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幸せにしたいのは主人公じゃない!  作者: いたちのしっぽ
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「あれも欲しい!これも欲しい!それも!あ、エクシャはどれが良い?遠慮しないで!今日はバンバン買っちゃうよ!!」

「えぇー…」

8歳を迎えてしばらく経ったある日。

いつもの港町の植物屋へとやってきていた。

エクシャが花を育ててみたいと言った事から、シュンは苗や種を嬉々として買い付けている。

そう言ったエクシャには予想外の展開に、アタフタとするばかりだ。

軽い気持ちで言った事がまさかこんな事になるなんて、である。

シュンと言えば、いつも遠慮ばかりしているエクシャとマールが何か欲すれば、これ幸いとばかりに作ったり買ったりと直ぐに与えるのだ。

「ほらほら、これなんて可愛い白い花が咲くんだよ!こっちは大きな黄色い花が咲くんだよ!」

「はっはっはっ!流石嬢ちゃん。選ぶものが花が綺麗というだけじゃなくて、何かしらの効力があるモノを選ぶとはなぁ」

「効力、ですか?」

「あぁ、この白い花の根っこは腹痛の薬になる。この黄色い花の種は水を混ぜてすり潰すと湿布代わりになるんだよ」

「…成る程…。他にはどの様な?」

「こっちは微量の毒なら毒消しの効果があるな。それは花の蜜を絞れば軟膏の代わりになる。そっちは火傷、あっちは傷薬だ」

「あ!これ!これにしよう!軟膏!」

「お?嬢ちゃん何か閃いたのか?」

「まぁね!」

本来油分や薬などを混ぜ合わせてつくる軟膏だが、天然の植物からそれと似たものが搾り取れる。

しかも花の蜜なのだから良い香りがするに決まっているのだ。

種や苗を大量に買い込み廃城へ戻ると、早速シュンはそれらを広げた。

「クリーム作ったら売れそう!」

「クリーム?」

軟膏から保湿クリームが作れないだろうかと考えたのだ。

魔法が使える自分はまだしも、魔法の使えない者は当然ながら全て手作業で行っている。

真冬の皿洗いも洗濯も、だ。

そうなると手はアカギレやひび割れなどで荒れ放題となる。

「そんなご婦人方にきっと売れると思うんだよ!」

「そして俺の肩身が更に狭くなる」

「え?レイル?何の話?」

「なんでもねぇよ」

何となく察したシンだけは、慰める様にレイルの肩に手を置いた。

「あとはグリセリンを作るのにヤシの実が欲しいかなー」

「やしのみ?」

「そ、南国で育つ固い殻に覆われた木の実だよ」

現代では石油から作る合成グリセリンとヤシの実やパーム油から作る天然グリセリンがある。

この世界には石油が無い為、今回はヤシの実から油脂を絞り出し、そこからグリセリンを作ろうという訳だ。

「本にはルーワイヤって国で取れるって書いてあったかな?」

以前、行ったことのある町に印を付けた地図を広げるとルーワイヤには誰も行っていない様で印は無かったが、その隣国、パパラストの南寄りの村に印があった。

「この村から飛んでいけば直ぐだね。可能なら“庭”に植えたいねー」

「…庭…」

シュンが言った庭を思い出し、マールの口角がひきつる。

廃城の正面、日当たりの良い一等地に生い茂っていた木々は切り倒され、代わりに果物の木や薬草に野菜などの植物が魔法で管理されつつ、所狭しと植えられている。

最早畑である。それも家庭菜園なんて可愛いものではなく農家規模の。

尚、切り倒した木々で、獣や魔物達が冬を越せる様にいくつか家を建ててやってもいる。

エクシャの協力もあり、残った果物や野菜などもくれてやっているため、比較的森の住人達とは仲良くやっていた。

「じゃぁ、今日は種を植えて、明日行ってみようかな」

