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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「貴殿が某国の元王宮魔導師だという事には驚いた」

「…だから何だ?」

「それはないだろう?貴殿は指名手配の身だ。私の采配でどうにでもなる」

「…」


(なぜこうなった…)


とある国のとあるギルド。

シュンとともに身代わりくんを卸しに来ていたレイル。

身代わりくんがどこかの国のどこかのギルドでランダムに卸されているのは、ギルド内では既に有名な話だ。

その際必ず、少女と保護者が共にやってくる。

7日に一度の卸しの日、今日はどこのギルドが選ばれるのか、各ギルド長やスタッフは朝からそわそわと落ち着かない。

なぜなら、身代わりくんは既にギルドで一番の売れ筋商品でどのギルドも予約で一杯なのだ。

ここ最近では、ギルド内での暗黙の了解として、卸し場所として選ばれたギルドは五割を確保することができる為、売り上げもうなぎ登りとなるのだ。

そんな事とは知らないシュンは、次もこのギルドを選んでもらおうと、やたらとおべっかを使う鑑定士に対し疑問を持ちながらギルド職員と人形の数の確認を進める。

手持ちぶさたなレイルの元へやってきたのは、このギルドの長、バジー・ドリス。

彼もまた、この金のなる木に取り入ろうと近づいてきたのだ。

「はじめまして、私はここのギルド長、バジー・ドリスと申します」

「…そうか」

特に仲良くなりたいわけでもないので、レイルは当然塩対応だ。

その様な事など気にもとめず、バジーはレイルに握手を求める。

どんなに態度が悪くとも、本来のお人好しの性格から手を出されたら律儀にも握り返してしまうレイル。

それにバジーは内心ほくそ笑む。

取りつく島もないのならば少女へとターゲットを移そうと考えていたが、どうやらそうでもない様だ、と。

「少しお話をよろしいですか?」

「人形の話ならなしだ。全部アレが管理している」

「おや、あの子がですか。それはそれは」

てっきり管理はレイルがしており、シュンはその手伝いだと思っていた。

確かに、誰でもあのような少女がまさかと思うだろう。

「では、貴方はどちらかと言うと子守、と言う所ですかね?」

バジーの“子守”と言う物言いにレイルは僅かに眉をひそめ

「ただの保護者だ。初めてのギルドは子供の持ってきたものは買い取ってくんねぇだろ?」

と“保護者”を強調した。

「…ふむ、それもそうですね。ですが、あの人形、今や世界中のギルドで評判ですよ。なにせ死にさえしなければどんな傷でも一度だけ回復してくれるなど、夢のようなアイテムです。レベルの高い仕事を請け負う際には二体、三体と複数所持して挑む者もいますから」

「そのかわり、指先をちょっと切っただけでも呪いが発動するけどな」

「そこなんですよね……どうにか改良できないものですかね?沢山の魔法使い達が研究しているのですが、あの人形の効果を表す魔法陣すらまともに再現できない状態で……」

「…なんとかならないか?……と?」

「えぇ!」

話が分かる、とバジーは「どうでしょうか?」と首を傾げる。

レイルはシュンの作った陣の公式に、自分が知りうる限りの魔法を組み込もうとするが、想像内では何とも効果は分からない。

存外真面目に首を捻るレイルを見て、バジーは「おや?」と首を傾げた。

伸び放題の髪や髭を取り除けば何処かで見たことがある男であると。

(どこで?いや、確か……)

頭の中でバラララと手配書をめくる。

そしてある一枚の似顔絵を思い出した。

(レイリアス・カードリッシュ!コルンドリア国王暗殺未遂の手配犯か!?)

髪と髭で確証はないが確かに似ている。

しかし、その様な手配犯が自分を追いかけているギルドに堂々とやってくるものなのか?と疑問が出てくる。

(カマをかけてみるか?当たりならば相当な懸賞金が手に入る……が、いや目先の金よりあの少女を利用しない手はない……)

