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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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『国王暗殺?あぁそうだ。私の自作自演だ。レイリアスに罪をなすりつけ、追放してやったんだ。なぜかって?それはあいつが優秀だったからだ。私の地位を脅かす程にね。国王は私を心底信じきっている。でっち上げの証拠ですら簡単に信じるくらいにね。私にまんまと操られているとも知らない傀儡の王様だよ。お陰で私は、こうして美しい女達と素晴らしい夜を共に過ごすことができると言うもの。王様万歳だ。はっはっはっ!傀儡の王様万歳!』

「なっ!!?」

「それで、どうするの?傀儡の王様?」

コルンドリア国の王の住まう城の国王の執務室で、水晶録画に記録された映像が宙に映し出されていた。

移動魔法により楽々城へと潜入できたシュンは、執務室へと潜り込み魔法で強制的に護衛を締め出し、国王との二人きりの空間を作った。

文字通り、結界で何人たりとも出入りできない空間だ。

「人払いをして良かったでしょ?こんなの他の人に見せられないもんね」

映像に映し出された、最も信頼してた家臣の裏切りに、国王は失意のどん底にいた。

それでも容赦なくシュンは言葉を続ける。

「レイリアス・カードリッシュの手配を取り消してくれればこの映像は破棄しよう。この条件を飲んでくれないなら、全国民がこれを見ることになる」

「!!」

「恥ずかしいよねー情けないよねー。国で一番偉い人が傀儡扱いだもんねー。しかもこんな映像見たら国民はこう思っちゃうかもねー。“自分達の血税がお偉いさん夜遊びに使われてる”って」

