21
「止まれ。ここは私有地だ」
男の声に銀色の甲冑を纏った一団はピタリと止まり、辺りを窺うと正面に少女がいつのまにか立っていた。
そして、その少女の背後に次々と四人の男女が姿を現す。
「勝手に入るなと書かれた森の入り口の看板が見えなかったか?」
少女のすぐ後ろに居た黒ずくめの男、レイルの言葉に騎士団は僅かながらに身じろぎをするが、慌てるものはいない。
「すまんな。こちらにも事情がある。貴殿らがこの城の住人か?」
先頭の一際ガタイの良い男が口を開いた。
他の誰も着けていない腕章を着けていることから、リーダー格と思える。
が、
(違うな。漫画ではもっと細い優男風の奴だった。こいつは副団長だったはず)
一見粗暴そうであるが情に脆く、子供が好きな男だったと記憶している。
団長は何事にも冷静で、大多数が救えるならば、少数の犠牲も厭わないと言う人間だ。
「そうだよ。にしてもこんな真夜中に訪問だなんて失礼だと思わない?しかもうちの子達を殺したね?逃げた弱者を追い詰めていたぶるなんて騎士の恰好をした蛮族かな?」
「!?」
騎士として城に仕えている実力者達に対し、蛮族とは流石に良い顔はされない。
不快感を隠そうともしない騎士達だが、子供の言うことにいちいち取り合う気は無いようだ。
腕章の男はシュンの直ぐ後ろにいるレイルへと目を向けた。
「こちらに二人の兵士が来ているはずだ。こちらに引き渡してもらいたい」
「却下だ」
即、返事をしたのはシュンだった。
「…お嬢さん、大人のお話し中だ。少し静かに願いたい」
怯えさせないためであろう。優しい口調で話す腕章の男を一瞥し、シュンはパチンと指を鳴らした。
「な!?」
ブワッと一瞬で作り出された火の球は勢いよく騎士達の後方へと飛んで行った。
最後方で一人の騎士により火の球は真っ二つに切られ、爆発した。
「部下に話をさせて団長殿は見物か?礼儀もなってないな。騎士とは強さや品だけでなく礼節を重んじ、国を守護する顔だと思っていたが、どうやら本当に蛮族の様だ」
辺りは静まり返り、子供らしからぬシュンの発言と火の球を切った騎士に注目が集まる。
「ふふ」
火の球を切った騎士からは思わずといったように笑みが溢れ、足を踏み出すと、シュンの前まで一斉に道が開かれた。
「初見で私を団長と判断されたのは初めてですよ」
シュンの記憶の通り、すらりとした美人の優男であった。
「どうやら君はただの子供ではないようですね。これまでの非礼お詫び申し上げます」
騎士団長があっさりと非を認め、礼を取ったことからざわめきが起こった。
しかし、その横で、団長に倣い腕章の男も礼を取る。
「見た目で判断したことを謝罪する」
「これ以上罵らずに済んで良かったよ」(成る程、漫画通りの人だな)
にっこりと子供の様な笑みを向けるシュンに団長と腕章の男は戸惑った。
明らかに目が笑っていない。
「シュンちゃん!」
「あれ?来ちゃったの?」
漸く到着したニノとグレンは慌ててシュンを自身の後ろに隠そうとするが、その前に団長が動いた。
剣を抜きニノに斬りつけたのが、ガキン!と防御魔法に阻まれ剣の方が弾かれた。
「だ、団長っ!」
まさかいきなり切りつけられるとは思っていなかったのだろう、ニノの目はこれでもかと見開かれている。
「おい、自分の部下だろ?」
「もう部下ではないですよ」
まるでもう要らないと言う様なその笑みに、ニノは顔面を蒼白にし、逆にシュンは怒りに顔を真っ赤に染めていた。
「ならっ…この優秀な騎士二人は私が貰う!!」
シュンがパチンと指を鳴らすと、バチっと電気が走った。
辺りの雪は一瞬で溶け、水たまりに電気が走る。
あちらこちらで感電した兵士たちが悲鳴を上げているが、それ程威力はなかったので倒れた者はごく僅かだ。
「ちっ、蒸発させすぎた」
雪を溶かすだけのはずが、頭に血が上ったせいで力のコントロールを誤り、雪が一部蒸発してしまった様だ。
「凄い魔力だ…」
シュンは再び指を鳴らし、移動魔法でニノとグレンを城の結界内へと移動させ、結界の外へと出られない様に更に魔法をかけた。
「あの二人に手を出したければ私をどうにかしないとね」
言い終わるや否や、パチンと指を鳴らすと無数の氷の矢が団長を襲うが、そう簡単にはいかない。
剣の一振りで一掃され、その実力を物語る。
子供であるシュンを止めようと他の兵士が間に入ろうとするが、それを他が許さない。
シュンのやる事に邪魔をするな、とマールとエクシャが交戦する。
