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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「魔力が吸い取られる?」

「うむ、既に四人の生徒が犠牲になっていてな…。通常魔力はアイテムを使ったり休めば回復するはずなのだが…」

「取られた魔力が戻らない、と?」

夏も終わりシュンがまた一つ年を重ねた頃、ランスロットを伴いやってきたフレイザー。

最近では当たり前のようにシュンに仕事の依頼をしてからギルドに報告をするという、通常とは逆の過程をとっている。

先にギルドに依頼を出しても受けてもらえないことが多々あったので直談判しているのだ。

今回は、フレイザーが理事を務める魔法学校で起きている事件の調査であった。

平民から貴族、王族まで幅広い身分の生徒が同じ学問を学べる数少ない学校である。

その事件とは冒頭でも触れたように、生徒の魔力が何者かに奪われているという事だ。

それも、強い魔力の持ち主が狙われているらしい。

「となると、クリスお嬢さんや、アスベルも危ないんじゃない?」

「…うむ…」

その表情から二人が狙われる可能性があることが分かる。

「それからあと二人、リリア嬢を覚えているかね?」

「勿論。アルビノの娘でしょ」

漫画ではヒロインで、未来のアスベルの奥さんだ。

「確かにあの子も魔力が強かった。クリスお嬢さんやアスベルよりもね…。それでもう一人は?」

「子爵令嬢のエミリア・アスニア嬢だ。私は魔力を感じることはできんが、教師陣が言うには彼女の魔力は他の生徒よりずば抜けているそうだ…」

「へぇーそんなに?…でもあまり嬉しくなさそうだね?」

「うーーむ…彼女はその…」

「?」

「魔力は強いのだが物覚えの方が、なぁ…」

「oh…宝の持ち腐れパターンか」

魔力は有り余っているにも拘わらず、魔法陣が理解できないという。

更に最近は問題行動を起こしておりこの国の第一王位継承権のある王子に近づいているらしい。

更には王子も満更ではないという。

子爵とはいえ爵位持ち。

王子と釣り合うかと言えば甚だ疑問だが、それが文武両道才色兼備で慎ましい者なら文句もないが、見た目はまぁまぁ、学問の方は良くて下の中。

更には…

「他にも騎士団長や宰相の子息らにも媚を売っているらしい…」

「なんだそのビッチ」

「しかも子息らも今まで周囲にいないタイプの者だからか…」

「そいつらも満更でもないと。アホくさ。なに?その子はこの国を破滅させたいの?」

一人の女を巡って三人の男のバトル。

勝手にやってろ、と一蹴したくなるがそれが将来ロザリール国の中枢を担う若者ならばそうは言ってられない。

この国を守らねばならない三人だ。

「…第一王位継承権だけでも第二王子に移せば?一人は解決できるけど?」

「それができたらここには来ない………あ…」

「………ちょっと待て…まさかそっちが本音じゃないだろうな?」

「……」

「なんとか言えよジジィ」

「……コホン、シュンよ!生徒を襲う悪をつかまえてくれ!ついでにこのふざけた四角関係を解消してくれ!」

「明らかについでの方が本命だろうが!?その自慢の白ひげ引っこ抜くぞ!?」

「ホッホッホ!では受けてくれるとギルドに書類は出しておく!後は頼んだぞ!!」

「あ、こら待て!!ジジィィィィィ!!!!」

そそくさとランスロットの魔法で廃城を後にしたフレイザー。

それを追うことをしないのは受けるという意思表示ではある。

不服であるが。

フレイザーが帰宅したのち、シュンの部屋にノックが響く。

入室してきたのはレイルだ。

フレイザーから手紙を預かったと一通の封筒を受け取った。

「…また面倒くさい事を頼まれたのか?」

眉間に皺を寄せていれば嫌でも分かるのだろう。

「ちょーーーーー面倒くさい!!四角関係の解消ってなんだよ!」

「…四角関係…」

事情を知らないレイルはドロドロとした光景を思い浮かべて口元を引きつらせた。

その横では乱暴に手紙を開封したシュンが内容を目で追っている。

「…なぁーにが依頼だよ。準備は万端なんじゃん」

「あのじーさん、なんだって?」

「みんなにも説明するからリビングに行こう」


リビングに集合した黒の一団。

紅茶とお菓子が並べられまるでティータイムである。

「さて、みんなにも協力してもらうよ!」

最近単独行動の多いシュンからの呼び出しに心なしかみんなのテンションは高い。

「来週からロザリール国にみんなで潜入します!それぞれ役職はフレイザー閣下が用意してくれてるので問題ありません。仕事の内容は、最近生徒を襲い魔力を奪う者がいるという事でそいつを捕まえる事と、後もう一つはもう本当ぶっちゃけどうでもいいので、できたらという事にします」

