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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
20/71

19

「懐かしいねー」

「手負いの獣が今ではすっかり飼い猫だな」

「誰が飼い猫だ」

「シュンに餌付けされてるだろうが」

「…されてない」

マールとエクシャも

「納屋って意外とあったかいんだよな」

「干し草もふかふかで」

と全く関係のないところでうんうんと共感を得ていた。

自分がなぜ指名手配されているのか、その話を終えた感想がこれである。

シンはもっと他に無いのか、と思わなくも無いが自分の正体や現状を知りつつも変わらずにいてくれる事にホッとした。

「そう言えば、シン」

「?」

「お前シュンの顔に物ぶつけたの謝ったのか?」

ジロリと睨むレイルにシンは、スッと視線を逸らした。

「忘れてた。シュン悪かった」

「おい」

「私も忘れてた。いいよ」

「…」

被害者がこれである。

レイルももはや溜息しか出なかった。

「それで、シンはどうしたいの?」

「どう…」

どうしたいのかと問われれば…。

「…両親に復讐をしたいと思っていた。今は正直分からない。過去を思い出せばそうしたい気持ちが大きくなるけど、忘れてることが多い」

魔法を学び、美味いものを食べて、時々起こるトラブルに頭を悩ませるこの生活が楽しいと感じている。

「俺がもし復讐を選んだら、シュンはどうする?」

「え、普通に止めるよ?全身全霊をもって」

「迷い無いな…」

「そりゃそうだよ!シンが両親を殺しちゃったらきっと弟君に恨まれちゃうよ?嫌でしょ?大事だと思っている弟君に恨まれるのは」

「!!」

盲点であった。

弟の事を考えていなかったのだ。

少なくとも弟は自分よりだいぶ可愛がられていた為、両親の事を大事に思っている筈である。

「…あぁ、それは嫌だな…」

弟の悲しむ所は見たくない。

「シンが悲しまない為に、私は全力で頑張って止めるからね!」

「!」

両親の命が大事だとか、弟が悲しまないようにだとかではなく、自分の心を第一に考えて即決で出したシュンの答えがどうしようもなく嬉しかった。

「シンは天才だけど、流石にシュンや俺達を一斉に相手にするのは不可能だろう?」

「は?」

“俺達”とは?

