18
数年前、某日。
アルファード国の国王夫妻に王の後継となる第一子、王子が誕生した。
額に僅かに痣があったが、髪が生え揃えば前髪で隠れる程度であった為、誰も気にしなかった。
貴族はこぞって祝いに駆けつけ、国王夫妻をはじめ、家臣や国民も我が国は安泰だ、と喜んだ。
が、それも束の間。
王子の顔には日に日に痣が広がっていき、一歳になる頃には顔の左半分を覆うほどとなった。
王妃はこれを気味が悪い、と王子に近づくことすら無くなっていった。
それでも国王は、次期王たる息子を可愛がり知識を学ばせ、武を磨かせようと優秀な師の選別へと取り掛かった。
王子が三歳になる頃、師が付き幼いながらも父の期待に応えようと良く学んだ。
素っ気ない母親も自分が優秀であれば、構ってくれるかもしれないと、更に学んだ。
そんなある日、国に仕える一人の魔法使いが血相を変え国王への謁見を申し出た。
何事かと話を聞けば、見る見る国王の顔色は青ざめていった。
「この国の過去数百年間の文献を調べました所、顔に痣のある子が産まれると、国に災いが起こると書かれております。初めはどの王も信じておられなかった様子。ですが、ある時は日照りが続いて作物が取れず、国民の半数が絶えてしまったり、ある時は長い雨で各地の川が氾濫し町や村が飲み込まれてしまったり、ある時は大きな地震が起こり大陸が割れ今は活動を停止している火山が噴火したりと、様々な災害が起こっているようです」
「しかし、それが子の仕業とは思えぬ」
国王も歴代の王達と類にもれず、痣のせいでそのようなこと起こるわけがない、と信じようとはしない。
だが、更に続けた魔法使いの言葉に絶句する事になる。
「…ですが、つい先日北の山の雪が雪崩れ、麓の村が一つ飲み込まれたばかりです」
「!!」
確かにそのように報告を受け、人命救助と生き残った村人達の保護を行い慰霊碑を建てる指示を出したばかりであった。
「コレが始まりならば、王子が生きている限りこの災いは続きますぞ」
「…しかし」
結婚し数年。
漸く恵まれた子宝である。
更には王子であり、コレが中々に優秀ときている。
その王子を手放すのは何とも忍びない。
「国王様、決断してくだされ。王子の命と国民の命、どちらを取るか」
鬼気迫る勢いで決断を迫る魔法使いに、国王はやはり首を縦には振れなかった。
「しばらく考える」
それが今唯一できる返答であった。
王子はその痣の醜さから、パーティーなどの人目につく行事に参加する事を禁止され、この頃には師と身の回りの世話をする者以外との接触を殆ど絶っていた…。
王子が5歳を迎える頃、この話は城中の者が知っていた。
嫌悪感を隠さない者、憐れみの眼差しで見てくる者、このどちらかであった。
更には、王妃が第二子を妊娠。
城中で、最早王子は死の運命にある、と誰もが思っていた。
国王自身も、ならば第一王子は諦めるしか無いのか、と思いはじめていたくらいだ。
そして、第二子の誕生。
またもや王子であった。
どこにも痣のない王子に、国王夫妻は大いに喜んだ。
王妃にとっては最早我が子は第二王子のみで、第一王子は視界にも入れなくなっていた。
第二王子の誕生から一年が経ち、二年が経ち、三年が経過した。
第一王子に付いていた優秀な師達は、第一王子から離され、第二王子の師となった。
後継から外された第一王子は国王の僅かな情で生かされていた。
第一王子から離された師達は、落胆していた。
第二王子は第一王子程優秀ではなかった。
勿論、同年代の平民や貴族の子供よりは優秀であったが。
唯一優っていたのは、剣技だけであった。
師達は事あるごとに、第二王子に第一王子の話をした。
兄はこういう学び方をした。
できない所はできるまで繰り返した。
私たちも、第二王子ができるまで何度でも教えを繰り返そう。
と。
産まれてこの方兄に会ったことのなかった第二王子は、兄に興味がわいた。
会ってはならぬと母からきつく言われていたが、遂に第二王子は護衛を撒き兄に会いに行った。
「貴方が僕の兄上ですか?」
「…多分」
多分、そう言ったのは第一王子にも目の前の少年が弟かどうか分からなかったからだ。
