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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「この魔法とこの魔法の組み合わせは?」

「もうやった」

「じゃぁこっちは?」

「やったな」

「となると…あれとそれと…これとか」

「やった」

「……ですよねー」

研究を始めて四日目。

水晶録画(シュン命名)の作成は難航していた。

声だけを録音し再生する事は意外とあっさりできたのだが、映像もとなると中々難しいようだ。

「時間があればそのうちできそうなんだがな」

「まぁいざとなれば、声だけでもやってみるよ。スピーカーつけて、国中に生配信してもいいし」

と一応二つ目の選択肢も用意してはある。

が、その発言がシンに火をつけた。

まるで自分にはできないと言われている様で。

「やってやるよ」

「え?」

「お前が、俺ならやれると思ったからこの役をやらせたんだろ?」

「そうだけど…。魔道書を一番読んでるのもシンだし、発想力にも長けてるし集中力もあるし、何より頭の回転が速いから魔法陣の組み合わせの計算とかいちいちやってみなくても分かるでしょ?」

「発想力はお前に言われてもだが、まぁ、否定はしない」

「しないんだ」

「丸一日待て。それでなんとかしてみせる」

食事はここへ持ってこい、となんとも横暴な言い方ではあるが頼もしい限りである。

「分かった。お願いするね」

「そうだな…」

「なに?どうしたの?」

「ご褒美がもらえるんだろ?」

「?」

なんの話だ?と、首を傾げれば、昨日マールとエクシャが鼻息荒くシンの部屋へと突入してきたらしい。

幼い頃のシュンの抱き心地はどうだったのか、と。

「何やってんのあの二人」

「今にお前を教祖と崇め始めるぞ」

くくく、と可笑しそうに笑う少年は年相応の表情を見せた。

「……それは嫌だね…。で?何が欲しいの?」

「言わなくても分かるだろ?」

まぁ、アレだよね、とシュンは予想する。

「作っとく。ついでにプリンも」

「まじか。俄然やる気出てきた」

この少年がこのまま復讐なんか忘れてこの笑顔のまま育ってくれますように、などと母親のような心境になったシュンは、自分はまだそんな歳ではないと軽く首を振った。

「それから、これもな」

「…?っわっぷっ!?」

ガバリと、遠慮なく抱きつかれ更には軽々と抱き抱えられた。

「シ、シン!?」

お前もか!?と目を白黒させているとシュンの肩に顎を乗せていたシンが微かに笑った。

「…大きくなったな」

「…シンもね」

出会った頃は骨と皮だったのに、今では肉も付き筋肉質な男性の体へと成長しつつある。

「…シュン」

「なに?」

「レイルの件が片付いたら話しておくことがある」

「…分かった」

真剣なその声に、なんとなく話の内容が何なのか分かってしまった。

話を聞いていい方向に向かって行くなら全力で応援するし、協力もする。

今回のレイルの件もレイルが話をして、どうしたいか言ってくれれば全力で協力するつもりでいた。

しかし、話してもらえなかった。

子供だから仕方ないと分かってはいても、それはどこか寂しさもあり、頼ってもらえない自分への情け無さもあった。

もっと頼れる存在になりたい、とシュンは心底感じていた。


「こんなもんか…」

流石ベテラン魔法使いなだけあり、レイルはあっという間に身代わりくんを仕上げた。

前日にフレイザー・アーリッシュの使者の話を聞いてから、レイルは一つの策を講じた。

それは身代わりくんを同じギルドに卸せばフレイザー・アーリッシュの使者はそちらのギルドへと向かい、いっときでもその目を誤魔化せるのではというものである。

短期間で同じギルドに卸せば、尚更あちらの、バジーのギルドへと調査しに向かうだろう。

フレイザー・アーリッシュの使者と鉢合わせてしまったら、最悪自分は捕まってしまうかもしれないが、シュン達の事は話さなければいい。

見つからない事に越した事はないが、万が一もある。

「…行くか…」

早速人形をまとめてギルドへと向かった。

予想より早く大量の身代わりくんと共にやってきたレイルに、バジーは驚いていたが、態度は歓迎している。

人形を鑑定士に預け、レイルはバジーの執務室へと案内された。

「この短期間でかなりの量でしたね」

「…約束は約束だ。そっちも分かってるだろうな?」

「勿論ですが……」

歯切れ悪く視線を逸らすバジーに、まさか約束を反故にするわけではあるまいな、と睨むがバジーは徐にレイルの背後を指差した。

「…その子は良いのですか?」

「?」

何だ?と背後を見ればレイルの背にスッポリと隠れていたシュンが居た。

「は!!!!?お前何してんだ!?」

「いやー、全然気付かないから面白くなっちゃって」

因みに、ギルドに着いた時から居ました。

「それで?約束って何かなー?」

勧められた訳でもないのに、執務室の長椅子の真ん中にちょこんと(シュン自身はどかっと踏ん反り返ってるつもり)座り正面のバジーを見据えた。

「私の口からは何とも」