と辺りを見回せばサッとレイルとマール、エクシャもシュンの側へ身を寄せる。

「四対一は流石に卑怯だろ…」

「やっば!私楽勝で勝っちゃうかも!」

レイルは先日の件でシュンに借りがある。

マールとエクシャは言わずもがなである。

「シン頑張って!」

とエールを送るシュンであるが、一体何をどう頑張れと言うのか、と表情を引き攣らせるシンであった。

結構シリアスで重要な話をした筈なのにあっけらかんとしているメンバーに、シンも笑いがこみ上げてくる。

さっき話すまで忘れていたが、あのシンを逃した兵士は無事だろうか、と不安がよぎった。

あの事が原因で処罰されたりしてないだろうかと。

「見に行ってみる?」

「は?」

また突拍子も無い事を言い出すシュンにシンは眉間に皺を寄せた。

「どうせ痣は消せるんだし、成長したシンを見ても一目でそうだと分かる人はいないと思うよ?」

「…」

確かにそうではあるが、万が一両親を目の当たりにしてしまい、冷静でいられるか不安があった。

だが、その時は力ずくで止めるから大丈夫、とその場の四人は力強く頷いた。

「…頼めるか?」

「任せて!フルボッコにして止めるから!」

「…お手柔らかに頼む…」

こいつならマジでやる、とどこか確信めいたものがあり、内心冷や汗を流した…。


翌日話した通りシンの故郷であるアルファード国の城下町へと足を踏み入れた。

痣を消し、町人の恰好で闊歩すれば集まる視線。

痣は消えている筈だが、と不安を募らせていると苦笑いしながらシュンは頬をかいた。

「そりゃそうだよねー。こんな美男美女が団体で歩いてればそうなるよねー」

集まる視線の原因は一同の容姿であった。

特にシンは美人と言われる部類で、男女問わず釘付けだ。

だからといってフードを被って歩けば職質は確実。

このままの方がマシであると判断して城近くまで移動した。

城の周囲は貴族の住まう区画になっているが、ここでも視線は集まる。

一体どういった御一行なのか、と。

騒ぎになる前に、とシュンは行動に出た。

「門番の人にクーって人の事聞いてくるね」

と一人、駆け足で城門へと向かった。

数回言葉を交わした後、シュンは直ぐに戻ってきて嬉々として得た情報を口にした。

「まだ兵士として勤めてるみたいだよ。今日は町に行ってるって!」

「!」

それから、と更にシュンは続けた。

シンを取り逃がした事について誰も罰は受けていないとの事であった。

「シンを逃した事、多分みんなで上手く誤魔化したんだろうね」

「…そうか…良かった…」

「町に行って探してみる?」

大きな町である。

見つけるのは不可能に等しい。

その為、シンは首を横に振った。

「無事なら構わない。帰ろう」

「そう?折角だから少し散策しても良い?初めてくる町だから植物屋さんとか覗いてみたい!」

ウキウキとすっかりそのつもりのシュンに、仕方ないな、とシンは付き合う事にした。

この町に来たのは二度目である。

自分の故郷とも言える町を見て回るのも悪くないと思った。

「レイル達はどうする?出番はなさそうだよ?」

「そうだな、折角だし見て回るのも良いかも知れん」

「お付き合いします」

「もし何か植物を買うなら荷物持ちが必要だろう?」

エクシャとマールも付き合ってくれるようで、こうして五人で出歩くのは実は初めての為、シュンは実に嬉しそうに先頭きって歩き出した。

お昼は外食するのも良いかも知れない。

普段シュンが服を作っている為、服屋なども行った事がないので、各々好きな服飾や雑貨を見て回ったりしてもいい。

屋台を見たり買い食いしたり公園で一休みして、また見て回るのだ。

ウキウキと露店が軒を連ねる一角へとやってきた一行。

が、人混みが凄まじく、小さなシュンは人混みに流され、あっと言う間に姿が見えなくなってしまった。

「…一瞬だったな」

「流されて行く瞬間のシュンの顔がキョドッていて面白かった」

「言ってる場合ですか…」

「まぁ、匂いで辿れるから問題はない」

え?匂い?とマールを見るシンとレイルに

「私とマールは竜の血のおかげで五感が鋭いんです」

と話す。

そう言えばそうだったな、とすっかり忘れていた竜の血の話を思い出した。

そんな二人の反応に少し呆れてしまったが、普通の人と変わらないと思ってくれているのがマールとエクシャには嬉しかったりもする。

「じゃぁ、シュンがトラブルを起こさないうちに追いかけるか」

とマールとエクシャを先頭にシュン捜索を開始するのであった。


「oh…」

思わず声が漏れたのは仕方のない事だ。

うっかり手を繋ぐのを忘れていた自分の過失である。

こうなる事が分かっていた為、普段人混みでは必ず誰かと手を繋いでいたが、シンの故郷にテンションが上がりすっかり失念していた。

なんとか脇道に入る事ができ、そこから大通りを、流れる様に行き交う人々を眺めていた。

迷子になった時の鉄則は動かない事である。

マールかエクシャがきっと匂いで辿ってくるか、魔力探知でレイルかシンが見つけてくれるだろうという考えがある。

因みに、シュンは既に魔力探知で四人の居場所が分かっている。

強力な魔力が四つも固まって動いていたら嫌でも分かる。

割と近いので直ぐに見つけてくれるだろうと思って、油断していた。

行き交う人々の手に持つ串焼きが美味しそうだとか、饅頭が美味しそうだとか、スティック状のお菓子(パンの耳を揚げたような)が美味しそうだとか、お腹が空いただとか油断していたのだ。