知っている弟の情報は、産まれた、という事のみ。
お互い産まれて初めての対面であった。
第二王子は第一王子の顔左に広がる痣に少しだけ恐怖を覚えたが、そっと近づき、その痣を撫でた。
「!!」
驚いたのは他でもない第一王子であった。
びくりと肩を揺らしてしまい、それを勘違いした第二王子は慌てて手を放した。
「申し訳ありません!痛かったですか?」
恐る恐るそう尋ねれば、第一王子は
「痛くない。驚いただけだ」
と返した。
「良かった!大きな痣なので痛いのかと思いました!」
屈託無く笑うその笑顔に、第一王子はくしゃりと表情を歪めほろほろと涙を流した。
自分に笑いかける者がまだ存在したのか、と。
「あぁ!兄上!?やはり痛かったのですか!?」
「…いや、違う…弟に会えて、嬉しいんだ」
「!はい!僕も兄上に会えて嬉しいです!」
「っ!」
いつまでも泣いていては兄としてダメだな、と何とか涙を止め、それから他愛もない話をした。
今学んでいる事柄や、苦手な分野、師達がこぞって兄を褒める事、あそこの問題はどう解くのかなどひっきりなしに問いかけてくる弟に兄はなるだけ分かりやすく話してやった。
そのうち時間が経ち、弟は自分の住処へ帰っていった。
父と母のいる温かい場所へ。
二人で居る温かみを知ると、一人の寂しさがより際立ち、第一王子はその日の夜、一人ベッドでまた涙を流した。
それから二年、ほとんど毎日第二王子はこっそりと兄に会いに通った。
本の話や食べ物の話、おやつなど貰えない兄の為に自分のおやつを分けてくれたり、お返しに兄は弟の解らない勉強を師よりも丁寧に分かりやすく解説をした。
その甲斐あってか、第二王子の学力はどんどん伸びていき、師達からも第一王子の様だ、いやそれ以上になるやもしれぬ、と太鼓判を貰うほどであった。
「兄上は本当に凄いのですね!みんな僕を褒めてくれるけど、兄上がいなければ何もできない!」
「いや、そんな事はない。お前は優秀だよ。直に僕は教える事ができなくなる。自分一人で学ぶんだよ」
「なぜですか?」
「僕は途中までしか学んでいない。その先の問題の解き方を学んでいないんだ」
なぜなら師を全て離されたから、とは言わなかった。
「ならば次は僕が兄上に教える番になりますね!」
優秀と持て囃された兄に教えることができると、第二王子はそれは嬉しそうに兄に笑いかけた。
そうか、教えることができなくなってもこの子はココに来てくれるのか、と第一王子は安堵していた。
「また明日来ます」
「あぁ待っているよ」
第一王子10歳、第二王子5歳のその日。
それが最後となった。
第二王子が第一王子に会いに行っていると知った王妃は、第二王子の護衛を増やしそれを阻止した。
そして、自ら第一王子の元へと向かい、悪魔の言葉を囁いた。
「王子よ、貴方は国王である父の様に民の為に働かなければなりません」
第一王子は、漸く母が自分をちゃんと見てくれるとそれはそれは喜んだ。
「父の様に賢く強くなければならない。よって、貴方に王子としての仕事を言い渡します」
「!」
“王子としての仕事”その言葉に第一王子は胸を躍らせた。
これでいい結果を出せばきっと父も母もまた自分に笑いかけてくれる、と張り切って返事を返す。
「王都から少し離れた街道に最近魔物がよく出るという事です。貴方にはその魔物退治を命じます」
「魔物退治、ですか」
「心配には及びません。精鋭の兵士達と共に向かい、貴方はそれを見ているだけで良いのです。兵士達がどの様に動き、どの様に魔物を退治するのか、そのさまを目に焼き付け、学ぶのです」
「はい!」
「では、出立は明朝です。頼みましたよ」
「分かりました、母上!」
王妃はしっかりと返事をした第一王子に一つ頷き踵を返した。
そして第一王子の部屋から出るとボソリと一言呟いた。
「私はお前の母ではない」
と。
これをこなせばまた弟に会えるかもしれない。
父や母は自分をきっと見てくれる。
王妃の言葉に胸を躍らせ、自分のできる事を懸命にやろうと明日の魔物退治に思いを馳せた第一王子。
しかしそれは、見事に裏切られることになる。
明朝、十数人の兵士達と共に第一王子は城門を潜り城を後にした。
