37
「国境戦!?」
「といっても相手は魔物。隣国でも突然の魔物の大量出現に手を焼いているみたいです」
グレンとニノが故郷、ルーズランス国に帰国したその直後、レイナードにより話があると騎士団の団長室へ呼びつけられた。
二人を急遽呼び戻した原因だと話すレイナードによれば、ルーズランス国と隣国であるルーワイヤ国の国境付近で大量の魔物が出現したと言う。
それを討伐するために一人でも多くの戦力を必要とした為だった。
ルーワイヤ国側も兵士の殆どを動員し対処に当たっており、ルーズランス国の殆どの兵士たちもそちら向かってしまっていると言う。
「なら!シュンちゃん達の力を借りれば!」
「確かに!シュンとシンの魔法なら一気に片がつく!」
確かにそうすればあっという間に事は済む。
しかし、レイナードは首を縦に振らなかった。
「そうなると、兵の価値とは一体?」
「!?」
その問いに、二人はハッとした。
戦争するだけが兵士の役目ではない。
魔物や悪漢から民を守るのも兵士の務めであり、いざという時に、国の人間以外に頼っていては民からの信頼はなくなってしまうのだ。
「そう、ですね…」
「失言でした」
二人が理解したと分かると一つ頷き、話を戻した。
「ウォルトが隊を率いて既に向かっています。我々も直ぐに合流するので、戻ってきて直ぐではありますが、用意を」
「はっ!」
物腰柔らかな口調ではあるが、その視線は流石兵士の頂点に立つ男。
鋭く有無を言わさぬそれに、二人は反射的に騎士の礼を取った。
そして、直ぐに出発の準備に取り掛かったのだ。
「騎士を辞めて廃城に戻るって言いそびれたな」
「そうだね。でも、この件が終わってからでも良いよ。最後に故郷を守って退職ってね」
「死亡フラグみたいだな」
「そんな言い方、やめてくれない!?」
軽口を叩きながらも器用に鎧を身に纏うその手捌きは慣れたもので、一切の迷いがない。
しかし、剣を腰に挿し、兜を身につけると若干の違和感を感じてしまった。
「シュンちゃんのコートの方が軽い上に防御力も高いからなんか変な感じ」
「…だな。一応持っていくか?」
荷物から取り出したのはシュンが魔法で作った黒いブリッシュコート。
ニノはグレンが取り出したそのコートを見て、少し考えた後急いで身につけたばかりの鎧を脱ぎ捨てた。
「ニノ?」
「このコート、鎧の下に着たら防御力上がると思って!」
「はっ!?天才か!?」
「もっと褒めて!」
「止めとく!っていうか、罵られる方が好きなんだろ!?」
「褒められるのも好き!」
どちらにせよこれ以上ニノを図に乗らせるものかとグレンは口を閉じ、自分も急いで鎧を脱ぎコートを纏いその上からまた鎧を身に纏い直した。
急いで厩へと向かえば既にレイナードと馬丁が三頭の馬に鞍などを装着させ、準備は万端の状態であった。
「申し訳ありません!」
「遅くなりました!」
「時が惜しいです。急ぎましょう」
一度鎧を脱ぎ、また着直したせいでその分時間がかかったのだが、遅刻に触れる事なくレイナードは馬に跨る。
それに倣い、二人も馬に乗るとレイナードに続いて走り出した。
ルーズランス国とルーワイヤ国は同盟国ではない。
かと言って敵国でもない。
遥か昔ルーズランス国から独立し、観光に特化した国となったのがルーワイヤ国である。
独立以前はルーズランス国のルーワイヤ地方と呼ばれ、砂漠とオアシスと海と言う珍しい組み合わせから他国からの観光客も多く、財政の殆どを担っている土地であった。
ルーズランス国はそれに胡座をかき、他の食料や民芸品、技術の発展を疎かにしたせいで、ルーワイヤ地方の税ばかりが増えていき、腹に据え兼ねたルーワイヤ地方の領主達が署名を集め独立宣言を行った。
一定数の署名と周辺諸国の五カ国の容認があれば、国王の意思を無視し一領が国へとなる事が出来る。
近年ではフレイザーの祖国、ロザリール国が周辺諸国から賛同を得て公国から大国へと名を変えている。
閑話休題。
とにかく、ルーズランス国とルーワイヤ国は同盟国でもなく敵国でもない。
長年の時間経過で当時の遺恨は既に無くなっているが、法律は無くなってはいない。
