表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
33/71

32一方その頃…

シュンがシグアナ国に滞在している時の、廃城の様子を少しだけご覧ください。



「今日で四日目か…」

「こっちの仕事はすっかり終わりましたね」

各地の情報収集を終えた一同は、暇を持て余していた。

ギルドの仕事を入れても良かったのだが、いつシュンが戻るか分からない今、留守にはしたくなかった。

食事は魔法で真空にしたものが数日分。

いざとなればエクシャも作れるが、シュンほど上手くは無い。

完全に暇を持て余した一同は、だらだらと過ごしていた。

「…シュンのところに行ってくる」

「お前はまた…。見つかったらどやされるぞ」

「見つからなければいい」

遠くから小型水晶録画を飛ばし、その様子をここで見るのだとシンが提案すれば、反対する者などいなかった。

寧ろウェルカムな方が多い。

こっそりひっそりと城のあちこちに小型水晶録画が取り付けられ、廃城の水晶にはシュンを捉えた映像が送られてくる仕組みだ。

「この短期間でよく改造できたな…」

「どうって事ない」

これだから天才はと、半分呆れ気味で溜息を吐くレイル。

早速受信した映像は、シュンが井戸で洗濯をしている所であった。

魔法ならばあっという間だというのに、手で一枚ずつ洗っている姿は新鮮である。

そこへ訓練終わりの少年兵達がやってきて、井戸水を汲み、体を拭きはじめた。

少年たちとシュンは他愛ない会話で笑い合い、実に楽しそうである。

「くっ!男子がシュンの前で脱ぐなんて!破廉恥です!」

「エクシャ…たまにシュンと風呂に入って、裸の見せ合いをしてるお前がいうのか?」

「私たちは女同士なので問題ありません。寧ろシュンは喜んでくれています」

スッ、と真顔で言ってのけるエクシャに何となくシュンが喜ぶポイントが分かった。

(乳か)

