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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「リュキッド国の海は透き透っていて、船で沖に行っても数メートル下の海の中まで見えて、それは神秘的で美しい所だ。魚介類の料理は世界一と言っても良い。あと、内陸部では黒曜石が豊富に取れ飾りや、切れ味の良さから刃物に加工したりもする、我が国の誇る特産品だ」

「黒曜石!!」

「また変な方に食いついたな…」

シュンに、自国であるリュキッドに興味を持ってもらおうと特産品や観光名所の紹介をしていたミラルダと、今日の護衛役であるレイル。

てっきり“美しい海”や“美味い魚介類”に興味を惹かれると思っていたがまさかの“黒曜石”の話に瞳を爛々と輝かせるシュンに、苦笑いだ。

「黒曜石が好きなのか?」

反応具合からそう思うのは当然であるが、勿論アクセサリーの材料としての興味はない。

「黒曜石はね、熱すると含有された水分が発泡してパーライトと呼ばれる物になるの。白色粒状の軽石で多孔質であることから、土壌改良剤として使えるんだよ。あと加工すれば保冷保温材になる!」

「ほれいほおんざい?」

聞きなれない言葉に首を傾げるミラルダに保冷保温効果について説明をする。

冷たい物や温かい物を一定の時間、冷たいままや温かいままに保つことができるのだと話せば、実に真面目な表情で頷く。

それは国を潤す新たな商売になるぞ、と。

「まぁ、私も詳しい加工の仕方は知らないんだけどね。そこは試行錯誤して作っていけば楽しいと思うよ」

「よし、今度定議会で提案してみよう」

ふむふむ、とメモを取り始めたミラルダを横目にシュンは果樹園を元に戻すために魔法をかけ始めた。

メモを仕舞い、シュンの様子を目で追うレイルに向き直る。

「…貴方は何も言わないのだな」

「?何がだ?」

シュンへと向けていた視線をミラルダへと移せば、そこには真剣な表情があった。

「これまでの護衛たちは威嚇が凄かったぞ」

それだけ言えば、何のことか直ぐにレイルは理解した。

「あぁ、あいつらはシュン教過激派だからな」

「宗教なのか!?」

「…いや、すまん…冗談だ。まぁ、シュンが大好き過ぎる連中って思ってくれ」

「では、貴方はシュンが好きではないのか?」

「家族として、弟子としては好きさ。できれば婿はこの目で選びたい程度にはな」

「…貴方も大概だったな…」

レイルは、シュンのやる事に一々何か言うつもりはないし、ミラルダがシュンに自国や己をプレゼンすることは何とも思わない。

好きにすれば良いと思っている。

自分たちやシュンに害が無ければそれでいいのだ。

「ほぉ…シュンがリュキッド国へ来ると言えば、許可するのか?」

「勿論。あいつが本気でやりたい事は誰にも止められないからな。シュンが行きたいと言えば、自分で住処をこさえてみんなまとめて連れて行くだろうよ」

「それは素晴らしいな!シュンを誘い込めれば黒の一団が丸々付いてくるのか!」

レイルを話のわかる男だと、嬉々として目を輝かせるミラルダに、レイルは僅かに目を細めた。

それがどういう事か、分かっているのか、と。

今日で復興作業も終わりを迎える。

明日の慰労会を最後に接点は無くなるのだ。

(ま、シュンにその気は全くないようだし、ミラルダには悪いが期待には応えてやれないな)

果樹園の木に果物がたわわに実り、農民達に囲まれ揉みくちゃにされているシュンの元へ駆け寄る、ミラルダの姿を目だけで追いながらレイルは

「報われない女だな」

と一人こぼした。

ミラルダのシュンを見る眼差しをレイルは知っている。

シンと同じなのだ。

好意を寄せている相手が悪かった。

どう考えても、実るものではないのだから。


一通りの田畑の復興を終え、漸くシグアナ国は僅かながらに潤いを取り戻した。

荒廃した町やライフラインは整備され、田畑は豊作に恵まれている。

「漸く終わりだな」

「今回は長かったねー。フレイザー閣下にボーナスを要求しよう」

「…シュンは全く私の話に靡かなかったな。この際欲しいものを言ってくれ」

数日に渡りあれやこれやとプレゼンを試したが、脈はまるで無い。

内心焦ってはいるが、それを見せるのは恰好悪いとミラルダは平静を装った。

「ミラルダ、誘ってくれてありがとう。でも、ごめんね。私は今住んでる所を離れるつもりはないんだ」

「…それだけの力を持っているのに遊ばせておくのか?」

「だからだよ。私は私のやりたいようにやってきたせいで、沢山魔法を覚えた。中には危険なものもある。……それを一国に利用されるわけにはいかないんだよ」

「っ!」

いつもの飄々としたシュンではなく、真剣に自分へと向かい合う射抜くような眼差しにはっとした。

子供とは思えないその視線は、つい…。

(見ていたくなる…)

