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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「シュン!!」

「エクシャ?どうしたの?それにニノとグレンまで」

夜、移動魔法でシュターナの部屋に現れた三人。

部屋に入るや否や、エクシャはシュターナに抱きついた。

一応防音魔法をかけ、抱きついてきたエクシャの頭を撫でるシュターナ。

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ!何なの!?あの女!!!」

「人を見るなり“何で二人一緒に居るんだ”とか」

「“絶対に離れ離れになるな”とかわけわからない事言ってくるんだよ!?」

「誰が?」

「あの!エミリアとか言う女です!!!」

「!?」

「私も何故か、あの人に相応しくないとか、あの人に近づくなとか意味の分からない事を散々言われ…うぅ…あの人って誰ぇーー!!!」

「………」(あぁーーーエミリアも転生者かぁ…。だからマールに色目を使ってきたのかぁ…)

うわぁ、更に面倒臭い事になってきた、とは口に出さず、

「なんなんだろうね?妄想癖でもあるのかな?」

とエクシャの頭を更に撫でた。

「俺なんていきなりこのイヤラシイ豚野郎って言われたんだよ!?」

「え?ニノにはご褒美じゃないの?」

「美少女なら兎も角あんな普通の娘に言われてもムカつくだけだよ!どうせならシュンちゃんに言われたい!!」

「はいはい、大変な事になってるね、豚野郎」

「もっと!!」

嬉々として更におねだりをするニノを無視し、シュターナはグレンを見やった。

「エミリアは三人の事を知ってる風だったって事?」

「あぁ、初対面なのに名前まで言い当てられた。あいつ、まさか黒の一団(俺たち)の事かぎ回ってるんじゃ…」

「…もしそうならこんな派手にバラすかな?」

「じゃぁ一体?」

「警備員のスタッフ一覧は名前だけなら生徒でも確認できる。それで名前を知ったとしてもおかしくない。更にエミリアは顔の良い男に擦り寄っていく性質があるみたいで、マールも目をつけられてたみたいだし。カッコイイ二人の側にいたエクシャに嫉妬してエクシャを責めた可能性もある」

「…そうか、俺はカッコイイのか…」

「シュンちゃんにカッコイイって言われちゃった」

「今の話でフィーチャーするところそこじゃないんだけ、ど…エクシャ?」

頭撫で撫でされていたエクシャは期待に満ちた眼差しでシュターナを見上げた。

まるで自分にも何か言って、と言わんばかりだ。

「……」

頭を撫でていた手をエクシャの頬に添え

「…エクシャも綺麗だよ」

と微笑めばエクシャは豪快に床に突っ伏した。

「…幸せ…」

「えぇ!!いいな!俺もそれやって欲しい!」

「やめんか!」

「グレンだってやって欲しいくせに」

「んなわけあるか!?」

「はいはいはいはいはいはい、他に何か情報は?」

エミリアが転生者だと分かった事は大きな収穫だ。

これはフレイザーには知らせておくべきだとシュターナは判断したため、直ぐに向かいたいのだが、エクシャは未だに幸せを噛み締めており、ニノとグレンはやって欲しい欲しくないの攻防で話など聞いちゃいない。

「賑やかだな」

「魔法が張られたから何事かと思えば…」

「レイル、シン」

防音魔法を発動させたため何かあったのかと二人は様子を見にきたのだが、この騒がしさでは魔法を張らねば確かにまずいなと呆れ気味だ。

「魔力泥棒は俺たちに警戒してか、行動を起こさなくなったな」

「魔力泥棒…」

「魔力を奪う犯人じゃ言いづらいだろう」

シンが命名したであろう名前に、確かに言いやすいと自分もそう呼ぶ事にした。

「エクシャのカメレオンにも反応はないみたいだし、録画水晶にも怪しい人は映ってなかったなー」

中々思ったように進展しない事に少し焦りもあるが、エミリアの事も気になるのは事実。

「あ、そう言えばシンとレイルってあのエミリアに何か言われた?」

「何も」

シンは首を横に振ったが、レイルはゲンナリとあからさまに表情を暗くさせた。

「…レイル?どうしたの?」

「あの女はなんなんだ?やる気もないくせに分からないところがあるとか言って教えを請うてくるが全く人の話を聞いちゃいねぇ。そもそも受け持ちはシンなんだからシンに聞けよ!」

