39
侍女生活一日目。
本来の主人(設定)に当たるクリスは学校のため、フレイザーに伴われシュン、改めシュターナは王城へと足を踏み入れた。
その見た目は金髪碧眼と、いつものシュンとはかけ離れた容姿となっており、うっかり知り合いに出会っても気づかれることはないだろう。
そもそも、王城に知り合いなど居ないが。
侍女長や執事長と面会したあと、フレイザーをサロンに残し三日間寝起きすることになる部屋がある侍女棟へと先輩侍女から案内を受ける。
城内の侍女では最年少の十二歳となるシュターナを先輩侍女のアラルは心配気に見ていた。
侍女長の試験はとても難しく、僅かなミスが命取りになるという。
基本の姿勢や歩き方から、お茶の淹れ方、掃除洗濯の仕方、全てにおいて完璧を求める侍女長の手腕はまさに神業であると評判だ。
「それは凄いですね。緊張してきました」
少しは学んできたが中身はしがない子供であると印象づけるため、シュターナはぷるぷると僅かに震える演技をしてみせる。
「あら、ごめんなさい!怖がらせるつもりじゃなかったのよ?でもその歳で次期王太子妃様の侍女候補になったのだから、完璧にこなせなくとも将来性を買ってもらえれば十分よ!」
「はい!頑張ります!」
一先ず荷物を置き、支給された濃紺色のワンピースに真っ白なエプロンドレスという侍女の制服に袖を通して、髪は邪魔にならないように一つにまとめてお団子にする。
身嗜みを整え再びアラルに連れられ侍女長や執事長、フレイザーの待つサロンへと向かった。
案内を終えたアラルは、頑張ってねと意味を込めて軽くウィンクをすると自身の仕事へと戻っていった。
「…」
値踏みをするような視線。
試験はもう始まっている。
「では手始めにこちらに来て、大公閣下にお茶をお淹れして差し上げて」
「畏まりました」
スカートの裾をちょんと持ち上げ、令嬢と見間違うほどの礼を見せれば、侍女長ステラと執事長トロントから、感心の声が漏れた。
前に歩み寄る足運びも埃を立てるようなものではなく、その辺の子供のようにバタバタとしたものでもない。
静かにそっと、しかし、素早くティーセットへと向かった。
「…恐れ入りますが、ステラ侍女長」
「…如何しました?」
「お湯が冷めすぎておりますので、厨房にて温め直してきても宜しいですか?」
お湯の入ったポットの取っ手を握っただけでは温度の違いは熟練の者でも中々気づく事は出来ない。
しかし、シュターナが見たのはそこではない。
「…なぜお湯が冷めていると?」
「湯気です。紅茶には適した温度がございます。湯気が余りにも少ないのは冷めている証拠です。…あ、申し訳ございません!」
「?」
シュターナの回答はステラが望んだ完璧な答えであったにも拘わらず、シュターナは一歩下がり謝罪を口にした。
その相手はフレイザーである。
「シュターナ、如何した?」
普段見ないシュンの様子にフレイザーは笑いたいのを堪え、心配のそぶりを見せる。
「慣れない場所とは言え、私の支度が遅いばかりにお湯が冷めて…」
と全くもって見当違いな答えを返した。
試験のため、お湯は前もって冷ましてあり、フレイザーにもその旨を伝えてあった為、冷めていて当然なのだ。
それを自身のせいだと、シュターナは謝罪した。
(成る程、そういう設定でいくのか)
ひたむきで真面目な、普段の飄々とした性格とは全く別のキャラクターを演じるようだ。
それはそれで面白い、とフレイザーは片手でシュターナの更なる謝罪を止めてステラに事の真相を話すように指示した。
「シュターナ、お湯は予め冷ましておいたものです。それをあなたがきちんと気づくことができるかどうかという試験なのですよ」
「!」
初歩の初歩は合格である、とステラはうなずいた。
それから礼の仕方や姿勢、歩き方も素晴らしかったと執事長のトロントも褒めてくれた。
「さて、シュターナ、すまないが試験とは関係なくお茶を淹れてくれないか。できればグイッと飲める冷たいモノがいい」
「!?」
喉が渇いてしまったというフレイザー。
勿論シュターナがやってくる直前まではきちんとしたおもてなしをしていたし、紅茶に口もつけていた。
相手は大事なお客様であり、粗相があってはならないとステラが自分が用意すると申し出るがフレイザーは問題ないとそれをやんわり断った。
「…しかし、閣下…いきなり冷たいお茶とは…」
「いや、なに…シュターナなら問題なかろう」
「?」
シュターナはたしかにフレイザーが連れてきた少女である。
