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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
31/71

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「大公殿、噂の黒の一団の姿が見えないようですが?」

「うむ。シグアナ国の内情を知らせにきてくれていたので、既に潜り込んでいるやもしれませんな」

某月某日。

実に春うららというに相応しい晴天に恵まれたその日は、元同盟国であるシグアナ国へと攻め込む日であった。

同盟各国の兵士が一同に集い、出発を待っている。

いや、正確には既に目と鼻の先であり、あとは国境を越えるだけとなっている。

すぐ向こうには村が見えている。

噂ではフレイザー・アーリッシュが黒の一団と契約し、この戦争に参戦すると広まっていたがここに来てもまだ姿を見せない事に、噂は噂であったか、と各国の将軍達は鼻で笑った。

もと平民が見栄を張ったのだろうと。

とは言え、小国を大国にのし上げたフレイザーの実力は誰も蔑ろになどしない。

寧ろお手並み拝見、そしてその手腕を参考にさせてもらおうと思っている。

村へと辿り着いても未だ敵軍の姿は見えない。

村人が様子を見ているのみだ。

しかも、聞いていたよりも活気がありあちらこちらで炊き出しが行われている。

怪訝に思い、辺りを調査させようとしたその時、1人の少女とその付き添いと護衛が駆け寄ってきた。

その腕にはくまのぬいぐるみが大事そうに抱えられている。

「あの!フレイザー・アーリッシュ大公様はどちらですか?」

幼い少女から出た自身の名に驚き、フレイザーは馬から下りると片膝をつき少女に向き合った。

「私がフレイザー・アーリッシュだ。何かご用かな?」

少女は目を輝かせ付き添いにくまのぬいぐるみを預けると、見事な礼をしてみせた。

「この度は我が国をお救い頂きありがとうございます」

と。

はて?である。

今しがた到着したばかりでまだ何もしていない。

しかし、少女は更に続ける。

「お城を開放して食料の分配をしてくださったおかげで、こうして食事が出来ております。領民を救って頂きありがとうございます!」

キラキラと瞳を輝かせている少女には申し訳ないが、フレイザーには全く心当たりが無かった。

あるとすれば黒の一団だ。

ここに居ない彼らが何かしたとしか思えなかった。

なんと答えて良いものかと逡巡していると、青く晴れた空に大きな何かが現れた。

フレイザー及び兵士達は驚きにどよめくが、フレイザーには直ぐにそれが何か分かった。

(やはり、か)

大きな映像は国中に出現し、城の現状を今朝から時折配信しているのだと少女の付き添いが話してくれた。

映像には紐でぐるぐる巻きにされた王家一族及び、貴族達が映し出されている。

「!?」

その映像にフレイザーはまさかと衝撃を受ける。

『ご連絡致します』

(シュンの声か)

少女の声で紡がれる現状とはと、耳を傾けると

『ただ今同盟軍が進軍してきました。抵抗する者は武器を取ってください』

と驚きの音声が流れた。が、

『投降する者は武器を捨ててください。彼らは味方です』

と続きホッと胸を撫で下ろす。

自分達の到着を知ったという事は、この村の何処かに水晶が設置されているのだろうと、それらしきものを探そうとキョロキョロあたりを見回せば、スッとフレイザーの前に水晶が現れた。