まだ早い時間ということもあり、見送りもなく、町もまだ静かであった。
初めて見る町並みにキョロキョロと忙しなく視線を動かしていると、兵士のリーダーである男がそれを諌めた。
「あまり身を乗り出すと馬から落ちますよ、王子」
「!…そ、そうだな。気をつける」
馬になど勿論乗ったことなどない。
その為兵士とのタンデムであったが、その子供らしさに同乗していた兵士は微かに笑いを耐えていた。
(国に災いをもたらす王子というからどんなものかと思ったが、ただの子供じゃないっすか)
顔に大きな痣があるだけのただの子供、それがこの兵士の王子に対する印象であった。
軟禁されていた王子を知る者はごく僅かで、兵士のリーダー以外は皆初対面であった。
だが、その国に災いをもたらすと言う不確かな情報のみが知れ渡り好印象を持っている者はいなかった。
雨が降らず、作物が育たなければ王子のせい。
逆に雨が降りすぎて少しでも川が氾濫しようものならそれも王子のせい。
魔物が現れても王子のせい。
と城の者達はそう考えていた。
国王が残った微々たる情で箝口令を出していた為、国民が知ることはなかったのがせめてもの救いである。
不安を煽る事は情勢を不安定にさせる為と、もっともらしい理由をつけて。
そろそろ魔物が出没すると言われる街道に差し掛かった。
踏み固められただけの雑な道の両脇には、森が広がっている。
商人や冒険者、各国の来賓達が近道できる様に森を切り開き作った道である。
「では、馬を下りて辺りを散策してみましょう」
「分かった」
護衛のためだと、兵士達は王子を前後左右で挟み、一団は森へと足を踏み入れた。
森の奥へと進むにつれて、辺りは暗く、不気味になっていく。
しかし、第一王子はひるまなかった。
兵士のリーダーはそれに感心しつつも、勿体ないと思った。
(度胸も冷静さもある。将来有望だろうに…私は今からこの少年を殺さねばならないのか…)
兵士達は、王妃に命じられ、第一王子暗殺を任された者達であった。
森の中ほどまで来ると、第一王子の直ぐ後ろに居た兵士のリーダーはなるだけ音を立てない様、そっと剣を鞘から抜いた。
第一王子は何も気づいていない。
剣を振り上げ、降ろそうとしたまさにその瞬間、
「グオオォォォ!!」
と遠くから魔物の叫び声が響き、驚いた第一王子は、とっさに兵士のリーダーへと振り返った。
「!!?」
「!!!」
剣を振り上げた兵士のリーダーと目が合い、そして、次に第一王子の視線は振り上げられた剣へと向けられた。
「申し訳ございません、王子。この国を災いから救うためです!!!」
無力な幼い子供を殺めるのだ。
何かしら言い訳を口にしたかった兵士のリーダーはつい口走ってしまった。
「どうか王妃様を…我々を恨まれませんよう!」
「!」
第一王子は知ってしまった。
これが母の命令である事を。
第一王子は自分の前を歩いていた兵士を突き飛ばすと、全速力で走り出した。
(嘘だ!嘘だ!嘘だ!!)
と先程の言葉を胸中で否定してみても、現実は覆らない。
昨日のあの言葉は全て嘘であったのか、と涙が溢れでるが、背後から兵士達が追ってきているためそんな場合ではない。
森の背高く生え茂った草花は、子供である第一王子の姿をいとも簡単に見えなくしてしまい、普段平地だけで無く、森や山でも訓練している兵士達さえも追いかけるのになかなか苦戦している様子だ。
そんな事とは知らず、王子はただひたすら逃げた。
だがどこに行けば良いのか分からない。
城には勿論帰れないし、自分は無一文だ。
母が何も持って行く必要はないと、何も持たせてはくれなかったので今自分が身につけている服以外何もないのだ。
(どうしたら!どうしたらいい!?)「うわっ!!?」
足元さえもろくに見えない中、全速力で走っていた為、木の根に足を取られてしまい、草むらへと倒れこんだ。
その際足を痛め、立とうにも痛みが走り思うように動けない。
「居たかー!?」
「こっちには居ない!」
兵士達の声や草を踏みしめる音か近づいてきている。
第一王子は咄嗟に茂みに身を隠し、身体をこれでもかと小さく丸めた。
ガサガサ、と近づく足音に、心音が早くなり、聞かれてしまうのではと思わず自分の胸を押さえた。