遠い親戚という事であるが、それにしても問題がある。
冷たいお茶は一度お湯を沸かし、紅茶を淹れた後に冷まさなければならない。
それを今ここで作れとは、試験より難しい課題である。
「あれを使っても構わないよ」
「!…承知いたしました」
あれとは?とステラとトロントは顔を見合わせた。
シュターナは冷めたお湯の入ったポットの中身を少しだけトレーに零すと、その水が乾かないうちにサッと魔法陣を二種類描いた。
「魔法の陣!?」
次にポットを右の魔法陣に翳すと、冷めたお湯は一瞬にして湯気立ち上る温かいお湯へと変化した。
「魔法!?」
手早くティーストレーナーに茶葉をセットして、そのままポットに入れる。
三、四分程後ティーストレーナーを回収し、今度は左の魔法陣へとポットを翳した。
立ち上る湯気はあっという間に消え去り、ポットの表面が結露しだした。
あとはカップに紅茶を注ぎ、砂糖を二つとミルクを少しいれれば出来上がりである。
「お待たせいたしました」
シュターナはそっとフレイザーの前によく冷えた紅茶を差し出した。
アーリッシュ家の侍女長に一日中くっついていたため、フレイザーの好みも覚えてしまったのだ。
フレイザーは満足そうに頷き、紅茶を一気に飲み干した。
「うむ、美味い」
「恐れ入ります」
「…貴女、魔法が使えるのですか?」
驚いたようにステラが問えば、シュターナは少しだけ、と頷いた。
まぁ、実際は少しなんて可愛らしいものではないが…。
「魔法が使えるのはダメな事でしょうか」
心配気にステラとトロントを見ると、問題ないと頷いてくれた。
生活魔法以外で、本来身を守ったり攻撃したりする氷や熱の魔法を、このように生活に活かす使い方が珍しく驚いていたのだ。
「宜しければ、ステラ侍女長とトロント執事長もこちらを…」
味見をしてみてくれと差し出された、冷たい紅茶が注がれたティーカップ。
フレイザーが頷き許可すると、二人はティーカップを手に取り口をつけた。
「!これは」
「美味しい!」
これまでのアイスティーとはまるで違う、芳醇で透明感のあるものであった。
「いつもと全然違いますわ!一体どうして?」
大公閣下の前だと言うのに興奮と興味、そして好奇心で目を輝かせたステラは嬉々としてシュターナを見た。
「はい、普段は温かい紅茶を冷ましていたと思うのですが、その冷ましている間に香りが逃げてしまっているのです。なので魔法で急激に冷やすことによって香りを閉じ込めたのです。より口当たりを良くするのであれば、温かいうちに一度茶漉しでこして頂ければより透明感も増しますし、氷がご用意できれば二倍の濃さで紅茶を作り、透明のグラスに注いで頂ければ暑い日など見た目でも涼しく演出する事ができます」
「ほぉ…」
「成る程…」
スラスラと説明するシュターナに、思わず感心の声を上げるステラとトロントを内心では可笑しく思いながらフレイザーは聞いていた。
まさに目からウロコなのだろう。
孫ほども年の離れている小娘の言葉に耳を傾けているのは、完璧と謳われた二人がまだまだ学ぶことがあるのだと痛感しているようにも見える。
「時間は大丈夫なのかね?」
「はっ!?」
真剣にシュターナの紅茶講義に耳を傾けていた二人ではあるが、これが試験中だという事をすっかり失念していた様子である。
フレイザーの一言に正気に戻ったのか、ステラは一つコホンと咳払いをし侍女長の顔に戻った。
「一先ず振る舞いに関しては問題は無いようですね。では次は客室を掃除してもらいます」
「私が今晩泊まる部屋だ。頼むよ」
「承知致しました」
フレイザーも泊まるとは、暇なのかこの人は、とは口にせず、礼を以て返答とした。
フレイザーとフレイザーの接待役にトロントをその場に残し、案内された客室は一見綺麗に整えているが、可笑しな箇所がいくつかあった。
統一性のない家具や僅かに皺の寄ったベッドカバー、窓が締め切られているため淀んだ空気。
ふむ、と一つ頷きシュターナはとある提案をした。
「あの家具とセットの物、もしくは似たようなものはありますでしょうか?」
「え?えぇ」
シュターナが目をつけたのは深いグリーンの生地に金の糸で刺繍がしてあったカウチで、枠は濃い木製、細かな細工もしてある。
カーテンも濃いグリーンであった為、グリーンで統一するつもりである。
「グリーンは目に優しい色合いなので、普段書類に追われていらっしゃるフレイザー大公閣下にはリラックスしていただけると思いまして」
「…宜しいですわ。では運び込ませましょう」
