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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
23/71

22

「食事の時間だ」

その日の夕食はいつもより豪華だった。

いつもは堅いパンと殆ど味のしないスープだけなのに対し、ふわふわのパンと野菜がたっぷり入ったスープ、更にはローストビーフに酒まで付いてきて。

何が起きたのか、と男は食事を運んできた兵士に訝しげに問う。

するととんでもない返事が返ってきた。

「あんた、明日処刑されるみたいだぜ。ま、最後の晩餐ってやつだ。しっかり噛み締めろよ」

男は愕然とした。

明日いきなり死ぬと宣告されたのだ。

「…つまり、証言は諦めたのか…」

「さぁな。なんでも、お前の仲間の…なんて名前だったか?まぁ仲間の一人が拷問に耐えかねて喋っちまったみたいだぜ。だから他の奴はもう要らねぇって事で処刑なんだとよ」

「!!?」

食事を配らなければならない兵士は、それだけ言うと次の檻へと向かっていった。

その話を聞いた男はふと、昼間の出来事を思い出す。

結託できないように、仲間同士である囚人達は離れた檻に入れられており、男よりも更に奥の檻に入っていた仲間の男が昼間、騎士団の一人に連れていかれたまま戻ってきたのを見ていない。

その仲間は、聴取と言う名の拷問の時は必ず自分の檻の前を行き来するにも拘わらず、戻ってきていないのだ。

「あいつが!裏切ったのか!!」

今までの自分の苦労は何だったのか。

耐え続けた拷問の意味は?

銃を提供してくれた貴族に迷惑をかけてはいけない。

もし喋ってしまえば家族がその貴族に酷い目にあわされる。

だから耐えたと言うのに。

あの男は、家族より自分が楽になる事を選んだのだ。

「畜生…畜生!畜生!!!」

いつもより豪華な食事の載った盆をひっくり返し、男は半狂乱で叫んだ。

「誰か!誰か居ないのか!?」

檻を両手でガッシャンガッシャンと揺らし、騒ぐ男に止めさせようと兵士が数人やってきたのだが、その中に何故か騎士団の団長、レイナードが居た。

「止めなさい。今更騒いでも貴方の処刑は変わりませんよ」

「違う!俺は死んだっていい!家族を助けてくれ!!」

何を言っているのか、と眉間に皺を寄せるレイナードに男は続ける。

「喋ったら家族が酷い目にあわされるんだ!あいつが喋ったって事は家族が危ない!頼む!助けてくれ!!」

「…ならばこうしましょう?あの男の証言を裏付けるために、実は他にも証言者が欲しかったのです。その証言者になれば貴方の家族をお守りすると、騎士団団長の私がお約束します」

「本当だな!?」

「騎士たるもの嘘はつきません」

「分かった!何でも話す!!」

その言葉通り、男はこの二年間の拷問を耐えたにも拘わらず全ての質問にペラペラと答えた。

それを確認した後、約束通り家族は保護された。


「魔法使いのルークは姿を消したみたいですね…」

「奴の目的は分からずじまいか…」

ニノとグレンを裏切り、騎士団を二人の元へと導いた魔法使いのルークは騎士団が城に戻って直ぐ姿を消した。

行方を探すも足取りは全く掴めなかった。

「しかし、凄いな。殆ど全員が証言したぞ」

「どの証言も一致していますね…」

結論から言うと、処刑というのは嘘であった。

そして、一人の男が裏切って証言したというのも嘘である。

連れていかれた男は、そのように装う為にただ別の檻へと移しただけだ。

シュンがレイナード等に話した内容、それは

“一人が喋ってくれたので、残りの人はいらないので処刑します”

