表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
13/71

13

「流石大国の首都!賑わってるねー」

闇の魔法使いシンにはもう一人仲間がいる。

名前をニノという。

彼は特に不幸な生い立ちなどではなく、某国の騎士として名を馳せた優秀な人物である。

そんな彼がなぜ闇の魔法使いシンの仲間になったかと言えば、その性的嗜好が特殊だったのだ。

見た目は美丈夫。腕も確かで、頭も切れる。

ただとんでもないドMで、美人なら男でも女でもイケる両刀使い。

全ての屈辱的言葉を快感に変えてしまうのだ。

漫画で闇の魔法使いシンが某国を落とした際、シンの美しさと圧倒的な強さに一目惚れして仲間になった。

というか、押しかけたのだ…。

ニノがストーキング用に若気の至りで身に付けていた魔法、マーキングを戦いの最中シンにこっそりと施し、廃城まで追いかけてきた。

この世界の裏側まで…。

漫画の中のシンは無表情で「好きにしろ」と言っていたが、今のシンなら顔を引きつらせて追い出すに違いない。

なぜ突如その様な話を始めたかといえば、身代わりくんを売りにその某国、ルーズランス国の首都へとやってきていたからだ。

町の奥には堂々と城が構えられており、その城にルーズランス国の騎士の中で五本の指に入るというニノが居る。

(数年先の話だけどね)

更には、裏切った同僚ニノを追いかけ主人公チームの仲間になるグレン・ウィックも同じ騎士団所属だ。

しかもグレンは漫画では団長職でめっちゃ強い。

(うん、ニノは放置だ。あのドMの扱い方が分からない)

このままでも彼は不幸にはならない。

むしろシンが不幸になる可能性がある。

城攻めの予定がない以上関わる事はないだろう。


(とついさっきまで思っていた自分を殴りたい…。そして今日に限ってシンが一緒だし…。いつも引きこもってるのに何で今日に限ってっ!!つーか、いつフラグが立ったんだ!?回想か!?漫画を回想で思い出していたからか!?)

「周囲を固めろ!」

と中まで聞こえる程に声を張り上げているのは件のニノだ。

場所はギルドのホール。

まさに身代わりくんを卸し中に、ギルドに不満を持つ輩数十名が押し入ってきたのであった。

あっという間にギルドは占拠されてしまい、シュンとシンも出るに出られない。

というか、絶賛人質中である。

「面倒だな。やるか?」

「いやいや、さらっと何言ってんの?」

早く帰りたいらしいシンは、魔法でちょちょいとやっちゃいたいらしいが、シュン的には目を付けられるのは避けたい。

特にニノの。

人質になり数十分が経ち、窓の外で兵士や城仕えの騎士達が慌ただしく動いているのが分かる。

先程のニノの様に声を張り上げれば多少は聞こえるが、作戦を気取られまいと、声は抑えられている。

(にしても、なんだろう?このデジャブ感…)

前にもこんな事があったような気がするが、まるで思い出せない。

しかし、こんな強烈な体験したら忘れるはずがないのだが…と考え込んでいた時だ。

「おい!奥にまだ一人隠れていたぞ!」

男が青年の腕を乱暴に引っ張りながら、ギルドの奥から出てきた。

その瞬間、シュンは思い出した。

(これ…ニノが騎士として一つ上に昇進するきっかけになった話じゃね?)

番外編で少しだけサラッと出てきた話で、内容も、細かい描写は全くない。

マールやエクシャの過去編と違い、ニノの過去編は特に描写が少なく、過去編というよりシンの仲間になってからの心情の方が濃く描かれていた。

(覚えてるわけないよ!たった1、2ページだもの!)

そして、あの連れてこられた青年こそがニノであり、これは潜入作戦なのだという事もはっきりと思い出した。

(ぎゃぁー!!こっちに連れてくるな!あっち連れて行ってよ!!)

よりにもよってシュンの方へと連れてこられたニノ。

シュンは無駄な抵抗ではあるが、できるだけ距離を取ろうと、シンにくっつく。

(…?)

何かに警戒する様に自分にくっつくシュンを不思議に思い、シュンの見る方へと視線をやるシン。

その先には、隠れていた青年を拘束した立てこもり犯の一人が居た。

(…こいつ、ビビってるのか?)