どこで待機していたのか、ステラが一つ手を叩くと他の侍女や執事達がズラリと現れてシュターナの指示通り椅子やテーブル、ソファなどの色が目立つ家具が運び出されていく。
その中にはあの先輩侍女のアラルもおり、小さく手を振ってくれた。
クローゼットやベッドなどの木製の物はそのままにし、シュターナも運ぶのを手伝いながら、家具が保管されている部屋へと向かった。
ダンスホール並みの大広間に、様々な家具が整頓された状態で保管されていた。
その中から同じグリーンのお揃いの家具を見つけ、今度はそれを運び込んでもらう。
細かな指示通りに並べていく執事や侍女たちの優秀さが伝わってくる。
「…無駄な所作が全くないなんて…王家の使用人の方々は凄いのですね…」
シュターナは純粋に感動していた。
自分の侍女としての動きは魔法で得たものであり、ある意味パクリである。
しかし彼ら彼女らは自身の努力にて身につけた技術なのだ。
もはや職人と言っても過言ではないだろう。
一人言のように呟いたシュターナの言葉は、すぐ隣に居たステラにしか聞こえなかったがステラもまた感心していた。
驕らず素直に他人の技術を褒めることができる人間は多くはない。
王家の侍女の半分は行儀見習いとしてやってきた令嬢だ。
初めはみんな自分なら出来ると思っているし、できなくとも誰かにやらせればいいと考える娘ばかりである。
フレイザーの親戚ともなれば平民が多いだろうが、立ち振る舞いからどこぞの令嬢ではないかとステラは考えていた。
それ故に純粋に人を褒める言葉と眼差しに少し驚いたのだ。
家具を設置した後、執事や侍女達が去り、再び部屋にはステラとシュターナだけとなった。
ステラは何も言わずにシュターナがどうするのかを見ている。
「早速取り掛からせていただきます!」
シュターナは気合を入れるように、腕まくりをする仕草をし、全ての窓を全開にしてまずはハタキから手に取った。
フレイザー自身、あまり広い部屋が好きではないという事もあり、比較的狭い部屋なのだがそれでも二十畳はあり、更にベッドルームは別な上に簡易キッチンとバスルームとレストルームもある。
いつもならば何人かで清掃するのであろうが、今回は試験ということでシュターナ一人でしないといけない。
その小さな身体でどこまでできるか、ステラはこの掃除に関してはあまり期待はしていなかった。
が、手慣れたように脚立を登りシャンデリアやクローゼットなどの高いところの埃を落とし、壁を拭き、家具を拭き、ベッドメイクを行い床を磨いた。
凄まじいスピードでキッチンやレストルームも完璧に仕上げたシュターナに、ステラが幻でも見ているのかと目を擦っているとシュターナはなにかを思い出したかのように、ハタキの持ち手に雑巾を巻きつけクローゼットの奥に突っ込んだ。
「なにをしているのです?」
床に跪き、クローゼットの奥に必死に手を伸ばしているシュターナにステラは疑問符を浮かべた。
何事かごそごそとしていると、漸く手を抜き、ハタキの持ち手に巻いた雑巾をステラに見せた。
「こんなに埃が溜まってました!」
「!!?」
それはあってはならない事であった。
清掃の際は家具一つ一つを退かし、その裏に溜まった埃も隅々まで取らなければならないと教えてきたはずなのだ。
それがこんなに溜まっていたとあっては、王室使用人の名折れである。
掃除は普段魔法でチョチョイのチョイと終わらせ手作業でやることはない為、見る見る険しくなるステラの表情にシュターナな自分が何かやらかしたのだと思い、咄嗟に謝罪を口にした。
「申し訳ございません!」
「え?」
いきなりの謝罪に、ステラは呆気にとられてしまった。
シュターナに落ち度はないのだから、当然である。
「先程執事の皆様や侍女の皆様がいらっしゃった時に、どかしてもらい、先に拭き上げるべきでした!それをこのような手抜きの真似をしてしまい、申し訳ございません!」
言われてすぐ、それもそうだと思ったが、それを知識と工夫でなんとかしようとしたのは褒めるべきである。
そもそも前提として一人で掃除するような場所ではないし、精々ベッドメイクと家具の拭きあげ、床掃除がまともにできれば合格域で、勿論後からきちんと別の侍女達に掃除させるつもりだったのだ。
「いいえ、寧ろお礼を言わなくてはなりませんね」
「!?」
「本来こんなにも埃が溜まっていて良い部屋ではないのですから。後から担当の者をこってりと絞りあげましょう」
「…」(怖っ!!)