相当鬱憤が溜まっているのか、早口でそこまで言い切ると疲れたのかドカリとベッドに腰掛けた。

「お疲れ様…」

シン以外全員が被害にあったようだ。

「…むしろ一番顔の良いシンに近づかないのなんでだろ?」

「メガネだろ?」

「うっそーん」

確かに変装用に渡した牛乳の瓶底のようなメガネをシンはかけている。

しかし、前世の記憶があり、みんなのことを知っているならば名前からこのメガネのシンがあのシンだと気付いてもおかしくない。

「…どういう事?」(メガネのシンには近づかない何か理由がある?)



「あのシュターナって子本当に邪魔だわ。やっとマールにも会えたのに!」

警備としてやってきた人たちの中にニノ、グレン、エクシャの名前を見つけた時は名前が同じなだけだと思った。

しかし実際に会いに行けば間違いなくあの三人で。

イケメン二人に挟まれるように見回りをするエクシャにエミリアは腹を立てた。

漫画ではシンの事を思い慕っており、シンはその好意に応える事は無かったが甘えていた節はある。

(あんな女より私の方がシンの隣に相応しいわ!だってこの世界のヒロインなんだもの!)

エクシャが一人になったのを見計らいたっぷりと忠告をしてあげたと良い気になり、今度はニノとグレンに近づき二人がこの先の未来で殺しあわないように助言もした、つもりになっている。

ゲームに無かった臨時教師という設定に疑問を抱き調べると、牛乳の瓶底のようなメガネをかけた冴えない男は、たまたまあのシンと同じ名前だと思っていたのだが、マールとレイルを見つけ四日目にしてシンがあのシンだと確信を持った。

シンの顔に痣がないのが少し引っかかるが大した問題ではない。

一体何がどうなっているのかは分からないが、漫画の作者とゲームのキャラクターデザインが同じ人なため、お楽しみ要素としてひっそりと加えられた設定なのかもしれないと大して気にしなかった。

メガネのシンにも話しかけようか迷ったエミリアだが、これで正規のゲームルートが発生しなくなったら困るからとグッと我慢をした。

シンに良い印象を与えようと、授業は真面目に取り組んでいるフリをしている。

「明日は実戦練習か…わざと怪我したフリしてシンにお姫様抱っこして医務室に運んでもらおっと!そうだな…あの目障りなシュターナちゃんにでもやってもらおうかな!私を傷つける役を。ふふふ!楽しみーー!」



