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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「と、言うわけで今度戦争に参加することになりました!」

リビングで高らかに宣言するシュンにレイルは頭を抱えた。

「レイルが頭抱えるの久々に見た」

「うるせぇよ。誰のせいだと思ってんだ」

シンとグレン、ニノは「本気か?」と問いたそうにシュンを見ており、マールとエクシャは「シュンがやるならやりますよ」と既にやる前提となっている。

「交換条件として、ルークと銃の行方の捜索をお願いしてきた」

「本当に?」

予想外の話の行方に、グレンとニノは目を丸くして驚いた。

が、驚きの後にやってきたのは「この世界のどこに居るかも分からない奴を探せとは、老人に酷な頼み事をしたもんだ」と言うフレイザーへの同情だ。

ルーズランス国周辺五カ国の何処かにいる事は、シュン、クー、フレイザー以外は勿論知らないわけで、はたから見ればイジメとも受け取れる条件である。

「…まぁ、それはいいとして」

レイルにとっては、正真正銘自身の自宅を半壊した相手である、半分ザマァ見ろと思いながら話を戻す。

戦争とはどう言う事か、と。

シュンはフレイザーから聞いた話を同じように話し、そして実は既に作戦も考えていると言う。

大まかに作戦を伝えれば、“戦争に参加する”と伝えた時、良いとは言えない反応をした者たちも、そう言う事ならばと首を縦に振ってくれた。

「進軍は一月後だよ。それまでになんとか情報を集めよう。あと、民衆を動かす為の“噂”も同時に流していくよ」

「了解した」

全員が頷いたのを確認したあと、この場は解散となった。

「そうだ、シュン」

「なに?レイル」

「今日ギルドで聞いたんだが…」

あまり良い話ではないのか、レイルの表情は少し暗い。

身構えて聞けば、シュンの眉間にも皺が寄る。

「じゃぁ、ギルドがあの雪国の獣人の村を襲うっていうの?」

「あぁ。盗賊から情報を得たギルドが、獣人は脅威だからと殲滅するらしい」

「いや、意味わからんし。あの人たちが何したっていうんだか」

その作戦に“黒の一団”も参戦して欲しいと頼まれたそうだが、「俺たちはそんな名前じゃない」と断ったという。

そもそも誰がそんな名前を付けたのやらである。

「その作戦ていつ?」

「明日の朝一だ。日が昇りきる前に襲撃するらしい」

「うわぁ…腐ってるねー。うーん…どうしようかな?」

今回介入してもまた襲ってくるだろ。

それこそいたちごっこのように。

かといって何もしていない獣人達を見捨てると言う選択肢はない。

「いっそみんなでこの森に引っ越して来てくれれば良いのにー」

「…人間のそばで暮らすのは嫌がるだろうな…」

「何はともあれ、獣人の村に行って、警告してくるよ」

「俺も行こう」

レイルの申し出に頷くと、早速村へと向かう事にした。

他のメンバーも同行しようかと言ってきたが、今回は話をしにいくだけだからと断り、二人は移動魔法で村の側まで飛んだ。

村へと入ると突き刺さる嫌悪や不快の視線が遠慮なく飛んでくる。

視線を向ける人々の中には、あの水疱瘡だった幼い少女とその兄の少年の姿もあり、嫌悪や不快なものではなく、僅かながら好意のある視線である。

それをスルースキル全開で村の責任者を呼びつけると、村長と呼ぶにはガタイの良い男が頭にウサギの耳を乗せて姿を現した。

(…シュールだ…全然萌えない…)