『閣下、こっちだよ』

画面はぐるぐる巻きの王侯貴族からフレイザーの姿へと変わり、周囲からはどよめきが起きた。

「ホッホッホッ!やりおったな!」

『はてさて何のことでしょう?』

「無血の戦!国民誰一人として傷つけず、城を落とすとは!恐れいったぞ!!」

『参戦しろとは言われたけど方法までは問われなかったからねー。いやぁー半月以上の潜入は骨が折れたよー。楽しかったけど』

一先ず首謀者の王族とその周辺一帯全てを確保し、城を開放。

食料庫は全ての領に住民の数に応じて振り分けたところまでは終了している。

よって、食料庫は空になってしまったので、次の収穫までに補填が必要である。

『と言うわけで、補填は宜しく。大事な兵士が一人も欠けなかったんだから余裕でしょ?』

挑発的な物言いではあるが、確かに被害はゼロに抑えられた挙句、このまま何もしないと言うのも恰好がつかない。

一部城へと向かう兵士を残し、その大半は食料を確保するためにそのまま其々の国に取って返す事になった。

其々の大将と十数人の兵士を連れて国の首都を目指す間も通信はそのままだ。

「では、シュン。やることのなくなった私達に何をしたのか話してもらえるかな?」

『退屈しのぎ?まぁいいよ。数日前に一回だけ閣下に報告した日があったでしょ?』

「うむ。国王や貴族たちが逃げ出そうとしていると言っていたやつだな」

『そうそう。それから後のことなんだけど……』


国を捨てるのだから思い残すことのないようにと、国王一家の散財は更に激しさを増した。

晩餐会も毎夜行い、後一週間で元同盟国が攻めてくるとなった日。

国王は兵士を集めそれらしい演説を行い、死地へと送った。

勿論、あの少年兵達もだ。

実戦など初めてで、彼らが顔面蒼白で出発するのをシュンは見送った。

そしてその晩も最後の晩餐会が開かれた。

最後ということもあり、その参加者はこれまでの比ではなかった。

つまり、国を蔑ろにしてきた貴族達が一堂に会したのだ。

逃げ出す準備は万端。

明日の昼頃には国を出ており、一週間後に敵が攻めてきた時はもぬけの殻であると声高らかに笑っているが、それが本当に“最後の晩餐”となる事を彼らは知らない。

宴もたけなわ、さぁ明日からの新しい門出に乾杯。

そして解散だという時、一人の婦人が異変に気付いた。

「さっさと開けなさい!役立たず!!」

「申し訳ございません!ですが、押しても引いても扉が開かないのです!」

騒ぎを聞きつけ、片っ端から扉や窓、バルコニーへの扉などを開けようとするがびくりとも動かない。

数人がかりで押しても引いても開く気配がなかった為、終いには椅子を投げつけ扉を破壊しようとするが擦り傷一つ付かない。

「なんだ…これは!?どうなっている!!」

「おい!誰か開けてくれ!!」

「お父様、どうなっているのですか!?」

「分からん!おい!誰か!?外にいないか!?」

扉をどんどん叩き、外に居るはずの護衛に声をかけるが返事はない。

早く開けて!外に出して!とヒステリックに叫ぶ女性たち。

しかし、ついに扉は開かれなかった。

結局一夜を明かし、明け方頃である。

ご機嫌な鼻歌が会場に響いた。

こんな時に誰が歌っているのかと、次々に起き出す貴族たち。

いつもは国王が座ってるいるはずの椅子に、見知らぬ少女が鎮座していた。

「おや、皆さん。おはようございます。とっても良い天気ですよ。城落としにはぴったりの晴天だね」

「なっ!城落としだと!?誰だ貴様!?」

黒い衣服に身を包んだ少女は、笑顔を絶やさずに、席をたち胸に手を当て紳士の礼をしてみせた。

「私の名前はシュン。フレイザー・アーリッシュ大公閣下のご依頼でこの国を落としに参りました、黒の一団の代表です」

「なに!?あの元平民の男の依頼だと!?」

「まて、黒の一団とは、最近噂に聞く?」

「まだ子供ですわよ」

騒めき立つ集団から、一人の少女が前に出た。

国王の娘だ。

「私の父はこの国の王ですのよ?それにここはあなたのような子供がいて良い場所ではありませんわ。さっさと退室なさい」

「国王だったのはさっきまで。今から死刑囚です」

「なっ!何ですって!!」

当然だ。

国を蔑ろにして、好き放題やった挙句同盟国に散々迷惑をかけたのだ。