“如何なる理由があろうとも、許可なく互いの国の民が国境を行き来する事は許されない”
つまり目の前まで魔物が押し寄せてきており、尚且つ直ぐ側に町があったとしても、国境を越え討伐する事は出来ないのだ。
そう、数百を超える魔物の群れが直ぐ目の前に来ていたとしても。
「目測三キロといったところか」
双眼鏡を覗き込むルーズランス国騎士団副団長のウォルトの額からは、緊張からか暑さからかはたまた両方からか、無数の汗の玉が流れ落ちた。
眼前には広大な砂漠が広がっている。
障害物など無い為、三キロ先から此方へと突進してくる魔物たちの巻き上げる砂埃もはっきりと見えた。
魔物の群れが現れたのは二日前。
ルーワイヤ国の中央部から、真っ直ぐルーズランス国へと向かっていると、出現から約一日経った後に、ルーワイヤ国の正式な使者がルーワイヤ国王の使いとしてやってきた。
ならば直ぐに防衛をと出立したが、国境を越える許可が下りるのは早くとも魔物出現から三日目の朝だと言う。
その為まだ、国境を越えることができず、徐々に迫ってくる危機をなんとかしたくとも出来ずにただ砂埃を見ているだけの状態であった。
ルーワイヤ国からの使者に国境を越える許可を求める書状を持たせ、帰らせた。
そして許可書を持って戻ってくるのが明日の朝だ。
間に合わないのは目に見えている為、国境を越えた魔物から順に打ち取っていくしか無いのだ。
「歯痒いな!!」
苛立ちを隠しきれず、鞘に収まった自身の得物である大剣をドンっと地面に叩きつけようとするウォルトだが、砂漠のど真ん中のためザクッと砂の中に埋まるだけであった。
「ウォルト副団長!レイナード団長達が到着した!」
「うむ!間に合ったか!!」
騎士団でもレイナードとウォルトを除けば一位二位を争う強さを誇るグレンとニノの到着に、僅かながらに期待の空気が広がる。
「間に合いましたか」
「あぁ!ギリギリだがな」
遠目であるにも拘わらず砂埃からして尋常じゃない数である魔物に、グレンとニノは顔を引きつらせた。
「ルーワイヤ国の兵士達は?」
彼らも奮戦しているとの事であるが、国境線の先で戦っている様子はない。
「…魔物が此方の国へと方向転換したと知るや否や、撤退した」
「!!?」
「まじかよ…」
あとは任せた、と言うことである。
ルーワイヤ国側にも多数の犠牲者が出たようであるが、それでも運の良い事に町や村といった民の住む集落は進行方向に無かったため、犠牲者は兵士達だけであった。
しかし、ルーズランス国はそうはいかない。
砂漠の直ぐ向こうには小さなオアシスがあり、それを取り囲むように小さな町がある。
避難は完了しているが、あの数の魔物が国内を蹂躙すれば国は壊滅的被害を受ける事になる。
それだけは避けねばならない。
「聞け!勇敢なる戦士達よ!我らはこの国の剣であり盾である!迫り来る脅威に剣となり立ち向かい、背後にいる愛する恋人や友人、そして家族を守る盾である!我ら無くして国の安全は無い!我らは国の砦なのだ!国を守れ!愛する者を守れ!ここを突破されれば愛する者達が失われると思え!!敵に我らが剣を食らわせてやろうぞ!!!」
「うおぉぉぉ!!!!」
「おおおぉぉぉぉ!!!!」
「敵を蹴散らせぇ!」
「敵を屠れぇ!」
その瞬間、先頭を行く魔物が国境を越えた。
「突撃ぃーーー!!!」
レイナードの鼓舞により士気を高め、ウォルトの合図で兵士は一斉に駆け出した。
片っ端から魔物を斬っては捨てを繰り返した。
魔法が使える者達は、武器に魔法を纏わせ数体一気に斬り伏せ、兵士になって間もない者達は数人で確実に一体を仕留めると言うチームプレイを見せている。
さすがと言うべきか、レイナードとウォルト、そしてグレンとニノはまさに格が違った。
魔法も纏わせず一振りで三体、四体と一気に斬り、タイミングが合った“ここ”と言うところで魔法を駆使し、十体前後をあっという間に倒していった。
戦いが始まってどれほど経っただろうか。
「!?」
レイナードは違和感を覚えた。
レイナードだけでは無い。
ウォルトやグレン、ニノや他の兵士もその違和感は直ぐに感じ取れた。
(足場が、走りやすい!?)