と、男性陣の心の声が重なった。

女のくせに同性の胸が好きとか、中身親父すぎだろと。

エクシャとのハグも異様に長い。

とまぁ、この話は置いておき、水晶の中のシュンは少年達や使用人達と和気藹々として、自分たちが見たシグアナ国の様子とはかけ離れて楽しそうである。

いつもの調子でシュンが周囲を揶揄ったり、おどけて見せている為、自然と周りは笑顔になる。

「ねぇ、この男の子」

ニノが一人の少年兵を指すと

「なんだ?お前のタイプとは違うぞ」

とグレンが揶揄う。

「うん、全然タイプじゃない…じゃなくて!この子絶対シュンちゃんの事好きだよねって言いたかったんだよ!」

「!!?」

やっぱりそう見えるか、という空気の中一人驚くシンに、他は余計驚いた。

「いや、どう見てもそうだろう」

「シン、鈍いにも程があるぞ」

「……」

シン自体は痣を消した際のその見た目から大変モテるのだが、本人はまるで自覚がなく、シュンに散々白い目で見られてきた。

恋愛に興味がなく、魔法が恋人とか言い出すのではないかと、シュンはレイルに相談したことさえある。

「家族以外はその他だ。興味無い」

「!」

ムッとした表情で言っていることは冷酷にも聞こえるが、ここにいるメンバーの事は大事だと暗に言っているのだと気づくと、何ともこそばゆい気持ちになる。

シュンが聞けば破顔してシンを撫で回すだろう。

「シン君俺も好き!」

「残念ながら俺たちは居候だ。含まれてない」

シンに飛びつきそうなニノを、慣れた手つきで止めるグレン。

内心仲間ではあると認めているシンではあるが、ニノが調子付くので言ってはやらない。

「…んんっ。まぁ、シンの恋愛模様は置いておこう」

照れくさげに話を変えようとするレイルに、同じように照れくさいマールとエクシャも水晶へと視線を戻した。

いつのまにか少年兵達は消え去り、シュンは辺りを用心深く見回している。

何かあったのかと少しばかり緊張が走るが、何という事はない。

シュンは魔法でサッと洗濯物を洗ったあと、これまたサッと魔法で干した。

辺りをキョロキョロと忙しなく確認する姿は、ズルを見られていないか執拗に確認する子供のようで、微笑ましい。

いや、外見は子供なのだが。

その日は薪を割ったり掃除をしたりと実に使用人らしく働いて終わった。

それから、暇があれば誰かしらが水晶を覗く。

情報収集の為に城に出入りする商人にすり寄ってみたり、コソコソと城内を捜索したりとじっとしていることががほとんどなかった。

こうして様子を見る事が出来て安心したのか、レイルは時々ギルドの仕事を入れるようになった。

シュンがいつ帰って来てもいいように必ず誰か一人は残る事にし、以前のように、マールやエクシャが手伝い、大変そうな時はシンやグレン、ニノも手伝う。

そんなある日だ。

その日はシンが一人で留守番をしていた時だった。

シュンに思いを寄せる少年兵が、一輪の花を持ってやってきた。

シュンの髪にそっと触れ、白い花を挿し髪を彩った。

「ありがとう」

と嬉しそうに笑顔を向けるその先には、あの少年がいる。

自分ではない。

ズキリ、と胸が痛み素直に嫌だと思った。

自分がいた場所に見知らぬ誰かが居るのが、無性に腹だたしくて、腹の中に黒い何かが生まれた気がした。

楽しそうに笑い合うシュンを見ていると、不安が押し寄せてくる。

遠くに行ってしまうようで、置いていかれる気がした。

「嫌だ…捨てないで…」

無意識に漏れた声は、水晶の向こうに居るシュンには勿論届かない。

両親からさえも与えられなかった、“愛”を与えてくれた少女に置いていかれたらと思うと、腹の中にぐるぐると渦巻く黒い感情が更に増した。

「…シュンは俺のなのにっ」

シンの中に嫉妬が生まれた。

しかし、彼は“ソレ”が何なのか知らない。


「と言うわけで、あのガキをヤってくる」

「何言ってんだお前は」

帰ってきたレイルに自分の中のモヤモヤを話せば、驚愕の後、呆れたようにそう言い放たれた。

勿論そこには他のメンバーもいて、シンの話を聞き“ソレ”が何なのか、なぜそう思ったのか、直ぐに理解した。

“シュンに恋をしているのだ”と。