というのをターゲットに言う、と言う事であった。

小道具として“最後の晩餐”が用意され、長期間拷問に耐えたのは弱みを握られているかもしれないから、それを取り除く事も忘れないように、とも言われていた。

「成る程、喋れば家族に被害が及ぶか…。口を割らないわけですね」

そして、シュンの言っていた人選と言うのは、犯人の中で誰が最も家族を思っているか、と言う事であった。

家族をより大事にしていれば、必ず守ってくれと言い出すであろう男をターゲットに選択した訳だ。

あとは、他の仲間達には「家族は保護したから話してくれ」と言えばあっさりと口を割った。

長期間の拷問のせいで心身共に疲れ切っていた犯人達は、一刻も早く楽になりたかったのだ。

「…癪ですが、あの少女は本当に凄い子ですね…。私たちの二年間は何だったのでしょう?」

「魔法にも長け、頭もキレる、か。実は中身は大人で魔法を使って子供のフリをしているんじゃ…」

「…若返るなら分かりますが、それを通り越して子供になる意味が分かりません」

「…それもそうか…」

当たらずといえども遠からずなウォルトの推理を聞いたならば、シュンは間違いなくドッと冷や汗を流すだろう。

この場に居ない少女は幸運とも言える。

「よし、証言が出揃ったところで、会いに行きましょうか…。ロッド侯爵様に」

「あぁ。そして二人を迎えに行ってやらんとな!」

「えぇ」

廃城へ進攻して五日目の事であった。



「これで良し!」

焼けたカカオの木を植え替え、シュンは満足そうに頷いた。

そのすぐ側では、シンがより満足そうに木を見上げていた。

「シン、木はまた植え替えられるんだから、暴走しちゃダメだよ?」

「この世の終わりかと思った」

「何でだよ」

チョコレート好きすぎだろ!?と思わず突っ込めば

「シュンの作るチョコレートだから好きなんだ。他のは美味くない」

と返された。

「…急にデレたね…」

「でれ?」

デレの意味すらわからないシンにこれまで言い続けたセリフを吐いた。

「魔道書だけじゃなくて他の本も読みなよ」

と。

「シュンちゃん」

城の中に戻ろうとした時だ。

この数日ですっかり馴染んだニノとグレンが、着替えとしてシュンが作った服を身につけやってきた。

「レイルが行くって」

「もうそんな時間かー」

ギルドの仕事を受けていたレイルは、マールとエクシャを伴い野盗退治に行く予定だ。

それにシュンとシンも付いていく事にしている。

それは、レイナードとの戦いで自分の経験不足を実感したシュンが、経験値を稼ぐ為にレイルに頼んだからだ。

シンにしても同じだったようで、同行を希望したわけだ。

更には、二人で留守番はつまらないし戦いなら役に立てるからと、ニノとグレンも付いて来る。

この数ヶ月、街道を利用する商人達から品物を強奪する野盗が現れるようになり、街道を通らないと行くことのできない町や村へと向かう事が出来ないという。

商人がやってこなくなった町や村では品物の欠品が続き、暮らしに影響が出始めている。

そこでギルドに野盗退治の依頼をし、それをレイルが請け負ったのだ。

玄関ホールへ向かえば、防寒魔法のかかったシュンの作ったコートを身に纏ったレイル、マール、エクシャの姿があった。

「寒い場所なの?」

「一年の殆どが冬のような国だからな」

「ふーん」

ならば、と指をパチンと鳴らせばシュンとシン、そしてニノとグレンの分までコートが出現した。

ニノとグレンの場合は剣を使うため、動きやすいようにロングではなくブリッシュコートタイプで、腰をベルトで固定している。

そのベルトには勿論二人の剣が固定されている。

同じ素材でパンツも用意した。

「おぉ!なんかかっこいいね!」

「珍しいデザインだけど、悪くない。それに動きやすい」

はしゃぐ二人を横目に、レイルは「いくぞ」と出発の合図をする。

レイルはすっかり使い慣れた魔法陣なしの移動魔法を発動すると、瞬時に廃城の玄関ホールから極寒の地へと変わり、思いのほか寒かったシュンは直ぐに全員に対して防寒魔法を張った。

「寒かった!想像以上に寒かった!!凍るかと思った!!」

それもそのはず。

絶賛吹雪中である。

魔法の掛かったコートを着ている体は暖かいが、剥き出しの手や首や顔などは凍ってしまいそうなほどに寒かったのだ。

「昨日、近くの町のギルドに行った時はそれ程でも無かったんだがな。今日は天気が悪かったみたいだな」

先頭を歩き出すレイルは魔法で雪を溶かしながら進んでいく。

魔法様々だと改めて魔法の有り難みを感じながら、レイルの案内で目的の野盗が出るという街道へと向かう事にした。

こんな吹雪の日だ。

野盗も活動はしていないだろうが、取り敢えず様子を見に行く。

「こんな吹雪でもマールやエクシャは匂いを辿れたりするの?」

シュンに素朴な疑問をぶつけられた二人はその目を輝かせた。

「勿論!」

と。

「私たちの嗅覚は犬の数百倍です」

「本気を出せば数十キロ先の匂いも嗅ぎ分けてみせる」

「あと、視覚も強化できるので、隔たりがなければ数キロ先まで鮮明に見ることができます」

「え、なにそれ。覗き放題なの!?」

卑猥な横槍を入れたニノにグレンは躊躇なくドゥクシ!と顔面に肘鉄をくらわせた。

ニノは真っ白な雪原に倒れ込み、無様な人型を作った。

「…グレン…酷い…」

「取り敢えず頭を冷やしてその脳みその中の卑猥な想像を氷漬けにしろ」

お分かりいただけただろうか?

