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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「ウッヒャォーーーー!!!」

「そんなに楽しいか?」

「たっのしぃーーーー!!!」

今シュターナは小型の竜の背に乗り空を自由自在に飛んでいた。

初めての事なので一人ではなく後ろには支えるようにマールも共に乗っている。

「にしてもさっきの竜騎士科の奴らの顔、面白かったな」

「?何が?」

遡る事数十分前。

竜騎士科とやらを見学するフリをして、ミラルダの四角関係の相手の一人、次期騎士団長候補エメリー・イーノックを観察に来たのだ。

が、竜に乗れるという事もありマールに直談判した結果“倒して信頼を勝ち取れば乗れる”とアドバイスされた。

竜騎士科の生徒達は“いやいや、こんな少女には無理だろ”と苦笑いで流したが次の瞬間、殺気一つで竜を服従させたのだ。

殺気を向けられた竜は一瞬でゴロンと寝転がり腹を見せ尻尾を振った。

その姿を見た竜騎士科の生徒たちの飛びでんばかりの眼に、マールは得意げに鼻を鳴らしたのであった。

言葉にはしないが内心「ウチのボススゲェだろ」である。

「はぁ…こんな少女ですら殺気だけで服従させられるというのに、お前達ときたら…」

わざとらしく大きな溜息をつけば竜騎士科の生徒たちは顔面蒼白となった。

「この科で才能があるのはアリソン・マクレーンだけだな」

名を呼ばれた女子生徒は誇らしく胸を張ってみせた。

彼女のみが今のところ竜に認められ、その背に跨っているのだ。

(彼女は確か生徒会副会長の…へぇー…優雅な見た目とは印象がだいぶ違うなぁ…)