腕章の男もシュンと団長の間に入ろうとするが、それもシンに止められた。
「やめておけ。怪我じゃ済まないぞ」
「なに!?あの様な少女が傷ついても良いと言うのか!?」
「フン、人を見た目で判断したことを謝罪したばかりだろうに」
あんな女の子に何ができるというのかと、シュンへと視線を向けようとするが黒い風の刃により叶わなかった。
「!?」
腕章の男は背に背負った大剣を振り回し、風の刃を粉砕した。
「よそ見をするな。お前の相手は俺だ」
「成る程…ここの者達は皆、一癖あると言うわけか…。面白い!相手になろう!!」
豪快に剣を振り回し炎を纏わせ、構えをとった。
「勝負!」
叫ぶや否や、腕章の男はシンに突進した。
マールとエクシャが交戦する中で、レイルは露払いに専念していた。
自分の育てた弟子たちの初めてのまともな戦闘である為、彼等の邪魔をする者達を片っ端から排除していく。
マールとエクシャは竜の血を引いている為、体力や魔力は人並み以上だ。
ここの騎士達を一掃しても有り余るだろう。
シュンとシンは魔力は多くとも、体力は人並みなのだ。
魔法で増強しているだろうが、それは同時に魔力の減りも早いと言う事になる。
なので出来るだけ邪魔が入らない様に努めているわけだが…。
(といっても魔力の量も人外だけどな)
まるで初めてのお使いを見るかの様に、レイルはシュンとシンを見守った。
指が鳴るたびに繰り出される魔法。
寸での所で避けられる攻撃。
団長はシュンの能力に驚き、同時に歓喜していた。
相手はまだ子供だというのにこの戦いぶり、久しぶりの強者に心を踊らせていた。
逆にシュンは戦いに集中できないでいた。
前世の漫画の内容を思い出したからだ。
この団長や副団長である腕章の男は本編ではすでに死んでいる。
ここへやってきた時のニノやグレンのボロボロ具合から、団長か副団長の仕業であろう事は予測できる。
将来団長と副団長になるニノとグレンを、同僚達があそこまで追い詰めることができるとは思えない。
そのニノとグレンを凌駕する程に強い団長と副団長はなぜ死んだのか?
原因が書かれていたはずなのだが、思い出せないでいた。
(原作者め…ニノの過去編もっとちゃんと描いといてよ!)
「ふ、戦いの最中考え事ですか?」
「!?」
一際速い動きで繰り出された突きを何とか躱すが、僅かに服が掠ってしまった。
「ちっ」(動体視力強化!)
鋭い突きの連打を魔法のおかげでなんとか躱す。
ギリギリまで身体能力を上げているにも拘わらず、傷は増えるばかりだ。
(魔法だけじゃどうにもならない事…それは経験の差…)
団長は訓練や魔物討伐、戦いなどで日々経験を積んでいる。
しかし、シュンは学んだ事を実践で使う事など殆ど無い。
この団長にしても移動魔法でさっさと遠くへ飛ばしてしまえばいいのだが、住処がバレてしまっている以上それはただの時間稼ぎにしかならない。
いずれまたやってくるだろうし、その度に遠くへ飛ばしても何の解決にもならない。
なのでこの場で叩き潰す必要があるのだが、どうも思い通りには行かないようだ。
「攻撃が止まってますよ!」
斬撃が飛びかい、それを寸前で何とかかわす。
「そう言えばこの場所はどうして分かったの?」
「親切な魔法使いが教えてくれましてね」
ニノとグレンの話では、仲間の魔法使いが逃がしてくれたと言っていた。
それはつまり、拷問でもして居場所を聞き出したのだろう。
下劣なやり方にシュンの眉間にシワがよる。
「どんな想像をしたかは分かりませんが、真実ですよ。以前から彼らのやり方に疑問があったと、協力してくれた親切な魔法使いです」
「?」
食い違いが出た。ニノ達の言った事と違いすぎる。
どういう事だ?と首を傾げる間も与えてはくれず、攻撃は続く。
(いやいや、強すぎるんだよこの人が…)
反射神経も動体視力も筋力も限界まで底上げしているにも拘わらず、若干押されている。
シュンが勝てる可能性があるとすれば、先程から張っている罠に団長が引っかかってくれる事であるが、もしかしたら見破られている可能性もある。
そこまで考慮し、他の策も講じなければならない。
そして、その思考を邪魔する団長と副団長の死因。
「くそっ!何かヒントがあれば!」
指を鳴らす為に中指と親指をくっつけた瞬間、
「レディが使う言葉遣いではありませんよっ!」
スパッとシュンの頬が切れた。
「っ!」
つ、と流れる血にシュンは内心ハッとした。
(今、このタイミングで攻撃してきたという事は、アレはバレていない!)
