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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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学校にいる間、極力クリスやリリアと共にいる事にしたシュターナはエミリアの行き過ぎた行動に絶句する。

初めのうちは廊下を走りクリスに「他の生徒とぶつかると危ないから」と何度も注意を受けては無視するか、周囲に他の生徒がいれば「そんなに私のことが嫌いですか?」と嘘泣き。

攻略対象が近くにいれば、リリアの横を通り過ぎる際にわざと転び、エミリアを心配した攻略対象が「大丈夫か」と助け起こす際に「はい、ありがとうございます。リリア様もきっとわざとではないですよね…」とまるでリリアが足を引っ掛けたかのような物言いをぶちかます。

挙げ句の果てには自ら中庭の池に教材を打ちまけ、泣きながらそれを拾い集め慌ててやってきた攻略対象に「なんでもないんです…私がきっとクリス様やリリア様の気に入らない事をしてしまったんだわ…」などと言い出す始末だ。

シュンが居る前では逆に言い返されてしまうため、エミリアはシュンの居ないタイミングでクリスやリリアに嫌がらせをしていた。

録画水晶を確認する際に全て見てしまったシュン達は、エミリアに対してもはや良い印象が微塵も無かった。

「彼女には俺も困っているんだ」

「俺がちょっと目を離すと直ぐにアスベル様にちょっかい出してくるんすよねー」

「僕も何度か話したが…何というか…気持ち悪い」

「セリブ殿下、きっぱり言いすてたっすね」

校舎の裏の人目のつかない茂みに王族共々直に地面に座り込むシュターナ、クリス、リリア。

クーがシュン達黒の一団が学校に入り込んだ事を知り、エミリアの行動に頭を抱えている自身の主人であるアスベルとロザリール国第二王子セリブレートを伴い相談にやってきたのだ。

エミリアのクリスやリリアに対する態度は周知の事実。

自分たちが一緒にいればまた難癖をつけ、フェリエーラにでも言いつけ面倒な事になるやも知れぬと、こそこそと隠れているのだ。

「我が兄ながら何を考えておられるのか…」

心底分からないといった風にセリブレートは溜息を吐く。

「セリブレート様はどの様な被害にあったのですか?」

「気持ち悪いとおっしゃられるくらいなのですから相当な事なのでしょうね…」

クリスとリリアが心配気にセリブレートを見る。

セリブレートも眉間に皺を寄せて、初めから語り出した。

よく話す様になったのは今年に入ってからだと言う。

初めは、セリブレートが貴族専用サロンで一人ピアノを弾きながら歌っていた所にエミリアは現れたらしい。

“凄く上手で感動した”とか“男性なのによく高音が出ている”など散々褒め千切られたらしい。

セリブレート自身も手放しで褒めて貰えるのは素直に嬉しかった。

時々こうしてピアノと歌を聞きにやってくる程度であったのだが、ある日のこと。

最近様子がおかしい兄フェリエーラの事を考えながらピアノを弾いていた時だ。

その日もエミリアはやって来ていて、セリブレートの僅かなピアノのミスに気づき、どうしたのかと尋ねて来た。

「あの僅かなミスを指摘されるとは思わなかったので、本当によく聞いてくれているんだなと感心したものだ。だが、その後が悪かった」

「?」

「“フェリエーラ殿下の事でお悩みですか?”と聞かれた」

確かにその通りなのだが、兄の微々たる変化に気づけたのは自分が弟でこれまでの兄を知っているからこそ。

それをピンポイントで指摘され、セリブレートはエミリアを怪しんだ。

なぜそう思うのだ?と問えば口ごもり焦った様に“なんとなく”と言った。

因みに、エミリアとしては“どうしたの?”と聞くはずがセリブレートの悩みの内容を知っていたため、思わずフェリエーラの事を尋ねてしまったのだ。

さて、エミリアのその僅かなミスでセリブレートのルートはそれてしまったわけだが、挽回は可能であるはずなのに、挽回しようとしたエミリアが、イベント以外でも再三にわたりセリブレートへ接触した結果、余計に怪しまれるという墓穴を掘ったのだ。

それでも発生するイベントの度にセリブレートの前にエミリアは現れ、薄っぺらく、感情がおざなりの“セリフ”を口にするせいでセリブレートの好感度はぐんぐん下がった挙句、ストーカー認定されつつあるのだ。

