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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
24/71

23

「もうすぐ冬休みだっけ?」

「あぁ、二週間くらいは戻ってくるそうだ」

何の話かとお思いだろう。

これはシンの弟、アスベルの話題である。

二年前のあの日から、時々シュンとアスベルは交流があり、そして、自分の兄としてシンを紹介した結果、アスベルはめちゃくちゃシンに懐いた。

そして兄とはバレていない。

アスベルは将来の為にと、同盟国であるロザリール国へと留学している。

かの有名なフレイザー・アーリッシュ大公が理事を務める魔法学園へ。

それまでは時々会いに行っていたシンであるが、流石にうっかりフレイザーと遭遇してしまう可能性のある場所まで会いには行かなかった。

しかし、冬休みと夏休み、そして春休みの長期休みには故郷のアルファード国へと戻ってくるのだ。

「夏ぶりかぁー楽しみだね!」

「少しは成長してるといいがな」

弟と交流する様になってから随分と大人びてきたシンを、シュンは母親の心境で見守るのであった。

(むふふ、すっかりお兄ちゃんになって)

そんなのんびりとした空気は、来客により強制終了する。

ルーズランス国の騎士が城の結界近くまで来ていると、エクシャから報告があった。

出迎えればそこには既に、ニノとグレンが居り、やってきた一人の騎士と親しげに話をしていた。

「どうぞー」

結界を緩め招き入れると、騎士の他にもフードを深く被り、ローブをまとった人物が一緒に入ってきた。

こっそりとニノとグレンに「だれ?」と問うが二人は首をかしげるばかりだ。

「ほっほっほっ。漸くお目見えかな」

「!?」

その声に、すかさず庇うようにシュンの前にシンが出た。

シュンの眉間にも皺がより、決していい顔ではない事から、エクシャは勿論、仲間が連れてきた人物に戸惑いながらもニノとグレンも警戒態勢に入った。

「何しにきた?」

「まぁまぁ。そういきりたちなさんな」

「よく言うよねー。人ん家半壊しといて」

「おや、私を海に落としたのだからおあいこだと思うがね」

そう言いながら、フードを取ればいつか見た好々爺然とした笑みが現れた。

「…フレイザー・アーリッシュ大公閣下がこんな所まで追ってくるなんてね」

「!!?」

「アーリッシュ大公!?」

国に関わる者ならばその名を知らぬ者はいないと言わしめたロザリール国の大公の出現に、一番動揺したのはニノとグレンであった。

ここで剣でも向ければ自分達の首が飛ぶ。勿論物理的に。

二人は同僚の騎士を見るが、苦笑いで返されるだけで何も言わない。

そのやり取りを見たシュンは悔しそうに歯噛みする。

「…やられたね。ここ二年くらい私達を探してる様子がないから諦めたかと思ったら、人海戦術に切り替えてたなんて」

「…シュン?どう言う事だ?」

「ほっほっほっ。流石だ。この状況だけで分かるとは!」

「私達が接触した人達に自分の部下を使って見張らせていたんだよ。もしかしたらまた接触があるかもってね。そこの騎士は騎士じゃなくて、この人の部下、スパイだよ」

ローコイド家にも潜り込ませていたが、あそこの当主はシュンを利用する気満々だからここしばらくの間関わってない。

「各地のギルドに港町の植物店なんかもそうだ。あなた方を探すよりも接触した人間を探す方が楽だったよ」

「…えー…ウソだろ?ルークに続いてランスロット、お前まで…」

「ははは…悪かったな」