ここは砂漠である。
訓練を積んでいるとは言え、足運びが通常より異なることは明らかであるはずなのだが、なぜか踏み固められた地面の上を走っているような感覚である。
敵を目の前に危ない行為だとは思うがつい、足元を見た。
「!?なに、これ!!?」
そこは砂漠などではなく、踏み固められた地面へと姿を変えていた。
「どう言う事です!?」
「分からん!」
突然の変化に戸惑っていると、レイナードに魔物の影が差し掛かった。
しかし、一切慌てることなく目もくれず一刀両断にする。
一匹の胴が切り離されると次が襲ってくる。
足場については不利などではなく、寧ろ有利に働いているため考える事は後回しにし、目の前の魔物に集中する事にした。
他の者も同じ考えなのか皆一様に戦いに集中している。
違和感を覚えた直後、ルーワイヤ側の魔物の群れを横一線に薙ぎ払うように風の魔法が襲った。
一瞬にして数十体の魔物が消し飛んだ。
「今度はなんだ!?」
ウォルトが周囲を見回すと空に一人の人影を確認した。
黒いコートをはためかせた男であり、見覚えのある者であった。
「お前は!?」
「黙れ。チョコの木を燃やした事まだ許してないぞ」
シンであった。
「まだ怒っているのか…」
随分と根に持っているな、と苦笑いを零しながら魔物を切り裂いていく。
「ルーズランス国の兵士に告ぐ。我ら黒の一団はギルドより依頼で参戦する事になった。お前達の獲物を横取りするようで悪いが、こっちも仕事だ。文句はギルドに言え」
決して声を張り上げているわけではないが、魔法によりシンの声はその場にいたルーズランス国の兵士へと伝わった。
「シンくぅーーーん!!」
「煩い。さっさと片付けろ」
「あぁー辛辣!もっとぉ!!」
「シン!一人か!?」
グレンが問うた直後、魔物の群れの両端から強力な魔法が飛び交ったり、竜の姿のマールが姿を現し炎を吐き魔物達を消し炭へと変えていた。
「一人だと思うか?」
「違ったな」
「…おい、お前らはいつまで“そう”しているつもりだ?」
「え?」
「鎧の下に着ているものはただのコートじゃないぞ。それをこれからも着るつもりなら、今ここで決断しろ」
「!!!?」
騎士を取るか黒の一団の正式なメンバーになるか。
「俺たち“黒の一団”はルーワイヤ国内の魔物を相手にする。撃ち漏らすこともあるだろう。それらはルーズランス国の兵士共に任せる」
黒の一団を選ぶなら鎧を脱ぎ、国境線を越えろと暗に含め、二人の返事を聞かずシンは魔物の群れを排除すべく中心部へと飛んだ。
同時に無数の爆発が起き魔物は次々に倒されていき、ルーズランス国の兵士達からは歓声が起こった。
「二人とも」
「!!レイナード団長!」
シンとの会話を聞いていたのだろう。
レイナードの表情は真剣だ。
「二人がいなくなる事は正直言って、騎士団にとって大きな損失です」
「っ!」
「…」
黒の一団が参戦した事により幾分余裕ができたのか、最前線はウォルトが楽しそうに大剣を振るい、他の兵士達が黒の一団が“撃ち漏らした”魔物を確実に倒していた。
「ですが先ほどの戦いぶりを見て、この短期間で随分と成長した事は一目瞭然。二人が今後成長するとしたらあの組織ほど最適な場所はないでしょうね。…二人は二人が後悔しない選択をしてください」
「団長…」
「レイナード団長…」
「それに、ニノの気持ちには応えてあげられませんしね」
「!!?気づいてたんですか!!」
「あんな熱視線を向けられたら誰でも気づきます」
