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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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『講堂と校舎裏だ!A班とE班は急げ!』

ヒュバートが見回りに加わってから数日後の下校時刻、警備員や黒の一団のインカムに一斉に通信が入った。

二ヶ所同時に敵が現れたのだ。

A班は講堂に、E班は校舎裏へと急いだ。

その他の警備員たちも、全体的に手薄にならない程度に応援に駆けつけた。

(E班のエクシャ達は問題ないかな…。講堂の方は、と)

水晶でリアルタイムで見ていたシュターナは、講堂の方を確認する。

そこでは二人組の男が一人の女子生徒を拐おうとしている瞬間であった。

一人が女子生徒を肩に担いでいる事から、もう一人が戦闘要員なのだろう。

警備が駆けつけて女子生徒を取り戻そうとするが、片方の男が両手を翳した瞬間、十を超える魔法陣が出現した。

「!?あれはエクシャと同じ…てことはこいつも魔物の血が流れている?」

ハーフかクォーターか、はたまた人に化けた魔物そのものか。どちらにせよ、奴は強い。

警備員達になんとかできるか怪しい。

というか、現在その警備員たちは溢れ出てきた魔物に手こずり今まさに二人の敵に逃げられようとしていた。

『マール!』

『了解した』

すかさずマールに合図をすれば、敵の間を猛スピードで二頭のワイバーンが飛び抜けた。

一頭のその背にはマールが跨っている。

「俺の教え子を返して貰おう」

「…来たか…」

拐われそうになっている女子生徒は、竜騎士科のアリソン・マクレーンであった。

シュターナが真っ先にマールを応援に選んだのは、万が一これがゲームのイベントでシンを向かわせてエミリアがしゃしゃり出てきたら非常に面倒くさいと言う事と、相手がエクシャと同じ力を使うならば、それを熟知しているマールは敵にとって相性が悪いのではと考えたからだ。

しかし、魔物の数が多い。

生徒たちは突然の事に逃げ惑い、戦える者は居ない。

校舎内なら防御壁を張り守る事ができるため、大人しく校舎に逃げ込んでくれれば良いものを、校外に逃げようと出てくる始末。

「うおぉー!!加勢するぞぉーー!」

「って!アスベルゥー!王子が前線に出るなよぉー!」

戦う王子様であり、本編主人公のアスベルは、警備員に混ざりバッタバッタと魔物を倒し始めた。

「もぉーアスベル様ー怒られるの俺なんすからねー」

護衛のクーも勿論ついてくるが、止める気ゼロだ。

「なにやってんの…」

護衛の仕事しろよと内心ツッコミ、ハッと思い至った。

コレ、もしかしてシンじゃなくてアスベルのイベントだったりしないかな?と思った矢先、校舎からエミリアが飛び出してきた。

その後ろを、エミリアを止めようとするフェリエーラとエメリー、メルベルトもついてきている。

「……エミリア……あんた戦えないでしょうが…」

勿論その通りで、エミリアに危機が迫れば次期騎士団長のエメリーが助けに入る。

それでもお構いなしのエミリアはアスベルにくっついた。

「アスベル様!大丈夫ですか!?」

「うおっ!エミリア!くっつくな!戦えないだろ!?」

「私もお手伝いします!」

「手伝いはいい!離れろ!」

実際戦えないエミリアは、戦々恐々としながらゲームの“セリフ”を吐いた。

身動きの取れないアスベルを庇うように戦うクーであるが、数が多すぎて捌き切れない。

普段のアスベルならば自分の身は自分で守れるため、そこまで気には止めないが状況を悪化させる女の出現でそうも言ってられない。

エミリアを追いかけてきた三人も、突然の実戦ではあるが戦えている。

しかし、エミリアを気にかけるほど余裕は無いようだ。

戦い慣れていない生徒たちに気づいた魔物たちは、一斉に標的を絞った。

「っ!!」

ギロリと集まった魔物の視線に、怯えるフェリエーラ達。クーは他は見捨ててアスベルだけ助けようと直様頭を切り替えた。

(自業自得っすよ)