「!!!」

それが何を意味するか、分からないほどこの国の王は馬鹿では無かった。

ボイコットやデモならまだましだ。

クーデターが起きてしまったら末代までの恥となるであろう。

そして自分は国王の座から引き摺り下ろされる。

「…なぜ、君の様な子供がこんなことを…」

「レイリアス・カードリッシュは、今は私の家族なの。家族が無実の罪で犯罪者扱いされてるなんて、嫌に決まってるでしょ?」

それだけだよ、と笑う少女に国王は愕然とした。

そんな事のために自分の危険を顧みず、この様なところまでやってきて直談判する者が居るとは、と。

「…しかし、君のやっている事は脅迫だ。犯罪だ」

「知ってる。でも、この脅迫に乗れば貴方はまだ玉座に座っていられるって事、忘れないでね」

ゾクリ、と国王の背筋に冷たいものが走った。

大凡、子供のする表情では無い。

口は笑っているのに、目は全く笑っていなかった。

「で?どうするの?簡単な選択肢だよ?王様を続けるか、引き摺り下ろされるか…ね?」

「…」

国王は一拍息を忘れた後、

「王を、続ける…」

と吐く様に呟いた。

「良かった。私も流石に国王様を失脚させるとかやりたくないしね!国民も困っちゃうから!じゃぁ早速手続きしてちょうだい!」

「…分かった。書類を作成する。近日中にギルドへ提出すると誓おう…」

「お願いね!数日中に取り消されてなかったらこの映像は…」

「分かっている。傀儡と言われても一国の主だ。舌の根も乾かぬうちに反故にしたりはしない」

「そう、良かった。…確認できたら映像をお渡しします。あとは好きにして下さい」

話がまとまった途端、シュンの態度は一変した。

先ほどまでの見下した態度ではなく、相手を敬う気持ちを持って接している。

脅したとは言え、こんな子供の話を真摯に受け止め、判断してくれたことに感謝はしているのだ。

「国王様に対する数々のご無礼、謝罪致します」

「!?」

席を立ち深々と頭を下げ態度を一変させた少女に、国王も戸惑いを見せた。

「私は家族の安全が保証されればそれで良いのです。僅かではありますが、この町にお詫びの品を贈らせて頂きます。スズメの涙程度ですが多少は国が潤う筈です」

「…一体何を…」

「それは約束をお守りいただいた後のお楽しみです。ですが、悪くはならないとお約束します」

「…君は一体…」

国王の問いに答える事なく、シュンは静かに姿を消し、同時に結界が晴れ執務室の扉が荒々しく開かれた。

「国王陛下!!」

「ご無事ですか!!?」

家臣や護衛達が押し寄せ、一様に国王の安否を確かめるが、国王は片手でそれを制し、無事を伝える。

安堵の表情を浮かべる一同であるが、次の瞬間には国王陛下を危機に晒した罪人の手配を!といきり立つがそれも止められた。

「いや、あの者は私の犯した罪を伝えに来ただけだ。感謝こそすれ、手配など言語道断である」

「陛下の、罪でございますか?」

自分が如何にオンリオに頼りきりであったか、彼の言う事に従ってしまっていたのかを思い知らされたのだ。

考えることを止め、家臣一人に頼りきっていたのは間違いなく自分の罪なのだ。

そのせいでこの国に利益をもたらす筈であった家臣を追放してしまったのだと、国王は一同に語った。

家臣の中にも、確かに陛下はオンリオに肩入れしすぎていると思う者は居た。

しかし、それを黙認してしまう程にオンリオとは優秀な人物なのだ。

今回の件に関し、国王はオンリオに暫く謹慎は言い渡したとしても解雇はしないつもりだ。

自分の利益の為に家臣を追いやった張本人ではあるが、それ相応の働きはしてきた為、これからはこの様なことが起こらぬ様、国王並びに家臣一同で国を、国民を導き、盛り上げていこうと、国王は固く胸に誓った。


「なぜだっ!?どう言う事ですか!!?ルワイヤギルド議長!」

「どうもこうもない。貴様が自ら、かの有名なロザリール国のフレイザー・アーリッシュ大公の使者に渡した物だろう。これがどう言うことか分かっているはずだ。バジー・ドリスギルド長」