それは一瞬の出来事で、何かで視界が遮られた。

魔法だろうか、一気に眠気に襲われシュンは意識を手放した。

そして、匂いを頼りに四人がやってきた頃にはそこにシュンの姿はなかった。

「?…シュン以外の匂いがします」

「…あぁ、男?二人?…いや、三人だな」

「?…どういうことだ?」

「シュンはそいつらについて行ったって事か?」

「もしくは、攫われた…か」

真剣にそう言うレイルに他の三人は

「ないない」

と即座に否定した。

言ったレイルも「だよな」と直ぐに否定する。

取り敢えず、匂いを辿ろうと再び追跡する事になった。


「…何してるの?」

「…いや、君も同じ立場だぞ」

どこかに連れてこられたあと、シュンは意外と早くに目が覚めた。

そして目の前には漫画で見たことのある少年が呆れ顔でシュンを見ている。

シュンが思わず「何してるの?」と問うた相手、それは主人公である、幼き日のアスベルであった。

(いやいや、王子様なんで拉致とかされてんの!?護衛どうした!?)

そう、状況的に明らかに拉致だ。

二人の他にも女の子二人と男の子一人が部屋の隅で固まって、不安そうにシュンと少年アスベルを見ていた。

見た感じではあるが、全員の身なりが良い。

どうやら身代金目的の様だ。

しかし、となるとアスベルは王子だとバレているのか?と言う疑問が出てくる。

王子を拉致して身代金を手に入れたとしても、間違いなく犯人達は地の果てまで追いかけられる事になるだろう。

それが分からないほどアホな連中なのか。

それとも身なりが良いから何処かのお坊ちゃんと間違われたか。

そうなるとシュン自身も誰かと間違われた可能性がある。

何せこの町の住人ではないのだから。

さて、子供だからか、縛られているのは両手だけ。

これくらいなら直ぐにでも外して逃げる事は可能だが、他の子供達を置いていくのは気がひける。

移動魔法で外に逃がすのが一番手っ取り早いだろう。

自分の記憶の中で、この町で最も安全なのは城の目の前だ。

子供達が門番にでも通報してくれれば直ぐにでも拉致犯は捕まえてくれるはず。

あとは、シュンは残って犯人達が逃げられない様に、気絶させるか閉じ込めるかしてしまえば良い。

「よし、そうしよう」

一人うんうんと頷くシュンを子供達は怪訝な表情で見つめた。

「今からみんなをお城の門の前に魔法で飛ばすので、通報してください」

簡潔に伝えたつもりだが、子供達は目が点だ。

唯一、話が分かったのは、流石と言うかアスベルだけであった。

「移動魔法か?そんな凄い魔法が使えるのか?」

「使えるよ。だから通報よろしく」

「君は行かないのか?」

「犯人が逃げない様にしなきゃだから。大丈夫だよ、いざとなったら自分も魔法で逃げるから」

「なら、俺も残る。こう見えて剣は得意だ」

知ってる。とは口にはださなかった。

正直自分の魔法を見られたくない気持ちもあるが、この正義感の塊である主人公はどんな説得にも応じないであろう。

「それに俺は元々そのつもりだ」

「?どう言う事?」

「最近頻繁に起こっている拉致事件を仲間と共に解決しようとしているんだ。そして、俺が囮だ!」

「いやほんと…何してんの?」

一国の王子がする事じゃないだろう。

しかも仲間って誰だ?

ちびっ子ギャングか?