「国民が王家の為に尽くすのは当然ではありませんこと?王家あっての民だと言う事をお忘れではなくて?」

援護をしているつもりなのか、王妃がさも当然だと前に出ればその娘も強気に出る。

そして貴族達も「そうだそうだ」とくってかかる。

税金が上がれば日々貧しくなっていく国の民が、食うに困り餓死することなど容易に想像できる。

そんな事も分からず、ここに居る者たちは間接的に人を殺しているのだ。

「数え切れないほどの人を殺したのに、死刑にならないわけないでしょ?」

「そっ!そんなの知りませんわ!私は外に出たことがありませんもの!!教えられていない事を知るわけがないではありませんか!」

そんなの当然でしょ、あなたバカなの?と言わんばかりの態度に、ひどく呆れてしまう。

「はいはい、そんなの理由になりませんよ元お姫様。貴女より遥かに幼い地方領地のお嬢さんは、親に何も聞かされてなくても自分で見て自分で考えて行動してたからね。あの子の方がよっぽどお姫様の素質があるよ」

「な、なんですって!!」

怒りのあまり振り上げた右手。

美しく鋭く磨き上げられた爪に当たったら痛いかななどとのんびり構えていると、元姫の右手は宙で止められた。

「避けてくれ」

「今避けようと思ってた」

嘘つけと息を吐いたのはマールであった。

いつの間に現れたのか、マールだけでなく、シン、レイル、エクシャ、グレン、ニノも会場に揃っていた。

「痛い!痛い!痛い!離しなさい無礼者!」

「貴様!我が娘になんたる事を!」

「…問題ない。“まだ”折れてない」

「っ!」

更にぎりりと力を入れれば元姫は金切り声を上げて叫んだ。

「うるさいぞ」

眉をひそめるシンに肩を竦めて見せ、マールは仕方なくその手を離した。

「折って差し上げても良かったのに」

「エクシャ、そんな綺麗な笑顔で言うセリフじゃないよ」

「…褒められた」

“綺麗な笑顔”の部分だけ都合よく聞き取ったエクシャがほんのりと頬を染め、喜びに浸っていると

「エクシャ、難聴?」

とニノに茶化された。

黙れと言うようにニノの脇腹をゴスッと殴りつけると、ニノは両膝をついて蹲る。

「ぐぅ…待ってめっちゃ痛い…」

「あら、まだ三割程の力しか出してないですよ?」

「えぇ!?これで三割!?…まじかよ…」

あまりの痛がりように周囲は冷や汗を流している。

気を取り直そうとシュンは一つ咳払いをし、高らかに宣言した。

『現時刻を持って、ロザリール国フレイザー・アーリッシュ大公閣下の名のもとに、シグアナ国国王及び貴族達は拘束する!国王に忠誠を誓い救わんとする者は武器を取れ!我ら黒の一団が相手になる!だが戦いを望まぬ者は武器を捨てろ!直に進軍してくる同盟国軍に降伏されたし!彼らはこの戦争を好んでいない!繰り返す!戦いを望まない者は降伏せよ!』

「?」

国王や貴族達は気づいていない。

この一連の流れが録画水晶により、全国に配信されている事を。


「どう言う事だ?何が起きている?」

「戦わなくていいのか?」

「さっきの声…シュンじゃなかったか?」

「だよな?俺もそう思った」

前日にシュンが見送った少年兵達もしっかりと空に映る映像を確認した。

映像には王族と貴族しか映されていないが、声は鮮明に入っている。

突如現れた映像を信じていいものなのかと、戸惑っていると、再び映像が動いた。


「この国の民は国王である私の物だ!兵士たちよ!命令だ!私を救い出せ!!」

窓の外に広がる映像に気づいた国王は、自分たちの姿が映し出されているのなら、兵士に命じて救出させようと考えたのだ。

が、映像は三度入れ替わる。

それは数日前のものであった。

国王、王妃、姫の三人が城の財宝を運び出し、これからの事を話しているものだ。

兵士を囮に自分たちは逃げだす算段をしていた。

財宝を手土産に妃の実家に世話になるのだと話している。

「こんな王様を助けたいなんて思う人、いるかね?」

「な、な、ななんだと言うのだ!私が一体何をしたと!!」

「何もしなかった。だからこんなことになったんだよ。奥さんや娘のいいなりになって周囲の声に耳を塞ぎ、国の現状を遮るように目を閉じた。何もしなかった代償がこれだ。腹をくくれ。もう助けは来ない」