クーは兵士だ。

魔物も人間も殺した事は幾度もある。

一番大事なのは、主人であり友人のアスベルだ。

他を見捨てるのは造作もなかった。

「全く…戦えないなら出てこないで下さい」

「!!」

パチン、と指が鳴る音が雑音の中に響いた。

フェリエーラたちに襲いかかろうとした魔物たちは一斉に見えない壁に阻まれ、吹き飛んだ。

「遅いぞ!シュターナ!」

「喧しいですよ。そもそも一国の王子のアスベル様がでしゃばるところじゃないんですよ。クー、護衛の仕事しろよ」

「やってるっすよー。ただ俺にはアスベル様は止められないっす」

へらりと笑うクーの表情はどこか安堵していた。

「…シュターナ…」

突然の少女の出現に唖然とする一同。

そんな事はお構いなしに、シュターナはもう一度指を鳴らした。

地面からシュルシュルと伸びた蔦があっという間に魔物たちを絡め取っていく。

なんとか蔦から脱出しようとする魔物たちであるが、蔦から突如生えたトゲに刺され気を失ってしまった。

「殺したのか!?」

「ただの睡眠剤だよ」

人聞きの悪い、と表情を歪めるシュターナはマールを見やった。

「さて、まだ終わってないよ。手を出したなら、彼女を助けるまでが任務です」

「勿論だ!」

魔物を自在に召喚する男はマールと交戦している。

もう一人の男はアリソンのパートナーのワイバーンが何とか足止めしていた。

「勇敢だね」

「あぁ!頼もしい!」

エミリアをひっぺがしフェリエーラに任せ、アスベルはシュターナの横に立つ。

その背を守るようにクーが控える。

「フェリエーラ様方は避難を」

クーが足手纏いはいらないと暗に含ませそういえば、フェリエーラは悔しそうに歯がみした。

実際今し方危険な目にあったばかりだ。

戦意は無い。

エミリア、フェリエーラ、メルベルトが校舎へと入っていく。

しかし、騎士団長の息子であり、先程唯一まともに動けていたエメリーだけはその場に残り剣を強く握った。

「同盟国の王太子が戦うというのに、この国の騎士団長の息子が逃げるわけにはいかない。足手纏いにはなっていないつもりだ。それに、脅威から民を守るのが騎士だ!」

アスベルとクーは“どうする?”と視線でシュターナに問うと、シュターナは楽しそうに頷いた。

それを良しと取ったアスベルは嬉しそうに

「次期騎士団長殿!共にアリソンを助けよう!」

と右手を差し出した。

「!勿論だ!アスベル様!!」

がっしりと固い握手をする二人を見て、シュターナとクーが(似た者脳筋)と思ったのはここだけの秘密だ。

「さて、露払いはしてあげるよ」

マールを相手にしつつも魔物を召喚する魔法陣を使う敵に向き直るシュターナ。

間髪入れずにマールが魔法陣を破壊するが、そのため敵への攻撃に集中できないでいた。

「アスベル様達に魔物一匹近づけさせない。だからアリソン様の救出お任せしますよ」

「任せろ!」

マールが攻撃態勢に入ろうとすると無数の魔法陣を作り出す敵。

マールが攻撃をやめて魔法陣を破壊するよりも早く、指を鳴らす音が響き一瞬にして魔法陣は消え去った。

魔法陣を相殺するには術者の魔力と同等かそれ以上の力が必要になる。

この時点でシュターナは、あの無数の魔物を召還する敵と同等かそれ以上の魔力を持つ事を証明した。


魔物の脅威が無くなるや否や、アスベルは先頭を切って走り出した。

再三に渡り注意しているにも関わらず、真っ先に飛び出す王子。苦笑いをするシュターナに、クーは「あれ止めるの無理だろ?」と視線をよこす。

「それでも止めるのがお前の仕事だ」と口で言う代わりに顎をシャクリ早く行けとアスベルの背を指した。

一連の流れを横目に見つつ、エメリーも二人の後を追う。

(…三人は知り合いなのか?)

