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二人の王妃が退室した後、一日目の試験の終了を言い渡された。
最後にフレイザーが今夜宿泊する部屋へと案内をして、自室へと戻ることになったのだが、シュターナはそのままフレイザーの部屋へと入り、会話が漏れない様に結界を張った。
「どうした?」
「……さっきのケーキに毒が仕込んであった」
「!?なんと…。あの一瞬であるがシュンの表情が変わった時か?」
「よく気づいたね」
その瞬間に解毒魔法を使ったのだ。
あの様子から王妃同士の争いには見えないし、他の第三者の仕業なのは一目瞭然。
「…ケーキを用意した者を調べられれば良いんだけど」
「…ふむ…ラテファリア王妃に尋ねれば教えてくれるやもしれん。明日、私がそれとなく聞こう」
「分かった。それから…」
「なんだ?」
じっとりと睨みつける様にフレイザーを見たシュンに、バレたかとフレイザーは苦笑いをこぼした。
「シンにも言われたんだよ。和食がお礼なんて閣下にしては安すぎるって!閣下は王城で異変が起きてるの知ってて敢えて送り込んだでしょ!?」
「ほっほっほっ。知ればなんとかしようと動くのがお主だからな。現にこうしている」
「善意だと思った私が馬鹿だった!」
ダンダンと悔しそうに床を踏みつけるシュンに、してやったぞと愉快そうに笑みを深めるのであった。
「それはそうと、毒殺に失敗したとあってはまた何か仕掛けて来るぞ」
「分かってる。閣下は犯人に心当たりはないんだね?」
「探らせてはいる。執事のリフレイクと侍女のアンだ」
「閣下の配下って本当に何処にでも居るね…」
「戦の勝利の半分はより正確な情報だ」
「戦ね…そもそもあと二日で何とかなると思うの?」
「ほっほっほっ。勿論、してくれるのであろう?」
「できるわけないだろ」
今夜から城中を調べて回らなければいけない羽目になるとは、今朝の時点では思っても見なかった…。
「…それから、もう一つ…気になってるんだけど」
「何かね?」
シュンは少し言い淀んだあと、口を開いた。
「クリスお嬢さんが王太子の婚約者になったって事は、閣下の跡継ぎどうするの?」
「…」
妻も息子夫婦も他界し、身内はクリスのみ。
そのクリスが本来婿を取り、その婿がフレイザーの跡継ぎとなるはずであった。
「…王の命とあってはしかたあるまい。私は元々平民だ。クリスが嫁いだ後は爵位を返上し、気ままに老後を過ごすよ」
むしろ貴族暮らしはもう飽きた、と言わんばかりの表情だ。
「いや、閣下はそれで良いかもしれないけど、閣下の配下はどうするの?いきなり無職です。好きに生きろと言われても困るんじゃない?」
「それなら問題ない。彼らは殆ど普段から平民として暮らしている。私から指示があるか無いかの違いだ」
「…成る程、万が一を見越してたって訳か」
元々平民のフレイザーに、平民の生活は苦では無い。
しかも、引退しようともこれまでの功績から普通の平民よりいい暮らしは約束されている。
なんら問題は無いとフレイザーはあっけらかんと言い放った。
「まぁ、本人がそれでいいなら良いけど…」
話は終わりかと思いきや、「それから」とシュンの口からは言葉が続いた。
「まだあるのか?」
「王妃様が二人だなんて聞いてないんだけど」
どちらかが側室ならば問題なかった。
しかし、王妃らは二人とも“王妃”と名乗り、周囲もそう認識している。
「どっちがアルマにドレスの依頼したのか分かんないんだけど!?」
手紙には名前は無かった。
というか、名前のない依頼なんて受けるべきではないが、王家の紋章の入ったシーリングなど偽造できるわけがない為、無下にも出来ない。
面倒にも程がある。
「うーむ…流石にそこは私が聞いたとてアルマの名は出んはず。ステラ侍女長か王妃達直属の侍女あたりなら知っているはずだ。そちらに聞いてみた方が早いやもしれんな」
「確かに…」
王妃に直接聞くより難易度は低い。ひとまずやってみる事になった。
話は終わった、と踵を返すと同時にフレイザーの部屋にノック音が響いた。