特別科ではなく騎士科を選んだのもエミリアと離れたいが為であり、同じ境遇のアスベルから、自分の側ならば護衛のクーが居るから多少は大丈夫だと誘われたからだった。

セリブレート自身も魔力も強いが剣を学ぶ事も好きなため騎士科は嫌ではなかった。

「アスベルもセリブレート殿下と同じなの?」

「あぁ…いつもどこからともなくやってくるのだ。まるで見張られている様で気味が悪い…」

鳥肌が立ったのか、両腕をガスガスと摩る。

本当に気味悪がっているようだ。

「うーん…ここは敢えて、みんなが一緒に居るって言うのはどう?」

「?」

単独行動するから狙われる。

男女二人きりでもきっと、ふしだらだなんだといちゃもんをつけてくる。

ならば団体行動だ。

それならばアスベルとセリブレートがエミリアと二人きりになる事もないし、クリスやリリアがエミリアに嫌がらせをしていると言われても、自国の王子と同盟国の王子が否定すれば犯人になどならない。

「まぁ、どうしても授業の関係で別行動になることもあるけど、それはこれでサポートするよ」

「これは?」

ガラスの水晶が嵌め込まれている小さなピンバッジ。

水晶は勿論録画水晶の超小型版だ。

「小さい分込めた魔力がすぐ枯渇するのが難点だけど、みんな魔力持ちだからそれに触れて時々魔力を補充してもらえればずっと使えるから。魔力が無いクーには少し大きめだけど護衛服に着けても違和感ない様にデザインしてあるよ」

画像は全て自動でシュンが持つ大きめの録画水晶本体へと転送される仕組みになっている。

「…シュターナは凄いな!こんな物が作れるなんて!」

「まぁ、魔道具作るのは趣味みたいなものな」

「そうなんです!」

「へ?」

シュンの言葉を遮り身を乗り出したのはクリスだった。

目をキラキラとさせて、ズズイとセリブレートへと顔を近づける。

「シュンはもっと小さい頃からとても凄い子なんです!この小さな身体からは想像もつかない体術や魔法を繰り出し敵をバッタバッタとなぎ倒すんですよ!」

「いや、クリスお嬢さん、そんなとこ(シーン)見た事ないでしょう」

「ですが私を助けて下さった時の身体能力は、とても歳下の女の子とは思えず少しときめいてしまったくらいです!」

夜会で某貴族に襲われそうになった時の事を言っているのだろう。

当然魔力で身体能力をアップさせているのだと説明するが、それでもピンチを救ってくれた王子様の様であったと熱く語るクリスにシュンは苦笑いだ。

「ほう…一度手合わせ願いたいな!」

「いやいやセリブレート殿下、何言い出すんですか」

「俺とはやってるんだから、セリブとだって構わないだろ?」

「アスベルとは付き合いの長さがあるでしょうが。いきなり知り合ったばかりの王子様と手合わせして万が一怪我でもさせたらヴァレル国王が鬼の首を取ったかの様に嬉々として私を責めてくるよ」

「父を知っているのか?」

「知ってるも何も……?!」

「?!」

突如言葉を区切ったシュンに首をかしげる一同。

シュンは隠れていた茂みから飛び出し辺りを見回す。

校舎裏には誰もいない。

(見られていた?)

「見られてたっすね」

「クー、気付いてたの?」

「いや、気づいたのはシュンとほぼ同時だと思うっす。舌なめずりする様なねっとりとした嫌な視線…」

「…何その例え…気持ち悪い。クー、気持ち悪い」

「俺が気持ち悪いみたいな言い方やめて!?」

「二人とも如何されたのですか?」

恐る恐ると言った風に茂みから顔を出すクリス。

誰かに見られていた事を話すと不安げな表情に変わる。

完全に死角となり周囲から見つけるのは無理であるし、それが遠くからとなれば尚更無理だという位置に居るのだ。

しかし、これは手掛かりにもなる。

「相手は魔力探知の魔法が使えるらしい」

ニヤリと笑いそう言い放つシュンに面々はハッとした。

「魔力探知の魔法は限られた者しか使えない!」

「そこそこ高度な魔法だからまずエミリアには無理」

(そこそこ…?)