突きつけられた書面には、自分とシュンの直筆のサインの入った契約書。

レイリアスを見逃す為に身代わりくんを定期的に卸すという内容のものだ。

身代わりくんを定期的に卸すのは問題ない。

しかし、その交換条件となった、“犯罪者を見逃す”と言うことが大きな問題となった。

ギルドの運営は身代わりくんやポーションなど、一般から持ち込まれた売り物の売り上げや、ギルド会員の年会費の他に各国からの援助もある。

この様なことをされてはギルドの沽券に関わり、信用など地に堕ちる。

実際にはシュンが持ちかけた話なのだが、どう見ても相手の少女を脅した書面にしか見えない。

この事から、使者として向かわせた者から報告を受けたフレイザーは、事の次第を重く受け止めギルド管理局へと通報したのだ。

バジーが長を務めるギルドへとやって来たのは、世界各国の協力のもと運営されている、ギルド管理局の職員達である。

この管理局により、候補者又は推薦者の中からギルド長は決められる。

自らフレイザーの使者に渡したとされる書面を突きつけられ、バジーは言葉を失った。

自分が読んで確認したものではない、と。

「な、何かの間違いです!中身はその様なものではなかった!」

「ほぉ、貴様は人の預かり物を勝手に覗くのが趣味なのかね?」

「ちがっ!!かのフレイザー・アーリッシュ大公の使者に渡すのもならば不備がないか確かめた方が良いとっ!」

「フレイザー・アーリッシュ大公の話によれば、このシュンというのはまだ年端もいかぬ少女だという。その様な子供が大公に何ができるというのだね?」

シュンの本性を知らぬルワイヤは最早聞く耳を持っていなかった。

たとえ、今バジーの言っていることが本当であったとしても、犯罪者を見逃したことは事実。

見逃すわけがなかった。

主が追い出された執務室では、当局により強制捜査が行われている。

書面は全て持ち出されているが、シュンとの契約書以外の違反書類は見当たらない。

本棚の隠し扉を見つけられないでいたのだ。

それがせめてもの救いだ、とバジーは内心安堵するが、それは“何処からともなくやってきた小動物の様な魔物”により暴かれる事になる。

鼬の様な姿をした真っ黒いそれは、素早い動きで、捕まえようと伸ばした局員達の手をすり抜け本棚へと登った。

本の裏をシュタタタと軽快に走り抜け、本をバサバサと落としていった。

「止めろ!」

バジーは焦りの表情で黒い鼬を止めようと執務室へ入ろうとするが、勿論それは許されずルワイヤに止められた。

そしてあのレバーのある段の本が落とされた。

「?なんだ、これは?」

局員の一人がレバーに気づき、その事に満足したのか、鼬はもう用は無いと言わんばかりに窓から外へと飛び出した。

レバーを操作すれば本棚がずれ、秘密の金庫の登場である。

「あ、そ、それは…」

中からはもう一枚のシュンとの契約書と、他にも大量の不正の証拠が出てきて、これまでの比では無い程に顔面を青くさせた。

「…バジー・ドリス…たった今を以て貴様のギルド長の任を解く」

この世の終わりの声をバジーは遠くで聞いていた。


数日後、レイリアス・カードリッシュの手配は取り消され晴れて自由の身となったレイルは、シュンと共にコルンドリア国へとやってきていた。

国王の執務室に突如現れた二人に、家臣や護衛は敵意を向けるが今回は無理矢理追い出されることはなく、国王の命令により部屋を退出させられた。

入室を許されたのはオンリオ、ただ一人。

「久しいな、レイリアス」

「ご無沙汰しております」

レイルは髭を剃り、伸び放題の髪を整えて本来の精悍な顔を晒している。

「…こんな事になるとはな…」

「私も驚いています。弟子達がご迷惑をおかけしました」

レイルとオンリオの会話を邪魔するつもりのないシュンと国王は、ただ黙って見守っている。

「いや、謝るな。おかげでこれまでの自分の言動を振り返ることができた。国の為、民の為という思いがいつのまにか自分の利益の為となっていた。これは許されることでは無い。そのせいでお前という優秀な人材を失ったのだからな。……レイリアス、すまなかった」

「…私は、過ちを犯すところでした」

「…過ち?」

「自分を裏切った貴方や国王が憎かった。この国を滅ぼすつもりで魔法も磨いてきました」

「!?」

「しかし、幼い弟子達を持ち、優秀すぎる二人の成長が楽しみになり、いつ自分を追い越すのだろうと、そればかり考える様になりました。復讐よりも大事なものができ、守りたいものができました。復讐などもうしなくとも良いかもしれない、そんな事を考えていたらこんな事に…。私の知らぬ間に弟子達が私の無実を証明してくれた。早まらないで良かったと思っています。今はどうあれ、貴方は私の目指す目標でしたから…」

「!」

ほろりと雫が落ち、絨毯に吸い込まれていった。

オンリオは、心の底から後悔した。

まだ十代前半であったレイルは口癖の様に“オンリオ様の様な人になりたい”と言っていた。

それを微笑ましく思っていたのは事実だ。

なぜ自分は選択を間違えてしまったのであろうか。

レイルは言った。

弟子が自分を追い越すのが楽しみなのだ、と。

なぜ自分は同じように思えなかったのだろう。

いつからそんな人間になってしまったのか。

若い頃はそうではなかったはずなのに…。

「年を重ねると経験や考え方が、他人に影響されて自分の考えが捻じ曲げられるんだよ。若い頃は正義感の塊だった人も、自分さえ良ければ良いという、汚い悪意に晒されて、なぜ自分ばかりが貧乏クジを引くのだろうかと考えるようになってしまう。そして、ならば自分も同じようにしようと思い始めてしまう。そういう事だよ」