ニノはシュン達と生活を共にする内に、徐々にその本性が剥がれていき、イケメン好青年はすっかり変態と化しているのだ。

というか、シュンに「ニノってあのレイナード団長が好きなんでしょ」と疑問系ではなくズバリと見抜かれ、更には「強い口調とかで罵られるの好きでしょ」と性的嗜好まで言い当てられてしまったのだ。

そして開き直った。

「うん。好き!」

と。

それからはもう、遠慮がない。

グレンのニノに対するツッコミも容赦がない。

「…グレンに罵られても嬉しくない…。シン君かシュンちゃんが良い…ぶっ!?」

横たわったまま言い終わった瞬間、シン、マール、エクシャによりニノは雪の中へと埋められるのであった。(※雪の中に人を埋めるのは非常に危険な行為です。ニノ以外には決して行わないでください)

「遊んでないで行くぞー」

我関せずなレイルはスタスタと先を行くが、その腕にはしっかりとシュンを抱きかかえていた。


「さて、この辺だが…」

両脇を森に挟まれた街道は、一面銀世界で、これはもう野盗業もお休みだろうと判断した。

この天気で活動していたら、寧ろ尊敬する。

「野盗の身につけていた物でもあれば、匂いでアジトまで辿れると思うが…」

「流石に無いな」

辺りにも特に手がかりのようなものも無く、天気が落ち着いてから出直す事にした。

無駄足だったな、と移動魔法を発動しようとした瞬間、レイルに抱えられていたシュンは、白の世界で動く何かを見た。

「あれ、なんだろ?」

「?」

シュンの指した方に視線が集まる。

街道の両脇に広がる森の右側から左側に向けて、小さな何かがモソモソと動いて移動している。

「子供だよ!」

「!?」

シュンはレイルの腕から飛び降りると、魔法を駆使して雪を溶かしながらその子供の元へと駆け寄った。

その子供はシュンに直ぐ様気付き、びくりと肩を揺らし、慌てて逃げようとするが、雪に足を取られて思うように動けずあっという間に追いつかれてしまった。

「こんな所でなにしてるの?お父さんとお母さんは?」

シュンより小さなその子供は視線をキョロキョロと動かし慌てているようだ。

頭から足の先まですっぽりと防寒されており、口元もマフラーでしっかりと覆われているため、表情を読む事が出来るのは目のみだ。

「大丈夫?」

迷子かと心配しながらシュンがその子供に手を伸ばした瞬間、一層強い風が吹いて子供の帽子を吹き飛ばした。

シュンが慌てて魔法で帽子を回収し、子供に被せようとした時、その目にあるモノが映り込んだ。

子供の頭の上で寒そうにブルブル震える垂れたモフモフ。

シュンの視線が自分の頭に向いているとわかった瞬間に、子供は頭で震えていたそれを両手で隠すが時すでに遅し。

後から来たレイル達にもバッチリ見られており、

「獣人、か」

と正体までもばれてしまった。

「あ、ごめんね。寒いねー」

そう言いながら、シュンは何事も無かったかのように子供に帽子を被せた。

「!!」

その行為に驚いたのは子供であった。

この耳を見られてしまえば問答無用で差別の対象となる事を知っている為だ。

そして、シュンもその事を知っていた。

漫画での知識でもあるし、本や新聞などからの情報で獣人は迫害されている事を知っていたのだ。

人間より優れた身体能力を持っており、それにより自分たちより優れた種族などいらないと、数で圧倒する人間に虐殺され、迫害され続けた歴史がある。

だが、シュンにとって獣人とはモフモフの対象であり、迫害など以ての外である。

「一人?凄い吹雪だけど帰れる?それとも迷子?」

送って行きたいのは山々であるが、この子供を人間が送っていけば、その家族が寧ろ心配したり、怖がらせたり、攻撃しにきたと勘違いされて襲ってきたりする恐れがある。

その為、一人で帰ってもらわねばならない。

途中まで送るという選択肢もあるが、一先ず迷子かどうか確認しなければならない。

これまで会ってきた人間とは違う反応をするシュンに、子供は当然戸惑ったが取り敢えず「迷子じゃない…帰れる」とだけ続けた。

「そっか。じゃぁ…」

防寒魔法だけ掛けて見送ろうとした瞬間、子供が出てきた右側の森から騒がしい声が響いてきた。

マールとエクシャがその聴覚を発揮し、会話を聞き取ると、どうやら“獣人の子供”を捜しているらしい。

更に、その獣人の子供は薬を盗んだとの事だ。

それをシュンに知られた子供は顔を真っ青にさせて逃げようとするが、またもや雪に足を取られ今度は豪快に雪の中に転んでしまった。

「…大丈夫?」

森の中からの声はどんどんと近くなり、遂には人影が現れた。