四角関係の解消の話に苦笑いをこぼす面々に、自分だって乗り気じゃないと眉間に皺を寄せるシュン。

格別襲われそうな名前のリストにアスベルの名があるのを見たシンは人一倍やる気を見せている。

「さて、気になる役職ですが……」



「今日からお前たちを教える、レイルという」

狙われる確率の高い、魔力が高い高学年の生徒に魔法を教える教師となったレイルは、前任の教師が体調不良で休んでいる間の臨時として自己紹介を終えた。

実際、貴族子息令嬢達からの嫌がらせで胃痛を患った前任の教師は涙ながらにレイルに感謝したという。

勿論、これらの生徒達を“躾ける”許可はフレイザーから取ってある。

なので、

「ひぃ!!」

「こ!こんな事して良いと思ってるのか!?」

「お父様に言いつけますわよ!!」

「どうぞご自由に。しかし、お前達も忘れるな。俺はヴァレル・エトランゼ国王とフレイザー・アーリッシュ大公閣下の命でここに立っている。お前達の親が国王と閣下の不興を買いたいなら遠慮なく告げ口するが良い。あぁ、他の教師達にも言っておいたぞ。お前達が馬鹿をやれば私に報告するように、とな」

「!!?」

現状はというと、レイルの自己紹介直後に洗礼と言わんばかりに数名の貴族子息令嬢がレイルに魔法を掛けようとしたのだ。

しかし、それらは全て跳ね返され、それぞれレイルにかけようとした魔法を自分が被ることになったのだ。

ある者は沢山の蛇に巻きつかれ、ある者は氷漬けに、ある者は泥水を被り、ある者は虫が体を這い、ある者は石になっていたりと様々だ。

そして、

「さて、お前の魔法が一番タチが悪いな。床に座れ」

「っ!」

一人の男子生徒はレイルの言葉に抗おうとするが、どうする事もなく床に正座をした。

「服従魔法か。お前の歳で使えることは褒めてやろう。しかし、いちいち魔法陣を使っていたらどのような魔法か相手にバレてしまう。だからこうして簡単に跳ね返されてしまうのだ」

「ぐっぅ、魔法陣を使わないなんて!!」

そう、レイルは魔法陣を使用せず全員の魔法を跳ね返したのだ。

魔法を使うには必ず魔法陣が必要であると教わってきた生徒達には夢にも思わない反撃であった。

「俺の弟子達はお前より幼い頃から魔法陣なしで魔法を使っているぞ」

ふん、と鼻で笑い指を鳴らすと一斉に跳ね返された魔法は解けた。

そこに、反抗の意思はない。

完全に隙をついたのに、一切魔法が通じなかったのだ。

今度は何をされるか分からない相手なのだ。

「さて、自己紹介はこの辺にして授業を始める」

しかし、レイルにさらなる驚愕の事実が待っていた。

教科書には学んだところまで印がついており、その先を教えれば良いと聞いていたため、その通りに教科書を開く。

そこには…

「……」

「…せ、先生?」

教科書を開き固まったレイルに恐る恐る問う一人の生徒。

「嘘だろ?」

「え?」

パラパラパラと教科書をめくるレイルの表情は徐々に恐ろしいものへと変化する。

(あれもこれもそれも!シュンが七歳までに学び終わってる内容だぞ!?)

学校とはこんなにレベルが低いのか、いや、違う。

シュンが化け物なのだ、と改めて痛感したレイルであった。


「整列!」

ピシィ!!

「おおぉぉぉ!!!」

校舎から離れた竜舎。

近年小型の竜を飼いならし、背中に人を乗せて戦ったり荷物を運んだりする事が増えているとの事で、学校でも竜が十頭程飼育されており、竜騎士なるものの育成が行われている。

「新しい先生すげぇな!」

「今日はまだ初日だぞ!」

「きゃぁー!マール先生素敵ー!」

竜騎士学科の生徒の他、マールの見た目の良さから女子生徒達も集まっていた。

しかも、竜の血が流れているマールは自分より弱い種の竜ならば従わせる事もできるため、竜達は実に素直にマールの指示に従っていた。

初めて竜に跨り、空を縦横無尽に飛び回る姿は赴任してきたばかりとは思えない素晴らしさであった。

「マール先生!凄い!」

「本当に!きっと素晴らしい竜騎士なんだなー!」

竜騎士どころか、竜である、とは言えずマールはその問いには無言となる。

「…さて、竜騎士に必要なことは…」

「はい!」

「言ってみろ」

マールの解説を遮り一人の男子生徒が勢いよく手を挙げた。

やる気のあることはいいことだと、マールは回答を許した。

「パートナーとなる竜の調教です」

「例えばどんな調教だ?」

正解とも不正解とも言わず続きを促す。

「一番簡単なのは暴力です。電流が走る首輪や鎖の鞭など」

「ほう、つまりこういう事か?」

マールは答えた生徒に歩み寄るとその胸ぐらを思いっきり掴んだ。

「!ひっ!!?な、なにを!?」

「お前が今言ったんだぞ?調教は暴力が一番だと」

「お、俺は竜じゃ!」

「“俺から”見ればお前達も竜も同じだ。俺は竜に暴力を振るったことはない」

乱暴に胸ぐらから手を離すと、生徒は後ろへと倒れた。

「暴力での服従など一時的なものに過ぎない。その鎖や首輪が外され自由になった竜達は一斉にお前達に牙を剥くぞ」

ゴクリと誰かが喉を鳴らした。

そうはならないとは言えないからだ。

もし、万が一そうなった場合、真っ先に襲われるのはその背に乗る人間だ。

「…なら一体どうすれば…」

生徒たちから困惑の声が上がった。

マールは目を細め言った。

「負かせ」

「?」

どういう事だ?と全員が首を傾げた。

「小型の竜程度ならば“ある程度”の剣技で倒すことができる。竜は大小拘わらず己より強い者に従う。お前たちがこの竜達を負かす事が出来れば主人と認められ、永遠にパートナーとして尽くしてくれる」