申し訳なさそうに頬をかく同僚にニノとグレンはガックリと肩を落とした。

「それで?何の用かな?」

シンの背中から出ると、横に並びフレイザーを見た。

やるならやってやんよ、の勢いで見据えるが、フレイザーは至極真面目な表情で予想外の答えを返した。

「シュン、君に仕事を依頼したい」

「?…仕事?」

「勧誘したいのは山々だが、こちらも正直お手上げ状態の案件があってね。ギルドに確か登録していたね?だから手っ取り早く名指しで仕事の依頼をしたいのだよ」

じっとフレイザーの目を見るシュン。

嘘かどうかなど分からない。

「…話を聞いてから受けるかどうか決めるよ」

「そうか。それで構わない。しかし、私の孫娘も関わっていてね。孫娘も同席させたいのだが、私の邸に来てくれることは可能かな?」

視線でシンが、止めろと言っているのが分かった。

だが、シュンにはフレイザーに借りがあるのだ。

レイルがギルド長のバジー・ドリスに脅された時、バジーを引き摺り下ろすためにフレイザーを使った。

シュンが出会った貴族の中で最も力があり、最も潔癖であるフレイザーならば直ぐに対処してくれるだろうと確信を持って。

「…分かった」

「おい」

口を挟むシンに、“大丈夫”と視線を送れば、シンは言葉を飲み込んだ。

「もし、そちらの邸におもむき、私たちの誰かに何かあったら邸は全壊すると思ってね。邸内に誰が居ようが…ね」

決して家族は傷つけるなと言えば、フレイザーは満足そうに頷いた。

「先ほども言ったように、こちらも手詰まりでな。誰が味方か敵か…分からない状態なもので、“確実に味方”である者の協力が必要なのだよ。そして尚且つ非常に優秀で、惑わされない人物がね」

「私が優秀かどうかは分からないけど、納得できる仕事内容なら“今回限りの味方”になってあげるよ」

「それは、上々。保護者に相談の上、できれば早いうちに来てもらいたい」

「分かった」

シュンが頷いたのを確認すると、フレイザーはいともあっさり「では待っている」とだけ残し、騎士の姿をした部下の移動魔法で帰っていった。

緊張の糸が解れたのか、グレンとニノは一気にシュンに詰め寄った。

「あんな大物に何で喧嘩腰なんだよ!?」

「下手すれば投獄!更に下手すれば死刑だぞ!!」

「えぇーだってーあの人の部下に前住んでた家壊されたんだよ?そりゃぁ態度も悪くなるよー」

「何やったらそうなるんだよ!?」

「何かやらかしたんでしょう!?」

「違法な事やってた貴族を没落させるきっかけを作っただけで、手を下したのは殆どあの人だよ。私じゃないもん」

だから何もやっていない、と子供らしい子供じみた言い訳だが内容は全然子供じみていない。

普通、貴族を没落させるなんて発想はない。

「…おい、そんな事よりどうするつもりだ?本気で協力するつもりか?」

「…んー…借りがあるしなー…。取り敢えず話は聞くけど…受けるかは内容次第」

「借りって?」

「某ギルド長を引き摺り下ろしてもらった」

「…レイルの件か…」

「そう。貴族が子供の話をまともに受け取ってくれるわけないでしょ?でも、執拗に追いかけてくるあの人ならやってくれると思ってね。だから無闇に断れないんだよ。レイルのためだったし、後悔はしてないしねー。そんなわけだから、シンも無理矢理にでも納得してよ」

「…はぁー…分かった」

「おい、聞いたかニノ…」

「聞いた…。ギルド長を引き摺り下ろすって、普通考えないよ…」

実はとんでもないところに預けられたのだと気づいた二人だが、それはもう後の祭り。

今更行くところなど無いのだ。

よって心から願うのは、

(早く騎士団に帰りたい!)