「そんな…」

国王が膝から崩れ落ちた瞬間、

「いや、まだだ!」

貴族達はテーブルのナイフやフォークを手に、怒りと殺気に満ちた視線を一団へと向ける。

「お前たちを殺して逃げればまだ間に合う!」

所詮は多勢に無勢。

数には敵うまいと言う考えのようだ。

「…え?バカなの?」

全国配信中に何言ってんだと耳を疑うが、彼らにはもはや、何がなんでもここから逃げると言う選択肢しか残っていないようだ。

「全く」

「だから縛り上げろって言っただろ?」

シンとレイルからは呆れた声が漏れる。

「一応元王様への最後の敬意だったんだけどねー」

「シュンちゃん、ヤってもいいの?」

「殺しちゃダメだよ。“死”なんてそんな楽な道、態々与える必要ないよ」

「捕まった後は死んだほうがマシな目に遭うわけか…。悲惨だな」

「王族は死刑かもしれないけど、貴族の皆さんは民の為の重労働が待ってます!」

僅かな食事と休息で採石場や伐採場、鉱石採掘などきつくて辛いが民のためになる仕事が待っている。

苦しめられた民の為に、働き手となり償うのだ。

「誰がそんなところに行くか!」

ナイフやフォークを片手に男達がシュンへと向かった。

一番小さく一番弱そうだ。当然の選択だろう。

が、明らかな選択ミスだ。

仕方ないから縛り上げるか、といつものように指を鳴らすポーズをとったところ、それはシンに止められた。

「?」

「少しくらい痛い目を見たほうがいい」

本当に良いのか?とレイルを見れば一つ頷いて許可した。

武器を使うわけではないし、問題ないだろう。

四人に任せて座って居ろ、とレイルはシュンを抱き上げ国王の椅子へと座らせた。

それに食ってかかってきたのは、あの姫だ。

「お退きなさい!それはお父様の椅子ですわよ!」

「元、な」

「っ」

シンは椅子の背もたれに肘を置き、姫を見下ろす。

「そろそろ吠えるのを止めろ。お前の声は頭に響く」

本当に頭に響いているのだろう、レイルは椅子の肘掛に軽く腰掛け眉間を揉んでいる。

「無礼者!先程から我ら王族に対し何という無礼!あなた方は全員死罪よ!!」

「やれるものならやってみろ」

現状を理解できないのか、理解しようと言う気がないのか、はたまた受け入れられないのか、キンキンと響く姫の声は確実にシンとレイルの苛立ちを増幅させるばかりだった。

「これまで蝶よ花よと育てられてきて、花が咲き乱れたお姫様の頭では理解出来ていないみたいなのでもう一度言う」

「この国は終わった。お前はもう王族ではない。国王夫妻は死罪。何も知らなかったを貫けばお前は良くて平民落ちだ。これが理解できたらもう黙れ」

「っ!うそ…うそですわ!そんなの死ねと言っているのと同じじゃ」

「分かってるじゃないか」

「…へ?」

「憎まれた王族の平民落ちは、これまで虐げられてきた国民の怒りのはけ口になる。侮辱され凌辱され嬲られありとあらゆる復讐をされ最後は野垂れ死ぬ。ある意味スパッと殺される国王夫妻よりも酷い。が、うまく誤魔化し他国に逃げ延びることができれば、生き延びるだろう」

「水晶の映像で顔がもろにばれてるから逃げ延びるのは無理だと思うがな」

「……!!!!」

絶望を突きつけられ漸く黙った姫に、若干同情しつつもまた騒ぎ出したら面倒だ、とマールとエクシャ、グレンとニノが気絶させた貴族諸共魔法で縛り上げた。

「さて、と」

シュンは縛り上げた王族と貴族を映像に映し出し、完全に捕獲が完了したことを国民に知らせる。

それと共に城の食料庫の開放を知らせ、城に居る使用人達や護衛として残っていた兵士たちに分配の手伝いをさせた。

地方の領土へは、予め調べておいた領民数だけ魔法で移動させ、一先ず役目を終えてフレイザー達の到着待ちとなったのだ。












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