「…」

沈黙が走った。

仮令小型といえど、竜だ。

まともに魔物と戦った事さえない自分たちにいきなり竜と戦えなど、無茶である。

誰一人として動く事が出来ない。

「む、無理です!」

一人がそう叫ぶように言えば周りも同感だと言うように、頭を上下に振った。

「…?」

マールには疑問でしかなかった。

シュンが竜の姿であった自分を蹴り飛ばしたのは、確か七歳か八歳の頃であった。

その頃のシュンよりもはるかに成長している彼らならばなんら問題無いと思っていたのだが、そうでもないらしい。

無理無理と首を振り続ける少年たちの顔色は総じて悪い。

本当に無理である事がうかがえる。

(シュンのやつ…本当に人外なんだな…)

内心そんな事を思いつつ、当面はこの生徒たちが小型の竜を倒せるように訓練する事にマールは決めたのだった。


「エクシャ、グレン、そして俺はニノ。よろしく」

それぞれ軽く会釈をすると相手もよろしくと握手を求めた。

学校側が特別にギルドから選りすぐった者たちを警備員として雇い、その一員として、三人は校内を常に見回っておく役目に就いた。

グレンとニノは万が一魔力を奪われたとしても、その剣技でカバーできるということから抜擢され、エクシャはステルス魔法が使えるカメレオン風の魔物を校内全体に配置し、何かあれば直ぐに知らせる役目がある。

もちろん仕掛けはそれだけでは無く、シュンが超小型化した録画水晶も至る所に配置してあるが、無闇やたらに動かす訳にもいかないので死角になるところはカメレオンに任せているのだ。

更に今回、インカムも警備員全体へと配布され、一目で警備員と分かるお揃いの制服に着いたタイピンにも録画水晶を付けてある。

勿論ヴァレルとフレイザーには許可を取っている。

因みに配布された警備員の制服は全てシュンが作ったもので全身黒のスーツで、動きやすい素材、ある程度の魔法攻撃や物理攻撃などを弾く防御魔法も掛かっており、この仕事が終わった後このスーツ欲しい!と言う警備員が多数出た程だ。一応ちゃんと全て回収する予定だ。

「まさか黒の一団の方々が来てくれるとはな」

「心強い限りだ」

「お役に立てるように尽力致します」

「お?意外と謙虚なんだな」

あれだけ名が通っているんだからもっと高飛車な嫌な連中かと思っていたと、警備員のリーダーは笑った。

「俺たちも失敗はしますからね。良いところばかりが一人歩きしてる状態ですよ」

変態は鳴りを潜め、全ての人間に好印象を与える好青年モードニノに、グレンとエクシャは苦笑いだ。

「あんたら二人は剣を使うのか?エクシャは何ができるんだ?一先ず把握しておきたいのだが」

エクシャが選ばれた理由は魔物の手を借りる事が出来ること、そして敵を発見したら匂いで辿れること、そしてもう一つ、万が一魔力を奪われてももう一つ武器がある。

「これですね」

そう言って手のひら程の石を掴むと軽く力を入れた。

すると石はバキッ、と音を立てて粉々に粉砕された。

「……おぉ…めちゃくちゃ頼もしいな」

「恐れ入ります」

美しい笑顔のその手元には粉々になった石のカスが風に乗って舞い上がった。

美しい筈なのになぜか背筋に冷たいものが走ったと、その後誰かが言った言葉に同感する者が殺到したのは言うまでもない。

相手が魔力を奪うと言うこと以外全く何も分かっていない為、単独での行動は禁止となっている。

必ず二人以上で動く事。

何かあればインカムで知らせる事。

生徒の安全が第一である事。

この三つがルールとなる。

「俺たちは三人で組ませてもらって構わないか?」

「あぁ、それは構わない」

グレンが自分とニノとエクシャをチームにしてくれと要求すればあっさりと通った。

リーダーもその方がやりやすいだろうと言う判断であり、警備員内でも既にチームは決まっているらしい。

「それにしても、この“スーツ”とか言うやつすごいな」

「鑑定で調べたらすげぇ魔法がわんさかかかってたぞ」

「これもあんたらのリーダーが作ったんだろ?噂通りの凄い奴なんだな」

熟練のハンター達から賞賛される我らがボスに三人は得意げに笑ってみせた。

「あぁ、俺たちの団長は最高だよ!」

「能力は人外だが決して間違った使い方をしないしな」

「それに強く優しく可愛らしい方です」

“団長好き好き”オーラが出まくる三人に若干引き気味であるが、今回警備のリーダーを務める男は羨ましくもあった。

自分もそんな風に慕われたい、と。











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