いつも飄々とし、怯える事などないシュンにしては珍しいと思うと同時に、それだけ今の状況が恐ろしいのだと思った。

先程、さっさと鎮圧してしまおうと提案したが、それを却下したのは怯えていたからなのかとシンは解釈した。

(魔力は同等だが俺の方が断然年上だ。俺が守ってやらないと…!)

大丈夫だ、という意味を込め手を握ればシュンが驚いた様に振り返る。

(手!?何で急に!?)

シンは至極真面目な表情で、ちらりとニノとニノを拘束している男を見て心配するなと、一つ頷いた。

(…はっ!まさかシン、ニノが只者じゃないって…凄い変態だって気付いた!?流石未来の最強闇の魔法使い!やっぱり天才だよ!!大丈夫!シンには近づけさせないよ!)

という意味を込めシュンも一つ頷いて、手を強く握り返した…直後、

「おぉ、かわいい子がいる」

という隣に来たニノの小声の発言は是非聞かなかったことにしたいと、シュンは切実に思った。


「我々の要求はギルドによる仕事の斡旋を撤廃してもらう事だ!」

立てこもり犯の一人が、外へと向けて要求を突きつける。

それを皮切りに次々と立てこもり犯達からの陳述が行われていく。

「ギルドを破門された者達は、再び働く事も出来ずに食うに困っている!」

「家族がいるんだ!仕事を取り上げないでくれ!」

「新しい仕事を探そうにも、ギルドを通さなければまともに雇っても貰えない!」

「そうだ!そうだ!数回仕事に遅れただけで職を取り上げていいのか!?」

「遅刻はダメだろ」

社会人としてどうなの?!と言う意見が出た瞬間、シュンは思わず口を挟んでしまった。

ギロリと立てこもり犯達がシュンを見た。

だって遅刻だ。

日本社会でだってそう何度も遅刻したら普通にクビになる。

「なんだとこのガキ!?」

「約束の時間に来ないって、人としてダメじゃん」

イライラとシュンを睨む男。

それに真顔で反論する幼女に周囲はハラハラと見守るが、そんな事御構い無しで更に続けた。

「例えば、10人の人に朝から夕方まで仕事をお願いしました。遅刻して昼にやってきた人が1人います。そんな人に同じ給料なんて払ったら真面目に朝から働いてた人が暴動起こすし、遅刻OK何て言ったらみんな遅刻して好きな時間にきちゃうでしょ?そしたら仕事終わらないじゃん。時間が守れないなんて、信用度ゼロ。そんな人にギルドも仕事を紹介したくないよ。ギルドの信用も失っちゃう」

「…正論だな」

誰かが感心したようにポツリと呟いた。

すると周囲も

「確かになぁ。雇う側からしたら迷惑この上ないしなぁ」

「時間指定してるんだから守ってもらわないと…」

「そんな奴ウチではお断りだ」

「つーか、ギルド破門されたの、自業自得じゃない?」

「まさか全員そんな理由だとか言わないよな?」

「ウチの旦那もまともに働いちゃいないからねー」

「ウチの息子もよ。仕方ないから私が働きに出てるんだけどねー」

ザワザワと人質達はその立場を忘れ、好き勝手に喋り出し、終いには割とどうでもいいような内容となっていた。

「〜〜〜〜〜!煩いぞ!今度喋ったらガキでも容赦しねぇぞ!」

持っていた剣の鞘でガンガンと床を殴りつけ、音で威圧し人質達を黙らせた。

人質達は自分達の状況を思い出ししおらしく口を噤んだり、俯いたりと黙る。

犯人グループに魔法を使える者はいないが、やはり武器は持参しており、刃物をちらつかせ、黙らせたのだった。

「お嬢さん、凄いね」

「!」

優しい好青年の顔で近づいてきたニノを、シンに近づけないためにシュンは内心警戒する。

「あはは、つい…」

「正論過ぎて笑いそうになった」

隣ではシンがシュンの発言を思い出しふふ、と堪え切れずに僅かに肩を揺らしている。

「…やばい、笑顔キュート…」

などと言うニノの発言はシュンには聞こえていない。

誰が何と言おうと、聞こえていないったらいない。

「…この状況いつまで続くのかな?」

何とか知らないふりを貫き通そうと、幼気な子供を演じ、先程とは打って変わってしょんぼりと項垂れると、大丈夫だ、と言うようにシンが寄り添ってきた。

「…君達、兄妹?」

「ん?あぁ、こいつは妹だ」

「そっか…兄妹愛って美しいね」

この状況なら幼い妹を守ろうとする兄の図にしか見えないが、シュンの目論見としては、ニノにお前の入る隙は無いと言うことを印象付けたかったのだ。

しかし、あの反応が演技なのか素なのか判断できない。

中身は変態だが、基本的には良いやつなのだ。

(本当、何で悪役になったんだか…。愛の力って恐ろしい……)