ガサリ、と一際大きく近く聞こえた足音は心音を最高潮まで大きく早くした。
「!!」
「しっ」
大きな手が突如目の前に現れた。
タコができては潰れた痕があり、ゴツゴツとした手が、悲鳴をあげそうになった王子の口を塞いだ。
「王子、すんません。下っ端の俺には何もできなくて…」
「…」
確かに兵士の格好をした、自分とタンデムした男であったが、他の兵士を呼ぶ気配は無い。
「街道を進んで行くと分かれ道があります。右に行けば村があるので逃げてください」
「!…お前は?」
そう言いながら兵士は自分の荷物から水の入った竹筒を第一王子へと渡した。
「俺の名前はクーって言います」
信じられなかった。
こんな事をすれば王家の命令に背いた事になる。
これがバレたなら、このクーどころか一族根切りである。
「なぜ…」
第一王子の問いに
クーはヘラリと人好きのする笑みを向けた。
「王子くらいの弟が居るんすよ」
それだけです、と言い残し、クーは第一王子を置いて歩き出した。
「こっちにはいませーん!」
と嘘の報告をしながら。
どれくらいそうしていただろか。
辺りから人の気配が無くなったのを確認して、第一王子は漸く茂みから這い出てきた。
上品で綺麗であった服は草木が擦りあちこち小さく破け、泥だらけになっている。
「…」
取り敢えずあのクーの言っていた場所を目指そうと、痛む足を引きずりながら歩き出した。
村に着いたのはすっかり日が傾いてからだった。
第一王子の顔の痣を見て村人は訝し気に視線を寄越す。
村に来たはいいがどうしたものか、と途方に暮れていると、古く小さな家から一人の老婆が姿を現した。
老婆は眉間に皺を寄せ、ジッと第一王子を見てくる。
痣を見られているのかと一瞬思ったが
「あらあら、ごめんなさいね。孫かと思って。目が悪くてよく見えないのよ」
と申し訳無さそうに謝罪した為そうで無いことがわかった。
「見ない子だね。泥だらけだし」
「あ、えっと…」
第一王子は戸惑った。
城の関係者以外で話した事など無かったし、そもそもこれまであったことを話していいものかと口ごもった。
するとタイミングが悪く第一王子の腹が盛大にぐぅーーと空腹を訴え、恥ずかしさで俯いた。
「あらあら、お腹空いてるの?豪華なものは何も無いけれどご飯食べていく?」
「え、でも…お金も何も持っていません」
「え?ふふふ、良いのよ。子供が遠慮なんてするものでは無いわ」
老婆は第一王子を我が家へと招き入れた。
室内は質素でテーブルと二脚の椅子、こじんまりとした二人がけのソファーに、奥にベッドがある程度であった。
決して座り心地の良いとは言えない木の椅子に座らされ、第一王子は食事を振舞われた。
朝食を食べて以来の食事である。
具は殆ど入っておらず、味の薄いスープ。
そして硬いパン。
蔑ろにされていたとは言え、城ではそれなりに良いものを食べていた為正直、食べられたものでは無いが、空腹が勝りそれらを手にした。
「お代わりもあるからね」
「…ありがとうございます」
味は兎も角、老婆の優しさが嬉しかった。
その日、何も理由を聞かずに老婆は家に泊めてくれた。
ベッドが無いため、ソファに横になったので、翌朝には体があちこち痛かった。
朝食も前日と似たようなメニューであった。
少し隣に行ってくると行って家を出た老婆の代わりに、第一王子はスープの入った鍋をクルクルとかき混ぜ温めた。
硬いパンを用意し、後は老婆の帰りを待つばかり。
しかし、隣に行っただけなのにやたらと遅い、と窓から外を見た。
すると見覚えのある姿がこの家に向かって来ているのがわかった。
「!!?城の兵士達!!」
それを先導しているのは、他でも無い老婆であった。
前日の昼の事であった。
村に兵士がやってきてこうおふれを出したのだ。
「第一王子殺しの犯人の物盗りの少年が逃げ回っている。見つけて知らせた者には賞金が贈られる」
と。
顔の大きな痣が特徴の少年に、直ぐにそうだと気付いた老婆は賞金目当てに第一王子を自宅へと招いたのだ。
「騙されたのか……っ!」
呆けている場合では無い。
逃げなければ。