クルクルと地図を巻いて仕舞う。

「なら、明日は俺が付いて行こう。その村に印を付けたのは俺だし、硬い殻の木の実なら重たいだろうから」

とマールが挙手した。

竜の血のおかげか、純粋な力だけで言えばマールが一番力持ちだ。

「じゃぁお願いしようかな」

「了解した」


「あっついね」

「あぁ…」

翌日、宣言通りにやってきたパパラスト国の村。

ここから魔法で飛んでルーワイヤに向かう。

流石南国に隣接しているだけあって、パパラストもなかなかの暑さだ。

因みに廃城のあるハンルビア国は秋だ。

しかも真夏でもこんなに暑くはない。

自分とマールの服を魔法で夏服に変えれば幾分快適になった。…が

「うわー日差しが強すぎて肌がビリビリするー」

仕方なく、薄手の羽織も付け加えた。

村には滞在せず、直ぐにルーワイヤ国へと向かって出発する。

目立たない様に高く飛ぶと、先程よりも幾分ましな程には涼しくなった。

「マールは飛ぶ魔法覚えるの早かったね」

「エクシャと違い、竜の姿で飛んでいる時に何となくわかっていたからな」

今回エクシャが同行をしなかった理由はここにあった。

エクシャはまだ飛べないのだ。

その代わり家事魔法の覚えが凄まじい。

直に家事は全てエクシャに取られてしまうだろう。

「前も思ったが、その黒い羽は意味があるのか?」

「これ?」

カラスの黒い羽をバサリと羽ばたかせると、マールはそれだ、と頷く。

「部分変身の魔法は難しいと聞いた。わざわざそれをやる意味が分からない」

羽が無くとも飛べるのに、と。

「だって、カッコイイじゃん!」

「え?カッコイイ?」

「そう!あとは、魔力のコントロールも正確になるっていう利点もあるよ」

「…コントロール…」

「私、シンよりコントロールできるようになるの遅かったんだ。私の方が先に魔法を習い始めたのに。だからコントロールが難しければ難しい程、他の簡単な魔法はコントロールし易くなるんじゃ無いかって思って」

「成る程、訓練の一環か」

「シンとレイルには内緒だよ。特にシンに教えると真似っこして直ぐにまた差を広げられるから!レイルに言えば絶対シンに言うし!あ、エクシャには教えてもいいよ!三人の秘密ねー!」

羽を器用に操りくるくると空中を回るシュンに感心しながら、訓練ならば自分も見習うかと帰宅後に教えを請えば嬉しそうに了承の返事が返ってきた。

それから程なく、水平線が見えてきた。

ルーワイヤ国は海に面している部分が多く、貴族の間ではリゾート地として有名であり、今の国王になってからは観光客も年々増えている。

観光客用の市場も連なっており、土産物屋なども充実してるのだ。

なぜこんなに詳しいかって?

勿論原作に出てきたからである。

主人公アスベルが骨休みに立ち寄ったのがこの町で、その時は貴族を狙った怪盗と戦ったり、海辺でヒロインと良い雰囲気になったりしたのだが、今はまだ怪盗も居ないしヒロインも居ない為、平和そのものである。

「うわー!エメラルドグリーンの海!」

空から見る広大な海はキラキラと輝いており、ビーチの側には、数年後、怪盗に荒らされると知らない貴族の別荘が軒を連ねている。

「お!さすが南国!ヤシの木がいっぱい植えられてるねー」

町が近づいてきて、人気のない場所に降り立つ二人。

国の端の町であるにも拘わらず、大きな町である。

「かき氷売ったらぼろ儲けできそう」

「かき氷?」

「削った氷にシロップをかけて食べるの。帰ったら作ってあげる」

次から次へと様々な事を思いつくな、と感心していると、直ぐに町の入口へと着いた。

貴族のリゾート地と言うだけあり、町の出入り口には警備の兵士が二人立っていたが、シュンとマールの身なりを見て貴族と思ったのか特に声を掛けられるでもなく、すんなりと入る事が出来た。

