王妃にご報告し、態度を改めるように注意して欲しいと願い出ていたのだ。それを聞き、密かに学園に使者をやり調べたのちあまりに酷いと再三に渡り諭していたが聞く耳もたずでな…」

それはつまり、フレイザーの愛孫であるクリスへの態度も報告が行っていると言うことだ。

ヴァレルの敬愛するフレイザーの孫に対してなんたる事だと、ヴァレルもご立腹らしい。

「それで?」

「…ヴァレル王がお前に、“自分にやったように鼻っ柱を叩き折ってやって欲しい”と」

「鼻っ柱や心どころか、心の根本から引っこ抜かれるっすよ?」

折られた自覚あるんだと苦笑いしていると、またもや余計な一言を放つクーに、シュターナはジト目でクーを睨む。

「クーの私のイメージってなんなの?そんなにモテない呪いをかけて欲しいの?闇魔法も使えるんだよ?」

「申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます」

椅子の上で見事な土下座をして見せるクーにため息を吐くと

「まぁ、心を根本から引っこ抜くことくらいできるけど」

とさらりと言ってのける。

「…!!」(フェリエーラ殿下逃げてー!魔王が迫ってるっすよー!!)

「…うむ、まぁ…程々に、な」

「やっていいなら全員が見てる卒業パーティーで潰すけど?」

「潰…」

「クリスとリリアへのイチャモンが酷いんだよ」

“クリス”というワードに耳を引くつかせたフレイザーはそれはそれはとてもいい笑顔で

「心ゆくまで潰しなさい」

とフェリエーラ終了のお知らせを言い放ったのだった。

(この二人だけは敵に回すまい…)

クーが一人こんな事を考えている間にシュターナとフレイザーは固く握手を交わしていた。



「ふっふーん♪国王とフレイザー閣下からフェリエーラを潰す許可を貰ってきた」

「…今日の報告に行ってなんでそんな話になったんだ…」

シュターナのベッドに寝転がり相変わらず我が物顔で本を読んでいたシンは、本から視線をずらしてシュターナを見た。

レイルはシュターナの作った魔力を受け渡しできる魔法陣の解読に勤しみ、他のメンバーは今日の騒ぎの後始末や報告に忙しくしている。

「アジトが分かったらどうするんだ?」

「んー?そうだなぁー…万が一に備えて突入は警備組のエクシャ、グレン、ニノと他の警備員さん達の四分の三とあとは国が兵士を出してくれるって。それからバランス的に考えて、魔法が得意なレイルかシンにも参加して欲しいんだー。生徒の私が参加じゃ不自然だし」

確かに警備の中に、強いとは言え生徒が居るのは不自然だし、シュターナが行くとなれば嬉々としてアスベルもくっついてくるだろう。

“シュターナが良くて俺がダメなのはなぜだ!?”

と食い下がる姿が容易に想像できる。

シュターナや一部が残り、万が一に備えるために協力してくれと言えば残ってくれるだろう。

「単純だから」

「…否定できない」

兄として庇ってやりたいが、それが出来ずにシンはソッと目をそらした。

「今回の事で分かった事もあるよ。マールやエクシャと同じ魔物の血を引く者、もしくは人に化けた魔物が居て、エクシャと同じ魔物召喚の魔法が使える事。それから、魔力を奪う魔法が使えるのはごく一部」

「でなきゃあの女子生徒を拐おうとするわけないしな」

全員が全員使えるわけではないという事に、一先ず安堵するべきだろう。

魔力を奪われたら完全に足手纏いになる。

特にシュターナ、シン、レイルの三人は。

「アジト突入は俺が行こう。魔物を召喚されそうになっても俺なら簡単に無力化できる。レイルもできるだろうが魔力量が、な」

一度にいくつもの魔法陣を破壊するのだ。

魔力の消費は洒落にならない。

その事はシュターナも考えていたが、もしレイルが行くのならば、数年かけて魔力を溜めた水晶を渡そうと考えていたのだ。

シンが行くならばそれも必要ない。

「じゃぁ決まりね。次の襲撃がいつあるか分からないから警戒しつつ、いつもの生活を送る事にしよう」

シンは一つ頷いた後「それで」と続ける。

若干眉はより少し不機嫌な表情をした。

「なに?」

「あの時何で俺じゃなくてマールを呼んだ?」

“あの時”とは敵が攻めてきた時に対処要員にマールを指名した事だ。

エクシャと同じ力を使うため、対処しやすいだろうという理由と、もう一つ…。

「あの時シンを呼んでたらアスベルみたいにエミリアに抱きつかれてたと思うよ?エミリア、シンに気があるみたいだし」

「…マジか…」

「今度からはシンを呼ぶね?」

「いや、あの女の気配の無いところだけでいい…」

両手で顔を覆い、心底嫌だと空気を醸し出しながら首を振るシンを見て、そこまで嫌がられると逆にエミリアが可哀想になってくると思ったが、これまでの所業を思い出し、自業自得だと同情心は空の彼方へと追いやった。