であった。


「あのじいさんついに来たのか」

「来た来た。それで、さっきの話をしてったの」

ギルドの仕事に出ていたレイルとマールが帰宅すると、“今日こんな事があったよー”と実に軽いノリで話すシュンにシンは珍しく頭を抱えた。

「そんなノリでいいのか?」

「まぁ、最悪またバックレればいいんだし」

「バックレ…」

シュンの物言いに呆れながら、シンは溜息を吐いた。

普段のシンならばここまで心配を表情に出さないが、今回ばかりはその限りではなかった。

何せ一回は敗北した相手である。

シュンの機転が無ければ自分はどうなっていたか分からない。

心配も焦りもある。

「…それで?話を聞きに行くのか?」

シンと同じ心境であると思っていたが、レイルは実に冷静である。

勿論いい顔はしないが、決断はシュンに任せるようだ。

「聞くだけね。その先は後から考える」

「俺も行くからな」

これは譲らない、とシンが強い意思でもってシュンを見れば、シュンは少し驚いて「分かった」と頷いた。

本当は行きたくない事は承知だ。

それでも妹分の自分を守ろうとしてくれている優しさが、シュンは嬉しかった。

「勿論私達も行きます」

続いて挙手したのはエクシャとマールであった。

「邸を全壊させるなら人手が必要だろ」

と言って。

「俺は保護者だからな。行かないとまずいだろ」

乗り気ではない様子のレイルに、シュンは少し目を伏せて「ありがとう」と返し、心の中で「ごめんね」と呟いた。

下手をしたら、またお尋ね者の生活に戻ってしまうというのに。

「俺たちはどうしたらいい?」

居候の身であるニノとグレンは、自分達も行くべきかどうか悩んでいた。

首を突っ込んで騎士団に戻れなくなってしまったら困るが、世話になっている家主が困ってるなら助けたいという葛藤で揺れていたのだ。

「さっきあのじいさんと対面した時点で、お前たち、多分俺たちの仲間だと思われてるぞ?」

「え!?まじ!?」

「既に手遅れ!?」

シンのとんでも発言に顔を青くする二人だが、シュンはそうは思わなかった。

「多分、あの感じだとあのスパイの人がちゃんと報告してると思うから、ただの居候だって事は理解してると思うよ?だから、手を出さなきゃまだセーフかな」

そう言えば二人揃ってはぁー、と息を吐いて安堵した。

「じゃぁ、二人は留守番ね」

「え!?」

「留守番!?」

「?…なに?」

安堵の息からの驚きの反応に、シュンの方が驚いている。

今後の事を思えば、この二人は関わるべきではないと判断したのだが二人はそうではないようだ。

「いや、協力はする。只でさえ世話になってるんだ」

「そうだよ。依頼を受けたとして、無事に解決すれば問題ないんでしょ?」

その依頼内容が分からないから問題なのだ。

「…敏腕大公閣下が手こずってる案件が容易く解決すると思うの?」

「…そう言われると…」

「…自信ない…」

「だから、二人は関わらなくていいよ」

と無表情ではっきりと突き放すように言い切ったシュンに、二人は内心モヤモヤとしながら渋々頷いた。

もし何かあれば、騎士団にも国にも帰れなくなるし、それでは預けてくれたレイナード団長にも申し訳が立たないと。

「じゃぁ、話はまとまったという事で、夕食にして明日に備えよー」

無表情から一変し、いつものシュンに戻った事でこの場は解散となった。


「じゃぁ、行ってくるねー」

移動魔法でロザリール国へと向かう一同を晴れない表情で見送ったニノとグレン。

ユニフォームのようにあの黒いコートを着た姿を見て、疎外感を感じてしまって余計に気分は沈んでしまった。

まるで、急に立ち入る事を拒否されたかのように。

僅か数日であるが、一緒に食事をとり、他愛も無い事で笑いあったり、ギルドの仕事をこなしたりと随分と距離が縮まったかのように思えたが、今は初めて会った日よりも遠くに感じていた。

「…俺たちは仲間じゃ無い…」

「…分かってる…」

「…守るべき王家や国民が居る」

「…そうだね」

「……そうやって…頭では分かっていても…仲間じゃ無いって突き放されるって寂しいな…」

「…本当にね」

がらんとした二人だけの廃城は、とても寂しげで、二人の心境とどこかシンクロしていた…。


「随分と早かったね」

「急いでいるみたいだったので」

大公邸に現れた黒いコートを纏った一団は、随分と怪しく物騒に見えたがフレイザーの一言により何事もなく応接室へと通された。

そこにはシュンより少し年上の綺麗なブロンドを編み込んだ少女が待っていた。

「孫娘のクリスだ」

フレイザーが紹介すると少女は席を立ち淑女の礼で

「クリス・アーリッシュと申します」

と挨拶をした。

「私はシュン。こっちがシンとレイル、そっちがマールとエクシャ。宜しくね」

淑女とは程遠い挨拶ではあるが、クリスは特に気分を害した様子もなく、会釈し、興味深げにシュンへと視線を送った。

メイドにより人数分の紅茶が用意され、護衛としてルーズランス国の騎士団にスパイとして送り込んでいたニノとグレンの元同僚、ランスロット・ランチャーだけが残り、人払いを済ませた後、話し合いは始まった。

「さて、依頼内容だが…今我が国の貴族を標的としたテロの様な事が起きている」

ズバリと話し出した内容は、初っ端から頭を抱えたくなるものだった。

標的が貴族なら、既にこの国の最高峰とも言える調査団が動いているだろう。

そんな彼らが解決出来なかった話をなぜ一般人の自分たちに持ってきたのか、甚だ疑問である。

「貴族の間では定期的に茶会や夜会などが行われる。上流階級が社会に権威を誇示するために必要なもので、豪華になればなるほど、注目を浴び階級差を知らしめるのだ」

「自慢大会かよ」

素でポロっと出たシュンの言葉にクリスはギョッとするが、言われたフレイザーは「本当に…何が楽しいのだか」と共感していた。

はぁーやれやれといった風に首を緩く振った後、話を戻す。

「他にも情報収集の場でもある。どこの貴族がこんな動きをしているだの、どこの国が今稼いでいるだのと国にも有益な情報が落ちていることもある。と、まぁこの話は置いておいて…」