シュンの魔法で作った衣類は、デザインも現代日本を参考にしており、そんじょそこらの貴族よりも上等であるため、ぱっと見一般人には見えない。

警備の兵士も慣れたように敬礼をしている為、貴族が町の外へ散歩へ行くことくらいあるのだろう。

「じゃぁ早速ヤシの苗を売ってるお店を探そう」

「いいのか?」

「?なにが?」

「…いや、海に興味があるようだったから」

「興味はあるけど、楽しむのはまた今度。シンやレイル、エクシャも一緒の時にねー。なんならその時の為に別荘買っちゃう?」

「…そんなサラッと買えるものなのか?」

「お城買えたんだからいけるいける!」

「……」

とんでもない事をさらりと言ってのけるシュンの底がまるで見えず、マールは若干引きながら口を閉じた。

(まぁ、怪盗に荒らされるって分かってるし買わないけど)

町の市場へとやってきた二人は、貴族だけでなく普通の観光客達の多さにも驚いた。

店々では呼子が特産品を売りつけようと引っ切り無しに声を掛けている。

お祭りにも似た空気の中、シュンはテンションを上げながら植物を取り扱う店を探す。

「うーん、ないねぇ。こういう観光客向けの場所じゃなくて、町の住人が通う様な市場ならあるかもだねー。市場、どこだろ?」

「聞いてみるか?」

「そうだね」

シュンが頷くと、マールは迷いなく一番近かった年配の女性が切り盛りする店へと足を向けた。

「いらっしゃい!こっちの串焼きおすすめだよ!」

客と思った女店主は元気よく声をかけるが、マールはそれを無視し、ヤシの苗や実が買える店がないかと尋ねる。

「あぁ、それなら向こうの通りにあるよ」

女店主は特に気分を害した様子はなく、慣れた様で道を教えてくれた。

「マール!」

「どうした?」

早速そちらへ行こうと、シュンを促そうとするが、シュンは串焼きの香ばしい香りに釘付けで

「この串焼き食べたい!」

と期待に満ちた眼差しを向けられてしまった。

「…いっぽ」

「二本下さい!」

「毎度あり!」

一本だけ買おうとしたマールの声を遮り、シュンは二本の串焼きを注文し、女店主は元気なシュンを気に入ったのか、おまけしてくれた。

(むふふ、この女の人どこかで見たことあると思ったら、原作でもアスベルに串焼き売ってた人だ。すっごい美味しそうだったから食べたかったんだよねー)

「一本はマールのだよ」

「…良いのか?」

「当たり前でしょ。私が一人で見せびらかしながら食べても美味しくないよ!それにこの匂い!絶対美味しい匂いだよ!!美味しいものはみんなで!ね!」

「……」

ウキウキとした待ちきれないと言わんばかりのシュンの横顔を見ながら、この数ヶ月を思い出す。

与えられてばかりで、見返りは一切求めてこない少女は、時折わがままと言いながら買い物に連れ出したり、庭(と言う名の畑)いじりを手伝えと言ってきたりするが、そんなものはわがままでも何でもなかった。

