↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/7

テスターの意見を聞け

 テストプレイ——ゲームを作るうえで、もっとも重要な作業のひとつといえる。

 

 とくに、一部分だけを確認するテストではなく、最初から最後まで通して遊ぶ通しプレイは必須だ。

 この通しプレイを怠ったせいで、後半のゲームバランスが大変なことになってしまったゲームだって存在する。

 できることなら、自分だけではなく、他人にも遊んでもらったほうがいい。

 作った本人では気づけないことが、どうしてもあるからだ。


 私の場合も、同好の士に頼んでプレイしてもらい、バグ潰しだけでなく、ゲームバランスやシナリオの修正まで行った。


 さすがに……さすがに、こいつもテストプレイくらいはしていると思いたいのだが——。


「テストプレイはやりましたよ。テスターも募集しました」

「……テスターも?」

「はい」


 テスターまで募集したのか。

 そこまでちゃんとしていたとは、少し意外だった。

 

 ……いや。待て。

 テスターに遊んでもらって——これ?


「待て、テスターは何か言わなかったのか?」

「言いましたよ。先輩がさっき言ってたようなことについて、不満は出てましたね」


 …………。

 マジか。

 マジなのか、こいつ。


「……なんで直さなかった?」

「レトロゲーとしてのバランスを守るなら、これでいくべきだと思ってたからですね」

 なに言ってんだ、こいつ。

「なに言ってんだ、こいつ」

「口に出てますよ、先輩」


 出てしまった。

 いや、もういい。

 これは出ても仕方ない。

 それではテスターを募集した意味がないではないか。


 そうか。

 このゲームの一番の問題点は、ゲームの中にあったんじゃない。


 ——こいつの精神性にあったのだ。


「阿久津」

「はい」

「テスターって、何のために募集した?」

「ゲームの問題点を見つけてもらうためですけど」

「見つけてもらってるじゃないか」

「でも、僕の目指してる方向性とは——」

「じゃあ、なんのためのテスターだ」

「ゲームの問題点を見つけてもらうためって言いましたよね?」

「言ったね」

「ほら、バグないですよね?」

「…………」


 うん。

 バグはなかった。

 一切なかった。

 そこは本当に尊敬に値する。


 一人で作ったゲームで、私が遊んだ範囲では進行不能もなければ、表示がおかしくなることもない。戦闘がおかしな挙動をすることもなかった。

 バグが原因で評価を落としているゲームではないのだ。


 ちゃんと起動する。

 ちゃんと進む。

 ちゃんと遊べる。

 遊(・)べ(・)る(・)ク(・)ソ(・)ゲ(・)ー(・)だ。


「阿久津。バグがないのは偉いよ」

「おっ」

「そこは本当に偉い」

「ですよね!」

「でも、バグがないクソゲーは普通に存在する」

「褒めてから刺すのやめてもらえません!?」

「事実だよ」


 私はため息をついた。


「テスターの意見を全部聞けとは言わないよ。中には見当違いなことを言う人だっているし、全部取り入れていたら、君が作りたいゲームじゃなくなる」

「でしょう?」

「でもね」


 そこで区切る。


「一人が言ったなら、好みかもしれない」


 阿久津を見る。


「二人、三人、五人。同じ場所で何人も引っかかったなら、それはもうただの好みじゃない。作者が見るべきデータだよ」

「データ……」

「そう。少なくとも、一度立ち止まって見直すべき場所だ」


 作者自身は、自分のゲームについて知りすぎている。

 五日目に足切りがあることも知っている。

 効率よく稼げる場所も知っている。

 敵の弱点も知っている。

 どこに何があるのかも、どの選択肢が正解なのかも知っている。


 だからこそ、作者にはできないテストがある。


 初めてそのゲームを遊ぶことだ。


「テスターは、君のゲームを褒めるためにいるんじゃない。君には見えないものを見てもらうためにいるんだよ」

「でも、俺が作りたいゲームと違ってたら?」

「それが原因で炎上してるんだろう?」


 私は少しだけ声を落とした。


「作りたいものを曲げろとは言わないよ。でも、少なくともお金を取るなら、そこには真摯に向き合うべきだ。それがお金を取るっていう責任だよ」

「責任……」

「そう」


 私が自分のゲームを有料で販売しなかったのも、結局はそこが怖かったからだ。

 お金を受け取る以上、その作品に対して責任が生まれる。


 面白くなかった。

 期待していたものと違った。

 払った金に見合わなかった。


 そんな言葉を向けられたとき、それを受け止める覚悟が私にはなかった。

 だから無料で配った。


 作者の自己満足を優先したいなら、それこそ私みたいにフリーゲームにすればいい。


 ——いや。

 それだって、本当は免罪符にはならない。


 無料であろうと、ゲームを遊んでもらう以上、相手の時間を使わせることになる。

 一時間遊んでもらえば、その人の人生を一時間もらったのと同じだ。

 

 どんな創作であれ、人の時間を受け取っている。

 そこは、作る側がちゃんと自覚しておくべきだと思う。


 阿久津には、それが足りていない……というより。

 たぶん、こいつは自分が何を作りたいかということばかり考えていて、それを受け取る側がどう感じるのかという視点が、丸ごと抜け落ちているのだ。


「とりあえず、最低限遊べるクソゲーに直すぞ。私も手伝う」

「いや、でも先輩の手を煩わせるわけには……」

「言っただろ?」


 私は阿久津を見る。


「『二千円取ってるゲームを、このまま放置させるほうが寝覚めが悪い』って」


 ここまで内情を知ってしまうと、もう他人事では済ませられない。

 なんというか——このまま放置したら、犯罪に加担しているような気分になってくる。

 見て見ぬふりはできなかった。


「まずは、いままで言ったところを全部直す。期限まわり、稼ぎ、回復、移動速度、ファストトラベル、イベントスキップ、チュートリアル。それから――」

「まだあるんすか?」

「あるよ」

「マジかぁ……」

「安心しろ。私も付き合うから」

「その言い方、全然安心できないんすけど」


 こうして私は、後輩が作ったクソゲーを最低限遊べるクソゲーへと改修する——そんな地獄に、自ら足を踏み入れることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。