こちらが相手の意図に気付いていないフリをする為に、表情は崩さず頬に流れた血を指で拭き取った。
少し離れた所からはマールとエクシャが他の騎士を相手取りながら「あいつ(団長)は自分が殺す!」と殺気だっているが無視だ。
(一先ずこの人を何とかするか)
パチン!パチン!パチン!と連打で指を鳴らし様々な攻撃を仕掛けた。
火や水、風や土、雷や氷、果ては闇や光など全ての属性が入り乱れ間髪入れずに攻撃を繰り返した。
少し離れた所からは「ちょっと待て!今の魔法なんだ!?」とレイルが食いついていたが無視だ。
土煙りが団長を覆い、互いの姿を確認できないでいる。
しかし、熟練の騎士はシュンの気配を逃さなかった。
辺りが見えなくなり、土煙りが晴れるのを待っていたシュン。
その土煙りの中心が動いた。
団長が動いたと判断し、両手指を鳴らすポーズを取った瞬間、その両手に小さなナイフが突き刺さった。
「っ!!」
「両手は少し封じました。これで魔法は使えない!!」
煙の中から剣を構え、シュンに向かって飛び出した団長の耳に「ふふ」と少女の笑みが届いた。
「!?」
ガキンッ!と団長の剣に自分が投げた筈のナイフが当たり、更にその刃を折った。
「なにっ!?」
「まだまだ」
「!?」
ドンッ!と強い衝撃を受けたと思ったら、背後の木に強く背中を打ち付けた。
「がはっ!」
「これで終わり!」
シュンは自分の手に刺さったナイフを引き抜き、瞬時に回復し傷を塞ぐと、身体能力を上げたその速さと力で一気に団長との距離を詰めた。
今正にそのナイフが団長の喉に触れようとした瞬間、シュンは動きを止めた。
「…おや?ニノ。結界の中に閉じ込めたはずだよ?」
「…わざと綻びを作った結界でしょ?」
ニノの剣が、シュンのナイフを受けていた。
「ニノ!その子に怪我させるなよ!?」
「グレン…そんなヘマはしない」
睨み合うシュンとニノを横目にグレンは団長を支え起こした。
「二人を要らないと言った人を助けるの?」
「…それでも、俺は…」
そのあとの言葉は続かなかった。
「わざと、とはどういう事ですか?」
代わりに言葉を発したのは団長であった。
団長は、シュンがわざと結界に綻びを作り、ニノやグレンが出られるように仕向けていたと直ぐに気づいたのだ。
しかし、その理由がまるでわからない。
「いやー団長さんがピンチになれば、助けに来るんじゃないかなって思って。そうすれば貴方も易々と元部下を殺したりしないでしょ?助けてもらったんだから。そう!助けられたのに殺すなんてしないでしょ?恩を仇で返さないでしょ?」
「…は?」
団長は意味が分からなかったが、シュンは団長が二人を要らないと言った瞬間から、この展開を計算して動いていた。
更にはニノの反応だ。
団長から要らないと言われた瞬間、グレンは悔しそうにしていたが、ニノはかなりのショックを受けていた。
そして団長の見た目はニノ好みの美人。
あれ?ニノって団長さんの事好きなんじゃね?と思い至った。
つまり、ニノとグレンを見限った団長を助けさせることで借りを作り、二人を殺す事を止めさせたのだ。
団長を好きなら余計に助けに入る確率は高いので、あとは結界を緩くしておけば準備は万端である。
漫画の中でニノはあっさり国を裏切りシンに付いたのだが、もし、好いていた団長が死んだ事が原因で国を見限ったのなら説明がつく。
(原因…あ!思い出した!)