シュターナには頼られたいがエミリアとは関わりたくないシンは、辟易した様子で枕に顔を埋める。

それに抗議するのは部屋の主のシュターナ。

この部屋でそのまま何度か眠ってしまった事のある常習犯を放置すまいと、「部屋に帰れ」と低い声で促すが動く気配は無い。

暫くするとシュターナの方が折れて仕方なしと添い寝をする形になる。

それを分かった上で居座るのだからタチが悪い。

万が一にも誰かに見られないように、扉が開いたらシンを強制的に自室へと転移する魔法をかけて、二人は眠りにつくのであった。


「美味しい!」

「本当に!このふわふわしているのはなんでしょう?」

「カスタードシュークリームですよ」

学校の休憩時間に、テラスにてシュターナの食後のデザートが振る舞われていた。

「この黒い方のしゅーくりーむというのに入っているのはチョコレートか!?」

「そうです。クリームとチョコレートを混ぜたものです」

「王宮の職人が作るスイーツより美味だ…」

クリス、リリア、アスベル、セリブレートが思い思いに感想を述べていく中、一人ジッと二種類のシュークリームを眺める貴族が居る。

チラチラとシュターナを気にするそぶりを見せるその男は、待てを言い渡された犬のようだ。

「エメリー様もよろしければどうぞ」

待てを言い渡された犬、エメリーは少し肩を揺らしながら恐る恐る口を開いた。

「…以前お前に酷いことを言った…。そんな俺が招かれても良いのだろうか?」

ワイバーンが自分やエミリアを襲おうとした時に、シュターナが止めに入った。

それをわざと襲わせたのでは無いかと言った件だ。

しかし、既にその場で謝罪しているため過ぎた事である。

周囲は大まかな事情は聞いていたため、二人が解決する事だと黙って見守っている。

「直ぐに謝罪をしてくださったではありませんか。何も気にしておりませんよ」

何も気にしていないと、冷めた紅茶を淹れなおすシュターナをエメリーはジッと見つめる。

「過ぎたことをいつまでも気にされては私の方が居た堪れないのですが?」

だからいい加減見るのをやめろと、淹れなおした紅茶を置くと、エメリーは一つ頷き、ようやくシュークリームを手に取った。

「…ありがとう…」

そう小さく呟いたあと、シュークリームを一口かじった。その瞬間…

「うまっ!なんだこれ!うまっ!!」

エメリーは我を忘れた。

「はははっ!美味だろ?シュターナの作るものはなんでも美味いぞ!」

エメリーを招待した張本人であるアスベルは自分の事のように胸を張った。

「褒めても何にもでないですよ。お代わり欲しい人居ますか?」

ばばばっ!と紳士淑女のマナーを忘れて、更にはエメリーは二個目を無理矢理口に突っ込みお代わりを強請っている。

国の中枢を担う者達がこれで良いのか、と苦笑いしながらもシュターナはシュークリームを配膳していくのであった。

「ところで俺の分は?」

「はいはい、あとで閣下の所に持って行くよ」

「やった!」

シュークリームで盛り上がる貴族を見守るシュターナと護衛のクーは、それを邪魔しないようにヒソヒソと話す。

嬉しそうにガッツポーズを取るクー。

前世と今生の年齢を合わせれば中々にいい歳をしている筈のクーは、未だに子供っぽいように見える。

しかし、今の世界と比べ前世の方が食事は美味い。

(前世の味が恋しいのはよくわかる)

などと思っていると、突然背中に嫌な感覚が走った。

それはクーも同じだったようで、そちらを見ると素早く剣を振るっていた。

クーが何かを切った直後、アスベルたちのテーブルに防御壁を張る。

「な、なんだ!?」

「何事ですか!?」

シュターナとクーの突然の行動に一同は慌てて席を立つ。

と同時にテーブルの両脇に真っ二つになった魔物の死体が落下した。

「きゃぁぁー!!」

「っ!!」

恐怖のあまりリリアは直ぐ隣のクリスへと抱きつき、クリスも言葉を失いリリアを抱きとめる。

シュターナは瞬時に魔力探知を張り巡らせ、学校内の魔力を調べ始めるが、事は思いの外大事になっている。

「相手もなりふり構ってられないみたいだね」

自分たちに迫ってくる無数の魔物。

更にはその使い手と、仲間が幾人も学校内に入り込んでいた。

シュターナとクーの前には魔物を操るあの男と見たことのない男が二人。

「シュターナ!ここから出せ!!」

明らかに良くない状況に、防御壁の中からアスベルが自分も戦うと防御壁を殴り付けている。

しかし、シュターナはそれを却下した。

「アスベル様はみなさんと一緒に他の生徒を校舎に避難させて下さい。生徒の皆さんも王族や高位貴族の指示なら従うでしょうから。避難が済み次第、校舎全体に防御壁を張ります。そのあと余力があれば校舎の西側に応援に行って差し上げて下さい。できますか?」