してやれる事は何でもしてやりたいと思うが、それはとても少なくて、何でも自分でこなしてしまう。

後から気づいたが生活費も全てシュンが稼いでいると知って心底驚いた。

これまで誰かに使われるのはもう嫌だ、と心底思っていたはずなのに、この少女にだけは自らかしずいても良いとさえ思い始めている。

しかしそれを当の本人が良しとしないのは分かっている為、決してしない。

「…どうすれば良い…?」

「なにか言った?」

「いや、何も」

「本当に?」

「はいお待ち!」

何か言っただろう?と、視線で問われるが、女店主の声に気を逸らされ、シュンの興味は串焼きへと移った。

「うはぁ!ありがとう!」

シュンが串焼きを受け取り、マールが代金を払う。

余談だが、見知らぬ土地では子供が大金を持つと何かと厄介なので、最近はその時の保護者担当に持ってもらっている。

一本をマールへと渡し、どこかに座って食べようと話していると、女店主から近くに噴水のある公園があるとの情報を得てそちらへと向かった。

噴水を囲む様に周囲をぐるりと露店が広がり、そこでも土地ならではの名物が売られていた。

一先ずベンチへと座り、噴水で遊ぶ子供達を眺めながら串焼きへとかぶりついた。

「うんまぁーい!」

「うまいな」

もくもくとかぶりつく姿は子供で、周囲からは仲睦まじい兄妹のように見えるだろう。

が、そうとは思わない者も居た。

「この!魔物が!!」

「!?」

パキンッ…

突如、見知らぬ男が剥き身の剣を背後より、マールへと振り下ろした。が、

「っ!?防御障壁!!?」

シュンとマールの周囲には完璧な防御魔法が張られていた。

辺りは騒然とし、注目の的である。

「ちっ!町に魔物が入り込んだと聞いて探していたら、まさかこんな人攫いとはな!」

「ちょっとー!お兄さん!?いきなりなんなの!?危ないでしょ!?」

さも知らぬと言わんばかりにシュンはプリプリと怒って見せるが、当然ながらマールは完全に警戒している。

人間の姿をしている自分を“魔物”と確信して襲ってきたのだから。

「お嬢ちゃん、こいつは魔物だ。連れ去られてきたのなら俺が助けてやる!」

「いや、どう見たら連れ去られてきたように見えるの?」

「はっ!?まさか…洗脳されて…!!?」

「されてないよ。この人兄です」

「やはり洗脳を!?」

「されてないってば!人の話聞いてる!?それとも聞かない派なの!?」(面倒臭い奴だとは思っていたけど本当に面倒臭い!!)

初対面だが、シュンは相手が誰だか知っていたし、人混みで見つけた時からマールが狙われる事も知っていた。

そう、原作の主人公チームの仲間で、幼少時に家族を魔物に皆殺しにされてから魔物を心底嫌う剣士、ヴァイク・シュテットだ。

「そいつは危険だ!離れろ!」

「いや、貴方が何もしなければ安全だよ。攻撃されれば迎撃するしかないでしょうが」

「そりゃそうだ」

「確かにな」

「先に手を出した方が悪いわよ」

その場の人間満場一致で同意見であった。

「くそっ!周囲にまで洗脳を!!」

「そんな力無いからね!?」

「シュン、殺るならやるぞ」

「マール!?殺らないの!」

連れまで危険な発言をし出した為、いきなりドンパチ始まらないように二人の間に立ち、牽制するが相手の得物は既に剥き身でいつ切りかかってきてもおかしくない。

しかし、原作知識万歳。

ヴァイク・シュテットは決して人間の女性と子供に手を上げないフェミニストなのだ。

女児であるシュンは安全圏確定なので、あとは二人を接触させない事だ。

「おほん!」

と態とらしい咳払いを一つし、冷静な眼差しでヴァイクを見た。

「そもそもなんでマールを魔物なんて言うの?どう見たって人間でしょう?」

「…それは…」

ヴァイクは答えない。

否、答えられないのだ。

ヴァイク自身、四分の一は魔物の血が混ざっているから。

魔物を心底毛嫌いしておいて、自身も魔物の血が流れているなど滑稽にも程がある。

その魔物の血の力で人間に化けた魔物や、マールのように魔物と人間のハーフをオーラで見分けることができるのだ。

漫画では魔物を一掃したあと自分も死ぬ、等抜かしていたが、一生かかっても一掃できるわけがない。

100回転生したって無理である。

それを本気で出来ると思っているヴァイクは心底面倒臭い人間なのだ。

「理由を言えないなら、人の兄を適当な事言って傷つけないでよね」

「いや、本当にそいつは!」

「マール、もう行こう!帰りが遅くなる」

「…あぁ」

マールの目がまだ“殺るか?”と言っていたので手を出す前に撤退する事にした。

……のだが…



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