フレイザーが返事をすると、シュンはすかさず侍女の顔を作り、フレイザーの代わりに扉を開けノックの主を出迎えた。
「!?」
入室してきた人物の顔を見るや、表情が崩れそうになったがなんとかポーカーフェイスを保ちその人物を中へと招き入れた。
「……見たことないお嬢さんっすね」
「クーか。あぁ、クリスの侍女候補の娘だ」
身体能力チートのクーであった。
何やってんだこいつ!?と思うが、今、アスベルはこの国の学校に留学に来ている。
王族であるため、留学期間内はこの城に滞在していてもおかしくない。
そして護衛のクーも勿論滞在中だ。
「殿下達も戻ったのか?」
「はい。三人で剣術の稽古してるっすよ」
殿下達、とはアスベルとこの国の王子二人の事だ。
因みに第一王子がクリスの婚約者である。
(それにしても、気づかないものだなぁ…)
間近で顔を見たにも拘わらず、クーはシュンをスルーした。
その事に、フレイザーもニヤニヤと笑みを浮かべている。
「…閣下?」
いつもと違う様子のフレイザーに首を傾げるクー。
フレイザーはちらりとシュターナへ視線をやった。
あの少女が何だと言うのか、と疑問符を浮かべながら振り返ろうとしたその瞬間。
「うを!?」
カクンと膝が折れた。
所謂膝カックンと言うやつだ。
「ぶふー!あっさりやられてやんの!」
犯人は勿論、シュンだ。
「はぁ!?」
見知らぬ少女からの突然の膝カックン。
しかし、その声には十分聞き覚えがあった。
「シュン!?」
「当たり」
「何やってんすか!?」
金髪碧眼の少女が、よもや凶暴な魔法使いチートとは誰も思うまい。
クーの驚き具合にフレイザーも楽しそうである。
フレイザーが来ていると聞いたクーは、挨拶と言う名のおしゃべりに部屋へとやってきたのだと言う。
クーにも事情を説明し、邪魔しないよう(アスベルに首を突っ込ませないよう)言い含めると、クーは思案顔で唸った。
「話は変わるんすけど、学校に変な女の子がいるんすよねー」
「大きく変わったなおい。何が変なの?」
クーはクーでアスベルの周囲で起きた出来事を誰かに相談したかったのだと言う。
特に危険な事はないのだが、一人やたらと視線を送ってくる少女がいると言う。
アスベルが王子様だからと言うこともあると思うのだが、先日ついに「もうすぐだね!」とクーがいない時を見計らいアスベルにそう言ったのだと言う。
「…何とも不気味だな…」
「呪いか何かかけられでもしたの?もうすぐそれが発動するとか?」
「いやー…わかんねぇっす。だから誰かに聞いて欲しくて…」
フレイザーの元を訪れたのもその相談がしたかったのだと言う。
魔力が全くないクーには、魔法がかけられようとも呪われようともそれを調べることもましてや解くこともできない。
フレイザーならば配下にそれらに詳しい者がいてもおかしくない。
「でもシュンが居るなら手っ取り早いっすね」
「まぁ、見る分には離れた所からでもできるし。見てみるよ」
それから直ぐにアスベルとロザリール国の王子達が剣の稽古をしていると言う鍛錬場が見える廊下へとやってきた。
周囲には見目麗しい王子達を見学しようと、通りすがりを装った侍女達が居るためシュターナが紛れても違和感はない。
「…特に何の反応もないなぁ…」
「え、本当っすか?」
魔力感知で見てみるが特に反応は無い。
「…三人ともそこそこ魔力あるね。王族だからかな?」
三人の王子の魔力はむしろ平均値より上であるが、普段見ている魔力が化け物揃いなので“そこそこ”という評価となった。
とにかくアスベルにも他の王子にも変な魔法も呪いもかかっていない事は確かである。
「…余計に怖くなったね…」
「…本当に…」
何がもう直ぐなのか、二人はただただアスベルの無事を祈った…。
その日の夜、一部の不寝番を除き、寝静まった城内をシュンは気配を消し一人歩いていた。
目指すは厨房である。
ケーキは厨房のある方からやってきた。
どこかの職人に作らせて、厨房で保管していたかもしれないし、厨房の料理人が作ったかもしれない。
もしかしたら毒の痕跡も残っているかもしれないと考え、厨房にやってきたのだがどうやら先客がいるようだ。