親しげなシュターナとアスベル、クーの事が気になるが今はアリソンを救う事が先だと、頭を切り替えて、アリソンのワイバーンが必死で足止めしている敵に向き直った。

「アリソン・マクレーン!!貴様はそんなものでは無いだろぉぉぉ!!!」

剣を構え、攻撃を仕掛ける。

「くそっ!」

四対一で、更には少女を担いでるため、上手く身動きができない敵はどうする事も出来ず囲まれてしまった。

魔物で応援をと仲間を見るがそちらもマールに足止めされ、自身の攻防で精一杯だった。


攻撃を遠慮する必要のなくなったマールは、竜と化した右腕で吐くように炎を放った。

「っ!」

防御壁で身を守り魔物を召喚しようとするがそれも直ぐにシュターナに阻まれる。

仕方なく通常の魔法攻撃に切り替えマールを攻撃するが、ワイバーンを上手く操り避けられてしまう。

(…警備の黒の一団さえ引き離せばなんとかできると思ったが…くそっ!中々に厄介な連中だ)

しかもシュターナとマールは魔法陣なしで魔法を連発する。

こんな連中を二人同時に相手など、分が悪いにも程がある。

更に、もう一人の仲間は少女を担ぎながら四対一で、限界間近だった。

(情報の精査が必要だな…)