少なくとも隅で震えてる子供達ではない事は確かだ。

「危ないでしょ。やめなさい」

「…俺より小さい君に言われてもな」

「…」

シュンの胸にブーメランが刺さった。

自分も子供じゃん、と言いたそうに隅に固まっていた少年少女達の視線もグサグサ刺さった。

「…オホン。でも私は魔法が使えるよ。こんな風に」

パチン、と指を鳴らすと手首を縛っていたロープがするりと解けた。

驚きに目を瞬かせる子供達に、少しだけ得意げにふふんと鼻を鳴らすシュン。

子供達は、本当にここから出られるのかと、期待の眼差しを向けてくる。

「おお、これは心強い!君が一緒なら拉致犯も一網打尽だな!」

アスベルには逆効果だった。

「…貴方戦えるの?」

漫画ではアスベルは剣が得意であった。

しかし得物は見当たらない。

「…剣を奴らに取られたのだ…」

「ダメじゃん」

「と、取り返してくれれば戦える!」

「いやいや、二度手間だよ」

「くっ!頼む!手柄を立てたいのだ!」

「手柄?」

「民を守り父上に認められたいのだ!」

「?」

どう言う事だ?とシュンの頭には疑問符が浮かんだ。

認めるも何も、次の王はアスベルであろう、何をそんなに焦っているのか、と。

これは少し話を聞く必要があるのではないかと、シュンは納得はしていないがアスベルの同行を認めた。

取り敢えず、他の子供達を城門の前に魔法で移動させ、武器は取り戻しにいくと二度手間になるので魔法で適当な物を作り上げることにした。

今閉じ込められているところは殆ど何も無い部屋であるが、子供を縛る為のロープと足の折れた椅子が転がっていた為、椅子で木の剣を作った。

デザインが地味なのは目を瞑って貰いたい。

「おお!凄いな!」

9歳だか10歳の子供である筈なのだが、そこそこの重さのある筈の木の剣を軽々と片手で振り回す姿に、慣れを感じる。

日々修行に励んでいるのだろう。

「じゃぁ、私が騒ぐからやってきた奴をボコボコにしちゃって。そのあとロープで縛りあげよう」

「分かった」

作戦らしく言ってはいるが、正直あてにはしていなかった。

が、

「すぅー…助けてぇーーーーー!!誰かぁーー!!私はここだよぉーーー!!!!拉致されましたぁーーーー!!!!」

これは焦るだろうと言うフレーズを選び叫ぶと案の定三人の男が飛んできた。

荒々しく扉が開けられ、飛び込んできた先頭の男が何かを言う前に、顔面に木の剣がめり込んだ。

飛び込んできた時の勢いも合わさり、威力は倍増だ。

「なっ!?なんだ!?」

「何が起こった!?」

他の二人はいきなり倒れた仲間を見て、一瞬戸惑いを見せた。

その隙を見逃さず、アスベルは軽い身のこなしで二人目の男の腹に剣先を突き刺した。

「せいやぁーー!!」

「ぐはぁっ!!」

木の剣なので実際には刺さっていないが、それでも鳩尾に決まった突きは男を蹲らせるのには十分であった。

「!!このガキ!!」

「捕まるか!」

伸ばされた手をひらりと避け、その手を木の剣で叩き落とし痛みで相手が怯んだ隙に脇腹へともう一撃をくらわせた。

「ぐふぅ!」

初めに顔面に一撃をくらい脳震盪を起こした男以外はまだ立ち上がれるようだったので、シュンは魔法で素早くロープで縛り上げた。

声が出せないように猿ぐつわも忘れない。

「よし!」

「…貴方強いんだね」

「まぁな。毎日特訓しているからな」

期待していなかったはずなのに、気づけば三人ともアスベルが倒していた。

主人公補正なのか努力の賜物なのか、どちらにせよシュンはアスベルの評価を変えた。

「あと何人仲間が居るか分からないけど、魔法使いも居るよ。眠りの魔法をかけられたから」

「俺はこいつら以外にもあと二人見た。さっきの子達を攫ってきた奴らだ。でもそいつらが魔法使いかどうかは分からない」

「じゃぁ、最低でもあと二人から三人だね」

慎重に行こうと、扉の外をそっと覗き込む。

どうやら三つある部屋の真ん中に位置する場所で、廊下の突き当たりの壁には板で塞がれた窓。

反対側には下りの階段が見える。

二階建ての一軒家の様だ。

一先ずほかの二部屋を確認すると、一部屋は埃が被った未使用の部屋でもう一部屋はテーブルと椅子が三つ、そのテーブルの上には酒瓶とグラスが三つ置かれていた。

「さっきの奴らはここに居たみたいだな」

「見張りだったのかもね」

特に何もなく、アスベルの剣も無かったので階段を下りることにした。

歩くたびに軋む床にひやひやしながら下の階へと辿り着いた。

魔力探知の魔法を使ってみるが引っかかるものは無い。

(留守、なのかな?もしくは魔力のない人間が居るか…)

カタリ、と奥から物音が響いた。

微かであったが、静かな屋内にはよく響く。

シュンとアスベルは視線を合わせると頷き合い、そっとその音のした方へと進んだ。

ドアノブに手をかけるシュン。

その直ぐ側ではアスベルが木の剣を構え待ち構えている。

ガチャリ、と開いた瞬間部屋から凄まじい勢いで何かが飛び出した。

「!!?」(マズイ!)