刹那。
ドオォン!!と一際大きな爆発が背後で起きた。
なんだ!?とそちらに視線が集まり、事の次第を瞬時に理解したシュンは顔面蒼白であった。
「ふははは!つい本気になってしまった!」
副団長がシンを狙った攻撃が畑の一部を破壊していた。
通常結界で守られている筈の畑と城であるが、ニノとグレンの手によって破壊されていた為守られる事なくあっさりと木は燃えている。
そう、木が燃えているのだ。
正確にはカカオの木が。
「っっっっっっ!!!!全員退避!!!!」
シュンの声がこだました。
「早くにげろぉぉぉ!!!」
今の今まで自分と戦っていた少女の狼狽ぶりにあの燃えた木に何かあるのか、と団長は首をかしげるがそんな団長に構う事なくシュンは走り出した。
シンの様子や状況を見て、何が起きたか理解したレイル、マール、エクシャは我先に廃城へと戻り、レイルは結界を隙間なくギッチギチに張り直した。
「シン!落ち着こう!一旦落ち着こう!深呼吸しよう!!」
シュンはシンと副団長の間に割って入るが、シンの表情は愕然としていた。
「シン!!!私を見て!!木じゃなくて私を見るの!!!」
無理矢理燃え盛るカカオの木から顔を逸らすが視線は燃えるカカオに釘付けだ。
「お嬢さん、今は戦いの最中!もう暫し」
「何してんの!?早く逃げろってぇ!!」
「は?」
状況がまるで把握できない騎士達は、団長と副団長以外全員、動きの止まったシュンとシンを狙い一斉に襲いかかろうとしたが
「…チョコ」
とシンが絶望に染まった声で呟いた瞬間、その場から動けなくなった。
黒い魔法陣が一気に広がり、騎士達の足を絡め取っていく。
「ひっ!なんだこれは!?」
「動けない!」
「沈む!助けてくれ!!」
黒い魔法陣からは黒い触手が伸び次々に騎士達を地面へと引きずり込んでいく。
団長や副団長は勿論、状況が把握できずその場に居たニノやグレン迄もがその餌食と化していた。
「何だこいつは!!体が言うことを聞かん!」
「これは闇の魔法!!まさかこんな高度な魔法まで!!」
「シン!!ストップ!一旦こっちに戻ってきて!!」
シンと共に魔法陣の中心に居たシュンには影響はなく、何とかシンを止めようとする姿に先程まで敵視していた騎士達の期待が集まる。
だが、シンの傷付いた心(笑)には届いていなかった。
「もうあれしかないか…一か八か!!」
シュンは最後の手段、と移動魔法で一度姿を消すとその手に何かを持って再び現れた。
「シン!ほら!あーん!」
あーんとは言っているが、実際には無理矢理口をこじ開け、一口サイズの黒い塊を放り込んだ。
「!」
ピタリ、とシンの魔法が止まった。
緊張の糸が張り巡らされたかのように、誰も何も発せず微動だにしない。
シュン以外は。
「はい、シン!もう一つ!あーん!」
今度はシン自身で口を開きその黒い塊を受け入れ、漸くシンとシュンの視線が合わさった。
「チョコレート、美味しいね」
「…美味い」
ヒュン、と黒い魔法陣は消滅し、後には下半身が土に埋まった騎士達だけが残された…。
取り敢えずカカオの木を燃やした副団長だけは殺す!と言ってきかないシンを何とか宥め、団長、副団長、ニノ、グレンだけは掘り起こし話し合いの場を設けることにした。
「あ、エクシャはあの中から魔物達を殺した人を見つけて。あとは煮るなり焼くなり好きにしていいよ」
と言えば焦った副団長に、命だけはと懇願された。
「なら、毎月五百キロの生肉を献上しなさい。殺された魔物には子供がいたのです。まだ狩りもできない子供達はこのままでは飢え死んでしまいます。なので、あの子達が狩りを覚えるまで生肉を毎月五百キロです!できないのであれば魔物の群れをあなた方の家に突撃させますから」
怒り心頭のエクシャは珍しく荒々しい口調で、一般の騎士の給料では無理な量の注文を突きつけていた。
「…五百キロ…」
ヒクリ、と兵士達は口角をあげる。
「お返事が聞こえませんね?」
とエクシャが辺り一面に魔物の群れを召喚すれば、慌てたように「アイ!マム!」と威勢の良い返事が響いた。
下半身が埋まっているのだ。
今襲われたら、ただ蹂躙されるだけになってしまう。
騎士だって命はやはり惜しいのだ。
「騎士団長を務めるレイナード・サーザンです」
「副団長を務めるウォルト・カーウェンだ」
場所は廃城内の応接室。
負けを認めた騎士団は武器を下ろし、話し合いを求めた。
「今更話し合いなんて都合がいいね」
「それは勿論分かっています。正直言いますと戦いの初めから貴女の掌で踊らされていた事を含め、かなりショックです」