と失礼極まりない事をシュンが考えているうちに、レイルが話を切り出した。

ギルドでの話をそのままに話し、一刻も早くここを立ち去れと。

「故郷を追われ、漸く手に入れた住処まで奪うか…。貴様らも人間だろう。なぜ我らに与するような言動をとる?」

「この娘が気にするからだ。俺はあんたらなどどうでも良い。ついでに他の人間もな」

家族以外は“その他”だと言い切ったレイルに、うさ耳の男は、このような人間も居るのだなと頷いた。

「そうか、忠告は受けよう。しかし、我らには行くところなど無いのだ」

ここで戦うしか無いのだ、とシュン達を取り巻く獣人達に順に視線をやった。

ここを守ろうと、頷きあう。

「一つ提案なんだけど」

意を決し抵抗するぞと言う時に、響いた少女の声に視線が集まった。

「ここより広い森がうちの庭にあるから、村ごと引っ越すのはどう?」

「…おい」

それを提案するのかとレイルは呆れた。

獣人が人間と生活などするわけがない、と。

「…しかし人間と生活など」

それ見ろとレイルが溜息を吐く。

「よく考えてみて。戦える大人はともかく、子供たちは?道連れにするの?」

「…子供…。我々が勝利すれば関係ない」

「この前の野盗達より大人数で強い人達が来るんだよ?野盗達に苦戦していたのに、今回勝てるとは思えない。目に見えて全滅だよ」

「…っ!!そんな事はっ!」

「分かってる?分かってたら、“勝利すれば”なんて言わないよね?むしろ、もう全滅して楽になりたいって思ってない?」

「ー!!っ人間の子供に何が分かるっ!?」

「子供を道連れに死にたいなんて言う奴の思考なんて、分かりたいとも思わない。みんなで助かる方法を蹴って、みんなで死ぬ方を選ぶ奴の考えなんて微塵も分かりたくないね」

子供とは思えない低音と視線にうさ耳の男は背筋が冷えた。

みかねたレイルが、落ち着けとシュンの頭を軽く小突く。

シュンは瞬きを数回したのち、自分が熱くなっていることに気づき、大丈夫だと、レイルの方を見てヘラリと笑ってみせる。

「提案は蹴られたわけだ。俺たちにできる事はもうない」

帰るぞとレイルが踵を返した時、周囲を囲んでいた獣人の子供達が動いた。

あの兄妹だ。

「あ、あの!」

「ん?おや、良くなったね」

幼い妹にできていた水疱は綺麗に無くなっており、前回は兄に抱きかかえられていたが今回は兄に手を引かれ自分の足で歩いている。

(うわぁー!超かわいい!ショタとロリの獣耳!!抱きついたら怒られるかな!?)

「この前はありがとう!」

「ありあとー!」

「!」

これは予想外であった。

薬を盗んだのを黙っていた事か、野盗から守った事かどちらに対する礼か、両方に対する礼なのか。

そのどちらにせよシュンは、二人の可愛さにハートを撃ち抜かれ

(よし、明日は私が守ってあげるからね)

とあっさりと決めるのであった。

「どういたしまして」

兄妹の頭をそっと撫でようとすると、妹は嬉しそうに受け入れ、兄の方は少しびくりと肩を揺らしたが、優しい手つきで撫でればホッと肩の力を抜いた。

周囲からは警戒する気配が漂ってくるが、シュンはそれどころではなかった。

(うほぉー!!耳ふわんふわん!髪の毛も人間と全然違う!!もこサラぁー!!おほおぉーーー!!お尻でパタパタしてる尻尾ぉ!!!ギュってしたい!ぎゅぅっってしたいぃぃーーーー!!!お巡りさんに捕まってもいいからぁぁぁー!!!!)

と言う心の叫びをポーカーフェイスで何とか押さえつけ、名残惜しそうにその手を離した。

「…ごめんね」

純粋な瞳で見てくる幼い兄妹を前に、心の中のいたたまれない叫びが罪悪感となり、ポーカーフェイスを崩さぬように絞り出した謝罪。

何を勘違いしたのか、レイルを含め周囲の大人達は眉間に皺を寄せた。

(…シュン、その子達を見捨ててしまうと思ってるのか…)

これ以上一緒にいない方がいいと判断したレイルは、シュンを抱き上げると、

「邪魔したな」

と一言残し帰っていった。

二人を見送ったうさ耳男は、心なしか後悔を含んだ眼差しでシュンに礼を述べた兄妹を見た。

そして直ぐに、明日の朝に備えるのだと解散を促した。


廃城のホールについてもシュンはレイルの腕に抱かれ肩に顔を埋めたまま微動だにしない。

出迎えた面々がそれを見て驚きを隠せないでいた。

「…レイル、どうしたんだ?」

ただ事ではないシュンの様子にメンバーを代表してそっとレイルに問うシン。

「…獣人達は戦う道を選んだ」

それだけ言えば全員が理解したのだろう。

彼らがもう助からないことを。

それをシュンは憂いているのだ、と。

が、しかし、

(うわぁー可愛かった!超可愛かった!すごいモコモコだった!持って帰りたいー!でもそれってやっぱり誘拐だよね?!)