「ギルド長を呼べ!役人や騎士じゃ話にならん!」

外とずっと交渉していたリーダーらしき男の叫びに、ガクッとシュンの頭が項垂れた。

(ちょっと待て、今まで誰と交渉してたんだ!?真っ先に呼ぶべき相手だろうが!!)

叫びたいのを我慢し、そわそわとしながら事の成り行きを見守っていると、シンとは逆のニノの方から、ポンと優しく肩を叩かれた。

「大丈夫?」

何も知らない女性なら一発で恋に落ちてしまうだろう、気遣うような優しい笑顔を向けてくる、が、相手はシュンだ。

警戒しか無い。

「…だ、大丈夫」

辺りを見るふりをして、サッと視線を逸らすと視界の端にとんでもないモノが映った。

ヒクリ、と口の端をヒクつかせ、一応念のためにもう一度確認をしようとそちらへそっと視線だけを動かした。

「…………!!!!」(見間違いじゃなぁーーい!!!)

吹き抜けの二階の窓の外からこちらを凝視するレイルが居た。

更にはマールとエクシャも居る。

(これはあれか?帰りが遅いから迎えにきたのか?まだ外明るいよ?あ、廃城の方はもう真っ暗ですね。そうですね。って!止めろ!マール!竜の腕で窓を破ろうとするな!あ、良かった!レイルが止めてくれた!ってうぉい!!エクシャ!止めてぇ!魔物を入れようとするのは一番ダメなやつ!!)

ソワソワと落ち着きのないシュンを不審に思い、シンがその視線の先を追えば見知った顔に口角を引きつらせた。

「…はぁー…シュン、そろそろ出ないと。建物ごと破壊されるぞ?」

「うぅー…分かってるけど、大々的に魔法使うのはやっぱりちょっと…」

また変な貴族に目を付けられると、この町にはもう来れなくなってしまう。

地球で言う所の、廃城の真裏にあるこの国には珍しい植物も沢山ある。

また来たい場所なのだ。

「…魔法、が使えるのかい?」

「!」

やべっ!聞こえた!?と焦るシュンとは裏腹にシンは

「簡単なやつを少しだけ」

と当たり障りなく答えた。

「ふむふむ、例えば?」

「少しだけ風を起こすとか、地面を盛り上げるとか」

「あと、光で目を眩ませたり、かなぁ」

「へぇー凄いなぁ」

何か思案顔でシンとシュンを交互に見やるニノ。

先程も言ったが、ニノは頭は切れるのだ。

「お兄さん、こう見えて剣が有れば結構強いんだよ。だからあの人の剣、奪えないかなってずっと思ってたんだ」

(こいつ…こんな子供を巻き込む気満々かよ)

何かをやろうとしている事だけは分かったが、一体どうすると言うのだろうか。

「僕があの人達の注目を集めるから、光で一斉に目を眩ませる事、できる?」

「…やってみる」

なるだけ強気にならないように、目を付けられないように自信なさげに頷くシュンに、シンは眉を寄せる。

いくら怖がっていても実にらしくない、と。

しかし、今はここを出るのが先決。

話は後にして、シンもニノの作戦に頷く。

(失敗しても、やられるのはこの男だけだしな)

と、それぞれの思惑を知らないシンは実に冷ややかである。

立てこもり犯のリーダーは中々現れないギルド長に対し、苛立ちを募らせており、今にも暴れだしそうな雰囲気で人質達を怯えさせていた。

「やるなら早い方が良い」

暴れだすかもしれない、とシンに促されニノはポッと頬を染め頷いた。

(キリッとした表情もまた…)

(マズイ)