(関係ねぇのかよ)

と一同は突っ込みたいのをぐっと抑え、続きを待つ。

「その社交界で二ヶ月前に起きた事件があってな。一人の婦人が会場にあった食事用のナイフを手に暴れ出したのだよ」

「…余程料理が気に入らなかった…というわけじゃないんだね」

「うむ。その場に私も居てね、彼女はナイフを振り回しながら恐怖に慄いた表情でこう叫んでいたよ…『寄るな化け物ども』と」

護衛の者達が何とか取り押さえ、会場から連れ出す時も頻りに『触るな化け物』と叫んでいたと言う。

その後冷静になった婦人に話を聞けば、まるで自分以外の全ての人間が化け物になったかの様に見えてしまったと話した。

他のパーティーでも度々そういった事件が起き、最近では殆ど招待状も届かなくなった。

標的はバラバラで、まだ幼い子供だったり、引退間近の年寄りだったり遣り手と噂される領主であったりと、まるで取り留めがない。

唯一救いなのは、怪我人は出たが死人は出なかった事である。

「幻覚か、催眠か…。その予兆みたいなのは無かったの?」

「予兆は分からぬが、唯一、グラスやカップから幻覚の魔法薬が見つかったことくらいだ。無味無臭で口にしても分からない。故に皆、自宅以外での飲食を恐れている」

そう、ここまで来れば分かる。

依頼とはこの犯人を探し出せという事である。

「…骨が折れそうな依頼だね…。それでクリスさんが関係してるっていうのは?」

急に名を呼ばれ、クリスはびくりと肩を揺らした。

「…私が開いた、友人達を招いたお茶会の席で、私の友人も盛られたのです…。そして別の友人を傷つけてしまいました…。だからっ!私も犯人を捕まえたいのです!正気に戻ったあと、友達を傷つけてしまったと泣いた友人の為にも!」

「成る程…」

実に悔しそうに拳を握りしめ、ずっと耐えているのか青い瞳は今にも涙に濡れそうである。

「協力願えるかな?今や誰が犯人で誰が狙われているかは分からない…。実に嘆かわしい事だ…」

説明が終わり、シュンはチラリとレイルを見た。

レイルもシュンを見ていたのか、視線が合う。

「…好きにしろ」

と。

シンを見れば、そちらも視線が合い、レイルと同じく反対はしないようである。

「受けるのは構わない。ただし、解決しなくても俺たちのせいにするなよ?」

それだけは約束させろと、シンはフレイザーを睨んだ。

「それは勿論だとも」

本来自分たちで解決しなければならない事件である。

貴族全体が狙われた事件に他者を介入させるなど、更に容疑者が増えややこしくなるばかりなのだから。

「分かった。やれるだけやってみよう」

「…助かる」

フレイザーが珍しく安堵の表情を浮かべていたのを見て、クリスは祖父がそこまで切羽詰まっていたのだと理解し、ソッと寄り添った。

そんなクリスに大丈夫だと言うように微笑みかけた。

「さて、早速ではあるが、三日後にこの邸で夜会を開く予定になっている。自粛するべきではあるが犯人を捕まえなければこの恐怖がいつまでも続く。それに君達には私付きの護衛として参加してもらいたい」