アスベルが反応するよりも早く、シュンは防御魔法を展開した。

ガッキィィン!!と鉄が打ち付ける音にアスベルは漸く自分が斬られる寸前であったと認識し、驚きにその場に尻餅を搗いた。

「あり?アスベル様?」

「!!?クー!?」

ひょっこりと顔を出したのはアスベルの知り合いの様で、更にはクーと言う名前らしい。

(…え!?じゃぁこの人がシンの言ってた人!?)

シュンは魔法を解き、二人を見た。

「知り合い?」

「はっ!あぁ!そうだ!さっき話した仲間だ!」

「おやぁ?お友達っすか?」

(仲間と言うか、多分護衛だろ、この人…)

何せ兵士である。

クーは飄々とした風でアスベルに手を伸ばして立たせた。

その次に興味津々とシュンへ向き直る。

「さっきのあれは魔法?俺の剣を見事に防いだっすね」

「そうであった!助かったぞ!見事な判断な上に凄い魔法だ!」

「…どういたしまして…」

先程まで見つからぬ様にと、静かに行動していた筈なのだが、仲間もとい護衛と合流した途端にアスベルの言動は大胆になった。

それだけこのクーを信頼しているのだろうが、どこに敵がいるかわからない状態であるため静かにしてもらいたいものだ。

「あと仲間が少なくとも二人から三人はいるはずなのだ。魔法使いも居る」

「下の階は探したので上の階に居ないとなると、また誰かを攫いに行ったのかもしれないっすね」

剣を鞘に納め、クーは今しがた出てきた部屋へと戻った。

後に続くと、そこはキッチンでアスベルには見覚えのあるものが窯の直ぐそばに立て掛けてあった。

「さっき別の部屋で見つけときましたよ」

「おぉ!!俺の剣!」

ロングソードの様な形状でポンメルとガードの部分に赤い石が埋め込まれた、至ってシンプルな剣であるが、見た目に騙されてはいけない。

その赤い石というのは魔力が込められている。

魔力の少ないものや魔法が不得意でもその石があれば、ある程度の魔法は使える様になるのだ。

しかし、石を発動させるには、僅かにでも魔力が無いとならない為、魔力の無いものには扱えない。

(流石王子様。子供なのに凄い物をお持ちだね…)

アスベルは自分の剣を腰に差し込み、木の剣を持ち直す。

それに首を傾げるシュン。

「その木の剣はもう要らないんじゃない?」

「何を言う!この重さと握り心地は俺にぴったりだ!持ち帰り鍛練に使う!」

「…あ、そう…」

特に何も考えずに作ったものだが気に入ったのなら良かった。

「さて、どうします?敵の帰りを待ちますか?」

「うむ、そうだな。そうだ、実は他にも攫われてきた子供達がいたのだが逃して兵士を呼ぶ様に伝えてある。もう直来るはずだ」

「…えぇ…それって俺とアスベル様がやらかした事が王様にバレるやつじゃないですか…」

「む、ダメなのか?」

「当たり前でしょ?護衛の俺がアスベル様を危険に晒したなんてクビもんっすよー」

「それは困る!こんな事に付き合ってくれる者はクーしか居ないんだ!しかし!父上に町で起きていた事件を解決した事を知ってもらいたい…」

「王様に?」

「ねぇ、さっきから普通に話してるけど、王子様と護衛っていうのは内緒じゃなくていいんだね?」

「!!?」

「あ、隠すの忘れてた」

「護衛のくせに忘れるな」

「なぜ分かったのだ!?」

「いや、だから、話の流れからどう考えてもそうでしょうが。王様の事思いっきり父上って言っちゃってるからね?」

「くっ!この事は内密に頼む!クーが居なくなると困るのだ!」

「俺も無職になると困る」

「はいはい、じゃぁ今ここに居るのは何処かのお坊ちゃんとその護衛って事でいい?王子様なんて知らないって事で」

「そうしてくれ!」

「それで?お父さんには知ってもらわなくていいの?」

「…クーが居なくなる方が嫌だ…。父上には、また別な事で認めてもらう…」

(ほほぉー)