シュンは咄嗟に子供を移動魔法でレイルのコートの中に移し、レイルの長めのコートの中に子供はスッポリと隠れる。

「おい」

レイルは若干不満の声を上げたが、シュンは笑って誤魔化した。

「お?こんな所で何してんだ?」

森からは全身を防寒具で覆った男達が数人姿を現した。

「ギルドからの依頼で野盗退治に来た者だ。生憎の吹雪で連中も休みの様だがな」

代表してレイルが答えれば、知っていたのか男達は

「早速今日やってくるって言っていたが、あんたらがか……子連れで?」

と怪訝な表情でシュンを見た。

それもそうだろう。

野盗退治などという危険な仕事に子供など普通は連れてこない。

「社会勉強だよ。私この人の魔法の弟子なんだ。実践も経験しておかないとね」

「まぁ、確かにそうだが…早すぎないか?」

心配そうに眉を顰めるあたり、良い人達なのだろう。

「大丈夫!ちゃんと師匠が守ってくれるから!」

守るどころか先頭きって飛び出していくだろうが、とは言わず、レイルは黙って頷いた。

「この感じなら午後から吹雪は止むから出直した方が良いかもな」

とナイスな情報をくれた男に

「おじさん達は何してるの?」

と今度はこちらの番だ、とシュンが問うと男達は「そうだった」と顔を見合わせた。

「子供の獣人を見なかったか?」

「薬を盗んだんだ」

忌々しそうに表情を歪める男達に、獣人に対する嫌悪感を感じた。

「それなら消えたよ」

「え?」

シュンの“消えた”とはどういうことか、とシュンの後ろの大人達を見ればレイルは肩を竦め、

「消えたぞ」

と返す。

それに倣い

「消えました」

「消えたな」

「パッと消えたな」

「急に居なくなったから驚いたよね」

「魔法だろ。獣人だって魔法を使う」

さも当然と言い放つ一同に、“あの獣人の子供は魔法で消えた”と刷り込まれたのだった。

「くそ!獣人め!」

「今度見つけたら痛めつけてやる!」

男達はぞろぞろとやってきた方向へと踵を返し帰って行った。

嘘は何一つついていない。

ただ消えたのはシュンの魔法のせいである、とは言わなかっただけである。

そして消えた理由を聞かれなかったので、答えなかった。

「だから嘘はついてないもんねー」

フフンと鼻を鳴らしながら男達が離れたのを確認し、獣人の子供はレイルのコートから漸く解放されるのであった。

「…な、何で?」

獣人の子供は信じられないと言ったようにシュンを見た。

人間は自分たちを虐める存在であると親から言い聞かせられてきたし、実際そうであった。

にも拘わらずシュンは当然とばかりにそうした事が信じられなかったのだ。

「んー…物を盗むのは良くないことだけど、あのままあの人達に引き合わせてたら、あなたが痛い目に遭うでしょう?それはそれで嫌じゃない?」

それに、人の住む場所にわざわざ薬を盗みにやってきたからにはのっぴきならぬ事情があると考えられる。

「自分が怖い思いをしてまで助けたい人がいるんでしょ?」

「!」

子供は驚いたあと、小さく頷いた。

「…妹が…病気で…」

「そっか。じゃぁ、早く薬を届けてあげなきゃね」

そう言って、今度こそシュンは子供に防寒魔法をかけてやった。

瞬時に寒さを感じなくなった子供は驚いてシュンを見た。

「早く帰ってあげなよ?」

子供は力強く頷くと出てきた方向とは反対の森へと向かって行った。

「さて、俺たちも出直すか」

先程の男達が午後から晴れると言っていた為、一旦廃城に戻ることにした。

昼食をとり、一息ついたあと今度は初めから全身に防寒魔法を施し、先程の街道まで戻った。

刹那。

マールとエクシャの表情が変わった。

「煙の匂いがします」

「あと、血の匂い!」

「!!?」

自分たちがのんびりしている間に、野盗がまた商人を襲ったのかと思ったが、どうやら近くの集落が襲われているとマールとエクシャは話した。

魔法を駆使して一同はその場へと急いだ。

限界まで身体能力を上げ、漸くたどり着いた小さなその集落には耳や尻尾の生えた、獣人の姿があった。

「獣人なんぞみんな殺してしまえぇ!!」

「ひゃっはぁーーー!!!」

「子供達を安全な場所に!!」

「きゃぁー!お父さん!!お母さん!!」

あちこちから響く怒号に、戦場の様な世界に不思議とシュンの足は止まらなかった。

怖くて萎縮してしまうかもとか、逃げたくなるかもとか思ったこともあるが、それより何より、自分の目の前で先程の獣人の子供が自分より小さい子を守りながら逃げている姿を見て、そんな思いは微塵も湧かなかった。