和かに微笑んでいるはずのステラの背後から般若のような幻が見えたのは、目の錯覚と思いたい。
掃除を終えてフレイザーとトロントの待つサロンへと戻れば、見たことのない美女が一人増えていた。
美しいプラチナブロンドにエメラルドの瞳、上品なドレスを身に纏った、見るからにお姫様であった。
「これは王妃殿下」
ステラが礼をし通常よりも頭を低く下げた。
(この人が王妃!!こんなにあっさり会えるの!?)
ステラに倣い、シュターナも礼を返せば王妃と呼ばれた女性はにっこりと笑い
「試験中にいきなりお邪魔してごめんなさいね。フレイザー閣下がいらっしゃっているとお聞きしてご挨拶に伺いました」
「いいえ、滅相もございません」
温厚な口調に温厚な仕草。
こんな物腰柔らかな女性が王妃なのか、と疑わずにはいられない。
「貴女がシュターナね。私は第一王妃レミーエ・エトランゼ。トロントから話は聞きましたよ。とても美味しいアイスティーを淹れるとか」
「恐れ入ります」
「私にも淹れて下さるかしら?」
「!?」(いきなり王妃様にお茶って出して良いものなの!?)
判断がつかずステラを見れば、力強く頷いて見せた。
(これは、やれってことで良いのかな…)
フレイザーに淹れたお茶の残りを使うわけには行かないため、道具一式新しいものを用意するということで、案内も兼ねて厨房へと向かった。
その道すがら、ワゴンを押す侍女と一人の女性と対面した。
ステラはすかさず廊下の端によると、レミーエにした時同様頭を低く下げた礼を取った。
その横ではシュターナも同じように礼をする。
(側室ってやつかな?)