誰にも言わないと言う約束なので、とニッコリ笑顔で返してきた。

「まぁ、いいけど」

「…シュン、帰れ」

いつもより低い声ですごんでみるが、何の効果もなく、当のシュンは指ぱっちんで二枚の紙を取り出した。

「バジー・ドリスギルド長、私とも契約を結んで頂きたいのですが?」

「!?おい!シュン!」

突然の申し出に焦るレイルと、愉快そうに目を細めるバジー。

取り出した紙の一枚をバジーへと渡す。

内容は二枚とも同じであり、お互いの保管用として用意したものである。

「ふむ、この内容は、私がレイル氏と結んだ契約と殆ど変わりはありませんが、お嬢さんにどういった利益があるのでしょうか?」

内容はざっくりと言えば、バジー・ドリスがギルド長である限り、レイリアス・カードリッシュを捕まえない代わりに身代わりくんを七日に二千体卸すと言う内容である。

これまで月五〜六千体であったにも拘わらずいきなり週二千体ともあれば食いつかないわけはない。

「レイルは私の師であり家族です。彼が無事ならそれでいいんです」

「…シュン」

「おやおや、美しい家族愛ですね。…分かりました。私にとってこれ程好条件な事はありません」

「それは良かった。私のサインは既に済ませてあります。この二枚にバジー・ドリスギルド長のサインを頂ければ、契約成立です」

バジーはサラサラとサインを書き、それを確認するシュン。

二枚ともしっかりと“バジー・ドリス”の名が書かれており、これにて契約成立となった。

「取り敢えず、先程私の方からも身代わりくんを納品したので、レイルの分と合わせて今回は三千体以上はあるはずです。オーバーした分は、こちらからの誠意という事で」

「子供とは思えない気遣いですね。ありがたく頂きましょう」

話は終わった、とシュンはレイルと共に執務室から退出しようとしたが、「あぁ、一つだけお願いをしても良いですか?」と立ち止まった。

「こちらで出来る事なら」

「簡単です。この手紙を渡して欲しい方が居るんです」

「手紙」

指をパチンと鳴らすと、シュンの手には茶色の封筒に入った手紙が現れた。

封は、されていない。

「近いうちに私を訪ねて来る方がいらっしゃると思います。フレイザー・アーリッシュの使者と名乗る方です」

「!!…なぜそのような方が貴女を?」

「某国のお偉い方々も身代わりくんを欲しているんですよ。国に仕えないかと勧誘を受けたのですが逃げてきたのです。取り敢えずその手紙にはこの町には住んでいない旨を記しています。探しても無駄だと思わせたいのです」

「……分かりました。私が責任持ってお渡ししましょう」

「…えぇ…お願いします」

にっこりとシュンの中での一番の笑顔を作り、今度こそ退出をした。

扉が閉まった直後、バジーは何の躊躇いもなくシュンの手紙を開いた。

そこには先程シュンが話した内容が記されている。

「…おかしな所はありませんね…」

一通り確認すると、一旦手紙は執務机の引き出しに仕舞われ、シュンと交わした契約の書類は別の場所へと移動させた。

執務室の壁一面に並んだ本の山の一冊を迷いなく取り出すと、その奥の壁にレバーが一本つけられていた。

バジーがそれを引っ張ると本棚のつなぎ目が僅かに開いた。

その隙間から見えるのは隠し金庫である。

金庫に書類を仕舞った後、バジーは何事もなかったかのように本棚を戻す。

それをマールにより一部始終見られていることは微塵も気づかずに…。


「シュン、どういうつもりだ?」

廃城に着くなり開口一番に、不機嫌なレイルの一言が放たれた。

「レイルがさー全然相談してくれないから勝手にやりたい放題やってるんだよ」

「…チッ。やっぱり気付いてたのか」

まぁね、とにんまりと笑う少女にしてやられたレイルは俯き表情を歪めた。

「お前まで面倒を背負うことはねぇだろうが」

「むふふふー」

「…なんだよ…気持ちの悪い笑い方しやがって」

「…気持ち悪いは余計だよ。…背負うつもりはないよ」

「じゃぁ、なんで…」

「…秘密。レイルが相談してくれなかった罰ねー」

「はぁ!?」

結局シュンは話すことなく研究室へと姿を消した。

「…くそっ!手のひらで転がされてる気分だっ」

自分の半分も生きていない少女は、まるで全てを見透かしているようで、中々内側が読めず、不気味で、しかし頼もしいと感じる。

「…あいつは、本当は何者なんだ?」

ボソリと小さく呟いたその問いに、答えられるものはいない…。


「もう人形を納めてきたのか?」

「レイルが意外と行動早くてねー。計画変更。研究期間が延びたね」

本来なら人形の納品までに終わらせたかったのだが、仕方ない。

魔法式が書き殴られた紙の山を築かれたシュンの研究室は、すっかりシンの自室のようである。

余談だが、シンは片付けが苦手で、しょっちゅうシュンに「汚い!」と怒られては掃除魔法で磨かれている。

「いや、もう少しだ。明日には完成させて見せる」

「おぉー!シンカッコいい!流石だね!!」

「ちゃんと用意しておけよ?」

「任せて!とっておきの作っとく」

シンの書き捨てた魔法式の紙を拾い上げながら目を通す。

思いもよらない魔法式は目を見張るものばかりだ。

(凄い速さ…。さすが天才)