「まぁ、そう言う事だから。ごめんね」

再び謝罪の言葉を発すれば、納得はできても諦めきれないミラルダの視線とぶつかった。

「私はっ」

「黒の一団の方!!」

ミラルダの言葉を遮り、シグアナ国の少年兵が一人シュン等の元へと割って入ってきた。

シグアナ国の城でシュンも見たことのある者である。

その焦り具合から、ただ事では無いのは一目瞭然だ。

「どうした?」

“黒の一団”と名指しされレイルが返事を返すと、荒れた息を整える間も無く

「はぁ!はぁ!た、助けてください!!」

と叫んだ。

「ダンテ、どうしたの?」

「シュン!!?」

どうやら長身のレイルとミラルダに隠れてシュンの存在に気づいていなかったようだ。

誰にも分かるほど、シュンに好意を寄せていた少年兵は、途端に口を閉ざした。

シュンも黒の一団だと知らされたのだが、こんな女の子に頼む事では無い、と。

「ダンテ、急ぎでしょ?話して」

「で、でもっ」

「君の焦り具合から急を要するのでは無いのか?」

ダンテは少し口籠ったが、直ぐに要件を口早に話した。

隣の町近くにある森から大量の魔物が姿を現したのだと。

「今、仲間の兵士達とリュキッド国の兵士の方々が応戦してくれてて!」

他の少年兵士達と共に、手分けして町や村に助けを求めに奔走していたのだ。

そしてこの果樹園に黒の一団が居ると聞き、やってきたのだと言う。

シュンは地図を広げ、場所を確認すると、そこはシュンが復興を手伝った町であった。

「これなら魔法でいける。直ぐに行こう」

「行こうって…シュンは女の子だぞ!?」

顔面蒼白で反対するダンテに、シュンはいつもの笑顔を見せた。

「これでも黒の一団の団長だよ?任せて」

ぽん、とダンテの頭をひと撫ですると地図を仕舞う。

「レイルはどうする?」

「行くに決まってるだろ」

お前を一人にするとロクなことがない、とため息交じりに言うレイルに口を尖らせ反抗したが効き目はない。

「私も行こう。防具はないが剣はある。魔物ごときに遅れはとらないさ」

「まぁ、やること無いと思うけどいいよ」

レイルとミラルダの手を取り移動魔法を使おうとした瞬間、ダンテが手を伸ばした。

「お!俺もっ!」

ダンテの手がシュンに触れる前に、三人はその場から姿を消した。

「…シュン…」


そして次の瞬間に、眼前には無数の魔物と兵士達とが混戦する戦場へと視界が変わっていた。

「こんな数の魔物、どこから!?」

ミラルダは前日まで国内で増えた魔物達の討伐を行っていた。

確かにこの辺りでの魔物の数は多いと報告を受けていたが、それにしても数が多い。

「じゃぁ、待っててね」

「一人で平気か?」

「問題ないよ」

「は!?待て!シュン!?一人で!!?」

驚くミラルダをよそに、シュンは背中からバサリと黒い羽を出すと、ニッコリと笑顔だけを向け飛び立った。

後に残されたミラルダの疑問と焦りはレイルへと向けられる事になる。

「シュンを一人で行かせるなど!!」

「見てれば分かる」

「見てればって!レイルは何もしないのか!?」

「あいつはやれない事は引き受けないし、助けを求める事も知っている。シュンが問題ないと言ったら、無いんだよ」

事もなく言ってのけるが、ミラルダは納得できていない。

今にも走り出しそうなミラルダへと声をかけた。

「よく見ていろ。お前が国の為にと欲した力がどんなものか」

「え?」

シュンを見ると既に混戦真っ只中の真上に到着していた。

そして、右手を突き出し一つ指を鳴らす。

怒号に掻き消されその音は全く聞こえないが、間違いなく魔法は発動し、魔物達は突如現れた黒い穴に、一斉に吸い込まれた。

一瞬の出来事に戦っていた兵士達は何が起きたのか分からず、周囲を見回す。

「あれは…なんだ!?」

一部始終を見ていたミラルダすら何が起きたのか分からないでいた。

「闇魔法。それも最上級の、な」

「さ、最上級…!?」

その黒い穴に触れたものは生物であれ無機物であれ全てを飲み込む、闇の魔法。

それを発動するだけで大量の魔力が必要となるのに、これだけの数の魔物を相手に使っても未だ疲れている様子を見せないシュンは、「終わったよー」と呑気にレイルへと手を振った。