表情を一切崩さず、バジーは考え込むレイルにそっと近寄った。

「レイリアス・カードリッシュ、と言う男をご存知か?」

「!!?」

これがシュンならば見事なポーカーフェイスを披露したであろうが、レイルは馬鹿正直にも反応してしまい、バジーの予想を当ててしまう羽目になった。

「やはり」

ニヤリと笑うバジーにレイルはしまったと思ったがもう時既に遅しである。

「レイル、終わったよー」

「!?」

鑑定士に余計なことまで話しかけられ、疲労困憊したシュンが何も知らずに戻ってきたのを見てレイルは焦る。

“この事”を知られるのは良くない、と。

バジーを警戒する様に見れば、にっこりとした笑みを貼り付け

「では、レイルさん、明日またお待ちしてますね?」

と一方的な約束を取り付けてきた。

レイルに断る術はなく、仕方なく頷いた。

「なになに?どうしたの?」

明日またここへ来るのか?とレイルとバジーを交互に見ればバジーは人の良さそうな笑みでシュンに振り返るが、そのシュンはと言えば(胡散臭い笑顔だな)である。

「えぇ、レイルさんはとても優秀な魔法使いとの事なので、ぜひ相談したいことが」

「そうなの?」

「あぁ」

なんとか平静を装うレイルにシュンは「ふ〜ん」とだけ返した。

聡明な少女に怪しまれるかと思ったが、特に追求はなく「じゃぁ、帰ろうか?」といつもの様子で歩き出した事に安堵しレイルも後に続く。

「では、また明日…」

耳障りなバジーの声が、微かにレイルにだけ届いた。



(まずい事になった)

自分のした事をこれまで誰にも話してはいない。

いや、正確には濡れ衣なのだが。

髪を伸ばし、髭を生やし続けたのも直ぐにはそうだとバレない様に変装のつもりで伸ばしていた。

これまでどのギルドでもバレた事は無かった為、完全に油断していた。

指名手配されているが濡れ衣であると話したところで信じてもらえるのだろうか、と柄にも無く恐怖していた。

自分を信じ切った目で見てくる少女の視線が変わるのが、怖いと思ってしまった。

最近は忘れがちになっていたが、自分を嵌めた上級魔法使いに復讐をする事を目的に生きていたはずなのに今の暮らしが楽しくて、手放せなくて全てを忘れて生きていっても良いのではと思う事も少なくない。

それが今になって蒸し返されるとは思っても見なかった。

(あの男、消すか?いや、それこそ後戻りができなくなる)

自室の机に両肘をつき、顔を隠す様に両手で覆う。

(もう、ここには居られないのか?)

なんと無くだが、シュンにこの話をしてもいつものようにヘラリと笑って「そうなんだ」と何でもないように言ってくれるような気がした。

しかし、告白する勇気がなかった。



「レイルが変?」

「うーん。ギルドで私が鑑定士と話してる間、ギルド長って人と話してたみたいなんだけど、なんかソワソワしてるって言うか、余所余所しいって言うか…。聞こうにもなんかもう、オーラが何も聞くなって言ってて、聞ける空気じゃ無くてさ。いつもなら観光とかして帰るけど今日は真っ直ぐ帰ってきた」

「へぇー…」

「ふぅーん…」

「そうなんですね…」

「え?何?」

シン、マール、エクシャは物珍しそうにシュンを見た。

「お前なら直ぐ様探りを入れると思ったから」

と言うシンの意見に他の二人もうんうんと頷く。

「その探りを入れられる雰囲気でも無かったんだよー。じゃなきゃみんなに話したりしないし」

自分でなんとかするよ、と突っ伏すシュンに3人、特にマールとエクシャは目を輝かせた。

自分でなんでもやってしまうこの少女が自分達を頼っているのだ、と。

「探りましょう!私とマールはそう言うの得意ですよ!」

「任せろ」

「…やる気満々だね…」

「はい!」

拳を作りやる気を見せる二人を横目に、まずはギルド長とレイルのやり取りである。

「あからさまにレイルがギルド長を警戒していたことから、何か弱みでも握られたのかと思うけど…」

「……アレか?」

「…アレだと思う…」

「?」

「?」

シンとシュンはどこか心当たりがある風であるが、マールとエクシャは疑問符を浮かべた。

数ヶ月前、シュンとシンがとコルンドリア国のギルドへ一緒に身代わりくんを卸しに行った時のことだった。

シュンが鑑定士と交渉している間に、シンはギルド内に貼り出されたとある男の手配書を見ていた。

(…レイルに似ている…)