第一王子は老婆の家から頭から全身をすっぽりと隠せるローブを持ち出し、裏口からこっそりと出た。
連なる民家の裏道を走りながら、ポタポタと涙を流した。
信じたのに。良い人だと思ったのに。なぜこんな目に遭わなければならないんだ、と。
それから第一王子は村や町を転々とし、商人の馬車に紛れ込み他国まで逃げおおせた。
体重は半分に落ち、ボロボロの姿はもはや王子の面影はなく浮浪の少年であった。
食べ物を盗み、農家の納屋や空き家で雨風を凌ぎとある町へとやってきた。
海がよく見える栄えた町だ。
マーケットと呼ばれる、様々な店が軒を連ねる通りは圧巻である。
その町でも食べ物を盗んだが、見つかってしまい店の主人に殴られ蹴られ満身創痍で裏道へと逃げた。
だが、力尽きてしまった。
もう自分は死んでしまうのだと覚悟を決めそっと目を閉じたが、そうはならなかった。
目がさめると温かく良い香りのするベッドに寝ており、これまでのことは夢であったのかと錯覚するほどだ。
しかし、男の声で現実に引き戻された。
「起きたか?」
「!!?」
勢いよく飛び起き辺りを見回す。
質素であるが清潔な部屋。
自分が寝ていたベッドも自分が飛び起きたせいで乱れているが綺麗なものである。
そのベッドの脇には本を片手に男が椅子に鎮座していた。
「思ったより元気だな」
飛び起きたせいでそう思ったのだろうが、第一王子は今にも倒れそうなほどであった。
「っ!」
また通報される前に逃げなければと、咄嗟に枕を投げつけたが、軽々と避けられた。
「おい!やめろ!」
ベッドサイドの棚に置かれた小物をバンバンなげる第一王子に、男は慌てて止めるが聞く耳を持たず土でできた人形を投げた。
男が人形を避けると扉の方へと真っ直ぐに飛んでいき
「レイル!どうしたの!?」
と突如開いた扉の向こうからやってきた少女の額に、ゴンと鈍い音と共にクリティカルヒットした。
「シュン!?」
「っ!!」
突然現れ、更には自分が投げた、土でできた人形を自分より幼い少女の顔面にぶつけてしまった事に酷く狼狽した。
気を失ってしまった少女を見て、男は子供だと手加減した第一王子に対し怒りを向けた。
「このクソガキが!」
男がパチンと指を鳴らすと少女に当たった土人形がマッハとも言えるスピードで第一王子の鳩尾にヒットした。
「ぐぅ...ゲホッ!」
それでもまだ立ち上がる根性を見せる第一王子ではあるが、少女を早く診なければと、もう一度指を鳴らし第一王子をベッドシーツで硬く固定して床へと転がした。
「シュン!大丈夫か!?」
第一王子を放置し少女の怪我の具合を診ようと額に視線をやると、大きなコブに痣ができており、僅かに切ったのか血も流れていた。
男は魔法で傷を癒すと少女をベッドへと寝かせた。
床に転がり、尚自分を睨みつける第一王子を男は睨み返した。
「お前を助けた女の子に傷を負わすとはな」
「頼んでない」
ようやく発した言葉は生意気なもので、少女を傷つけられ苛立った男をさらにイラつかせるには多大なる効果を発揮させた。
「クソガキが」
締め上げてやろうかとも思ったが、こんな弱った子供直ぐに野垂れ死ぬと思い、シーツを剥がし
「とっととうせろ」
と冷たく言い放った。
「...言われなくとも」
先程の勢いは何処へやら、シンは覚束ない足取りで部屋を後にした。
同時に驚きもあった。
通報しないのかと。
これ程の特徴のある痣があれば誰でも気付くと思っていた。
ゆっくりと廊下を歩けば食事のいい香りが漂ってきた。
ホッとする優しい香りに、足を止めてしまった。
すると力が抜け、その場に膝をつき倒れ込んでしまった。
先程の抵抗が本当に最後の力であったのだろう。
もう指一本動かせない。
このままでもきっと、さっきの男がその辺に打ち捨ててくれるだろう、と目を閉じた。
だが、目が覚めたらまたあのベッドで、ベッドサイドにはまたあの男がいた。
何とか体を動かそうとしたが、直ぐ様ベッドシーツでグルグルに固定されてしまい身動きが取れなくなった。
そしてまたあの少女がやってきて、にっこりと笑いながら第一王子の口にスープを掬ったスプーンを突っ込むのであった。
誤字報告、ブクマありがとうございます(*´・∀・)*´-∀-)