そのまま怪我をした兵士達の治療に当たる為、兵士達の元へと向かったシュンを視線で確認しながら、レイルは口を開いた。

「ミラルダ、シュンがもしお前の国へと行った場合、間違いなく即戦力とされ、前線に立たされる事になる」

「当たり前だ!あれ程の力を後方になどするものか!!凄いぞ!シュンの力があればどんな戦いも勝てる!」

「その代わり、シュンは敵やその家族から憎しみや恨み、全ての憎悪を向けられる事になる」

「!?」

「数千、数万の人間がシュンを悪魔と呼び大量虐殺者と罵る。それも勿論分かっているのだろう?」

「そ、それは…」

「それら全ての外敵からお前やお前の国はあいつを守れるのか?ミラルダ、俺はあいつのやる事に口出しはしない。俺たちや“シュンに害が無い限り”はな」

つまり、害があると認識しているのだ。

ミラルダがシュンを口説くのに対して、口を出さなかったのは、シュンにその気が無かったからだ。

しかし、レイルはミラルダの行動は“シュンに対し害がある”と判断しているのだと、伝えるものだった。

「お前がただの一個人として友人の枠から外れないのであれば、認めてやる。だが、国に関わらせようというのであれば話は別だ。“俺たち全員が敵になる”と言うことを覚えていろ」

「っ」

話がわかる男だと思っていたレイルが、もっともシュンを溺愛していると、全くミラルダを見ようとしないその態度から伝わってきた。

愛だの恋だの、そんなものでは無い。

まるで、親の様に大事な我が子を見る眼差しである。

「因みにだが…」

「な、なんだ?」

まだ何かあるのか?と身構える。

「あいつがあの闇の魔法を覚えた理由というのが…」

「理由?」

あれだけの威力を持つ魔法だ。

何か深い事情があるのだろうと、耳を傾けるとそれはなんとも意外というか、ミラルダの予想を遥かに上回ったものであった。

「ゴミ箱に魔法をかけて、いくらゴミを捨ててもゴミが溜まらないゴミ箱を作りたかったそうだ」

「…………は?」

「あいつが魔法を覚える時はいつもそんな理由だ。冬場に寒く無い様に火の魔法を覚え、夏に暑く無い様に氷や風の魔法を覚え、洗い物が楽になる様に水の魔法を覚え、」

「……」

「昔、食うにも困っていた時は植物の成長を早める魔法を覚え格安で買ってきた苗や種に魔法をかけて食いつないでいた。あいつはいつも、俺たちの生活を良くしようと魔法を学んでいる。そんな奴を兵器として見るのはやめてくれ」