「…え?私も?」

フレイザーの申し出に数回瞬きしたのちシュンは首を傾げた。

それもそうである。

こんな子供の護衛など、来客から「こんな時に呼びつけて舐めてんのか」と批判を浴びそうだ。

「…確かに…。ならば君には私の親戚と言う立ち位置で会場内を見回ってもらおう」

「大公閣下にいきなり見知らぬ親戚ができたら不審がるんじゃ…」

「それなら大丈夫。私は元々平民。戦時中の功績とその後の復興に尽力しこの地位を受けた。平民の親戚が居てもおかしくない」

「へぇー…ふーん…面白そうな経歴。それなら大丈夫かな?言動も平民だし、で許してもらえそう」

「魔力が強いゆえに私が面倒を見る事になった事にすれば、お前さんが魔法を使ったとて問題も無い」

「それは良い免罪符だね。余程の事をしなければ多少は許されるってわけだ」

受けると決まった途端、トントンと話が進んでいく状況に周囲は置いてけぼりを食らっており、互いの提案に穴があれば即座に突っ込み、それをその場で修正していく。

百戦錬磨で聡明な大公ならば分かるが、その相手が自分より幼い少女である事にクリスは驚愕し、感心していた。

自分の憧れる祖父と対等に話すあたり、憧れにも似た気持ちが浮かび上がる。

「その魔法薬の入ったグラスってもう洗ったよね?」

「いや、中身共々保護魔法で証拠品として保管してある」

「見る事は可能?」

「直ぐに用意させよう」

そう言って持ってこられたのは、グラスやカップに飲み物と共に保管されてそのままの状態の証拠品達だ。

シュンは魔力感知で証拠品を見たあと、先程メイドが淹れてくれた紅茶を見た。

メイドの淹れた紅茶は無反応であるが、証拠品は淡く光っている。

「魔力が込められてるから反応するね」

「?」

魔力感知ができないフレイザーとクリス、ランスロットは疑問符を浮かべていたが、シン達には理解できた。

「魔力を感知する魔法があって、それを使って見てるんだ。だから夜会の時もこれでグラスを見分けて、一先ず危険は回避しようと思うんだけど。誰か一人を厨房前に、もう一人を会場の前に待機させて、会場に入る飲食物は全て二重チェック。それでも会場に魔法薬が持ち込まれたら、会場の誰かが犯人て事。そうじゃなければ料理人か配膳係が犯人。もし許可してくれるなら邸内の様子を記録する魔法道具を持ち込むんだけど、どう?」

夜会に招待客等が専属の料理人や使用人を伴いやってくるのは珍しくない。

貴族の催し物は、その邸の使用人達では回しきれない数の来客があるため、連れてくるのだ。

そして「どうよ?うちの使用人!優秀だろう?」と、ここでも見栄の張り合いが行われるため、選抜された使用人達はミスをしないようにと、気が気では無い。

サクサクと述べられた案に、あご髭を撫でながらフレイザーは一つ頷いた。

「その魔法道具というのは?」

「水晶に映り込んだ光景をそのまま映像として記録することができるアイテムで、勿論声も入るよ。難点は大人の手のひらサイズだから、その辺に置いておくと見つかる事かな。だから豆粒大にして、置物の装飾にしたり観賞用植物の植木の石に交ぜたり、衣服の飾りにしたりして見つからないようにはするつもり。みんなの服にも付けるから、違和感のないドレスとかを選んでもらえれば良いかな。ネックレスとか、タイピンとかでも」