随分と大人びた考えだとシュンは思った。

子供なら絶対に知ってほしいと思うはずなのに、それを我慢して替えのきく護衛を取ったのだ。

(さすが主人公。強く優しく正義感に溢れてるってわけか)

シュンは内心で感心し、そして、先程から気になっていることを尋ねた。

「なんでお父さんに認められたいの?」

「それは…」

アスベルは少し話しづらそうにしたが、直ぐにまた口を開いた。

「父上はいつも言っているのだ。死んだ兄は優秀であった、って」

「!?」

咄嗟に、死んでねぇよ、と思ったが口にはしない。

というか、自分たちで殺そうとしてる癖に何言ってるんだと怒りがふつふつと沸いてきた。

「幼い頃、兄上と少しだけ話したことがある。本当に優秀な人で俺が分からないことを兄上は全て知っていた。殺されたと聞いた時は本当にショックで…。兄上の様になりたくて頑張ってはいるのだが…」

いくら頑張っても父親は認めてはくれないのだと、珍しく俯いた。

「そっか…。大変だね。でも、貴方には凄い剣の腕があるじゃない!それに、これからこれから!まだまだチャンスはあるよ!」

「…うむ。分かっている!俺はあきらめない!」

兄と比べられ、ひねくれるどころか、兄の様になりたいと真っ直ぐに育ったアスベルが、不思議でならない。

自分ならグレる、とシュンはアスベルの心境を思った。

国を治めるのは優秀であるが、父親としてはボンクラだな、と他人の父親を内心ディスっていると、玄関の方が騒がしくなってきた。

数人の男の声が聞こえる。

「帰ってきたみたいっすね」

「…」

先程まで緩んでいた緊張感がアスベルを襲う。

三人でそっと台所の扉の隙間から廊下を覗くと、三人の男と、そのうちの一人の肩に担がれた少年の姿があった。

眠っているのか、ピクリともしない。

シュンは魔力探知を発動し、魔法使いが一人いる事を確認した。

「行くか?」

「ダメだよ。あの子が人質にされちゃう。せめて起きていてくれたら魔法で外に逃すんだけど。眠った状態だと余計に危険だし」

また別の誰かに攫われたり、いい服を着ているから売るために身包みを剥がされたりと危険がいっぱいだ。

「ならばこの家の他の部屋に移動させる事が出来ればいいのではないか?」

ぽん!とシュンは両手を打った。

確かに二階のあの使っていない部屋に飛ばし、この三人を締め上げればミッションコンプリートだ。

暫く目が覚めなくても、もう直ぐ兵士たちがやって来るはずだから見つけてくれる。

ならばそうしよう、とアスベルの意見は採用された。

「もう直ぐ階段に差し掛かるっすよ」

「じゃぁ、やるよ?」

「うむ」

「オッケー」

シュンはパチン、と指をならした。

すると担がれていた少年はあっという間に消え去り、三人の男たちは勿論何が起きたのか分からず慌てふためいている。

キッチンの扉がダンっ!と勢いよく開き、クーが突っ込んだ。

「えぇ…魔法使いの事考えてる?」

「クー待て!俺も!」

クーの後を追うアスベルにシュンは一人慌てた。

「ちょっと!ちゃんと考えて動いてくんない!?」

敵に突っ込むクーに相手の魔法使いは慌てて水晶の付いた杖を向けた。

水晶には魔法陣が浮かび上がり、何本ものアイスニードルが勢いよく現れた。

「うお!?まじか!?」

クーは勿論避けるが、クーにより前がよく見えてなかったアスベルには一直線だ。

「!」

パチン!と指を弾く音と共にアスベルの正面に防御魔法が現れその身を守る。

「大丈夫っすか!?」

「も、問題ない!」

「大アリだよ!?ちゃんと考えて!?敵に魔法使い居るって事!」

「分かった!」

そう返事しながらアスベルは再び突っ込んで行くのであった。