「……」

魔法とは本来、人々の生活を豊かにする為のものであったが、いつからか人々はそれを軍事兵器として活用することを当たり前とした。

強い者は戦場へ、と言うのはもはやリュキッド国では普通の事なのだ。

そしてその世界最強の地位を維持するために、より強い者が必要となる。

幼い頃よりそう教育されてきたミラルダには、共感はできなかったが、理解する事は出来た。

シュンが自分の育ち方に理解を示してくれたように…。

「…私は、シュンの事が好きだ。だから、あの子に辛い思いをさせたくは無いな…」

自分の事ばかりだったと、今更ながらに気がつく。シュンを思った事は結局一度もないのだ。

あれ程までに心を乱されておきながら、シュンの為の言動は一度も無かった。

「レイル、精進したのち出直すとしよう。国の為ではなく友人として、な」

少年兵に囲まれ、揉みくちゃにされているシュンから、漸くレイルの視線はミラルダへと移った。

「あぁ、それなら問題ない」

「フ」

思わず溢れた笑みにレイルは首を傾げる。

「なんだ?」

「いや、何でもない」

「?」

シュンを攻略するにあたり、一番の難関はこの男だなとミラルダは思った。

他のメンバーも確かにシュンへの思いはそれぞれあった。

敬愛、親愛、友愛、慈愛、様々であったがやはり親の愛と言うもの程強いものは無いのだ、と。


この僅かな期間でシグアナ国復興の大半が終了した。

これは驚くべき快挙であり、それを成したのはたった数人からなる組織の功績が大きい。

その功績と、正式な国王が決まるまでの仮の王の発表が慰労会で行われる事になっている。

シグアナ国では仮の国王が立てられ、正式な国王が決まるまで代理となる。

現王族は没落してしまった為、仮の王はシグアナ国と同盟国の間で「この者ならば」と言う総意のもと決められた。

その者は田舎貴族ではあるが、自身の財産をなげうってまで領民を守ろうと奮闘した、民の信頼の厚い者であった。

当の本人は顔を真っ青にさせ何度も「無理だ」と断ったが、政にはフレイザー、軍事にはレクスが力を貸すと言うことになりなんとかまとまった。

臨時であり数ヶ月の辛抱だと言いくるめたが、それが長々と続き、三年後には正式な国王となる事を本人は知らない。

さて、その慰労会であるが、一つの事件(?)が起きていた。

かの有名なリュキッド国の女将軍が注目の的となっている。

男性だけでなく、女性からの視線も一身に集め噂で聞く「身も心も男になってしまった女将軍」はカケラも見当たらない。

「や、やはり私にこのドレスは!」

「黒の一団の団長からの贈り物だ。一度は身に着けねば失礼にあたる」

「ぐ、分かっているが…」

“黒の一団の団長からの贈り物”に更に会場はざわめいた。

黒の一団と言えば所在不明で、かと言えば世界中のギルドに出没する神出鬼没の一団で、その力は一国家に値すると、どこまで本当かどうかと分からない噂が流れている。

その団長からの贈り物だとすれば、リュキッド国は黒の一団の戦力を狙っているのではないかと考える者もいる。

実際そうであったが、それも頓挫したとは知らずに。

その女将軍ミラルダと言えば、以前シュンから「似合う」と言われたバラのモチーフのマーメイドドレスに身を包み、スリットからはスラリと伸びた美しい足を惜しげも無く披露していた。

胸元はざっくりと開いていて、腕、肩、デコルテ、開いた胸元には黒のレースがあしらわれており、スリットとは対角の胸元には真っ赤なバラのコサージュ。

赤い髪は緩く巻かれ、所々に小さなミニバラとかすみ草が散りばめられている。

パーティーでは、いつもはキリッとした軍服に身を包んでいる為、兄レクスも動揺をかくせなかったが、これはいい機会だとも思い「贈り主の黒の一団の団長の顔を立てろ」と尤もな理由を付け着せたのだ。

慣れないヒールで歩き方はぎこちないが、レクスのエスコートで様になっており、不自然さはない。

「ほっほっほっ!見間違えましたよ。ミラルダ殿。いえ、ミラルダ嬢とお呼びした方がよいですな」

「フレイザー殿!からかわないで頂きたい!」

羞恥で頬を薄っすらと朱に染める姿は最早少女だ。

うっとりと眺める男どもを牽制するようにレクスは周囲に目を配る。

「シュンも貴女の魅力を引き出すのが上手いな。からかいなどではないよ。実に良く似合っている」

「っ!……恐れ入ります…」

あの少女の手で自分が変えられたと思っただけで、熱が出そうだと両手で顔を押さえた。

各同盟国との挨拶が終わる頃、会場の扉が静かに開いた。

次は誰が来たのか、と視線が集まる。

カツ、と靴音を響かせ先頭きって入室してきたのは少女であった。

その貴族の集まるこの場では、まるで不釣り合いな全身黒の装いに、会場は騒然とした。

そして次々に入室してくる黒づくめの集団に、気付くのだ。

“彼らが黒の一団である”と。

「…シュン…面倒くさいからとドレス選びをサボったな」

至極残念そうに、しかし普通に言葉をかけるフレイザーに周囲はギョッとした。

如何にも普通ではない集団に、早々言葉はかけられない。

「だって、趣味じゃないし今回はじっくり作る暇も無かったんだもん」

大凡、英雄に対する態度ではない少女の返事に更に周囲は固まった。

「し、シュン!やはり私もコートに!!」

黒の一団の中で一際目を惹く女が少女へと駆け寄った。

黒の一団のメンバーなのだろうが、一人だけドレスだ。

しかもミラルダに対抗するようにこちらもマーメイドドレスで、淡いピンクに足の付け根十五センチから下はその美しい脚のラインを自慢するようにレースのシースルーになっている。

