大混乱
帰路も半ばを過ぎた日、国王も女神様の馬車に乗り込んだ。内密の話があるらしい。
長い沈黙の後で国王が口を開いた。
『王都に戻ったら退位します』
ええっ
爆弾発言に焦るが通訳はしないといけない。
『そうか』
女神様は淡々としている。
『本当は退位というのもおこがましいのですが、対外的な都合もありまして、申し訳ありません』
国王が深く頭を下げる。
『いつ知った』
『二度目に女神様にお会いする前の晩に母から打ち明けられました』
『そうか』
『にわかに信じられませんでしたが、この旅で確信できました。国王の座は私がいていい場所ではありません』
はぁ?
王族であり、前王の息子以外に相応しいヤツがいるんかよ。
『ですが』
国王は続ける。
『今の施策はまだ始まったばかり、まだ私を必要としていると思います。できれば、当面の間、次期宰相となり国を支えたいと存じます。この旅の間に許可を頂けると幸いです』
『私は構わぬぞ。次の王は未熟ゆえ、支えが必要だろう』
女神様が返事をすると国王は俺の方に視線を移す。
何でしょう?
ちゃんと通訳したじゃん。なんでじっと見つめられてんの?
なんで?
『そいつは、まだわかってないぞ』
女神様が俺を見て言う。
えっ?
これ通訳すんの?マジで?
『まさか!あまりに似てるので一目でわかりましたよ』
国王が驚いた顔で返す。
ねえ、マジでこれ通訳すんの?泣きそう。
『そいつは神官長を引退したら行商人になる夢を諦めてないぞ』
諦めてません。ませんけどね!何コレ?本当のとこ通じてるんだから俺要らないよね?ね?
通訳しなくていいよね?誰かいいって言って!お願い!
『行商人?それは困ります。他になれる人はいませんよ』
泣きそう。ってか泣いていいよね?これ通訳するってガリガリと神経削られるよ。
『ヒントをやろう』
女神様、それって俺に言いましたよね。通訳しなくていいですよね。
『ドラゴンは私以外は私の愛し子である王族しか背中に乗せないぞ』
ええっ、乗ったよ。俺 乗った。前神官長の拾い子なのに何回も乗ったよっ。
『もしかして、母子の名乗りもしていないとか?』
『本人を前に話したが、全く気づいてなかった』
『でも、よく似てるし、同行者は全員気づきましたよ』
『神官は美醜に興味がないからな。表情は見ても顔は見てないだろう』
『そういうものなのですか?』
『ちなみに名前を覚える習慣もないらしい。これからの課題であろう』
『それでどうやって区別して…』
『声だな。通訳をするために聴覚は鍛えるらしいぞ』
何だか、気持ち悪くなってきた。馬車揺れないけど。
何コレ、虐め?この会話を通訳し続けないといけないの?
ってか、俺どうなる?




