朝の庭で
馬車がこの国の南端の城に着いた。夕方の予定であった到着が隊列の馬車の不調でちょっと遅くなったこともあり、領主との対面は翌日に持ち越された。長旅の疲れもあるだろうからと、各自用意された部屋での食事となった。
女神様と一緒に歩くせいか、使用人と目が合う度に逸らされているようで気にかかる。女神様をじっくり見てはいけないということはないが、恐れ多いんだろう。
前領主の寡婦であり、国王のはとこ叔母が現在の領主だ。前領主との間に子供は居ない。前領主が亡くなった後、王族でもある彼女がそのまま領主となった。後継は前領主の弟の息子になるだろうとのことで、彼女が亡くなればここには王族はいなくなる。
彼女は領主としての仕事に追われ、この領地を離れることはない。
20年ほど前に魔物が襲って来たのは彼女が領主になった半年後のことだという。同年代の親戚でもあり、幼なじみでもあった彼女を助けようと前国王が頑張ったのはわからないでもない。
でも、なんで自分で頑張っちゃったかなぁ…。
まぁ、いいや。とりあえず、寝よ。
久しぶりにいいベッドで寝たせいか、熟睡できて、早朝に目が覚めた。女神様の起床時間までは暇である。
窓の外に広がる中庭に興味を惹かれて部屋を出た。
手入れの行き届いた女性らしい庭。夜露に濡れた花々が朝日を浴びて輝き始めていた。
足音が聞こえた。
やべっ。勝手に庭に出たらマズかったかな。
『神官長様。おはようございます』
40代かもう少し上かの上品な女性。服装から言って領主だろうか。
勝手に庭に出たことを詫びるが、逆に散歩に誘われた。神官以外の女性と並んで歩くのは初めてかもしれない。
どんな話題をしたらいいかよくわからないので、領主の話に相づちを打ってごまかしていた。いつの間にか、俺の話になっていて、前の神官長に拾われたこと、それから神殿で育って16で神官長になったことなどを聞かれるままに答えた。
『捨てた親を恨んでますか?』
思い詰めたように聞かれ、初めて親のことを考えた気がする。親が居ないのが当然。神殿は窮屈だけど飢えることなく育てられてだった。
「不幸になっていないといいんですが」
笑うと、領主は手を伸ばしてぎゅっと抱きしめてきた。
はいっ?
何だろ?
心の平安でも求められてるんかな?子供を成せなかった母性が行きどころを失ってるのかな?王族って面倒そうだしなぁ…
しばらくそうした後、ごめんなさいと領主は離れた。
『また、あとで』
間もなく女神様が目覚める時間だ。