(そこそことおっしゃったわ…)

(アレはそこそことは言わない…)

アスベルとクーを除いた三人の心のうちなど知る由もなく、シュンは続けた。

「今見ていたのは、魔力を奪っている犯人てことになる」

「!!?」

「まぁ、学園内か学園外の者かは分からないが迂闊な相手である事はわかった。一先ず教師役のみんなに学園内の人間で魔力探知が使える者がいないか調べてもらおう。教師なら履歴書で分かるだろうし、生徒なら授業の進行速度表から分かるだろうしね」

履歴書には、自身が使える高度な魔法を記入する欄があり、高度であればあるほど就職に有利なのだ。

謂わば魔法は取得した資格のような扱いだ。

進行速度表は、生徒が覚えた魔法を教師が記入する表であり、通知表の様なものだ。

早速インカムでシン達に連絡をするシュンのすぐ後ろでは、歳下の少女を興味深げにみるセリブレート。

「この学校以外で彼女を見たことがあると思うのだが…気のせいだろうか?」

「…あぁ、それ、多分王城で見たんすよ」

「城で?」

セリブレートの疑問に答えたのはクーであった。

その事を知らなかったアスベルは驚き目を丸くして耳を傾けた。

「ほら、去年王妃様方が毒殺されそうになった事があったっすよね?」

「あぁ、一部の人間にしか知らされていない事件だ」

「そんな事があったのか!?」

クーはシュンやフレイザーから聞いて知っていたが、アスベルには知らされておらず驚きに表情を変えた。

「それを解決したのがシュンこと、フェリエーラ第一王子の元婚約者クリスお嬢様付き侍女の試験受験者シュターナっす。廊下で何度もすれ違ってましたっすよ」

「なに!?俺は全然気づかなかったぞ!」

いつから知っていたのかと問い詰めるアスベルに、クーは「まぁまぁ…」と宥めながらアスベルに黙っていた経緯を話した。

「アスベル様、知ったら絶対首を突っ込んだでしょ?引っ掻き回されるから話すなって言われてたんすよ。俺は城にフレイザー閣下がいらしてると聞いて訪ねたら、たまたま閣下とシュンが一緒に居たところに出くわして偶然知ったんす」

「お、俺は引っ掻き回したりなんか!」

「今回の学園で起きてる事件についても首突っ込もうとする度に俺が止めてるはずなんすけど?」

「ぐぅ…。い、良いではないか!学園の平和のため!友を守りたいと思って何が悪い!」

「悪くはないっすよ。ただ魔力奪われた人に鞭打つ様に強引に訊問するのは大問題っス。相手は貴族だったりするんすから国際問題になったら困るのは国王様なんですからね」

「ぐぬぬぅ…」

護衛にあっさり言いくるめられる同盟国の王子に苦笑いを零す面々。

シュンも報告を終わらせ

「正義感が強いのは良いことだけど、冷静さを保ち、被害者の事もちゃんと考えてあげられるようになれば、アスベルの事も頼りになるんだけどね」

とフォローを入れる。

「いざという時、冷静さが勝敗を分ける事だって多々ある。どんなに強くても熱くなりすぎたら正確な判断を下すのが遅くなったり間違ったりしてしまう。それで誰かの命や自分の命を危険に晒すことになるかもしれないからね。もっと感情をコントロールできるようになれば、もっと強くなれるよ」

「!ほ、本当か!?」

「おや?私が嘘ついた事ある?」

「いや、無い!」

さすが単純純粋培養主人公。

いとも簡単に鵜呑みにしてくれた。

しかし、シュンとて嘘はついていない。

あと二年もすればそれはそれは強くなるのだ。

勿論努力も必要になるが、と付け加えれば更にやる気を出した。

昼休憩が終わりに近づきそろそろ教室へ戻ろうとした時だ。

セリブレートがシュンを呼び止めた。

「母達の命を救ってくれた事、心より感謝する。シュターナ、いや、シュン」

「恐れ入ります。ですがこの事は内密に」

「分かっている」

話が広まれば側室からいなくなったリーニャが犯人だと直ぐに分かってしまう。

それではリーニャに与えた温情が意味をなさなくなるため、セリブレートも口を噤んだ。


結果から言えば魔力探知の魔法が使える人物は校内に一人であった。

しかし、その者がシュン達を監視する事は不可能。

なぜなら、その人物とは貴族の生徒達からの嫌がらせで心身ともに壊してしまい休養中の教師、ヒュバード・ベルゲンであり、その代理がレイルなのだから。

お見舞いと称し同僚の教師に様子を見に行って貰ったところ、王都から半日の所にある実家にて休養していた。

半日もかかる距離を行ったり来たりするのはまず無理だ。

移動魔法でも使えれば話は別であるが、履歴書にその記載はない。

他の教師陣の話からも、そのような事をする人物では無いし、度胸もないだろうという事であった。

犯人は校外の者であると決定づけられた。









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