そう思考するや否や口笛で合図を送る。

ピューイ!と合図を受け取るとアリソンを担いでいた敵はアリソンを力任せに放り投げた。

「っ!アリソン!!」

アリソンを咄嗟にエメリーが抱き留め、逃げようとする敵をアスベルとクーが追うが、すぐさま二人の敵は移動魔法で姿を消した。

「逃げられたか…」

シュターナであれば捕まえることは容易かったであろうが、ここで本領を発揮してしまい自分が黒の一団であるとバレてしまう事は避けたかった。

そのため、あえて補助に徹したのだ。

アリソンを心配げに取り囲む生徒を他所に、マールはそっとシュターナに近寄り小声で申し訳なさそうに眉を寄せた。

「すまない…」

「謝る事は何も無いよ。一番の目的の生徒救出は成功したんだから」

逃げられてしまったことに罪悪感を覚えているようであるが、それはお門違いだ。

そもそもマールもシュターナも表向きは一教師で一生徒だ。

そんなに強いと敵からの目も厳しくなる。

「逆に適度で良かったと思うよ。本気を出すときは奴らを一網打尽にする時だから」

「…分かった」

少し安堵した表情のマールとシュターナは、目を覚まさないアリソンを心配そうに取り囲むアスベル達の元へと寄った。

「気を失ってるだけだ。医務室へ運ぼう」

マールの見立てで体に異常がない事が分かりホッと息を吐く面々。

その中にはアリソンのワイバーンもちゃっかり混じっている。

「…これが信頼か…」

主人と認めたアリソンのために、自らの危険を顧みず勇敢に戦ったワイバーンを見るエメリーの視線には、「魔物のくせに」と言う軽蔑の眼差しは無かった。


アリソンを医務室に送り届けた後、マールは警備に報告に行くと去っていき、三人は医務室でアリソンを一人にするわけにもいかず、迎えが来るのを待った。

養護教諭は先ほどの騒動で怪我を負った生徒達がいないか見回りに出ている。

所々傷を負った面々を回復魔法で治癒すると、それを当然の事のように受けるアスベルとクーだがエメリーは違った。

「ま、ま、魔法陣なしで!!?」

先ほどの戦いの最中、魔法を魔法陣なしで使っていたのが気になっていたが、どこかに隠し持っていると思っていた。

しかし、「魔法陣はどこにあるんだ?」と言う質問に「頭の中」という突拍子もない回答にエメリーは目を白黒させた。

いくつもの魔法陣を頭の中に収納しているなど、不可能にも程がある。

覚えることなど不可能だから魔法陣を持ち歩くのだ。

杖に仕込んだり、指輪に刻んだりと得意な魔法を厳選しているというのにこの少女は覚えた全ての魔法陣を頭に叩き込んでいると言う。

いつか言われた「弱い者」と言うのはあながち嘘でないと思った。

なぜなら自分にはシュターナのような事はできない。

無数の魔法陣を覚える事も臆する事なく魔物の群れに立ち向かう事も、自分にはできない。

「エメリー、シュターナは俺が見てきた魔法使いの中で一番強いぞ!魔法でも白兵戦でもシュターナが負ける事は中々無い!」

驚いているエメリーにアスベルが自分の事の様に胸を張る。

魔法で同列なのがシンであり、剣技だけではクーには勝てない。

しかし、魔法と剣や武術を組み合わせたならば誰にも勝てないだろう。

そう嬉々として話すアスベルにシュターナは苦笑いを向ける。

「世の中広いからね。私より強い人なんて沢山いるよ」

「そんなやつはいないと思うが、しかしそう考えておいた方がまだまだ高みを目指せるな!」

「あははは、これ以上強くなったら嫁の貰い手がなくなるっすよー」

「万年振られ続けてる護衛に言われたくない」

「グハッ!」

「クー…口では絶対に勝てないのは分かっているだろう…」

「うぅぅうぅ…人の心を抉るなんて…」

慣れた三人のやり取りにエメリーだけポカンと見ていた。

何せ一国の王子と平民の少女が友人のように話しているのだから。

「…三人は、仲が良いんだな」

「ん?あぁ。幼馴染みという奴だ」

代表してアスベルが答えれば次に出た疑問は、どうやって知り合ったのかという事だ。

エメリーの質問にアスベルは素直に返し、出会ったきっかけとなった、子供を誘拐した犯人を捕まえた話をした時は更に驚いていた。

王子が囮など前代未聞だ。

「その頃からシュターナは強かったぞ」

「その頃からアスベル様は無鉄砲デスネ」

何でもかんでも首を突っ込むアスベルの正義感は留まることを知らない。

唯一欠けているのは冷静な状況判断だ。

それさえできればといつも思う。

平民の少女を手放しで褒めるアスベル。

身分関係なく才あるものを認める事は、この国の貴族や王族には中々できることではない。

それが素直にできるアスベルを少しだけエメリーは羨ましいと思ったのだった。


「うわっ!?二人ともボロボロじゃん!!」

「ははは…」

「まぁな…」

アリソンの迎えがきて直ぐ、シュターナは警備組の三人に呼ばれた。

向かえばグレンとニノは珍しくボロボロで傷だらけであった。

直ぐに回復魔法で傷等を癒すと漸く一段落したように二人は息を吐いた。

「エクシャは大丈夫?」

唯一いつもと変わらないエクシャは、大丈夫だと首を振った。

「そんなに大変だった?」

この二人がこんなにボロボロになる事はまず無い。

むしろ初めて見た。

そんなに強敵だったのかと問うと、グレンとニノは、敵に逃げられたにも関わらず得意げに顔を見合わせた。

子供のイタズラが成功したような表情の二人の傍らではエクシャが苦笑いしている。

「どうしたの?」

そう問えばニノは「じゃーん!」と意気揚々と一枚の地図を広げた。

とある一箇所が赤く光っている。

それが何なのか、シュターナは直ぐに理解した。

「追跡魔法仕掛けたの!?」

ニノお得意のストーキング魔法もとい、追跡魔法を敵の一人に仕掛けたのだ。

シュターナ達同様敵は二人組だった。

一人をエクシャが押さえ、残りの一人をグレンとニノで相手したのだ。

いかんせん追跡魔法は一定時間触れていないとならない為、それが中々難しく、かと言って本気で相手をして早々に捕まえてしまったり逃げられたりしたら元も子も無い。

その為苦戦するフリをしわざと捕まり魔力を吸わせ、その隙に追跡魔法を仕掛けたのだ。

「シュターナちゃんから貰った魔力は持っていかれたけど、そのかいはあったと思うよ」

「いやいや!それ以上だよ!!三人とも凄いね!」

純粋に感心して手放しで褒めるシュターナに、三人は「いや〜それほどでも〜」と嬉しさを隠そうとしない。

魔力を奪った相手から、まさか魔法を掛けられてるとは思うまい。

その心理もあり、敵はニノの魔法を警戒していない筈だ。

赤い光はとある一点でジッと止まっている。

家なのかアジトなのか休憩しているだけなのか…判断に困るところだ。

「…ニノ、暫くこの印を見張っててもらえる?よく行き来する場所を絞れればアジトがわかるかも」

「勿論、任せてよ。そういうのは“得意”だから」

「…」

なぜ、とは聞かなかった。

きっと聞かない方がいい。

ロクでもない返答しか想像つかない。

二、三日地図を監視し、的を絞りそこを調べて決定打であった場合乗り込む事となった。

「一先ずこの事は私たち(黒の一団)だけで留めておこう。どこで情報が漏れるか分からないからね」

それに三人は頷くとそれぞれ持ち場へと戻った。

思ったより早く片付きそうだと、シュターナは上機嫌で校内へと戻ったのであった。



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