「と、言うわけでエミリアは転生者でした」

「またややこしいっすね」

「うむ…ずぞぞぞーーー」

「…クー、なんで閣下の部屋にあんたは入り浸ってるの?」

「シュンが来るって聞いて。シュンが来れば美味しいものが来る!って閣下に聞いたっす」

「うむ…ずぞぞぞーーー」

「閣下さっきから“うむ”しか言ってない。そんなにお蕎麦が好きか」

「うむ!…ずぞぞぞーーー」

「……はぁ…食べ終わるまで待つよ…」

二十分後、満足したのか、幸せいっぱいなフレイザーとクーは漸く話を聞く態勢へと移った。

エミリアが転生者である細かな理由を説明した後、なぜ男をはべらせるような真似をしているのかと言う議題へと移ったときだ。

クーは何か思い当たったのか、眉間に皺を寄せて話し出した。

「俺の前世なんすけど、確か漫画の作者とキャラクターデザインが同じ乙女ゲームが出るって話題になったゲームがあったような無かったような…」

「どっち?」

「なんでそんなに話題になったんだったか…。シュンは乙女ゲームとかしないんすか?」

「した事ないね」

「その乙女ゲームとはなんなのだ?」

「…そっからか…」

プレイヤーが主人公の女の子を操作し、攻略対象の男の子との会話や行動を選択し、少しずつ仲良くなって最終的に結ばれたり結ばれなかったり。

条件を満たせば隠しキャラが出てきたりもする。

ざっくり言えばこんな感じだ。

「成る程」

こんな雑な説明で納得したフレイザーは、思案顔で数秒口を閉じたかと思うと、すぐにクーの疑問の答えは出た。

「キャラクターのデザインが同じと言う事で、漫画のキャラクターがその隠しキャラとか言うやつなのかもしれんな」

「!!確かに!それなら話題性十分っすよ!!」

「最近になってアスベルに接触してきたのはアスベルが隠しキャラで、攻略期間に入ったからって事か。アスベルに言った“もうすぐ”って言うのは隠しキャラとのイベント発生が“もうすぐ”って事だったんだね」

エミリアの謎の行動が次々に解明されていく。

四角関係の相手はみんな攻略対象なのだろう。

所謂逆ハールートと言うやつだ。

「…そう言えば、前にシンが夜中に見回りをしている時にエミリアに会って、見えていない筈のシンの居場所をピンポイントであてられたって言っていたなぁ…。もしかして……」

「…多分それイベントっすよ。ゲームでどこに居るか分かってれば、気配も何も感じられなくても言い当てることは簡単すからね」

「やっぱりかぁ…。シンも隠しキャラって事か。成る程、普段メガネのシンに話しかけてこないのはシンとのイベントが発生しなくなる恐れがあるからか。と言うことは、話しかけられた他のみんなは攻略対象じゃないって事だね」

エミリア自身が実は優秀だったりしてシンの気配に気づいた訳ではなく、そして、やたらとクリスやリリアに絡むその理由。

「多分クリスとリリアがライバルなんだよ。第一王子と婚約破棄してるものの、ライバルがいないと発生しないイベントとかもあるだろうからわざと二人を悪役に仕立て上げてる」

「ほぅ…クリスを、か?」

「…閣下、手出しはダメだよ?もしかしたらクリスを庇ったせいで閣下にもとばっちりくるかもだから。心配しなくてもちゃんと解決できるから」

クリスが何やらされていると耳にしただけでピリピリと殺気を放つフレイザーにクギをさす。

権力を使ってエミリアをどうこうしようものなら、それすらもイベントになりかねない。

「第一王子攻略時のライバルがクリスお嬢様で、アスベル様攻略時のライバルがリリア様ってことっすね」

一つ頷き肯定するシュターナは、ある可能性が頭をよぎった。

この世界が今“乙女ゲーム”と“漫画”が混ざった状態だとして、エミリアは“乙女ゲーム”の主人公で言動からして内容を全て把握している可能性が高い。

夜にシンとの出会いで魔力泥棒を追っていた事を考えると、魔力泥棒の話は“乙女ゲーム”内のイベントという事だ。

「エミリアは魔力泥棒の犯人を知ってるんじゃない?」

「!!成る程…」

「では、あの者は犯人を知っていながら放置しているという事か」

「それがイベントなら誰かとハッピーエンドを迎えるのに必要な出来事だろうからね」

その為に止められるにも拘わらず、生徒たちを襲わせているのだ。

そのような事あってはならない。

「…この学校で一番大きなイベントって何?」

「三ヶ月後の学年末の卒業パーティーだろうな。しかも今年はフェリエーラが卒業するため、国王夫妻も出席される」

それはそれは盛大にやるに違いない。

「なら、魔力泥棒の事件は三ヶ月以内に解決するって事か」

その卒業パーティーで、クリスは国王と全校生徒の前で断罪されるだろう。

やってもいないエミリアに対するいじめで。

そう言えばフレイザーの表情は更に険しくなった。

「断罪だと…?」

「大丈夫。閣下、クリスお嬢さんを敵に回すとどうなるか、私が彼女にちゃんと教えてあげるよ。卒業パーティーでね」

クスクス、と可愛らしい笑顔であるが、黒い。

どこまでも深い闇のような黒さを感じ取ったクーは口の端を痙攣させるしか無かった。

(エミリア…早く目を覚ますっす…。そうでなければ悪魔の餌食っすよ…)









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