「私はうちの子達を殺した人を裸にひん剥いて蜂蜜塗りたくって森に吊るしたい気分だよ」
笑顔でとんでも無いことを言う少女にレイナードとウォルト、ニノとグレンは絶句した。
蜂蜜の香りで寄ってきた虫達や獣に蹂躙されつつ、身動きが取れなければ死にたくても死ねない、まさに拷問だ。
「それで?何をどうしたいのかな?」
「まず確認を。貴女がニノやグレンの報告書にあった潰されていた銃のグリップを直した張本人という事でお間違いないですか?」
「間違いないよ。まさかこんな子供が、って誰も信じてあげなかったんだってね。上司である貴方達も?」
レイナードを見た後にウォルトを見ると二人とも気まずそうに顔を見合わせた。
子供が使うには余りにも高度すぎると、信じることができなかったと言う。
しかし、実際こうして顔を合わせ戦ってみればその優秀さは理解できた。
「今なら信じられる」
「遅いよ。疑う前に、せめて本人を連れてこいっていってあげるべきだったよ。そんなんだから騙されるんじゃない?」
「!?」
どういう事だ?と視線が一斉にシュンへと向かった。
「ニノとグレンは仲間の魔法使いが逃がしてくれたと言った。でもレイナード団長はその魔法使いがニノとグレンに疑問をもち居場所を教えてくれたと言った」
そこまで言えば全員が理解できた。
城の魔法使い、ルークに騙されたという事を。
自分だけが助かるために友人を売ったとニノ等は考えるが、シュンはそうは思わなかった。
それは、漫画にあったモノローグ…。
“仲間の魔法使いの裏切りのもと戦争は起こり、レイナード団長とウォルト副団長は戦死。グレンが団長、ニノが副団長を引き継ぎ戦場を駆け抜け、国に勝利をもたらしたのだ”
というもの。
その引き金となる裏切り者とはルークの事なのではないかと考えたのだ。
根拠といえば魔法使いという事だけであるが。
「あのギルド立て篭もりの時に捕まえた人達は誰も口を割らないの?」
「…何をしても知らぬ存ぜぬ、ですね」
“何を”にはきっと拷問も含まれているだろう。
「…うーん…」
その立て篭もり犯の中の誰かがルークの事を知っているかもしれないと考えたが、そう容易く喋るはずはないだろう。
もし、知っていれば、立て篭もり事件の黒幕である貴族も後の戦争に一枚噛んでいるに違いないのだが、シュンの予測に過ぎない為、口にはしない。
「何をしても…かぁ…。じゃぁ、こういうのはやってみた?」
「?」
シュン以外の者からすればルークの話から内容は外れているのだが、シュンの興味深い話に耳を傾けた。
それは今まで試したことのない事で、拷問で心身共に疲れ切った者には効果的なのかもしれないと、レイナードは頷いた。
「やってみる価値はありますね」
「重要なのは人選だよ」
「分かっています」
クスリと綺麗に微笑むレイナードだが、シュンには腹黒さしか見えず、変なのに惚れたな、とチラリとニノを見た。
「それで?この二人はどうするの?」
いきなり話を振られたニノとグレンは困った様にレイナードを見た。
要らないと言われた自分たちはこれからどうなるのか、と。
「本当に要らないなら有り難く私が貰っておくよ?」
「…そうですね。どうやら本当に無実のようですし…。先ほどの話を試してみて、犯人達の証言が得られて尚且つ二人の無実を王に証明できた暁には私が迎えに参ります」
「あ、そう。残念」
「全然残念そうではありませんね」
「そんな事ないよ」
もし本当に戦争が起きるのなら、大きな戦力となる二人はここに居ない方がいい。
「帰れるって。良かったね」
そう言ってニノとグレンを見れば、嬉しそうに表情を綻ばせていた。
朝日が昇り始めた頃、騎士の一団は漸くさて帰ろうかという事になったのだがここで問題が起きた。
行きは魔法でやってきたのだが、帰りはその魔法使いがいない事に気がついたのだ。
徒歩で帰れば何ヶ月かかることやら。
仕方なしにシュンは、送るよ、と自身の移動魔法で帰してやった。
国についた騎士団は、一気に全員を帰したシュンの魔力にゾッとしたのは言うまでもない。
国の魔法使いですら三人がかりだったというのに…。
「本当に凄い少女だ…」
「えぇ。本当に…」(もし本気で戦っていたのならどうなっていたのか、とても興味深いですね…。もし、機会があれば…)
などとレイナードが物騒な事を考えているとも知らず、シュンは今度はきっちりと結界を城と畑に張り、一気に押し寄せてきた眠気に逆らわずベッドへと潜り込むのであった。
ブクマ、誤字報告ありがとうございます(*´・∀・)*´-∀-)