ニノがシンに本気になる前に策を打たねば、とシュンは強行手段に出る事にした。

「ああああ!!!!!」

「!?」

「なんだ!?」

「どうしたんだ!?」

「何の声だ!?」

いきなりのシュンの叫び声に立てこもり犯も人質も一斉にシュンに注目した。

「シュン、何を!?……ちっ、仕方ない!」

気をひくのはその男の役目だろ、と言いたげなシンではあったが、やってしまったものは仕方がない、と目を瞑った。

「???」

未だ困惑するニノの目を、シュンは両手で押さえつけ、自らも目を閉じる。

その瞬間、カッ!とシンの光の魔法が放たれた。

「きゃー!何の光だ!?」

「ま、眩しいっ!」

「目が!目がぁ!!」

三人を残したその場の全員が、魔法の眩しさに両目を覆い身悶えていた。

「今だ!」

シンの合図で、シュンの両手が離れ、ニノの眼前には当たり前だがシュンが居る。

「…!」

先程の怯えた様子とは異なり、凛々しく辺りを警戒する年不相応な少女の眼差しに、ニノは息を飲んだ。

「って!お兄さん!?早く!」

目が慣れてきたら目潰しの意味がない。

中々動こうとしないニノを急かし、作戦の続きを進めるように促した。

「あ、あぁ、ごめん。もう少し我慢してね」

ぽん、と軽くシュンの頭を撫でると、あっという間に素早い動きで狙っていた剣を奪った。

そこからはニノ一人で、怒涛の勢いで次々と犯人達を気絶させていく。

周囲で起きている異変を感じ取り、武器をでたらめに振り回す者も居るが、それらも全て綺麗に避けてみせた。

「やるな、あいつ」

「うん。強いね」(変態じゃなければどれほど良かったか…)

残念そうに言うシュンに、また違和感を覚えたシン。

それを尋ねようと、口を開こうとした時、シュンが駆け出した。

「シュン!?」

剣を振り回す敵の相手をしているニノに突進したかと思うと、盛大にタックルをかました。

「なんだ!?」

突然の衝撃に、衝撃の原因、シュンを見た瞬間、ダンッ!と何かが破裂する音が響き、ニノが立っていたその場に何かが目に見えない速さで突き刺さった。

「な、なんだ…?」

見たことの無い攻撃にニノは動きを止めてしまった。

「ちっ!なんであんな奴が持ってんだよ」

「…え?」

可愛らしい少女からは、よほど想像できない舌打ちと乱暴な言葉遣いに茫然とするニノ。

シュンはボーッとするニノに、

「あれはなんとかするから、あとは任せるよ?」

と声を掛けるが、反応がない。

「?お兄さん?」

再度呼びかけてもニノの視線は揺らがずシュンを真っ直ぐに見ていた。

「ーーーーおいっ!聞いてる!?やれるの!?やれないの!?無理なら引っ込んでて!!」

「…はっ!できます!何なりと!!」

「…は?」

“何なりと”