知らぬは本人ばかりである。

「シン、そんなことしてみろ。シュンが泣くぞ」

「泣くだけなら良いかもしれませんが、犯人探しに躍起になると思いますよ」

「そしてシュンちゃんなら確実に犯人見つけちゃうよね」

「シン、バレたら間違いなく嫌われるぞ」

「!!!?…………やめておく…」

マール、エクシャ、ニノ、グレンの援護によりシンは少年を葬る事をあっさりと諦めた。

嫌われるのは嫌だ。

絶対に何があっても、だ。

シンの話を聞く限り、恋の自覚は無いようだと判断したレイルは、シュンや自分の部屋にある数冊の本を魔法で取り寄せシンの前に積み重ねた。

「お前は多分自分の心が分かっていない」

そう言われれば、そんな訳がないと反論してしまうが、今、レイルは“師”としての顔をしており、つい長年の癖で耳を傾けてしまう。

「これを読め。何か分かるかも知れん」

「本?」

シュンに何度も「本を読め」と言われてきたが、ついにレイルにまで言われる事になるとは思いもよらなかった。

それだけ自分に足りない何かがあるのだと判断したシンは、素直にそれに従い本を持って自室に籠ることにした。

「……レイル、あの…」

「なんだ?」

シンが自室に向かったあと、エクシャが恐る恐ると言った具合にレイルを見た。

「あの本の一番下、“愛と運命のはざまに”だったように見えたのですが…」

「あぁ、そうだな」

恋愛小説など読まない他の三人は疑問符を浮かべながら、エクシャが何を言いたいのか皆目見当もつかないのか、首を傾げる。

「…流石に性的な描写のあるものはシンには早いのでは?」

“愛と運命のはざまに”を読んだことのない面々は、エクシャがなぜ言い辛そうにしていたのか、妙に納得してしまった。

「そうか?俺があれくらいの時は普通に読んでたけどな」

年齢の問題ではなく、経験値の差を指していたのだが、これも勉強だ、とエクシャはそっと目を閉じて見なかった事にした。

「それにシュンも普通に読んでるしな」

「そこは止めろよ!」

子供に何読ませてんだ、と思わず一斉に突っ込んだがレイルは遠い目をし

「知ってるか?あいつの行動を制限しようとすると無限の体力が必要になるんだぞ?読むなと言ったところで魔法を駆使されると俺はもう勝てないんだ…」

魔法の知識はレイルの方があるが、魔力だけで言えばシュンの方が上だ。

読めないように制限魔法をかけても、あっさりと解かれてしまうのだ。

師としてのプライドなど、もうとうの昔に粉々に砕け散っていた。

「…なんか…すまん…」

「…申し訳ありません…」

「…レイルも大変だね…」

「…あの二人の師匠と言うだけで胃がダメになりそうだな…」

「それな」

水晶の中で寝息を立てているシュンへ、若干恨みがましい視線を送るが、それが届くことはない…。


「レイル、俺はロリコンじゃない」

「分かってる。ロリコンならとうの昔に目覚めてるはずだからな」

借りた本の何冊かを一晩で読み終えたシンの第一声はそれであった。

そして、レイルはシンのその一言でシンがシュンにどういう気持ちを向けているのかを理解した。

子供が好きなわけではなく、シュンが好きなのだ、と。

恋や愛、失恋や嫉妬のなんたるかなど、数冊の恋愛小説を読んだだけで理解などできる訳がない。

ましてや初心者だ。

シュンが聞いたら「なにかの間違いじゃない?」とケラケラ笑いながら言うに決まっている。

もしくは「兄妹愛と勘違いしてるんだよ」である。

「あいつが大人になるまで…まぁあと三、四年か?その気持ちは言わない方がいいだろうな。子供である自分にそんな感情を向けるとは思ってないだろうから、勘違いで済まされるぞ」

「…想像できるから怖い…」

シュンはそう言う奴だ。

「…レイルは…」

「なんだ?」

「俺がシュンにこんな感情を向けるのは反対じゃないのか?」

何を言い出すのかと思えばと、レイルは息を吐いた。

「何処の馬の骨とも知れん奴にシュンやお前をやりたくない。俺にとってお前たちは弟子であり弟や妹だ。不甲斐ない長兄ではあるがな。シュンは人を見る目を持っているが、お前は違う。だからお前がシュンを選んで、シュンがお前を選んでくれれば安心できる」