今でこそシュンとシンの実力はさほど変わらないのだが、これから先は分からない。

修行などの努力により、やはり差は出てくるものだ。

「……」

「?…どうした?」

魔法式の書かれた紙を凝視したまま動かなくなったシュンを怪訝に思い、声をかけるシン。

「……いやー…シンて研究馬鹿だなって」

「……お前に言われたくない」

「えー…」

進行報告が終わり、どこか納得いかない風ではあるが、シュンはシンの邪魔にならないようにと研究室を出た。

外で待っていたのはマール。

契約書の隠し場所を知らせにやってきたのだった。

シュンとレイルがバジーの執務室から出た後に、バジーがとった行動を全て報告する。

するとシュンは“やっぱりね”と愉快そうに口角を上げた。

「やっぱり?」

「マールの報告で知った彼なら、何となく人の手紙とか簡単に読んでくれると思ったよ」

「読まれることが目的?」

「その通り!マールやエクシャにはまだ見せてないけど、関連付け魔法って言うのを昔作ったんだ」

「はぁ…………え?作った?」

「うん、作ったの。危ないからレイルに使うなって言われてたけど、今回だけね」

関連付け魔法とは、例えば“誰かが触れれば爆発する”など、魔法使い自身が魔法を発動しなくとも間接的に魔法を発動することができる。

Aと言う行動でBと言う効果が出ると行った具合に、バジーに渡した手紙にも魔法をかけてあったのだ。

「一度手紙が取り出され、再び戻すと中身が入れ替わるっていう魔法にね」

「じゃぁ今の封筒の中身は」

「今日、私とバジーが交わした契約書だよ」

「?」

そんな事をする必要があるのか?と疑問に思うマールだが、シュンが必要と考えたのならば必要なのだろうと納得することにした。


翌日、宣言通りシンは水晶に声や映像の録画機能を魔法で付与する事に成功した。

複雑な魔法陣は解読難解で、一目見ただけでは何のことやらさっぱりわからない。

「これでオンリオ・ハイトスの証言が得られればレイルの無実が晴れる訳だけど…。エクシャやれる?」

「もちろんです。お任せください」

オンリオは余程エクシャの事が気に入ったのか、あの日以来毎日店にやってくるそうだ。

その度にエクシャを指名し、語らい酒を飲む。

そして、必ず幻覚魔法をかけるのだ。

まるで閨を共にしたかのように…。

「私が使役している魔物の中には自白の魔法を使える者も居るので、それで大丈夫かと」

「…私もこっそり付いてくよ」

万が一があっては心配だ、と表情に出すシュンに、エクシャは内心ではキュンとしながら表情はにこやかな笑顔を乗せた。

「あんなケダモノをシュンの目に映すわけにはいきません」

口から出た内容は中々に辛辣であったが。

「あと、この映像の中には絶対に映り込まない事」

「分かりました」

水晶録画(シュン命名)の取り扱いをレクチャーした後、エクシャは早速店へと向かった。

「ふぅー…録画が成功したら、あとは私の仕事だね」

「…シュン」

「ん?なに?あ!例のブツならちゃんと用意してあるよ!」

「それもそうだが…本気でお前一人で行くのか?」

シンは至極真面目に問う。

オンリオの自白を録画しただけではどうにもならない。

それをもっと偉い人物に見せなければ意味がないのだ。

つまり、シュンは録画した映像を持って、国王に見せて、直談判するつもりなのだ。

「大丈夫、大丈夫!なんとかするから!」

「…俺も行く」

先程シュンがエクシャを心配して付いてくと言ったように、シンもまたシュンが心配であった。

「大丈夫だって!」

「だが、」

「シン」

「!」

尚も食い下がるシンに、シュンは静かにその名を呼ぶ。

怒っている訳ではなく、その表情は随分と嬉しそうである。

「心配してくれてありがとう。でも、私がやりたいの」

「…分かった」

これ以上何を言っても無駄だろうと判断したシンは、踵を返してキッチンへと姿を消した。

「…シン…」(良い子に育って!!)

内心オヨヨと涙を流しながら、これからの算段をするのであった。


それからニ日後の事である。

バジー・ドリスがギルド長を務めるギルドに一人の使いがやってきた。

彼は受付にてフレイザー・アーリッシュの使いだと名乗り「身代わり人形を卸しているシュンと言う少女を知らないか」と問うた。

バジーにより話が通っていた為、受付はすぐ様バジーに取り次いだ。

和かにやってきたバジーの手には、シュンから頼まれた手紙が握られている。

「彼女からこれを渡す様に頼まれておりました」

「手紙、ですか」

封のされていないそれをその場で広げ流し読みすると、使いは表情一つ変えずに手紙をしまい

「分かりました。ありがとうございます」

と一つ頷きあっさりと帰っていった。

「…本当にやってくるとは。彼女は一体何者なのでしょうね…」

彼は知らない。自分の渡した手紙が自分を破滅に導く片道切符だと言うことを…。








ブックマーク及び誤字報告ありがとうございます(*´・∀・)*´-∀-)


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