剣を片手に子供達に迫り来る人間の男。

父親らしき獣人は、他の人間を相手にしていて「逃げろ!!」と叫ぶことしかできないでいた。

「二匹まとめて駆除してやるよぉーー!!」

「お前が駆除されろぉぉぉ!!!」

「!?」

身体能力をあげる魔法をフルに上げ、男の顔面に蹴りを食らわせれば、その男は数メートル先まで吹っ飛び、自分の仲間を巻き添えにして巨木に激突し動かなくなった。

「やっぱり先頭切って飛び出しやがった…」

先程頭をよぎった事が現実となり、レイルはため息を吐いた。

「はぁー…まぁいい。手配中の野盗発見。全員取り押さえるぞ」

レイルの指示で各々仕事を開始した。

突如現れ、次々と人間を取り押さえていく黒いコートの集団に、獣人達は警戒しながらも唖然としていた。

自分達には目もくれず、寧ろ襲われている仲間を助ける様な行動を取るそれが信じられなかった。

更に、一番小さな少女は獣人達に回復魔法を施し、壊れたり燃やされたりした家をこれまた凄まじい勢いで建て直して行く。

「これで全部か?」

「全員気絶してますし、アジトに行ってみた方が早いかもしれないですね」

「アジトまで行って仲間がいないか確認しよう」

「先に行って確かめる」

「俺も行く」

「俺達も行こうぜ。ここに居ても役立てないと思うし」

野盗の匂いを辿りマールとシン、暴れ足りなかったニノとグレンがその場を離れた。

シュンはまだ壊れた井戸や畑を修繕している。

エクシャは使役している魔物を呼び出し、縛り上げた野盗達を見張っている。

レイルはと言うと…

「他に怪我人はいないか?」

と聞いて回るが人間を信用していない獣人達は目をそらす。

が、そんな中、あの子供がまだ一歳程の妹を抱き上げたままレイルの元へとやってきた。

父親は止めようとするが、その手を振り切った。

「薬、飲ませたけど熱が、下がらないんだ」

先程盗んだ薬の事を言っているのだろう。

少女を見ると全身に水疱ができており、レイルには分からなかった。

怪我は治せても病を治す事はできない。

寧ろ、病を治す魔法など存在しないはずであるが、チラリとシュンを見た。

「シュン」

「なに?」

少し離れた所で子供の玩具と思わしき遊具を直していたシュンを呼び寄せる。

「分かるか?」

「うーん…水疱ができてるね…。それに熱。水疱瘡だと思う」

「みず?」

「みずぼうそう。ほっといても治る病気だよ。小さい時私もなったし。でも痒くて掻き毟ると痕になるから、冷水で濡らしたタオルを水疱に当てるか、痒み止めを塗れば大丈夫」

「…本当?」

「口の中が痛くて食べ物が食べられないから、果実の汁とか少しずつ飲ませてあげて」

そこまで話したところで、獣人の男が間に割って入った。

「この子は治るのか?」

「少なくとも同じ病気になった私は生きてるよ」

正確には前世の春の時の話であるが、水疱瘡の後も車に轢かれるまで元気に過ごしてきた。

「あ、くしゃみとか咳とかの飛沫で感染するから、看病する人は気をつけてね。大人にも感染るからね」

随分と詳しく話す少女に、獣人の男はホッと胸を撫で下ろした。

しかし、納得はしていなかった。

長年自分達を忌み嫌っていた人間が自分達を助ける事が、信じられなかった。

野盗から助けられたにも拘わらず、獣人たちの視線は不信の眼差しである。

信じられないと言う獣人の男にシュンは

「まぁ、それで良いと思うよ」

とあっけらかんと言い放った。

自分だって、長年理不尽な理由で虐げられれば信じられなくなるものだ、と。

「それに、私が助けたかったのは、妹の為に危険を顧みない勇敢なこの子だし。他の人はついでって事で」

そう言って、大事そうに妹を抱きかかえる獣人の子供を見た。

「あの、僕…」