それならば、シュンがマールを選ぶと言う選択肢もあるのではと思うかもしれないが、マールはきっとシュンを選ばない。

マールにとってシュンは“主人”だ。

付き従い役に立つ事を至上としており、決してどうこうなりたいわけではない。

「…はずだ」

「はずってなんだ」

「シュンがマールを選んだ場合、マールは拒否権があっても拒否はしないだろうからな」

好いてようが好いてまいが、主人の役に立てるならと喜んでその身を差し出すだろう。

「…あれはもう信者だからな」

「……」

「まぁ、ぶっちゃけ俺はシュンがマールを選んでも反対はしない。あいつなら誠心誠意シュンを大事にするだろうからな」

「俺の味方じゃなかったのかよ」

「そうだな、どちらかというと、シュンの味方とだけ言っておこう」

「…因みにだが」

「まだあるのか?」

「ニノは?」

「論外だ。以上」

変態はお呼びではない。

そもそも、ニノの本命は別にいるし、シュンがニノを選ぶとは思えない。

よって議論の余地無しである。

ここでグレンの名が挙がらなかったのは、彼が全員と一線を引いているからだ。

居候でいつか出て行く身だからと、深く関わろうとしていないため、シュンも積極的に絡もうとはしない。

勿論仲間外れなどはしていない。

一定の距離を保っている。

その二人が色恋沙汰を起こす事は無いという判断だ。

「そもそもグレンはボイン好きだ」

「知ってる。時々エクシャを見てるからな」

そしてマールに度々睨まれている。

一番の安全牌だと言っても過言では無い。

兎に角、自分の気持ちが暫くシュンにバレないよう抑えるようにするのが当面の目標である。

しかし、シュン帰宅後速攻で半分くらいバレるのは数日後のお話である。


その日の夜。

全員が各々の部屋で思い思いに過ごしている頃、シンはまだ水晶を覗き込んでいた。

自分の気持ちを知ってしまったら余計に会いたくなるものである。

「何してんだ?」

既に就寝の時間であるにも拘わらず、同室の女性を起こさぬようにシュンは部屋を抜け出した。

影に隠れて辺りを見回すと、魔法を発動させた。

「移動魔法!」

まさかと思い廃城内に魔力探知の魔法を張り巡らせれば、玄関ホールにその気配はあった。

「!」

シンも移動魔法を使い、玄関ホールへと飛ぶ。

「あれ?シンだー。反応早いね」

「…強力な魔力が現れれば分かる」

決して水晶を見ていたからなどと、言えるわけがない。

「流石だね!」

ガラスの玉越しではなく、目の前にシュンが居ることがとても嬉しくて、気持ちが弾むのが分かった。

これまでシュンの側に居て感じていたのは、安心であった。

それが自覚した途端、まるで心臓や心が別のものに入れ替わってしまったかのように感じる。

「明日でいいからフレイザー閣下に伝言をお願いしたいんだけど」

「伝言?」

いつもと同じように振舞っているつもりであるが、挙動不審になっていないか不安になる。

リビングにみんなを集め、シュンは城攻めのタイミングの変更や、当日の手順などを説明して直ぐにシグアナ国に戻ると言い出す。

自分の知らない相手と笑い会う姿など見たくない、そう思っても口には出せず、何も言わず見送った。

表面上はいつもと同じだったとレイルに言われ、ひとまず安心するが、これから先が問題だ。

(…今まで通りやって行けるのか?)

不安しかないシンは、今夜は眠れなさそうだとレイルに借りた本を読む事にしたのだった…。


翌日、シュンの伝言をフレイザーに伝え、その返事をシュンへと伝える為にシグアナ国にやってきたシン。

変装用の兵士の服に身を包み、シュンを探す。

と言っても水晶のおかげで何処にいるかなどすぐに分かる。

城の裏で薪割りをしている姿を見て、手作業でも器用だななどとあまり意識しないようなことを考えながら近づいた。

「シュン」

「あれ?シン!?どうしたの?」

似合わない恰好に思わず吹き出しそうになるが、それは耐えてみせた。

「フレイザーからの返事だ」

そのことか、と話を聞く態勢を取ろうとしたとき、

「シュン!」

と最近では聞き慣れてきた声が聞こえ、シンは反射的に木の上に姿を隠した。

「ダンテ、どうしたの?」

「シュン、昨夜どこ行ってたんだ?」

昨夜、シュンが廃城に戻っていた時に訪ねてきたようだ。

夜中に女の部屋に来るとはどういう了見だ、と思わなくもないシンであるが、自身も身に覚えがある為何も言えない。

「昨夜?寝てたよ」

「訪ねに行ったら居なかったじゃん」

表情一つ変えないシュンを見て、自分もあれだけのポーカーフェイスができないものかと思案する。

「何時くらい?一回トイレに起きたけど、その時かな?」

「多分その時かもしれないな。同室の人はぐーすか寝てたけど、シュンのベッドはもぬけの殻だったぞ」

「…取り敢えず他の人に見つからなかったことは褒めてあげるよ。それで何の用だったの?」

「え!?」

「え?」

なぜ驚くのか、シュンが首を傾げているが、用件は察しているのだろう。

あくまでダンテの気持ちには気づいていないフリをしているのだ。

ほんのりと頬を染め視線を彷徨わせるダンテをみて、シンは「自分もああなってるんじゃないか」と不安になった。

「やっぱいいや」

と何も言わずにダンテは帰っていった。

木を見上げ

「もういいよー」

とシュンに声をかけられ魔法で木から降りた。

「…なんだあいつ?」

素知らぬ顔を決め込むつもりが、ダンテの去った方を睨むように見てしまったことに、内心慌てたがシュンは気にしていないようで胸を撫で下ろす。

「年の近い女の子が私しか居ないからね。気になるんだよ。お年頃だから」

(…それはつまり…今の俺と同じって事で、そんな奴と毎日顔を合わせてると情が移るんじゃないのか?)

シュンはそういう奴だ。

相手がダンテでないとしても、ほっとけない、と廃城を飛び出す日が来るかもしれない、などと薄暗い気持ちでいると

「それで、閣下は何て?」

と、シュンはシンを現実に引き戻した。

「あぁ、数日なら予定を繰り上げる事は可能だそうだ」

「それは何より」

王侯貴族共に逃げ出す隙など与えてやるものか、とニヤリと笑う姿は実に子供らしくない。

(…こういうところは、少し怖いな…。俺の考えが及ばない事を考えている顔だ…)