「…なんとも便利な物があるものだ…。それが知れ渡っていないのが不思議でならないな」

「知ってるのはコルンドリア国の王様と魔法使い達だけかな。内蔵された魔法陣の解読まだできてないみたいだけど」

「コルンドリア国…」

チラリとフレイザーの視線がレイルへと向いた。

それに気づいたレイルだが、自分から話す事などないと、紅茶に口をつける。

「さて、他に話は?」

「ふむ、今のところできるのはこのくらいであろう…。あとは…」

「あとは?」

「貴族の者たちと交流するシュンには必要最低限のマナーを覚えてもらいたい」

「えぇーーー……やだぁ……」

なんとも正直な反応に吹き出しそうになるのを耐え、一つ咳払いをすると、マナーが明らかに不自然では敵に怪しまれるかもしれないとフレイザーは言う。

「平民育ちがゆえに、多少は大目に見て貰えるだろうが、挨拶程度はこなして欲しい」

「挨拶ねぇー…」

シュンは逡巡し、クリスへと視線を向けた。

「…何か?」

急に視線を向けられたクリスは身じろぎしながら問う。

「ちょっと見本見せてくれる?」

と言うシュンに、祖父を見ればフレイザーは「見せてやれ」と頷いた。

では、と席を立ち、完璧な淑女の礼をとればフレイザーは満足そうに頷いた。

「こんな感じかな?」

コートをスカートに見立て、見様見真似で礼をすればその完璧さにフレイザーの目が驚きで丸くなり、逆にレイルとシンは呆れで息を吐いた。

マールとエクシャも苦笑いだ。

「お前…またやったのか」

「?」

レイルの呆れた声にフレイザー側はどういう事だと首を傾げた。

「おほほほほ、何のことかしら?」

「好き勝手に魔法を作るなと言ってあっただろう」

「完成したら言うつもりだったけど、最近ギルドの仕事で忙しそうだから言いそびれたの。わざとじゃない」

“好き勝手に魔法を作る”と言うフレーズに更に目を丸くするフレイザー。

確かに魔法とは、先人達が一つ一つ作り上げてきたものだ。

しかしそれは何年、何十年もかけて一つを作ると言った感じであり、こんな少女がホイホイできることではない。

更にレイルの口調からして、普段からやらかしていることは間違いないだろう。

「あの、今のはどんな魔法なのでしょう?」

ただ礼をしただけで、魔法などとは思えなかったクリスは興味津々でシュンの方へ身を乗り出した。

「人の動きをコピーする魔法だよ。今クリスさんの礼をそのままコピーしたの。だから仕草も全てクリスさんの礼って事」

「…客観的に見て、私はあのような礼を取るのですね…。勉強になります」

真面目にうんうんと頷く真っ直ぐさに、魔法でズルをしたシュンは内心居た堪れない。

「確かにクリスは幼い頃よりレッスンを積んでおるがゆえ、コピーするには最適であろう」

「私にできる事でしたら何でも申し付けてください!」

さりげなく孫自慢をするフレイザーに友人の為にと、燃えるクリス。

シュンは一先ず、クリスに明日一日密着してマナーをコピーする事とし、他四人はフレイザーと共に打ち合わせとなった。

明日また訪れる事にし、取り敢えず今日のところは解散となった。

帰り際、護衛らしくずっと黙っていたランスロットがニノとグレンの所在を尋ねてきた。

事情を話し、今回は関わらせないと伝えれば残念そうに頷いた。

「城にいたあの若者達かな?」

「そう。居候だからね。厄介ごとに関わらせて帰れなくなったらかわいそうでしょ?」

「ランスロットの報告では腕がたつとか」

次期団長、副団長候補であるとランスロットが言えば、フレイザーはふむ、と髭を撫でた。

「信用できるのか?」

「えぇ。二人とも男気に溢れてますよ。だから今回、協力するんじゃないかって思ってたんですけどね」

家主に止められたなら仕方ない、と肩を竦めた。

「そうか…シュン、信用できる人間は多い方が良い。その二人の協力も得られないものかな?」

「…うーん…二人が何しても不問にしますって誓約書を書いてくれたら連れてくる」

「ほっほっ。お安い御用だ」

サラサラと二枚の誓約書が用意され、今度こそ廃城へと帰還するのであった。


「シュン!」

「うわお!?何!?いきなり?」

廃城の玄関ホールへ戻るや否や、ニノとグレンが待ち構えていた。

真剣でなにかを決意したような表情だ。

「やっぱり俺たちも手伝う!」

「何かあったら何て考えても何も起きないかもしれないし、それにもし大公閣下の覚えも良ければ昇進に役立つし!」

だから連れて行けと迫り来る二人に

「分かった」

とあっさり許可した。

「そこまで言うなら仕方ない。閣下に免罪符貰ってきたけど、必要ないね。自分達で責任取るなら」

「え?免罪符?」

「二人が何しても不問にしますってやつ」

「!!?」

「え!?待って待って!いるいる!!」

「一応念のために貰っておく!」

「二人の意思を尊重してコレは破棄しておきまーす」

「きゃぁーダメー!お願いシュンちゃん!」

「止めろー!破くな!!」

「そーれビリビリー」

「「ああぁーーー!!!」」

「おい、冗談もその辺にしておけ」

シュンの手にあった誓約書はひょいっとレイルに取られてしまい、くしゃくしゃになったそれを魔法で元に戻し、ニノとグレンそれぞれに手渡した。

「明日邸に行く。遅れるな」

「ありがとう!さすがレイル!」

「誠心誠意頑張ります!」

去り際にレイルは窘めるようにシュンの頭をコツンと小突き、自室へと去っていった。

「ちぇっ。面白かったのに」

「面白かったって…」

「ま、ランスロットの太鼓判付きで閣下も期待してるみたいだから、頑張ろうね」

「ランスロットが…」

「二人のことめっちゃ褒めてたよ」

そう言うと二人は顔を合わせ嬉しそうに笑いあった。

結果はどうあれ同じ釜の飯を食った仲なのだ。

元とはいえ、仲間に認められて嬉しいのは今でも同じだった。





ブクマ&誤字報告ありがとうございます(*´・∀・)*´-∀-)


補足

魔力探知→遠くに居る人や魔物などの生き物の魔力をレーダーの様に感じるとる事ができる。


魔力感知→目の前の人や魔物などの生き物や、無機物から魔力を感じることができる。

(無機物は魔法道具や魔法で作った薬なども)

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