「ステラ」
「はい、ラテファリア様。如何なさいましたか?」
「その者がクリスの侍女候補ですか?」
真っ直ぐと芯の通った声は、思わず背筋が伸びる程の迫力がある。
このラテファリアという女性の方が余程王妃らしいと、シュターナは感じた。
「シュターナと申します」
礼を続けていれば顔を上げろと許可が出た。
頭を下げる直前にも思ったが、恐ろしい迄に美しい女性である。
「第二王妃のラテファリア・エトランゼです。先程、フレイザー閣下にご挨拶にお伺いしたところ、貴女の淹れるアイスティーを勧められましたわ。今から私にも淹れて頂けるかしら?」
アイスティー大評判だなおい、と思っていたが、これからレミーエの紅茶を淹れる約束をしているのだ。
それを今からと言われても困る。
ステラを見ると、ジッとシュターナを見ていた。
(これはアレだな。試験だな…)
ここでどのように返すのが適切か見るのであろう。
ならば正直に言うしかない。
「恐れながら申し上げます。つい先程、レミーエ王妃殿下とフレイザー大公閣下にこれからアイスティーをご用意するよう申し付けられております」
この芯の強そうな女性からどの様な叱咤が有るかと思いきや。
「あら、そう。なら仕方ないわね」
とあっさり引いた。
「なら、私もサロンで待っているので、私の分も用意なさい」
「それならば勿論喜んで」
「あぁ、それから、菓子類は不要よ。私が用意致しましたわ」
ラテファリアの視線の先にはワゴンに載った何か。
中身はクロッシェで隠れて分からない。
「承知いたしました」
なので、そう返すしかないのだ。
ラテファリアを見送った後、厨房へ向かい、せっかくなのでアイスティーを存分に堪能してもらおうと、ガラスのポットと入れ替え用のポット、ガラスのタンブラーに、水、ボウル、そして、りんごのフレーバーティー。
「フレイザー閣下は二度目なので違う風味が宜しいかと思いまして」
「えぇ、宜しいと思いますよ」
ワゴンに道具と材料一式を載せて、サロンへと戻った。
ポットで先程の二倍の茶葉にお湯を注ぎ、蒸している間にボウルに水を入れ、魔法陣を描いてサイコロ状の氷にする。
タンブラーにこれでもかと氷を入れたあと、蒸された紅茶を一度茶こしでこしながらガラスのポットへと移す。
そして今度は温かい状態でタンブラーへと注いだ。
温かい紅茶を出来るだけ氷に触れさせながら注ぐと、マドラーで数回掻き回し結露で手が濡れないようにナプキンでタンブラーの胴を包み、コースターと共に配膳を行った。
シュターナがアイスティーを淹れている間に、ラテファリアの用意したクロッシェの中の物、ホールケーキが切り分けられていた。
「!…あの私の分もあるのですか?」
なんともフレンドリーな事か。
フレイザー、レミーエ、ラテファリアだけでなく、トロント、ステラ、ラテファリアの侍女、そしてシュターナの分まで切り分けられていた。
勿論この場で食べられるわけではない。
仕事終わりのおやつと言ったところだ。
が、そのケーキの違和感に気づいてしまった。
(魔力感知の魔法が反応してる!?)
シュターナの目には、今そのケーキは悍ましい紫色に染まっていた。
(!!?毒!?)
切り分けた侍女を見るが、ケーキが楽しみなのかチラチラと自分のケーキを嬉しそうに見ている。
では、とラテファリアを見ると、紅茶に舌鼓を打ち、レミーエ、フレイザー共々今正に口に運ぼうとしていた。
(まずい!!)
シュターナは咄嗟にアクションなしの解毒魔法を使った。
魔法が部屋に広がりケーキが解毒されるのと同時に、ラテファリアとレミーエの口にクリームが入っていった。
フレイザーは、その一瞬のシュターナの反応を見逃さなかった。
視線だけで周囲を確認し、口もとで止めていたフォークを口の中へと運んだ。
「いやはや、流石はラテファリア様。貴女の選ばれるものはいつもハズレがない」
「本当に!この前のマカロンもとても美味しかったわ」
「このくらい当たり前です」
ツンとした態度ではあるが、ラテファリアは嬉しそうに頬を赤らめている。
第一王妃と第二王妃では血で血を洗う女同士の骨肉の争いがあるのかと思っていたが、なんとも仲が良さそうである。
(二人とも戸惑いなくケーキを口にした。どちらかがどちらかを殺そうとしたわけではないのか?)
その後も、見事にケーキとアイスティーは完食された。
そして二人の王妃から過分な褒め言葉を貰い、挙句なぜか頭を撫でられた。
「一人くらい娘が欲しいですわね。クリスがお嫁に来るのが楽しみですわね」
「ラテファリア様、陛下とお楽しみになられては?」
「第一王妃を差し置いてそれはできません」
「いえいえ、私の事など虫とでも思ってくださいませ!貴方程の魅力ある体型ではありませんもの」
「そのような事はありません!レミーエ様のその包容力は他の誰にも負けませんわ!」
(…なんだこの誉め殺し合戦…。間違って解釈すればどっちも国王様の相手をしたくないって言ってるみたいだぞ…そして、私を挟んでの言い合いはやめてくれ…)
エクシャやミラルダのように乳を鷲掴んで止めることもできず、結局二人が満足するまで誉め殺し合戦を静観する事となった。
(フレイザー閣下!止めろよ!)