「シュンか?」
「?!」
知らない男の声でいきなり本名を呼ばれ、シュンの肩がビクついた。
「…貴方は?」
「あぁ、驚かせたか?すまない。リフレイクと言う」
気持ちばかりの光の魔法で自身を照らしたリフレイク。
その横にはもう一人女がいた。
「閣下より話は聞いています。アンと言います」
「あぁ、二人が閣下が言っていた」
執事姿のリフレイクと侍女姿のアン。
二人も毒の痕跡がないか厨房を調べに来ていた。
「…その様子では何も無かったみたいだね」
頷く二人に、場所を変えて話そうと、移動魔法でシュンの部屋へ移動した。
「二人が気づいた異変について聞きたいんだけど、いい?」
「勿論」
「閣下より協力するように賜ってます」
まず、二人の王妃が寝ている間に襲われたこと。
これはリフレイクとアンが不審者の侵入を察知し、始末したと言う。
「え、始末って?二人の仕事の役割って何?」
「普段は執事と侍女として。有事の際は王族を守る盾として剣として働きます」
なお、この事を知っているのはフレイザーの他には王様と二人の王妃だけらしい。
次に、三人の側室が次々に体調を崩したという。
「待って。王妃二人居るのに側室三人?むしろ何で王妃が二人?」
「本来側室は作らず王妃二人のみを据えるはずだったが、国王様が侍女達をお手付きにしてしまってな。これ以上王妃を増やすわけにもいかんので、側室としたのだ」
二人の王妃はすこぶる仲が良い。
その為派閥争いや女の戦いなど起きたこともなく、寧ろ二人で行う政策などは素晴らしい結果をもたらすと言う。
「侍女に手を出すとか…王様マジかよ」
「ついでに言えば現在進行形で四人めのお手付きが」
「居るのかよ。最低だな」
昼間に二人の王妃が誉め殺しあいをしている時に、何となく思った“王様の相手をしたくない”というのはこう言ったこともあり、腹を立てて本当に相手をしたくなかったのかもしれないと思えてくる。
「それで、体調を崩したっていうのは?」
「本当に少し気分が優れないとか、目眩がするとかそう言った類で寝込むほどでもなく、たまたま三人が同時期に具合が悪くなった程度です。ですが念の為私とリフレイクで調べると、毎日極々僅かな毒を飲まされていました」
「!?…もしかして魔法で作った毒?」
「はい」
その事はフレイザーにしか報告しておらず、フレイザーも直ぐに殺しが起きるとは思っておらず、一先ず犯人が逃げぬように騒ぎ立てず、犯人を特定し証拠を集めようとしているという。
その直後のシュンからの依頼で、なんなら巻き込んでしまえと城へ送り込んだのだ。
側室等の口に入るものは逐一アンが魔法で確認していたのだが、今日、遂に二人の王妃にも毒が盛られたと聞いて気が気では無かったというリフレイク。
二人に万が一のことがあれば、王城が荒れるだろう事は想像に容易い。
側室達の次期王妃争奪戦が始まるのだ。
二人の王妃は争う事などまずないが、側室達は違う。
今でさえ側室同士で火花を散らしあい、二人の王妃におべっかを使い第三の王妃の座の樹立を狙っている。
「二人の王妃に三人の側室…ねぇ…」
シュンの中にはある仮説が浮かんだ。
「犯人て、もしかしたら…」
その仮説を二人に話すと、驚いてはいたが納得したように頷いた。
「!?」
「そうか…毒でじわじわ侵しながら、感染する病か何かだと思わせれば…」
「側室達の後から、同じ病にかかったのだと王妃様方が死んでも怪しまれないし、王妃様方は余った菓子などを侍女達に分け与えているから、菓子全てに毒を仕込んでおけば感染したのだと思われるだけだし、誰が本当に狙われたかなど分からない…」
「そうすると今のところ、容疑者は四人だね」
シュンがニヤリと笑いそう言うと、リフレイクとアンも頷いた。
「明日からは周囲を探ります」
「そうだな。立場的に俺よりアンの方が動きやすいだろう。俺はまた刺客が入り込んでないか注意しておく」
「じゃぁ、私は引き続き試験を頑張るって事で」
下手に動いて怪しまれるわけにはいかない為、昼間は普通に過ごすことにした。