「全然分かってない!!」

言葉の壁を感じ始めたシュンは、もうこのまま帰りたいとさえ思うが、ほっとく事は出来ずにやはり繰り出される敵の魔法使いの攻撃を防いだ。

「もういい!ガキも殺せ!」

一人の男が叫んだ。

それまでクーに向かっていた魔法の攻撃がシュンとアスベルへ向き、魔法使いではない敵の二人がクーへと向かう。

二人同時という事と狭い廊下という事もあり、剣を思うように使えないクーは苦戦気味であるがまだまだ余裕を感じる。

シュンは自分とアスベルに防御魔法を展開し、同時に魔法の杖の水晶を狙い攻撃するがちょこちょこ動く為中々当たらない。

下手に大きな魔法を使えば、この狭い空間だ。アスベルとクーに当たるかもしれないと、危惧していた。

アスベルの強さなら魔法がなければ倒せるはずだけれど、防御魔法を使っていても迫り来る攻撃魔法には流石に突っ込めない。

となると魔法を封じるしかないのだ。

(魔法使いの後ろではクーが応戦している。下手に背後に回ったらクーの邪魔になるし…どうしたものか)

そう考えている間に魔法使いは執拗に魔法を繰り出し家を破壊していく。

「ん?今…」

何かに気付いたシュンはじっと魔法使いを観察し、杖を振る瞬間に注目した。

「成る程…法則があるわけか」

杖を振る法則。

それはこの魔法使いの癖の様なものであった。

集中でき、尚魔法陣を作りやすい動き。

(丸を二つ描いて右から正面に向かってスライド…リズムは同じ!なら当てられる!)

次に魔法陣を描き、水晶を正面に向かってスライドさせた瞬間、指を鳴らす音と同時に、スパンッと小気味の良い音とともに水晶は真っ二つになった。

「なに!?」

「アスベル!これでそいつは魔法を使えないよ!」

「!分かった!!…いくぞぉぉ!!!」

「くそっ!」

懐に手を突っ込み何か紙を取り出そうとするが、真っ直ぐに突っ込むアスベルを追い越し、火花が魔法使いを襲った。

「あちっ!?」

紙は一瞬で燃え上がり炭となる。

何が起きたか理解した瞬間、眼前には木の剣が迫っていた。

「おりゃぁぁぉ!!!」

メリッと木の剣が魔法使いの顔面を捉えた。

「ーーーー!!!」

魔法使いが言葉にならない痛みに悶絶している隙に魔法で縛り上げた。

さて、クーはと言うとちらちらとアスベルを気にしていたが、片が付いたのを見るや否やニッと口角を上げた。

「じゃぁ、こっちもそろそろ」

と剣を大きく振り始めた。

「!?それじゃぁ刃が壁に!」

とシュンが一瞬慌てるがその刃はまるで豆腐でも切るかのように壁をするりと切りさき、敵の一人の剣を弾いた。

勿論、相手は何が起きたのか分からない。

その目で見たシュンですら理解できなかった。

「な、なに?今の…?」

確かに少年シンを助けたクーと言う兵士は漫画にも出ていた。

シンの過去編でシンが話した様に、シンを助けてくれたのだ。

しかし、それだけだ。

それ以後出てきていない。

あれだけの腕を持っていればシンが両親に復讐を果たす際、騎士団と共に応戦するために出てきてもおかしくない。

だが、居ないのだ。

(…なんで?)

そうこう考えているうちに圧倒的な強さでクーは勝ち、二人を気絶させていた。

(こんなに強い人がモブってどう言う事?)

シュンのクーを見る眼差しはいつのまにか疑いのそれになっていた。

アスベルの子供の頃に護衛がいた事もちゃんと漫画に載っていた。

だが名前までは出ていなかった。

(それに、確かにアスベルは護衛を撒いて町を散策していたはず。一緒に行動するなんて、おかしい。そもそも王子にこんな危険な事させるなんて以ての外だ。クー…何者?)