「うおぉぉおぉ…マジかぁ…穴があったら入りたいぃぃーーー!」
「掘ってやるよ」
「掘らないで!」
刹那。
ニノのすぐ横に人一人分の穴が瞬時に掘られた。
「どうぞ!」
「入らないからね!?って!シュンちゃん!?」
「せっかく掘ったのに」
ちぇっ、と舌打ちしながら他の人が落ちないように直ぐに穴は閉じられた。
「レイナード団長どの、ギルドの要請によりやってまいりました」
「それはさっきシンから聞きました」
「お?シン、ちゃんとできたんだ。偉い偉い」
まるで子供を褒めるかのごとく頷くと、シュンは魔法を連発しているシンへと視線を向けた。
「じゃぁ、サクッと終らせようか」
「…シュン、俺たちはどうしたら良い?」
「指示を仰ぐ相手が違うんじゃない?」
未だに二人は鎧を纏っている。
レイナードを見れば、優しく微笑み一つ頷いた。
次いでグレンとニノは互いの顔を見合わせて、これまでにない程の綺麗な騎士の礼を取ってみせた。
「レイナード団長、これまでお世話になりました!」
「このご恩は一生忘れません!」
そうしてまた、レイナードは一つ頷いた。
それを合図にグレンとニノは鎧を脱ぎ捨てた。
「ふふ、中々精悍ですよ」
「故郷割って事で、何かあったら格安で仕事受けるよ」
「おや、それは心強いですね」
「丹精込めて育てた大事な騎士を二人も貰い受けるのだから、当然」
「ではその時は宜しくお願いします」
シュンが国境線まで走り出すと、一礼した後グレンとニノもその後を追った。
その後ろ姿に、あの幼い少年達がよくもここまで強く逞しく育ったものだと、レイナードは幼き日のグレンとニノを思い出した。
二人が黒の一団として活躍しだしてから、実はこんな日が来るのではと内心では思っていた。
法や規律に縛られず、国境すら軽々と越えて自由に弱き者を助けることができる。
それは騎士を志したものならば誰でも一度は夢見ることではあるが、組織に準ずると言う事は規則があると言う事である。
自由に人助けなどできないのだ。
それをやってのけたのが黒の一団である。
緊急性と重要性に重きを置き、仮令世界の裏側でも文字通り飛んでいく英雄達だ。
「…君たちが羨ましいです…」
できる事ならば自分も、とそこまで考えレイナードは頭を振った。
「いけませんね。私はこの国に忠誠を誓った人間…後悔などあってはならない」
剣を握った拳に力を入れると、黒の一団が撃ち漏らしたであろう魔物を一刀両断した。
「…兵士の価値、ですか…頼りたくはありませんでしたが大事な部下達を失わずに済むのであればと、割り切らなければですね…」
発展途上の兵士達は沢山いる。
これも良い経験となったはずだと割り切り、ウォルトの隣にならんだ。
「グレンとニノは行ったのか?」
「はい」
レイナードの返事にウォルトは至極残念そうに「…そうか」とだけ頷いた。
「さて、二人もバリバリ働いてもらうよ」
「任せてー!」
「無茶はさせないでくれよ?」
「大丈夫!二人ならね!」
そう言ってシュンは指をパチンと鳴らす。
その瞬間、移動魔法によりグレンとニノは魔物の群れのど真ん中へと放り出された。
「へ?…シュンちゃん?」
「おいおいおい…マジかよ」
群れに突如現れた二人の人間にギロリと一斉に魔物の視線が突き刺さった。
「無理?」
無理なら代わるよ?とありありと物語るシュンのその視線に“無理”とは返せない。
「っ…厳しい上司だな」
「これまで俺たちにどれだけ気を使ってたのかわかった気がする…」
「無理なら言ってね?」