と、まぁ、盛大に鼻っ柱を叩き折られた竜騎士科の面々。

勿論中には次期騎士団長候補のエメリー・イーノックも居る。

一人で乗せるのは流石に心配だからとタンデムとなったのだが、マールは内心では少し不服でもあった。

「シュン、竜の背に乗りたければいつでも俺が乗せてやる」

そう、マールだって竜なのだ。

乗りたければいつでもバッチコイなのだが、

「家族を乗り物みたいには扱いたくないなー」

とあっさり拒否された。

嬉しいような残念なような返答に苦笑いをするマール。

「竜の時のマールは少し離れて見てた方がカッコいい全体像が見えるからねー」

「!」

シュンがポンとマールの胸に背中を預け、真っ直ぐ真上を見ると、少し上にマールの少し照れた表情があった。

「まぁ、もしマールに乗るときは背中じゃなくて肩を希望するよ」

「肩?」

「絶対に眺めがいい!」

「ははっ、眺めか」

どこまでも高く昇るシュン達に 地上に残されたエメリーはぎりりと歯軋りをたてた。

「くそっ!歳下の女にも劣るって言うのか!?」

竜に何度も挑むが返り討ちにあうばかり。

以前は拘束具を着け調教していたため攻撃などされる事などなかったのだ。

「エメリー様、攻撃だけが信頼の築き方ではございません。現に私は竜に対し尊敬と礼儀を持って接する事により信頼を得ました。攻撃など一度もせずに、です」

エメリーを諭すように柔らかな口調で話すアリソン。

騎士専用の衣服を身に纏い凛とした姿は女性ファンも多い。

「アリソン…。魔物を尊敬しろなど無理にも程がある!」

頑なに力でねじ伏せようとするエメリーにそっと溜息を吐き、「そうですか」と側を離れた。

マールとシュンが離れている間は自習ということになっており、各々竜に闘いを挑んだり、アリソンのように世話をすることにより信頼してもらおうとする者もいる。

アリソンは一人自身の相棒となった竜に跨ると空を飛んだ。

「まぁ!アリソン様は既に竜と仲良くなったのですね!」

空高く飛んで行ったアリソンを見送り声をあげたのはエミリアだった。

その声にすかさず反応したのはエメリー。

「エミリア!こんな所に来るなんて危険だと言っただろう!?」

竜が危害を加えては危険だから近づくなと、再三にわたり言い聞かせていたのだが好奇心旺盛な少女はついにやってきてしまった。

「あ、ご、ごめんなさい…。エメリー様が如何されてるのか急に気になって…。お邪魔でしたよね…」

しゅんとしおらしく俯くエミリアにエメリーは仕方ないなと優しく微笑みポンポンと頭を撫でた。

「いいか、ここから先には決して入るなよ?竜は魔物だ。危害を加えることだってある。もしエミリアが怪我でもしてしまったら俺は…」

「大丈夫です!今度はちゃんと言いつけを守るので、安心してください!」

「約束だぞ?」

訓練中にも拘わらず甘い空気を醸し出す二人。

通常であればうんざりする光景だが、周囲は微笑ましげに見守っている。

愛しのエミリアが見守っている事もあり、エメリーはいつも以上にやる気に満ちており、剣を握る手に力を込めて竜と対峙する。

「うおぉぉぉ!!!」

剣を振りかざすが、ことごく竜の鋭い爪でいなされてしまう。

エミリアの手前、かっこ悪い所を見せるわけにはいかないという気持ちから、つい無茶な攻め方をしてしまう。

一歩踏み込み竜との激しい攻防が続く。

エメリーの視界の端には、両手を組み祈るようなポーズで自分を見つめるエミリアが映る。

自分を相手にしながら余所見をするエメリーを竜は見逃さなかった。

「ぐるるぁーー!!」

「はっ!?しまった!!」

体当たりを受け転倒したエメリー。

いつもならこのタイミングで止めに入るマールは居ない。

その為竜はその鋭い爪を振り下ろした。

「うわああぁぁぁ!!!!」

「エメリー様!危ない!!」

エメリーを守るように爪との間にエミリアが体を滑り込ませた。

「エミリア!!!」

あと数センチで爪がエミリアを引き裂こうとした刹那、竜はびくりと身体を震わせその動きを止めた。

「な、なんだ?」

「!!?」

何が起きたか分からないと言った表情のエメリーとエミリア。

首を傾げていると少し上から声が響いた。

「待て」

「!!??」

竜の背に乗り殺気だけでその竜を従えさせた少女シュターナが、ギラリと鋭い眼差しでエメリーとエミリアを襲った竜を見ていた。

乗っていた竜が地上に着地すると、シュターナはエミリアと竜の間に入った。

教師のマールは何も言わない。

「めっ!やりすぎはいけないよ?誇り高き竜の一族が弱い者をいたぶったら、ただのイジメだからね?」

“弱い者”その言葉にエメリーは反応した。

竜は向けられた殺気にビクつきながら手を引っ込め首を垂れた。

「よしよし!良い子だねー」

垂れた頭をよしよしと撫でると、竜は喉をぐるぐると鳴らし安堵の表情になった。

が、突如頭を撫でられていた竜を別の竜が体当たりして倒した。

ドンッ!!と強めの体当たりにシュターナもマールも周囲も呆気に取られていると、体当たりをした犯人である先程までシュターナとマールが乗っていた竜がシュターナの前に頭を出した。

「…あぁー…撫でろと…」

シュターナが頭を撫でれば、それはそれは嬉しそうに喉をぐるぐるぐるぐると鳴らした。

「よーしよしよし!可愛いやつめ!!ヤキモチか?ヤキモチを焼いたのか?」

呆然であった。

竜が自ら頭を差し出すなど思いもよらなかったからだ。

急所であったり致命傷となる場所である腹や頭は、人間であろうと動物であろうと真っ先に守るべき場所だ。

それをさらけ出したのだ。

呆然としない方がおかしい。

そんな事とは知らないエミリアは、わざとらしくその場に座り込んだ。

「エミリア!?」

いきなり座り込んだエミリアにエメリーは慌てて支え起こそうとする。

「ごめんなさい…エメリー様…。エメリー様との約束をまた破ってしまいました…」

瞳に薄っすらと涙を溜め、俯く姿は弱々しい。

「そんな事どうでもいい!怪我はないか!?」

シュターナによって止められたのだ。

怪我などあるわけがない。

しかし、エミリアは足首を押さえながら「大丈夫です」と微笑んだ。

「足か?!見せてみろ!」

「大丈夫です!本当に!!なんでもありません!」

隠し方があまりに態とらしく、シュターナとマールは内心溜息を吐いた。

「少し捻っただけなので…本当に…大丈夫……ふっ…う…」

突如泣き出したエミリアにエメリーはわたわたと慌てながら「やはり足が痛いのか」とか「どうしたのだ」と聞いている。

エミリアは首を振るばかりで言葉を発しない。

(…この茶番、私も付き合わないとダメなの?)