実際のシュンの内心を覗くと何ともがっかりするものであり、心を読む魔法がなくて良かったとこの時ばかりは思う。

何とか平常心を取り戻したのち、漸くレイルの腕から降り

「…みんなただいま」

それだけ言うとポーカーフェイスが崩れないようにそそくさと自室へと向かった。

その言動がまた、シュンは今とてつもなく落ち込んでいるという誤解を招き大人達を困惑させるのであった。

「シュンがあそこまで獣人に肩入れするなんてな…」

自分たちでは考えられないと、グレンはシュンが去った方に視線を向けた。

「俺たちは子供の頃から“獣人は凶暴凶悪な獣”として教えられてきたから、仮令全滅しても戦う道を選んでも“そうなのか”としか思わないが、シュンはそうじゃない。見たままを素直に受け入れるんだ」

魔法ばかりを教え、そういう事を教えてこなかった自分の責任であるとレイルは目を伏せた。

それを弁護するように、マールが口を開く。

「いや、あれだけの本を読んでいるし、シュンは聡明だ。獣人の事くらい知っていたはずだ」

「私もそう思います。それを知った上で受け入れたのだと…」

確かにそう考えた方がしっくりくる。

自分たちの中で一番幼いが、一番聡明だ。

思慮深く、自分たちのどんな過去もコンプレックスも全て知った上で受け入れてくれる。

獣人達の事も知った上で受け入れていると考えるのが自然だ。

「…なんとかしてあげられない?」

自分の性的嗜好さえ向き合ってくれている少女に何か出来ないかと問うニノに、シンから何とも物騒な返答が返ってきた。

「…できる事はあるが、ギルドを敵に回すことになる。そうすればもう仕事も貰えないし、下手すれば全員指名手配だ」

レイルは漸く自由になったのに、また髪と髭で顔を隠す羽目になるが…。

「俺は構わない。元々無かった自由だ。惜しくはない」

失っていた自由がシュンやみんなの協力で取り戻せたわけだが、元々無かった物だと思えばなんてことも無いし、それ以上にシュンには恩があるとレイルは“参戦”を決意する。

「それは私もマールも同じです。シュンがいなければ今頃どうなっていたことか…」

「そうだな。寧ろ、滅多にないシュンの願いを叶えてやれるチャンスだ」

エクシャとマールも、元々は奴隷で自由とは程遠い生活であったし、貴族からの解放の後も、“本当に自由”になる為にシュンは自分の“命”をかけた。

これしきの事叶えられず“主人”と呼ぶ資格など無いと、何でもする所存だ。

「初めに言っておく。ニノとグレンは付き合う必要はない。今回ばかりは巻き込まれたら最後、二度と騎士団に戻れなくなるからな」

自分が参加するのは当たり前だがお前達は違うと、言わんばかりのシンにグレンとニノはムッと口を尖らせる。

「フレイザー閣下の件の時、俺たちは一度は覚悟した。あの時はランスロットの口利きやシュンの機転で何事も無かったが、それが今回に延びただけだ」

「それに、“誰か”を守る為に騎士になったのに自分の身可愛さに引き下がってたんじゃ何にもならなし、後悔しか残らないよ」

だから、一緒に行かせて欲しい、と。

グレンとニノの覚悟に、シンは逡巡した後頷いた。

「シンこそ、お尋ね者になったら弟に会いに行けなくなるぞ?」

それで良いのか、とのレイルの問いに鼻を鳴らすシン。

「愚問だ。あいつが俺の願いを叶えてきた様に、俺があいつの願いを叶える。兄として当然だ。それに…アスベルは賢い。話せば分かるやつだ」

大事に思っていた実の弟ではなく、血の繋がりのない妹を選んだ事に少なからず驚いたレイルであるが、選ばせるだけの理由がある。

シュンが居なければ、今のシンとアスベルの繋がりは無かったからだ。

明日の朝、ギルドに宣戦布告だ、と内心息巻く一同であるが、それが空振りに終わるとは露にも思っていなかった………。






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