それは、漫画の中で命令されたニノが、シンによく言っていた言葉だった。

シュンはサッと顔を青ざめさせた。

何処かで自分は、ニノのヤル気スイッチを踏んづけてしまったらしい、と気付いた。

「おい、いきなりどうした」

フリーズしてしまったシュンを正気に戻したのはシンだった。

残りの立てこもり犯はあと4人。

僅かに視界が戻ってきている為、急がなければならない。

シュンは取り敢えずこの現状をなんとかするまでこの件は後回しにする事にし、ニノに三人を任せてシンと自分はある男の方へと向かった。

「あれは?」

リーダー格の男は見慣れない筒のような物を彼方此方に向けながら、見えないなりに警戒しているようだ。

「銃だよ」

「じゅう?」

「あの筒から目に見えない速度で鉛が飛んでくるの。弾は小さいけど当たりどころが悪ければ即死だってありえる」

「…詳しいな…」

「……シンはさぁ、魔道書以外も読むべきだよ。あれは小説に出てきた貴族しか所有が許されてない物なんだよ。高いんだよ」

「へぇー」

「随分興味なさげだね」

「こうすれば終わりだろ?」

シンが魔法を発動させる。

銃はパキリと音を立て、粉々になって落ちた。

「なんだ!?いきなり!?」

薄っすらと見えているのか、自分の両手から消えた銃を探すように眼前に近づけた。

しかし、見えるのは何も持っていない両手のひらだけだった。

「ダメだよ、シン」

「?」

「さっきも言ったけど、貴族しか買えないんだよ?そんな物を何で仕事してない人が持ってるか考えてごらんよ」

「…成る程。盗んだか、貴族の誰かに渡されたのか」

「そう考えるのが普通だね。そしてグリップって言う持つところに持ち主である貴族の印が彫られているんだよ」

「…粉々にしちゃったな…」

「魔法で直せるからいいけど。無闇に壊しちゃダメだよ?」

窘めるような口調の年下の少女はいつもの調子で、先程から何度も覚えた違和感は無く、シンは肩を僅かに竦めて返事とした。

その後はさっさと犯人達を始末し、銃を元に戻すと漸く突入してきた兵士や騎士達の一人、グレン・ウィックスへと渡した。

「これをあの男が?」

「うん、撃ってきたよ」

「…」

グレンと合流したニノは真剣な表情で銃を観察する。

やはりグリップの所には何かが彫られていたが、上から潰されておりどこの紋章かは分からなかった。

「渡した奴が、初めから潰しておいたんだろうな」

何となしに口を挟んだシンに注目が集まった。

シュンは何となくその理由を察していた。

もしかしたら、この二人の騎士もそうかもしれないが、視線が“なぜだ?”と答え合わせを求めていた。

「捕まった後、犯人達がこれを渡した貴族の名を言ったとしてもそいつは証拠が無い、としらばっくれられる。まぁ、他にこの銃に持ち主を示す何かがあったとしても盗まれたって言えば良いだろうしな。何にせよ、口を割るのが先か、口封じをされるのが先か、だな」

自分たちの予想と当たっていたのか二人は驚いたようにシンを見た。

人数が人数だ、いっぺんに口封じは無理だろう。

しかし一人二人口封じされてしまえば、次は自分が殺されるかもと言う恐怖で喋り出す可能性もあるが、すんなり殺させるのも騎士としてのプライドが許さないだろう。

「そうだな、そうならないように最善を尽くすのも僕たちの仕事だ」

キラリとニノとグレンの目が光る。

流石次期騎士団団長と副団長。

やる気に満ちている。

「…じゃぁ、これはおまけだよ?」

「?」

シュンはやる気満々の二人にご褒美だと、銃のグリップに手をかけた。

「!?」

一瞬だけふわりと光り、手を退けるとそこには潰された紋章が綺麗に浮かんでいた。

「これは…!!」

二人は顔を見合わせて、グレンは直様銃を持って走り出した。

「手助けはここまでね」

「じゃぁ、俺たちはこれで」

ギルドの外では他の人質は解放されたにも拘わらず、シュンとシンが出てこない事にレイル達が中を覗き込んでいる。

「あぁ、助かったよ。二人とも本当にありがとう。でも、お嬢さんはあんな無茶したらダメだよ?」

パチリとニノが、女性がうっとりする様なウインクを飛ばしてくるが、シュンは何でも無いように、

「ごめんなさい」

テヘ、と子供らしく笑ってみせた。

これ以上ヤル気スイッチを踏んでたまるか、と子供とぶりっ子の演技を駆使して、ニノをやり過ごす。

保護者が迎えにきてるから、とニノに別れを告げ漸くレイル達と合流したのだ。が、

「ご兄弟ですか?え?魔法の師匠?さぞかし優秀なのでしょうね。お弟子さんお二人にすっかり助けられてしまいました。判断力も実行力も実に素晴らしい子供達でした。ぜひ個人的にお二人にお礼がしたいのですが如何でしょうか?え?いらない?まぁまぁそう仰らずに。甘い物はお好きですか?最近ではあのお店のケー…」

がすっ!

「やめんか」

レイルの両手をがっしりと掴み、一方的にまくし立てるニノを止めたのはシュンだった。

あまりにしつこく、レイルが今にも魔法をぶっ放しそうだったので、手刀で握っていた手を切り離したのだ。

「お兄さん、さようなら」

にっこりと笑って見せ、ニノがまた何か言い出す前にそそくさと撤退して町の外へ出ると、速攻で移動魔法を使用し漸く廃城へと帰ってきたのだった。


しかし、数年後にこの判断が誤りだと言う事に気付くのだが、その時にはすでに色々と手遅れとなっている事を今のシュンが知る由も無い。


「なんなんだ、あの男…」

うんざりと項垂れるレイルにシュンは「さぁ」とだけ返した。

「大変でしたね」

エクシャが労わるように頭を優しく撫でてくれる。

この優しい手がシュンは大好きだ。

「シュンはいつも何かトラブルに遭ってるな」

南の国でもそうだった、と苦笑いをするマール。

「こいつの場合、自分からトラブルに突っ込んでいくからな。だから未だに監視が一緒じゃなきゃ出かけられないんだ」

「え!?出かける時必ず誰かが付いてきてたのってそんな理由なの!?でも今回は不可抗力!!」

驚きの事実にシュンはそんなバカな、と唖然とした。

「…そう言えば、シュン」

「うぇ〜?なに?」

ショックに打ちひしがれていたシュンに、シンは更に追い討ちをかけた。

「お前、ああいう男が好みなのか?」

「…ん?」

どの男の事だ?