子供が何かを言おうとした時、野盗のアジトに向かっていたマール達が帰還した。

「もぬけの殻だった」

「そっか。お疲れ様」

「あとはこいつらが目を覚ましたら聞けばいい。ギルドに戻って報告だ」

じゃぁ、退散しようと野盗達の元へと集まれば、獣人達には明らかに安堵の表情が浮かんだ。

それに対しシュンは特に何も思わない。

そして、レイルの移動魔法で一同は瞬時に姿を消した。

「…あ、ありがとう…」

誰も居なくなった場所を見つめて獣人の子供は小さく呟いたのだった…。


「助けてやったのに嫌われてたね、俺達」

ギルドでレイルが野盗を引き渡している間、待合室で待機していると、そうニノが呟いた。

「人間だもん。獣人にとっては害にしかならないんだから仕方ないよ」

「随分とあっさり割り切るんだな」

ニノと同意見なのか、グレンがシュンを見る。

「獣人が長い間迫害を受けているのは知ってるでしょ?それなのに一回助けただけでこれまでの事がチャラになんてならないよ。二人は獣人を見かけても普通に話しかけられる?」

「…それは…」

「…多分、無理だろうな…」

「人間側がこれだもの。相手はもっと無理だよ」

しかしだ、あの吹雪の中出会った獣人の子供にシュンは普通に話しかけた。

まるで嫌悪など無いかのように、当たり前に。

初めは帽子のせいで獣人だと気付かなかったが、その正体が分かった後も普通に接していた。

二人にはそれが不思議でならなかった。

レイル達を見ても特に何の反応も無く、それで構わないといった風であった。

「シン達はなんとも思わなかったのか?」

とグレンに問われシンは

「別に。シュンがそうしたいならそうすれば良いと思ってる」

と特に獣人に関心が無いかのように返した。

「マールとエクシャは?」

「シンと同じ意見です」

「右に同じ」

二人の回答も淡白そのもので、寧ろ「シュンのやる事に文句があるのか」といった風である。

「獣人が私たちに何かしたわけじゃ無いもの。嫌悪も恨みも何も無いよ。あるのはあのモフモフの耳や尻尾に対する好奇心だけかな」

「え!?シュンはモフモフの方がお好みですか!?」

「クッ!竜にはモフモフの部分が無い!!」

寧ろゴツゴツだ。

獣人には興味ないが、シュンの好みには興味があるらしく、竜の兄妹は身を乗り出し食いついてきたが、

「竜はカッコよくて好きだよ」

と言うシュンの一言でホワッと表情を緩めている。

「…シュンちゃんて、博愛主義?」

そんな様子を見ていたニノは眉を顰めながらそう問う。

確かに側から見ればそう思われるかもしれないが、シュンは迷いなく首を横に振った。

「まさか。私の世界は家族と友人とその他だよ。家族に害が有れば仮令友人でも敵になる。味方でいる限りは大事にするよ。ただモフモフは正義だと思ってるだけ」

あの耳を触っておけば良かったと少し残念そうにするシュンを、ニノとグレンは不思議そうに見つめた。

懐が大きいかと思えばそうでもなく。

優しさもあり厳しさもあり、愛する心もあれば憎む気持ちもある。

子供にしては達観していて、時々自分達も見透かされているような気分になる事があった。

シュンという少女を知れば知るほど面白く、恐ろしくもあった。

そのうち見てはいけない裏側を見てしまい、後戻りできなくなるような気がしたのだ。

(…でも、俺を知って多少引いてたけど、拒絶されなかったのは初めてだったなぁ…)

ニノの性的嗜好を見破った挙句、それを受け止めた少女は、自分をその対象にするなとは言うが突き放すことはなかった。

獣人の事も、きっとそれに近い。

自分に害が無ければ嫌悪は無いのだ。

その答えがストンとニノの心に落ちた。

「俺、シュンちゃん好きだなぁー」

「え」

ドゥクシ!