長袖になっているが、首からデコルテにかけて同じようにレースのシースルーとなっており、所々に桜の刺繍が散りばめられている。

肌が透けて見えているにも拘わらず下品さはなく、この女性の美しさを全て引き出しているように見える。

「ダメ?エクシャに似合うと思ったんだけど…」

「う、ダメ…では無いのですが…私一人ドレスというのは少々恥ずかしくもあり…」

「では、二人ならどうかね?」

他のメンバーはいつもの黒い格好なのに自分だけ違うのが恥ずかしいのだと、エクシャは真っ赤になって訴えた。

するとフレイザーは少し離れた所に居たキーカス兄妹を手招きして呼び寄せた。

「はっ!貴女は!!」

「ほぉ、貴女もシュンからドレスを?」

一瞬にして火花が飛んだ。

「……おや?」

こうなるとは誰も予測しなかったであろう展開に、フレイザーは首を傾げた。

「うん、ミラルダやっぱり似合ってるよ、バラ」

「っ!そうか!ドレスは着たことがない為、不安もあったが着て良かった!」

シュンに褒められたこともあり、得意げにエクシャに視線を送れば、面白くなさそうにエクシャは口を尖らせた。

「ム!さっきは私の事も褒めてくれました。貴女だけではありません!」

「うんうん。エクシャも似合ってる!スタイル良いと作り甲斐があるね!」

「ありがとうございます!」

ふふん!とやり返してやったぞとミラルダを見る。

二人の間に更に火花が飛んだ。

「シュン、この際だから聞いておこう。私と彼女、どちらが似合っていると思う?」

「…え?」

「勿論私ですよね?」

「自信過剰はマイナスだぞ?」

「このドレスのモチーフであるサクラはシュンが一番好きな花です。自信過剰じゃありません」

「なにっ」

「まぁまぁ二人とも…」

徐々にヒートアップする二人を宥めようと二人の間に入るシュンであるが、たわわんな果実に迫られる事になる。

さぁさぁどちらが似合うか、とずんずん迫り来るたわわん果実に後ずさるシュンに救いの手はない。

「…自慢か!この野郎!」

もにゅもにゅにゅー!

「ひやぁ!」

「キャァ!」

たわわんな果実を遠慮なく揉みしだき、二人の火花を強制的に鎮火したのだった。

「くっ!こんな人前でっ!」

「せめて、場所を!場所を!!」

満更でもない反応に周囲はドン引きであった。

「おい、シュン。いつまで茶番に付き合う気だ?爺さんに挨拶したら帰るんだろ?」

これまで黙って見ていた黒の一団の男が一人、シュンに歩み寄った。

パーティーなんて場違いな場所に客として出席したところで好奇の目に晒されるだけだと分かっていたし、実際にその通りであった。

とっとと帰りたいのだと言えば、シュンは肩をすくめ了承した。

「シン、ごめんね。あと、王様代理にもご挨拶してくるからあとちょっと待っててね」

そう言うと、先程まで女性二人のたわわん果実を揉みしだいていたとは思えない空気を纏い、多数いる貴族を無視し、仮の国王の元まで歩み寄った。

しかし、シュンが何か言う前に、貴族から声が上がる。

一団の団長が挨拶をしないのか、と。

まだ子供であるシュンが団長に見えないのは当然である。

シュンはそのような事分かっている為、腹をたてる事など無いのだが、メンバーは違った。

発言した貴族に向かい殺気をビシバシと送り「文句があるなら言ってみろや」と睨みつけた。

「ヒッ!」

貴族の男は思わず腰を抜かし、引き攣った声を上げた。

「ほっほっほっ。まぁ人を見た目で判断せぬ事だ。黒の一団の団長は彼女だよ」

「!!?」

他の誰でも無い、ロザリール国の英雄フレイザー・アーリッシュの言葉である。

会場は騒めきに包まれるが、気にもとめずシュンは片手を胸に当て片膝をつき口を開いた。

「ただ今フレイザー閣下よりご証明頂きました、黒の一団の団長シュンと申します。我らの様な者までご配慮いただき感謝いたします」

「よ、よい。顔を上げなさい」

仮の国王は慣れない喋りと立場で緊張が隠しきれていない。

「こ、こ度の働き、誠に、大義でありました」

(…ありました…)