「すごいぞ!」

「わっ!?何!?」

クーの事に思考を持っていかれていたシュンはいきなりドアップで視界に入ったアスベルにびくりと肩を揺らした。

「魔法を同時に二つ使うなど、君は凄いのだな!」

「…あ、」

そうだ。

魔法が複数同時に使える者などほんの僅かだ。

シュンに至っては今現在四つ同時に使うことができる為、二つなどどうってことない事なのだが、周りはそう思わない。

「そうだった?無我夢中で分かんないや…あははは…」

全くの偶然と言うことにする事にした。

「偶然か。将来たのしみっすね」

「!…そうだね…」

クーの視線も変わっていた。

何かを探る様な、疑う様な。

数秒シュンとクーが視線を合わせた後、家の外が騒がしい事に気づいた。

「兵士たちが着いたみたいだな」

「お?じゃぁ退散しましょうか?バレると大変なんで」

「うむ。あ、そうだ!今更だが君はなんと言う名前なのだ?俺はアスベルだ。こっちはクー」

「うん、散々呼び合ってるから知ってる。私はシュンだよ」

「シュンか…。また会えるか?」

「…うーん…こればかりは約束できないかなぁ。王子様だってしょっちゅうお城を留守にできないでしょ?」

「…うむ…だが十日に一度町に出る。その時にまた」

「…約束は出来ないけど、偶然があったらね」

「それでいい」

「アスベル様、兵士達が入ってきましたよ?」

「もうか?」

「じゃぁ最後に…」

パチンと指を鳴らせばそこはシュンがさらわれた場所であった。

「おぉ!本当にすごいな!」

「ありがとう。私も家族と合流しなきゃ」

「うむ。またな」

アスベルはそう言うと人混みの中へと足を踏み出した。

クーもそれに続き、あっという間に姿は見えなくなった。

結局何故あんな芸当が出来るのか聞きそびれてしまった。

剣で壁を切るなど、到底有り得ない。

(…漫画だからあり得るのか?)

「居た!シュン!」

ガシッと肩を掴まれ、驚き振り返ればシンが居た。

「うわっ!?」

「そんなに驚くか?」

シンの後ろにはレイルとマール、エクシャもいる。

そうだ、シンにアスベルとクーに会った事を伝えなければと向き直る。

「シン…」

「?」

「クーに会った」

「!?…それで?」

「それで…」

頭を整理し、簡潔に話した。

「シンの弟のアスベルの護衛をやってたよ」

「!?アスベルにも…会ったのか?」

「うん。私とそんなに歳違わないのに、強かったよ」

強かった?と首を傾げるシンだが、その先の話は話すことができなかった。

なぜなら、シュンとシンの間に鬼の形相のマールとエクシャが割って入ったからだ。

「え?どうしたの二人とも…」

「それはこっちの台詞だ」

「え?」

「これはいったいどういうことですか?」

「え?」

そう言いながらエクシャはシュンの両手を取った。

そこにはロープで縛られていた痕がくっきりと付いていた。

「…縛られたのか?」

横からひょっこり顔を出したレイルの眉間にもシワがよっている。

事情を説明すればマールとエクシャの表情は般若と化した。

レイルとシンもいい顔はしない。

「その輩を今から処分してきます」

「サクッと終わらせるから待っていろ」

「待って待って。もう既にお城の兵士に捕まったから。それを強襲したら二人が捕まっちゃう。嫌だよそんなの」

だからやめて?と上目遣いに見れば

「やめます」

と二人の声が重なった。

(ちょろいな)


日も傾いてきている事ではあるし、一行は帰る事にした。

シンの故郷の町を散策する事はできなかったが、シンに土産話はある。

十日に一度、アスベルは町に出る。

それは、シンがアスベルに会える可能性があるという事だ。


そして、シンとアスベルの二人が並んで話す日が来るのはもう少し先。

しかし、とても近い未来である。











誤字報告、ブクマありがとうございます(*´・∀・)*´-∀-)

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