「ーーーーやってやらぁ!!!」
「うおぉおぉぉーーーー!!!」
敵陣のど真ん中で自身を鼓舞する雄叫びを上げるグレンとニノの姿に、ルーズランス国の兵士達は思った…。
(黒の一団、エゲツない…)
と。
結果から言えば魔物達は一体たりとも逃す事なく討伐を完了した。
その後に残った死体はそのままにして置けないので、シュン等が一体残らず骨まで灰にし、始末した。
しかし、疑問は残る。
一体なぜいきなりこのようなことが起きたのか。
自然と起きたことなのか。
はたまた誰かに仕組まれたことなのか。
それすら分からない。
魔物達も数体は生かしておき、エクシャの力でどうしてこんな事になったのか、後に魔物を操り聞き出そうとしたが、魔物達は全く分かっていなかった。
むしろなぜこんな所に居るのかさえ分かっていなかった。
(憶測だけど、ルーズランス国を狙っている何処かの国が戦力を削ごうとしてる?…いや、何でもかんでも結びつけるのは良くないかな?)
魔法で硬い地面へと変えた砂漠地帯も元に戻し、不安の残る元戦場を後にした…。
「シュンちゃん、ただいまー!」
「はいはい、お帰り」
今朝別れたばかりだと言うのに、久しぶりに会うかのように大袈裟に振る舞うニノにシュンは適当に返した。
「グレンもお帰り。案外早く帰ってきたね」
「ただいま。本当にな」
一度騎士寮へと向かい、部屋の私物と今朝持って出た荷物をそのまま手に帰ってきた。
「レイナード団長の説得に時間がかかると思ってたんだけどな。意外とあっさりだった」
拍子抜けだと言わんばかりに肩を揺らすが、その表情は寂しさも垣間見える。
それが分かっていても、黒の一団を選んでくれた事はみんな嬉しかった。
今夜は二人が正式にメンバーになった事を祝ってパーっと騒ごう!とシュンが言い出せば拒否する者などいない。
大人組の為に酒を調達しに行こう、料理も沢山用意してスイーツだっていつもより贅沢にしてやるのだと張り切って準備に取り掛かる。
飲んで食べて騒いで、騎士団を離れた寂しさが少しでも和らげばとシュンははしゃいで見せた。
宴もたけなわ、酒を飲まないシンは酔っ払いの相手はゴメンだと早々に自室に戻り、シュンは酔っ払いのグレンとニノに挟まれ身動きが取れない。
レイルは机に突っ伏しいびきをかいており、マールとエクシャは身動きが取れないシュンの代わりに片付けを行っていた。
「シュンちゃーん聞いてるぅー!?」
「はいはい、レイナード団長残念だったね」
「返事が雑だよぉー!」
「ニノ!バカお前!変態の気持ちが常人に分かるか!俺も分からん!」
「もぉ俺にはシュンちゃんだけなんだよぉ〜!捨てないでよぉー!」
「はいはい、変なことしなければ捨てないよ」
「シュン!分かっているのか!?もう俺たちには帰る所は!帰る所は!!」
「はいはい、帰る所はここだよ」
明らかにからみ酒であった。
あからさまに面倒くさいという表情を見せているが、止めようかというマールとエクシャの申し出を断り、グレンとニノの言葉を受け止めた。
それをする義務があるとシュンは思ったのだ。
騎士は二人にとっては夢であっただろう。
そこから連れ出したのだ。
正気でいる時は絶対にこんな事言わない。
特にグレンは、グッと押し黙り自身の中で無理矢理昇華させるはずだ。
「シュン、お前達に比べたら俺たちは力不足なのは分かっている!でも、強くなるから!」
「そうだよ!もっと強くなるよ!!」
「はいはい、分かってるよ」
「本当に!?分かってる!?返事が雑だよぉー!」