「当たり前だ!ここは大丈夫なんだな?」

「問題ないですよ」

アスベルはクリス等と頷き合うと、セリブレート、エメリー共々剣を構えた。

「シュターナ!魔法を解け!」

「はいよ!」

パチンと指が鳴ると防御壁が解かれ、待ってましたと言わんばかりに魔物の群れが突進してきた。

それを合図にアスベル達は走り出した。

最後尾を守るようにクーが続く。

「クー!シュターナを手伝わないのか!?」

てっきり残ると思っていたため、驚きに足を止めそうになるが、クーは自分はアスベルの護衛だと、アスベルと離れないことを伝えた。

「それに、アレは一人の方が本領を発揮できるっすよ」

ほら、とシュターナを指せば、一度指を鳴らしただけで無数の魔物の群れが瞬時に姿を消した。

いや、消滅したのだ。

「…お、おぉ…確かに…」

むしろ巻き添えになる確率の方が高い。

「俺はまだ生きていたいっす」

「……そうだな…」

シュターナは問題無いと判断し、アスベルは生徒達を守りながら校舎へと集めた。


「お前のような子供が一人で俺たちの相手をすると?」

「はっ!舐められたものだな!」

「…お前たち気を緩めるな。先程の魔法を見ただろう?」

一瞬で魔物を消し去った魔力と魔法はひと目見て只者では無いことを示している。

しかし、相手は子供だと二人の男は油断している。

それは好都合だ、とシュターナは内心ほくそ笑んだ。

「昨日の今日で魔力の高い者をピンポイントで同時に狙ってくるなんてねー。よほど余裕が無いと見える」

そう、現れたのはこの三人だけでは無い。

テラスに玄関、中庭、校舎裏に魔法の訓練場と二、三人ずつチームを組んでいる。

ここには魔力の強いシュターナの他にもクリスやリリアが居たため、この三人から魔力を奪えばさぞかし溜まるだろう。

「しかし、ハズレだ」

「なに?」

密かに身体強化の魔法を自分に施し、次の瞬間一瞬で魔物を操る男と距離を詰めた。

「な!?」

「いつの間に!!?」

シュターナは相手の腕を掴むと、急速に魔力を奪ったのだ。

「なに!?」

凄まじい勢いで奪われる魔力。

それを止めようともう片方の腕を振るが難なく避けられてしまった。

「お前のようなガキがなぜっ!!」

「魔力を奪うのはなにもあなたたちだけの専売特許じゃないってことだよ」

「このガキ!!」

「離しやがれ!」

他の二人も見ているばかりではない。

得物を振りかざしシュターナ目掛けて振り下ろすが、それを魔法で弾いたり避けたりと当たる気配がない。

「くそっ!なんて力だ!」

シュターナの細い腕を振り払うこともできず、男は自分の魔力が無くなっていく事に焦りだす。

もう少しで奪い尽くす目前に、突如シュターナと男の間に稲妻が走った。

「!?」

シュターナは男の腕を離しそれを避けるが、稲妻は執拗にシュターナを追いかけ、三人から離されてしまった。

瞬時に魔力探知を使うと、生徒たちは校舎へと避難が済んでいることが確認でき、そして不自然に一人だけ校舎の屋上に魔力の塊を見つけた。

(アレは…)

まるで挑発するように魔力を放出している。

(この舐め回すような嫌な感じの視線…前に感じたやつと同じだ…)

シュターナは指を鳴らすと校舎に防御壁を張った。

刹那、少し遅れて数カ所から大きな攻撃音が響いた。

『え?何?どうしたの?』

戦っているだろう仲間にインカムで問えばそれを代表してシンが

『お前が防御壁を張ったんだろう?』

と答えにならない返答が返ってきた。

『そうだけど?』

『なら多少暴れた所で校舎はビクともしないって事だ。さっさと片付ける』

そう言ったきりシンはうんともすんとも言わなくなり、代わりに中庭から大きな爆発音が響いたのだった。

「あぁ…手加減するのが面倒だったって事かぁー」

他の騒がしいところはマールやレイル、警備組のエクシャ、グレン、ニノだろう。

アスベルに応援に行くよう頼んだのは、黒の一団の手が回らなかった警備員だけの箇所だ。

アスベルに加え、クーまでいるのだ。

問題無い。

「屋上のあの人も気になるけど、こっちをサクッと追い返すか」

まだ捕まえない。

捕まえるなら一網打尽にすべきだからだ。

敵が退却するのも時間の問題だ。

あの男はもう魔物を召喚するほど魔力がない。

いや、緊急脱出用に移動魔法が使えるようにあえて少しだけ残しておいた。

あとは指を一つ鳴らし、今いる魔物達を消し去るだけだ。

「さて、お帰り願おうか?」

凡そ子供とは思えない笑みに、三人は背中に冷たいものが流れるのを感じたのだった。




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