髪や髭を除けば瓜二つであると、交渉が終わったシュンに冗談交じりに話したところ、真剣な表情で「それレイルだよ」と返された。

話を聞けば大分前からシュンはこの事を知っていたらしい。

本人に聞いたわけでは無く、昔別のギルドでレイルに似た手配書を見つけ興味本位で調べたら本人であった事が発覚。

(まぁ、実際には原作知識万歳なんだけど)

シュン曰く、

「あのお人好しがこんな事するわけない。寧ろ誰かに嵌められたって考える方が自然」

という事で、シンも確かに、と納得してしまいこの話はこれで終いにした。

何せ、仕事も無いのに行き倒れの子供二人を拾い育てたお人好しなのだから。

この事を話して、シュン達から疑いの目を向けられるのではと、レイルが余計な誤解を招く恐れがあったため話さなかった。

普段の態度からは想像できないほどに、繊細な男なのだ。

「成る程。ではギルド長がそれに気付いて脅しをかけていると考えれば辻褄が合いますね」

「それならば、シュンの作る身代わり人形じゃ無いか?」

「?何で?」

何故そこで自分の作る人形が出てくるのかと首を傾げるシュンに3人は白い目を向ける。

「お前本気で言ってるのか?」

「?」

なぜ自分が責められるのか、と眉間に皺を寄せると今の身代わりくんの価値がどれほどの物なのかと散々に渡り3人から説明を受けた。

確かに注文数も以前と比べて遥かに増えているが、ギルドの長がそんなことまでして欲しがる代物にも見えない。

が、

「あーそうか…鑑定士がやたらとおべっかを使っていたのはまた自分の所に卸して欲しいからかぁ…納得」

「何でそれで分からないんだ…」

普段はやたらと頭が働くくせに、所々抜けている。

子供っぽく無いくせに、こう言うところは子供である。

「じゃぁ近いうちにレイルが身代わりくんの話を持ち出してくるかもね」

そうであれば自分達の予想は大体合っていることになる。

「うーん…」

「なんだ?」

「前から思ってたんだけど、レイルの冤罪を晴らせないかなって。だっていつまでもありもしない罪で指名手配なんて可哀想だよ。いい加減髭も剃って欲しいし」

いくらシュンでも手配書を無かった事にするのは無理である。

できるとすれば手配したコルンドリア国が撤回するしかない。

しかし、国王は、腹心の上級魔法使いの事を頭から信じ切っている為説得は不可である。

ならば、その上級魔法使いの口から嘘であったと証言させるしかない。

「シン、自白魔法使える?」

「いや…まだそこまでは…」

「そっかー今から覚えるにしても、肝腎のレイルに教わんないといけないし、何でいきなり自白魔法とか言われても理由に困るもんねー」

「シュンが使えないのが驚きだ」

「私の魔法は偏ってるからね…」

生活を楽にする為の魔法重視である。

他の魔法も使えるが、自白魔法は必要としないだろうと思い、まだ学んでいなかった。

「では、俺かエクシャがコルンドリアに潜り込みその魔法使いに近づくと言うのは?」

「でしたら女である私の方が油断させられるのでは?」

「でもそうすると長期間留守にすることになるでしょ?レイルに怪しまれるよ」

「シュンの移動魔法陣を持たせれば自由に行き来できるだろう」

「あ、それもそうか」

次に身代わりくんを卸すのは7日後。

その間シュンは、注文数が増え1日じゃ作り終えないので毎日少しずつ人形を作成する。

それまでにレイルが何かしら言ってくるであろう。

シンにはある魔法の研究をお願いすることになる。

作成期間は短い為、シュンも時間があるときに手伝うつもりだ。

これはこの作戦の武器となる。

マールにはギルド長の監視を頼むことにした。

もし何かしら悪どいことをやらかしていればそれも武器になるし、レイルが会いに行った際の会話も聞いてきて欲しいのだ。

「そしてエクシャ。要の潜入捜査だよ」

「はい!」

僅か6日で上級魔法使いの懐に入り最終日までに証拠を得なければならない。

エクシャは何処と無く張り切っており目を輝かせていた。

それをマールは羨ましそうに眺めている。

(マールも潜入捜査したかったのかな?なんかカッコイイもんね、潜入捜査って響き)

では早速支度に取り掛かろう、とシュンが席を立つと3人もそれに倣い立つ。

レイルをもっさい変装から解放すべく、4人は頷きあった。








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