まるでオンリオの思考を読み取ったかのようなシュンの言葉に、一同は目を丸くした。

そして、シュンは更に続ける。

「でも、誰かの善意ある思いに気付ければ、また自分の考えを変えていくことができるんだよ」

「…自分を変える」

「そう。人って死ぬまで成長できるんだから」

大凡子供とは思えない言葉に大人三人は更に目を丸くさせた。

「…成る程…優秀な弟子だな…」

オンリオの言葉に苦笑いで返すレイル。

シュンから“優秀”という言葉だけでは言い表せないほどの何かをオンリオは感じ取った。

レイリアスと共にこの少女が国に仕えてくれたなら、とオンリオは考えたがどの面をさげてそのようなことが言えるかと、軽く首を振った。

「レイリアス、私は君に約束しよう。この国を今より繁栄させると。昔君が私に語って聞かせたどの国のどの国民よりも笑い声が響く国にすると」

「はい。今後のご活躍のほどお祈り申し上げます」

和解の印に握手を交わした二人のその表情に、遺恨はなかった。

「それでは、国王様」

シュンは二人から国王へと向き直り、約束の水晶を手渡した。

どこからどう見てもただの水晶なのだが、実際に映像を見た国王だけがその凄さを見に染みて実感している。

「これがお話にあった…」

流石は魔法使い、オンリオは自分の失態が記録された水晶に興味津々であった。

更には

「映して見ても?」

と言い出す始末。

これにはシュンと国王が二人で、一人の時に見た方がいい、と説得する事になった。

流石に国王の前であの映像を再び映し出すには、国王とオンリオ二人へのダメージが大きすぎる。

「えっと、じゃぁ…やり方だけ説明しますね…」

「うむ。頼む」

シュンが再生の他にも取り消しや上書き録画が出来ることを説明すると、興味深そうに聞き入るオンリオ。

更にはそこにレイルも加わっている。

魔法が使えない国王にはさっぱり理解不能であった。

「さて、以上で終了です。ご質問は?」

「……この…ろくが?水晶を作る魔法陣を得ることは?」

「ご自身も魔法使いならばお分かりでしょう?」

簡単に聞けると思うなよ、と遠回しに伝えればあからさまに肩を落とし項垂れた。

「それが知りたければこの水晶を研究したら良いですよ。もうそちらの物なので」

「!!」

それは魔法使いにとっては願っても無い事であった。

オンリオは元来真面目で優秀な人物だ。

一度道を外してしまったが、自分の行いを振り返り、許された今、長く忘れていた探究心を思い出した。

「国王様、こちらの水晶、私がお預かりしても?」

昔の活き活きとした表情を見せたオンリオに国王は二つ返事で返した。

「うむ。良い成果を期待しているぞ」

「お任せを!」

自分が慕っていた昔のオンリオを思い出したレイルは、その懐かしさに目を細めた。

良かった、と心からそう思った。

恩師を殺めずに済んだ。

そうさせた弟子達に何か礼をしなければと考えつつ、帰途につく旨を伝えた。

「…そうか…」

「会えて良かったです」

「こちらこそ」

最後の別れを惜しむレイルとオンリオの空気を読んで、シュンは「お先」と移動魔法で一人帰還した。

それを見て更に驚いたオンリオは、先程飲み込んだ言葉を思わず口にしてしまった。

「レイル、弟子達と共にこの国に勤めないか?」

確かにシュンの幼さで魔法陣無しで移動魔法を使えばそう言わずにはいられないだろうと、苦笑いしながらレイルは首を横に振る。

「アレは特殊なのです。自由であるからこそあの子の能力は伸びる。縛り付けても良いことはありませんよ」

何せ無意識に兵器を作るような子供だ。

無いとは思うが、それを武器に戦争など起こされてはたまったものでは無い。

「…そうか」

「はい。…では、私もこれで…」

国王とオンリオが頷いたのを確認すると、レイルも姿を消した。

「…師弟で魔法陣無しか…。本当に馬鹿な事をしたものだ…」

後悔と懺悔の混じった声は国王のみが聞いていた…。


「お帰り」

「…ただいま」

シュンはレイルの部屋にて本人を待っていた。

ソファに腰掛け話す体勢を取っている。

それを見たレイルもその向かいへと腰を下ろした。

「何で簡単に許しちゃったの?」

シュンのストレートな質問に、聞かれるだろうと思っていたのか、レイルは苦笑いで答えた。

「確かに自分の信頼を裏切り国を追い出した者達だ。真剣にあの国をどうにかしてやろうと考えていた。だが、それをそう思えなくしたのは他の誰でも無い、お前だよ、シュン」

先程レイルは国王とオンリオにも話していた。

復讐よりも弟子の成長が楽しみになったのだ、と。

それに嘘はないだろう。

しかし、長年恨み続けていたのにそんなに簡単に許せるものだろうか。

更には、真実を知った国王も、国王を傀儡と口にしたオンリオに対し不敬罪を適用したが、レイルのことに対しては何も罰しなかった。

それを良しとした事がシュンは不思議であった。

「俺はそれで良いと思っている。シュンはどう思っているかは知らないが、オンリオは本当に優秀な人物だ。欲に目が眩んでいたにも拘わらず、国は悪くならなかった。自分の利益を考えつつもちゃんと国民の事も考え政策を取り行ってきた証拠だ」