時々あるのだ。

自分は決して頭は悪くない方だと思っている。

しかし、シュンは更にその先を行っている。

魔法では僅かに勝っているが、思考は追いつけない。

何を思い、何を考え、どう行動するのか、予測がつかない事が多々ある。

だから出来るだけその考えを知りたくて、側にいたいと思うが…。

「で?必要な事は揃ったんだからいつまでここで薪を割ってるつもりだ?」

「んー?このタイミングでいきなり辞めますなんて怪しすぎるでしょう?だからギリギリまで居るよ。どうせ避難勧告なんて出ないだろうから」

間違いなく出ないだろう。

そうなった時、もし作戦に全ての兵士が乗らなければ、フレイザー達が到着する前に、降伏した者としなかった者の間で戦いが起きるだろう事は予測できる。

それをいち早く感知し、止めるつもりだろう。

もしくは、念には念を入れ、沢山の兵士が降伏するように仕向けるための時間と言ったところだ。

「…」

「めっちゃ不服そうな目。なに?寂しいの?ハグしてあげようか?」

こちらの気も知らずに茶化すようにニヤニヤとするシュンに、ムッと口を尖らせて見せると、謝罪を口にしようとしたので、仕返しにとその腕を勢い良く引いた。

「わっ!?」

「…」

自分より遥かに低い身長は、彼女がまだ子供であるという事を指している。

でも、今自分の腕の中にシュンが居ることがどうしようもなく嬉しくて、回した腕に力がこもってしまう。

思わぬ事に一瞬戸惑った様子のシュンであるが、慣れてきたのかポンポンと背中を優しく叩いてきた。

「…シン…あのね」

「…なんだ?」

「…すごく言いづらいんだけど…」

「だからなんだ?」

シンの腕の中でモゴモゴとシュンは遠慮がちに話していたが、ばっとシンから体を勢いよく離した。

「もっとご飯食べな!なにこのウエスト!?もやし!?肉どこいった!?私がご飯あげてないみたいじゃん!!」

がっしりとウエストを掴まれ、びくりと心臓が跳ねた。

「おかしい…おかしいよ!?ここの子達の方が余程貧しい食生活なのに!?帰ったらシンだけ特別メニューにするから!肉肉肉の特別メニューにするから!!」

なぜ今そんな事を言われなければならないのか、とシンはゲンナリとシュンを見下ろした。

「……ここで言うことがそれなのか…」

「あと、グレンとニノに頼んで筋トレメニューも組んで貰うから!」

「……」

「ハグして骨がゴツゴツ当たるなんて最悪だよ!抱き心地最悪だよ!!」

「……」(…最悪…)

“最悪”

思いを寄せていると分かった相手に、決して言われたくない言葉である。

ズバズバズケズケと人の体型にケチをつけるシュンのトドメの言葉は

「もやしめ!」

であった。

「もういい、帰る…」(…もやし…)

シンは酷くショックを受け、これ以上何か言われる前にと、そそくさと退散した。

暫くシンがいたところを見つめ、誰もいなくなったその場で

「…私だって寂しいよ…」

と零した声は、決して誰にも聞こえていないはずだった。


「っ!」

戻ってすぐ水晶を覗いていたシン以外には。


シュンにフレイザーの伝言を伝えてきた事をレイルに報告した後、少し様子のおかしいシンに首を傾げたレイル。

何かあったのか問えば

「もやしと言われた…」

とどんよりとした空気を醸し出し、予想外の返事が返ってきた。

「…ぶっ!」

意味を理解したレイルは耐えきれず吹き出してしまい、ギロリと睨まれることになる。

「っんん!まぁ、うん…もやしブフっ!」

「……」

ガンッとレイルの後頭部に分厚い魔道書が直撃した。

犯人は言わずもがなである。

本人が気にしている事を笑ってしまったのだから、痛みに悶えてはいるが、文句は言わない。

「いてて…いや、うん。悪かった」

「…レイルも魔法使いだろう?普通だな」

体型のことを言っているのはすぐに分かった。

レイルは確かに魔法使いではあるが、シュンやシン程魔法は使っていない。

昔は覚えた魔法を試したくて、隙あらば使っていたが今はそこまではしゃぐ年齢でもないのだ。

「魔法を使う頻度を減らすか食事の量を増やせば済むことだ。気にするな」

そう言われても気になるものは気になるのだ。

これまで何とも思っていなかったことが、少女の一言でここまで乱される事になるとは思ってもいなかったシンは、今後の自分に激しく不安を覚えるのであった…。


戻ってきたシュンに速攻で自分に好きな相手ができたとバレてしまい、慌てふためくのはこれから数日後の話である…。








いつもありがとうございます(*´・∀・)*´-∀-)


本日で連続投稿は終了となります。

お付き合い頂きましてありがとうございました。

次回は5月12日の投稿となります。

まだまだ続きますので、お付き合いいただければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