シュターナがそんな事を考えている横では竜がもっと撫でろと催促している。

「私っ!エメリー様が…ヒック…あ、危ないと思って…ヒック……体が勝手に、動いて…ヒック…」

「エミリア…」

「エメリー様っこ、怖かったですっう、うわあぁーん!!」

「すまない、エミリア!守ってやれなくて!」

「エメリー様が、悪い、事なんて、ヒック一つも、ありませんっ!」

ヒシッと抱き合う二人に感動する周囲。

一応フリだけでも周囲と同じ反応をするシュターナと、完全にシラけた眼差しのマール。

しばらく散々抱き合ったあとを見計らい、シュターナはそっと「怪我の手当てをされた方が」と切り出した。

エメリーもそれに賛成してくれて、エミリアを自身から引き剥がした。

「…ごめんなさい、私ったら泥だらけな上にこんな姿を見せてしまって…。先生、医務室までお願いできますか?」

は?である。

周囲は「まぁ、先生が連れて行くのは当たり前だよな」という空気だが、今の今まで散々エメリーと抱き合っていたのに、なぜそこで初対面のマールに声がかかるのか、シュターナもマール自身も理解できなかった。

「…いや、エメリー、連れて行ってやれ。初対面の俺より心を許した相手の方がリラックスできるだろうし、エメリーも念のため怪我がないか見てもらってこい」

尤もだ。

「いえ、私は先生が…」

は?再び。

なぜそんなにマールに拘るのか?

心なしかエミリアの眼が潤んでいる。

(…こいつ、マールまで誘惑するつもりか!?)

周囲はそんな事を気にしていないが、シュターナだけは気付いた。

「先生はお忙しいようですし、エメリー様とはお嫌なご様子。なので私がご一緒しましょう」

シュターナが一歩前に出てそう言えばエミリアは僅かに視線を鋭くさせた。

「俺とは…い、嫌なのか?」

エメリーが焦ったようにエミリアの前に行き視線を合わせた事で、エミリアの鋭い視線は瞬時に消える。

「まさか!ただこれ以上ご迷惑をおかけするわけには…」

「いや、迷惑だなんて思っていない!先生、俺が連れて行く」

「あぁ、そうしてやってくれ」

エメリーは男らしくエミリアを横抱きにするとスタスタと医務室の方角へと歩いて行った。

「シュターナ、お前も戻れ」

「分かりました」

マールがそう言うと、シュターナに服従した二匹の竜は残念そうに一つ鳴いたのだった。


(エミリア・アスニアどう言うつもり?マールにまでちょっかい出そうとするなんて…)

シュンは憤慨しているわけではない。

手当たり次第に見た目の良い男に媚びを売るエミリアの行動の、意味が分からないでいた。

特別教室へと向かう途中、エミリアの事で頭を悩ませているシュターナの前にフェリエーラ・エトランゼが立ちはだかった。

「おい」

「…フェリエーラ殿下、ごきげんよう」

めんどくせいと思いつつも柔らかい雰囲気を醸し出し淑女の礼をもって頭を下げる。

「竜騎士科でエミリアが竜に襲われた時お前も側に居たそうだな?」

「仰せの通りでございます」

それが何か?とは言わずひたすら下手に出るシュターナ。

「…お前が襲わせたのか?」

「は?」

「なんだ?」

思わず出た本音の一音にフェリエーラが反応する。

「どこの誰にそのような事をお聞きになられたのかは存じあげませんが、私にそのような力はございません」

「竜を殺気一つで服従させたと聞くぞ?」

「だからと言って言う事を聞かせる事は無理です」

無理ではないが、そんな事をしていない以上むやみに疑われる事を避けようと言う判断をした。

フェリエーラは少し考えたあと、そこで待っていろと廊下を指し一人去って行った。

(面倒臭い事になったなぁ…)