「ぐはっ!!」

突如食らった顔面パンチにニノは吹っ飛んだ。

「もう一度言ってみなさい」

背後に魔物を召喚する陣を浮かび上がらせるエクシャ。

「今度は手加減しない」

両手を竜の手に変えてバキボキ関節を鳴らすマール。

「この変態が。シュンに近づくな」

鞘から剣を抜き親友に突きつけるグレン。

「シュン、離れるぞ」

シュンをニノから引き離そうと肩に担ぎ出すシン。

過保護な面々に、シュンは苦笑いだ。

「待って待って!そう言う意味じゃなくて!人としてって事!!あ、別にそう言う意味で捉えてくれてもいいよ!?」

「よし、今から自分の墓穴を掘らせよう」

「待ってぇー!!本当に違うから!今のはただ本当にその考え方が良いなって思っただけだから!!シュンちゃんお願い!見捨てないで!!」

多数の待ち人が居る待合室で、なんとも誤解を招きそうな発言をしてくれたニノにシュンは笑顔で合掌して見せたのだった。

「えー!?うそうそ!うそでしょ!?シュンちゃん!?シュンちゃーーーん!!っきゃあぁぁーー!」

立ちはだかるマール、エクシャ、グレンによりニノは還らぬ人と……惜しくもならなかったが、シュンに近づけないように紐でぐるぐる巻きにされたのだった。

「酷い…」

チーン…。

戻ってきたレイルに助けを求めるニノであったが、触らぬ神に祟りなし、とごくごく自然に視線を逸らされたのは言うまでも無い。


夕方前、廃城に戻ると雪がちらつく結界の外で、ルーズランス国の騎士団長、レイナードが待ち構えていた。

「うわぁー鎧が冷たくなってる…。結構待った?」

「いいえ。そうでもありませんよ」

「取り敢えず、中へどうぞ」

廃城の外観はまさに廃墟のようなのに、中は煌びやかな城のそれである。

前回も体験したことではあるが、慣れずにしげしげと見回してしまう。

シュンはこれを、「面白いでしょ」とわざと魔法でそうしている。

応接間に案内し、早速話に取り掛かる。ニノとグレンが帰る時が来たのかと思ったが、そうでもない様子だ。

「立て篭もり犯達から証言を得られたが、問題はその後だ」

「あと?」

ロッド侯爵が銃を提供してくれたとの事で、騎士団たちはロッド侯爵の元へ向かった。

しかし、そこには城から派遣された役人達が多数居り、更には屋敷の門の前に記者や野次馬も群がっていた。

「ロッド侯爵は殺されていました」

「!?」

「しかも、ロッド侯爵の家に仕える使用人の話では、大量の銃を買いあさっていたらしいのですが、それが一つ残らず無くなっているとの事です」

「でも、銃にはその家の紋章が彫られてるから売り買いはできないよね?」

「それが、家紋は彫っていなかったと言うのです」

「……銃を手にするには国に届けを出して、持ち主がわかるように家紋を彫る決まりだよね?それをしていなかったって事は、誰かに売る前提だったとか?それで、買いに来た人がお金払うの嫌だから侯爵を殺して持っていった…とか?」

「…私も同じ考えですが、侯爵は朝食時にはまだ生きていました。遺体を見つけたのは昼食を持ってきた使用人。朝から昼の間に殺されたとの事ですが、この間来客はありません。更に、ロッド侯爵の部屋の前には常に二人の護衛がいます」

「なら、その部屋に入った事がある移動魔法を使える人が一番怪しいね」

「…一人居ます。使用人が何度か姿を見たと言っています。姿を消した、ルーク・レジストを」

シュンとレイナードの流れるような会話に口を挟めるでもなく、成り行きを見守っていた一同であるが、レイナードの一言に沈黙が走った。

眉を顰めるシュンと、驚きを隠せないニノとグレン。

「まさか!あいつがそんな事!」

するはずが無い、と続けようとしたが、自分たちの居場所を騎士団に教えたのは他の誰でも無いルークである。

はっきりと友人を庇うことが出来ず、グレンは唇を噛んだ。

「…ルークは二人と一緒にロッド侯爵を調べてたんでしょ?」

「…そうだよ」

「…言いにくいんだけど、ルークは二人の動きをロッド侯爵に教えていたんじゃない?」

「!!?」

「そんなバカな!!ルークだってロッド侯爵が怪しいって!」

「ルークは何かの目的があってロッド侯爵に近づいた。でもそのロッド侯爵が罪を犯して、それはバレないはずだったのに、私の魔法でバレてしまい、何とかしようと二人の動きをルークに知らせて貰いながら二人を陥れる事にした。でもそれも失敗。立て篭もり犯達が証言したと知ったルークは口封じにロッド侯爵を始末して、目的の銃を持って行方をくらませた。…辻褄は合うよ」