慣れない言葉遣いに笑いを堪え、次の言葉を待つ。

「黒の一団の、噂は、兼ねてより聞き及んでいましたが、実に良く、働いてくれた事に、感謝いたします」

「勿体無きお言葉」(ふふ、人の良さが滲み出すぎてる…)

あたふたと台本のセリフを思い出す様に絞り出した言葉は、不自然であり王様らしからぬ有様ではあったが、頼りなさは多少あれど誠実さはあった。

フレイザーも良い人選をしたものだと、感心していると、眼前に小さな影が現れた。

「こ、これ!アニス!誰か娘を…」

「お姉ちゃん!」

国王の言葉をまるっと無視し、アニスと呼ばれた少女はずいっとシュンにくまのぬいぐるみを差し出した。

「…君は」

シュンはその少女とぬいぐるみに見覚えがあった。

自身の領民を救う為に資金を調達しようと、自らの持ち物を売っていた少女で、そのぬいぐるみはシュンが買い取り少女に世話を頼んだ物であった。

「これをお返しします」

「え」

預けていたのだ。

返すのは当たり前だろうが、少し離れた所でアニスと一緒に居た護衛と世話係があたふたとしているのが視界に入った。

「…コホン、お言葉ですが“姫様”」

「姫様?!わ、私?」

「はい。アニス姫。私は二十歳までお預かり願いたいと申しました。その約束は守っては頂けないのでしょうか?」

「あ!でも、貴女の物なのに…」

「私はこれからも仕事であちこち飛びまわらなければなりません。大事に預かってくださる方が必要です。姫様、厚かましい事とは思いますが、お願いできますでしょうか?」

「……」

くまのぬいぐるみのことは大好きで、手元に置けるならそうしたいが、売ってしまい最早自分の物では無い。

それをそのまま持っていても良いのだろうかと、アニスは迷っていた。

「アニス、その方は国の恩人だ。その願いくらい叶えてやりなさい」

「!」

国王である父からの助言で、アニスは漸く頷いた。

父も知っていたのだ。

護衛や使用人達がアニスのために高価で、凝ったぬいぐるみを誕生日にプレゼントした事を。

それは決して手離してはならない十三年後に起きるサプライズなのだ。

「お願いしますね。アニス姫」

シュンがくまをひと撫ですると、アニスは元気よく

「はい!」

と頷いた。

国王との謁見も終わり、漸く帰路につこうと会場を後にした黒の一団。

会場の外まで見送ろうと、ミラルダもついて来ている。

「シュン、貴女の事はもう勧誘しない事にした」

「おや?諦めたの?」

「その代わり、友人になってもらえないだろうか?」

友人という言葉に、シュンは少しだけ目を伏せた。

それが躊躇いだと思ったミラルダは、これまでの自分の傲慢さが仇となったのだと思い謝罪を口にしようとするが、先にシュンの方が口を開いた。

「残念だよ」

「っ!それは…」

友人もダメなのか、と眩暈を起こしそうになるが、

「私はてっきりもう友達だと思ってたのに」

思いもよらない言葉が返ってきた。

「へ?」

「ミラルダは違ったんだねー。残念だよー」

「あ、いや!改めてちゃんと話しておこうと思ってだな!私もシュンの事は友だと思って!」

あたふたと言い訳をするミラルダにちょっとからかいすぎたか、と苦笑いし右手を差し出した。

「じゃぁ改めて」

「!!…あぁ、改めてよろしく頼む」

握手を交わし晴れて友人の座を手に入れたミラルダであった。


では、本当に帰ろうとミラルダに挨拶を済ませて移動魔法を発動し着いた先は見慣れた廃城。

いつもの玄関ホールであるが、エクシャはすぐに異変に気がついた。

城の外に誰か居る、と。

「…どうやら魔物達も知っている者の様です」

「知り合いか。どれどれ」

録画水晶を飛ばしライブ映像を確認すれば、エントランスの階段に腰掛ける一人の男。

それは全員見覚えがあり、中でもグレンとニノはその目を見開いた。

「レイナード団長!」

グレンとニノの故郷、ルーズランス国の騎士団長、レイナード・サーザンであった。









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