「ニノ!バカお前!それさっきも言ったぞ!」
「分かってるよ。二人は、今よりはるかに強くなるって」
「!!!」
グレンとニノが驚き、静寂に包まれたかと思った瞬間、ニノから抱擁と言う名の体当たりをくらい、グレンからはガシガシと乱雑に頭を撫でられた。
「…なんなのこれ?」
無言でそうし続ける二人にシュンは遠い目で受け入れるが、急にグレンがこれまでと違った口調で口を開いた。
「…シュン、今日はなんであそこに来たんだ?」
あそことは言われるまでもない、ルーズランス国とルーワイヤ国の国境だ。
なぜこのタイミングでとも思うが、グレンは酔ってはいるが正気であった。
「二人がいなくなった後、フレイザー閣下の使いでランスロットが来たんだよ」
現在、フレイザー閣下の配下の人達にルークの行き先を調べてもらってる為、ルーズランス国の近隣国に配下が潜伏している。
そして、ルーワイヤ国に潜伏してたフレイザーの配下がフレイザーに知らせ、ランスロットは二人にそれを知らせるためにここに来たと言うわけだ。
二人は居なくなった後だったため、シュン達がランスロットに無理矢理ギルドに依頼書を出させて、それを受理する形で参戦したというわけだ。
わざわざギルドを経由したのは、黒の一団は慈善家ではないというアピールも含めてある。
どこかで大きな事件が起きても、どこからともなく黒の一団がやってきて解決してくれる、などと思われては堪ったものではないのだ。
ギルドを必ず経由しなければ、黒の一団は動かないのだと。
“たまたまその情報を聞いた元ルーズランス国の騎士が心配し依頼した”ならば違和感もない。
「そっか…ランスロットが…」
「今度会ったら礼を言わないとな…」
「…二人とも、酔って他に言いたい事とかある?」
「…シュンちゃん、」
「なに?」
「大人になったら結婚しっぶふぅ!!!」
「ごめんなさい。手が滑ってしまいました」
トレーの角で見事にニノの頭を強打したのは、笑顔なのに目元が笑っていない、エクシャであった。
「…エクシャ…」
「シュンより強くない者は認めない」
エクシャの横で殺気立たせながらはっきりきっぱり言い放ったマールのその言葉は、まるで父親の様であった。
「…ニノ、取り敢えずシンより強くならないと消し炭にされるぞ…」
グレンは知っている。
いや、シュン以外の全員が知っているのだ。
シンのシュンへの思いを。
ニノにとって相手が悪すぎる。
が、ニノはめげなかった。
「はっ!?シンくんとシュンちゃんが結婚して二人の共通の愛人にして貰えば一石二鳥!?俺、ちょー美味しくない!?」
ニノは酔っていた。
そうとしか思えない発想に、頭を痛めたシュンの為にエクシャは魔法で無理矢理ニノの意識を奪うのであった…。
「すまん…。本当にすまん」
グレンは親友の戯言の為に頭を下げるのであった…。
翌日。
「さぁー!諸君!今日もギルドから名指しの依頼が来ているぞ!」
「…シュン、今日は無理だ…」
頭を抱えた大人三人に、シュンは溜息をついた。
レイル、グレン、ニノは見事に二日酔いとなっていた。
竜の血のせいか、酒など水だと言わんばかりのマールとエクシャは普段と変わらない様子だ。
そして未成年であるシンとシュンは酒など飲んでいないし、超甘党のシンは試しにとひと舐めしただけで器を投げ捨てた。
「こんなもん二度と飲むか!」
と。
頭を抱える三人を放置して、シュン、シン、マール、エクシャは今日もギルドの依頼をこなすのであった。