首をかしげるシュンの後ろではマールとエクシャが顔を引きつらせている。

「あの…他の騎士にニノって呼ば」

「絶対ない!!!!!!」

名前が出た瞬間、被せるように否定したシュンは顔面蒼白だ。

「ああ、うん、分かった」

寧ろ逆だと言うことは理解できた。

マールとエクシャも一安心だ。

「何でそんな事思ったの?」

そこが問題だ。

そう言う態度は絶対にとっていない。

「あの男が現れてから様子がおかしかったからな」

「うー…できればシンには言いたくないけど…」

「何かあるのか?」

「あの人、シンばっかり見てたんだよ」

「は?」

意味がわからないと眉を寄せるシンとは対照的に、レイル、マール、エクシャはシュンが言わんとしてる事に気がついて、口角を引きつらせていた。

「シンには聞こえてなかったと思うけど、シンがかわいいとか、笑顔がキュートとかぼそぼそ言ってたんだよ!シンがなるだけ接触しない様に警戒してたの!」

「……マジか……」

「シンが女の人より男の人が好きならもうしないよ!」

「いや、心の底からありがとうございます」

今度はシンが口を引きつらせる番だった…。

別にそう言う趣味の人を非難するつもりは無いのだ。

そう言うのは同じ趣味の人同士でやって欲しいとは思う。

自分とは違う趣味の人に言い寄られても困るのだ。

「でも、帰り際はチラチラお前を見てなかったか?」

「ヒェ」

気のせいだと思いたかったのだ。

そう、ニノは男も女も関係ない。

何が原因なのか未だ分からず、しらないフリをしていた。

「うん、気のせいだよ」

「いや、でも」

「見てたとしたら、きっとシンの事を根掘り葉掘り聞きたかったんだね。話しちゃう?」

「気のせいだ。間違いなく気のせいだ」

お互いに「気のせい」「気のせい」とうなずき合いこれ以上考える事を拒否したのだった。

(まぁ、今回みたいに偶然遭遇する事も無いだろうし、無かったことにしよう。そうしよう)

そうしていつもの夜を過ごし、いつもの朝を迎えるシュンであった。



「ハンルビア国か…。移動魔法が使えるなんて本当に優秀なんだな…」

ランプの明かりで照らされた、騎士寮のとある一室。

昼間の騒動の報告書をまとめていた筈のニノは、そろそろか、と手製の地図を広げた。

すると赤い印が地図の一箇所で点滅していた。

場所はハンルビア国の廃城。

シュン達の住む廃城である。

「ここがシュンちゃんのお家か…。将来楽しみな子だったなぁ」

瞼を閉じると「やれるの!?」「無理なら引っ込んでて!」と自分を怒鳴る少女の表情が思い出される。

「………っはぁー!罵倒されたいっ!!」

乙女の様に両腕で自分を抱きしめ、クネクネとする姿は異様で。

「気持ち悪い」

同じく報告書を仕上げていた、一部始終を見ていた同室の同僚、グレンに言われたニノは

「可愛くないお前に言われても嬉しく無い」

と一気に素に戻った。

「ついにロリコンも追加されたか。捕まるのも時間の問題だな」

「子供は趣味じゃ無い。ただ、あの子の将来が有望だったからキープしておきたかっただけだ」

「キープって…その地図に赤い印、いくつ付いてるんだよ?貴重な索敵魔法をストーキングに使いやがって」

「言っとくけど結婚した相手は削除してる。人のものには興味ないし。それに会いに行ったりもしてない。会いたいけど我慢するのが楽しいんだよー」

「…こんなのが上官候補とか、この騎士団大丈夫か?」

「趣味と実力は別だもん」

あぁ、でもこの子にはまた会いたいと、内心こっそりと思うニノであった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