ちゃんと見ていた。

漫画では国や国民の事など考えず、レイルはシンの力を借り、国を滅ぼした。

漫画のレイルは憎しみに囚われ、その事に気付きもせず全国民から恨まれる事になるのだ。

レイルにとっては悪でも、国民にとっては名君であったから。

「うん、なら良いんだ。レイルが納得してるならもう何も言わない」

「…そうだな、やっぱりお前のおかげだな…」

「!」

ボサボサの髪と髭がなくなり、整った顔で優しく微笑まれると年甲斐(精神的な)も無くドキリとしてしまう。

「お前が馬鹿をやる度に復讐を忘れ、お前が精神的に支えてくれたおかげで周りを見る余裕が出来た。あの国の幸せを奪わずにすんだ。……ありがとう」

「一言余計だけど、どういたしまして」

そんな言うほど馬鹿はやってない、と抗議したかったが心当たりがある為それも出来ず、先程のトキメキが一瞬で粉砕したシュンであった。


「そうそう、レイルに相談があるんだけど」

「なんだ?」

この話は終わりだ、と声色を変え、至極めんどくさい事を言い出したシュンにレイルは久々に頭を抱えるのであった。

「フレイザー・アーリッシュとハルドフォン・ローコイドに借りができちゃった」

「は?」

フレイザーにはギルド議長を動かしてバジーを捕まえてもらい、ハルドフォンには自分達があの町に頻繁に通っている事を黙っていてもらったのだ。

そうして欲しいと言ったわけではないが、借りは借りである。

「どうしよう?何か返したほうがいいよね?菓子折り?駄目?やっぱり?だよねー貴族だもんねー…どうしようねー…」

「…取り敢えず…フレイザーは放っておけ。あれはあの爺さんが勝手にやったんだ。一先ずハルドフォンに何か領土の利益になりそうなものをくれてやればいいんじゃないか?」

ハルドフォンは“見返り”を求めている節があった為、返す必要があるだろう。

無ければフレイザーに伝えられるかもしれない。

そう考えレイルはフレイザーの事は知らぬフリをする事にした。

「領土の利益かぁー……案はない事もない」

「…有るのかよ」

「でもこれ、時間かかるんだよねー。長い目で見てくれれば結構いい利益になると思う」

「聞いても?」

「良いよー。それはねー…」

シュンの話を聞いたレイルは、変わった料理を作るシュンだからこその発想で有ると納得した。

それと同時に、確かに時間がかかるものであるとも思った。

だが、甘いもの好きの女にはウケる事は間違いない。

「それでねー、貴族向けに高級な缶に入れて、あとは物によっては季節が限られるから限定ってつければ希少価値が上がると思うんだ。大衆向けにはアソートパックにして、ちょっと高いけど色んなフレーバーが楽しめるようにするの」

「ほう…良いかもしれないな。その、フルーツを使ったフレーバーティーってぇのは」

「でしょ?」

フレーバーティー、紅茶に果肉や花びら、香料などで香り付けした着紅茶であり、本来の紅茶ブラックティーと呼ばれる、茶葉の味や香りを楽しむ物とは別の物となる。

アッサムやダージリン、セイロンなどすっかりお馴染みとなった味に飽きた貴族達に売りつけようと言う作戦だ。

新しいもの、流行り物が好きな貴族なら、いや、ご婦人たちなら直ぐに食いついてくれるに違いない。

「じゃぁ、ハルドフォンさんにプレゼンしてみる。その前にサンプル作るから試飲してね」

「分かった」


しかし、このフレーバーティー。

数年後には借りを返すどころか、一大産業となり、この世界有数の輸出国となるのはまた別のお話である。




ロザリール国大公の屋敷。

その日、大公フレイザー・アーリッシュはすこぶる上機嫌であった。

「♪」

「あら、おじいさま。鼻歌なんて珍しいですわね」

「クリスか。ふふふ。長生きはしてみるものだと思ってな」

美しく長い金髪を編み込み、フレイザーを祖父と呼ぶ気品にあふれた少女、クリスが自ら紅茶を淹れていた。

カップを一つ、フレイザーの前に置くと、迷いなくフレイザーは紅茶を口にした。

「何がおありでしたの?」

「いやいや、私を手の平で踊らせる者が現れたのだよ。実に愉快」

「まぁ!ロザリール国の大公であるフレイザー・アーリッシュをですの?…おじいさまいつのまにその様な冗談を覚えましたの?」

「いやいや、冗談じゃないよ。クリス、覚えておいで。人は見た目や身分性別などで判断してはいけない。でなければ私のように痛い目に遭うよ」

世界から賞賛される大公が手の平で踊らされるなど、クリスには信じられなかった。

フレイザーがまだ二十代の頃世界で初めて世界地図を作った。

これにより数多の戦争に勝利し、小さな公国が国王を有する大国家となった。

当時はフレイザーを国王に、という声が数多上がったがフレイザーはそれを拒否。

現役を貫いた。

だが周りがそれを黙っていなかった。

もともと公国であった為、貴族のトップである大公の名を、という声が多く上がった。

国民と周囲の推しに根負けしたフレイザーは大公となり、更に偉業を成し遂げていった。

「そのおじいさまが…」

クリスは興味津々であった。

何よりも、いつも退屈そうにしていた祖父が鼻歌を歌っているのだ、興味がわかないわけがない。

「その方のお名前はご存知でして?」

「あぁ、シュンという女の子だよ。クリスよりも年下だ」

「……本当に冗談ではなくて?」

「ふふふ、信じられないだろうけど、事実だよ」

カタリ、とカップをソーサーに戻した時は、紅茶は空になっていた。

そしてまた、鼻歌を歌いながらフレイザーは書類へと目を通すのであった。













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