「…嘘だろ…」

「意味が分からないよ…」

愕然とした面持ちでニノとグレンは床に視線を落とした。

二人がルークとどれだけの付き合いで、どれだけ仲が良かったのかは知らないが、シュンは何となく、ルークがやろうとしている事が予測できた。

戦争だ。

ルーク自身が戦争を起こすわけではなく、何処かの国か、人かに仕えているのだろう。

その人物に指示されて武器を集めている。

魔法を使えない人は、使える人よりも圧倒的に多い。

戦争になれば、必然的に魔法を使えない者が多くなる。

剣や槍や弓などを手にし、戦場に立つわけだが、その武器がもし、銃に取って代わったならどうだろう。

剣や槍などは圧倒的に不利で、大差で勝負がつくだろう。

そして何より、漫画ではあと二、三年のうちにルーズランス国は戦場となる。

漫画では“隣国”とだけあった。

ルーズランス国と隣りあっている国は五カ国。

その五カ国の内の誰かがルーズランス国を狙っているのだ。

そこまで考えたが、シュンは口には出さない。

根拠も何も無い話だ。

漫画の世界ではこうでした、等と言えるわけが無かった。

「ニノとグレンの無実は証明されたわけだよね?連れて帰るの?」

「…そうしたいのは山々ですが…」

「?」

レイナードは非常に言いにくそうに一部の新聞を差し出した。

ルーズランス国の今日の夕刊で、写真などというものが無い為、写真の代わりにイラストが描き込まれている。

そして見出しには、

「“ロッド侯爵殺害に騎士二名関与か!?”…え?これってもしかして…」

「ニノとグレンの事です」

「はぁ!?なんで!!」

「俺たちずっとここに居たのに!?」

記者達は行方をくらましている二人が怪しいと、面白おかしく好き放題書いているのだ。

若い騎士二人は、真実を暴こうとロッド侯爵を調べていたが、そのロッド侯爵に逆に訴えられ、それを恨み殺した、と。

「そんなむちゃくちゃなぁ…」

「…と、まぁそういう事なので、こちらとしても一刻も早く誤解を解きます。ですが噂とは尾ひれが付くものです。二人が騒ぎ立てややこしくなるよりは、暫くはここで預かって欲しいのですが、如何でしょう?」

「私は構わないよ。部屋も空いてるし」

「そう言って頂けて有り難いです」

友人に裏切られ、故郷にも帰れず、ニノとグレンはガックリと肩を落とし自分達の運の無さを呪った。


帰り間際、

「もう一つお願いが…」

とレイナードは申し訳なさそうに眉を下げた。

「はい?」

「実は、ウォルトが貴女の作るチョコレートをとても気に入ってしまって…。分けてもらう事は可能でしょうか?」

チョコレートという単語に目ざとく反応したのは他の誰でも無い、シンであった。

シンは即座に

「無い」

とレイナードとシュンの間に割って入った。

「チョコレートの木を燃やした奴にくれてやるモノ等無い」

と。

「チョコレートの木じゃなくてカカオの木だってば」

「欲しければ力尽くで来い、と伝えろ」

未だ根に持っているらしく、シンはビリビリと殺気を飛ばした。

シュンに「やめんかい」とチョップをくらい殺気は引っ込めたが、チョコレートは意地でも渡さないという空気だけは消えなかった。

ここでチョコレートを渡せばシンが荒れるな、と思ったシュンは、町でピンクの花のタグが付いたチョコレートを見かけたらそれを試してみてくれ、とだけ伝えた。

それがシュンのおすすめなのだろう、とレイナードは一つ頷き帰って行った。

……シュンの移動魔法で。

「…魔法使いも一緒に連れておいでよ…」

と言う呟きに残された一同は苦笑いを零した。


「数が少ないな、ルーク」

「申し訳ありません。収集中に邪魔が入りました」

「邪魔?…まぁいい。次だ」

「了解しました」

数十丁の銃を前に不服そうに鼻を鳴らしたのは、とある国の貴族の男である。

貴族の命令に従うべく、ルークは返事と共に姿を消した。

貴族の男は、その銃を自分が管理する隠し金庫へと移動した。

その金庫には未登録の大量の銃が保管されており、その数、千は超えている。

「銃器隊を作るにはまだまだ足りないな…」

この事を知っている者は、極わずかだ。

貴族の男は不敵な笑みを浮かべ、数年後を思い描いた。

少ない兵士で戦場をひっくり返し、因縁のルーズランス国に勝利する未来を…。








ブクマ、誤字報告ありがとうございます(*´・∀・)*´-∀-)

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