言われた通り待っていればフェリエーラがエメリーを伴い戻ってきた。

そこから空き教室へと入ると、フェリエーラとエメリーはさも当然と言わんばかりに自分達だけ椅子に座りシュターナは二人の前に立たされた。

(別に良いけど)

「エメリー、竜騎士科でエミリアに起きた事を話してもらいたい」

「ああ、分かった」

要するにシュターナがエミリアに危害を加えたと思い込んだフェリエーラが、エメリーとシュターナの話で裏を取ると言った所である。

シュターナが、自分が見たのはエミリアが竜の前に立ちはだかった時からだと話し始め、エメリーとエミリアが医務室へと向かった所まで正直に説明をした。

だが、エメリーはそうでは無かった。

嘘をつくなと暴言から始まり、空からお前が竜を操っていたのだろうと嘘の証言をし始めたのだ。

「私の側にはマール先生もいらっしゃいましたし、エメリー様が竜に体当たりされた時は、生徒会副会長のアリソン様も側にいらっしゃいました。そのお二人に是非お話を伺って下されば私が嘘を吐いていないとお話しくださると思いますが?エメリー様、私の話が嘘だと仰るならば当然証拠はございますね?」

「三人ともグルじゃないのか!?」

「では、私達がグルだと言う証拠をご提示ください」

「っ」

「エメリー、何かあるのだろう?」

証拠があるから嘘だと言っているのだろうと問うフェリエーラではあるが、そんなものは当然ない。

エメリーとしては“弱い者”と罵られた腹いせなのだから。

「…はぁ…将来騎士団の団長候補と呼ばれているお方が嘘をつくなど、貴方はそれでも誉れ高き騎士ですか?」

「!!」

「貴様、貴族に対し無礼であろう!?」

「ならば殿下も国王であるお父様に泣きついて私を罰すればよろしい。友人の嘘を指摘され腹が立ったので処罰してほしいとでもおっしゃれば宜しいでしょう?それに王族に対しての不敬罪も盛り込みますか?本当のこと言われてムカついたので死刑にせよとでも?なかなか愉快な理由ですね。私をこの世から消せると同時にお二方の評判もガタ落ちで、次期政権には誰も期待されないでしょうね!」

「っのぉ…言わせておけば!」

「おや?今度は暴力に訴えますか?王太子殿下の婦女暴行、娯楽に飢えた世間はさぞかし面白おかしく噂されるでしょうね。平民の少女に暴力をふるったとてまぁ、最悪王位継承権を剥奪される程度でしょうが、王族で居られるのだから問題もさほどないと思いますが。周囲からの白い目はご自分で何とか頑張って耐えて下さいね」

「ーーーーっ」

まさにぐぅの音も出なかった。

王子である自分にここまで言い放った同世代の人間は初めてであった。

シュターナの言っていることは正に正論で、シュターナが今言った事を行動に移せば確実に自分たちにも累が及ぶ。

息子として甘やかされてきたが、次期国王としては厳しく教育を施した国王である父も黙っていないだろう。

親子の縁は切られないが王位継承権は確実に弟のものになる。

それはどうしても許せなかった。

幼い頃より次期国王として厳しく教育を受けてきたのにここに来て剥奪など、我慢ならない。

フェリエーラは乱暴に席を立つと

「二度とエミリアに近づくな!」

と吐き捨てる様に去っていった。

「…エメリー様は行かれないのですか?」

「…」

エメリーは途中からショックを受けた様に上の空状態で視線を彷徨わせている。

一体今度はどの発言が彼をそうさせたのか、シュターナは首を傾げる。

「…エメリー様、私は今の様に思った事を直ぐに口にしてしまいます。もし私の発言が貴方様を傷つけたのならば謝罪申し上げます」

このまま二人きりは気まずいと謝罪を口にすれば、エメリーはハッとした後に少し俯いた。

「…俺は…騎士として最低な事をしたっ!守るべき平民に助けられて、それが気に入らないからと嘘をついた……そうだ、俺は騎士に、強く気高く誉れ高い騎士になりたかったのに…!!シュターナと言ったな…お前には済まない事をした…」

「ご理解頂き感謝致します」

そう言うとエメリーは漸く教室を後にした。












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