テスターの意見を聞け
テストプレイ——ゲームを作るうえで、もっとも重要な作業のひとつといえる。
とくに、一部分だけを確認するテストではなく、最初から最後まで通して遊ぶ通しプレイは必須だ。
この通しプレイを怠ったせいで、後半のゲームバランスが大変なことになってしまったゲームだって存在する。
できることなら、自分だけではなく、他人にも遊んでもらったほうがいい。
作った本人では気づけないことが、どうしてもあるからだ。
私の場合も、同好の士に頼んでプレイしてもらい、バグ潰しだけでなく、ゲームバランスやシナリオの修正まで行った。
さすがに……さすがに、こいつもテストプレイくらいはしていると思いたいのだが——。
「テストプレイはやりましたよ。テスターも募集しました」
「……テスターも?」
「はい」
テスターまで募集したのか。
そこまでちゃんとしていたとは、少し意外だった。
……いや。待て。
テスターに遊んでもらって——これ?
「待て、テスターは何か言わなかったのか?」
「言いましたよ。先輩がさっき言ってたようなことについて、不満は出てましたね」
…………。
マジか。
マジなのか、こいつ。
「……なんで直さなかった?」
「レトロゲーとしてのバランスを守るなら、これでいくべきだと思ってたからですね」
なに言ってんだ、こいつ。
「なに言ってんだ、こいつ」
「口に出てますよ、先輩」
出てしまった。
いや、もういい。
これは出ても仕方ない。
それではテスターを募集した意味がないではないか。
そうか。
このゲームの一番の問題点は、ゲームの中にあったんじゃない。
——こいつの精神性にあったのだ。
「阿久津」
「はい」
「テスターって、何のために募集した?」
「ゲームの問題点を見つけてもらうためですけど」
「見つけてもらってるじゃないか」
「でも、僕の目指してる方向性とは——」
「じゃあ、なんのためのテスターだ」
「ゲームの問題点を見つけてもらうためって言いましたよね?」
「言ったね」
「ほら、バグないですよね?」
「…………」
うん。
バグはなかった。
一切なかった。
そこは本当に尊敬に値する。
一人で作ったゲームで、私が遊んだ範囲では進行不能もなければ、表示がおかしくなることもない。戦闘がおかしな挙動をすることもなかった。
バグが原因で評価を落としているゲームではないのだ。
ちゃんと起動する。
ちゃんと進む。
ちゃんと遊べる。
遊べるクソゲーだ。
「阿久津。バグがないのは偉いよ」
「おっ」
「そこは本当に偉い」
「ですよね!」
「でも、バグがないクソゲーは普通に存在する」
「褒めてから刺すのやめてもらえません!?」
「事実だよ」
私はため息をついた。
「テスターの意見を全部聞けとは言わないよ。中には見当違いなことを言う人だっているし、全部取り入れていたら、君が作りたいゲームじゃなくなる」
「でしょう?」
「でもね」
そこで区切る。
「一人が言ったなら、好みかもしれない」
阿久津を見る。
「二人、三人、五人。同じ場所で何人も引っかかったなら、それはもうただの好みじゃない。作者が見るべきデータだよ」
「データ……」
「そう。少なくとも、一度立ち止まって見直すべき場所だ」
作者自身は、自分のゲームについて知りすぎている。
五日目に足切りがあることも知っている。
効率よく稼げる場所も知っている。
敵の弱点も知っている。
どこに何があるのかも、どの選択肢が正解なのかも知っている。
だからこそ、作者にはできないテストがある。
初めてそのゲームを遊ぶことだ。
「テスターは、君のゲームを褒めるためにいるんじゃない。君には見えないものを見てもらうためにいるんだよ」
「でも、俺が作りたいゲームと違ってたら?」
「それが原因で炎上してるんだろう?」
私は少しだけ声を落とした。
「作りたいものを曲げろとは言わないよ。でも、少なくともお金を取るなら、そこには真摯に向き合うべきだ。それがお金を取るっていう責任だよ」
「責任……」
「そう」
私が自分のゲームを有料で販売しなかったのも、結局はそこが怖かったからだ。
お金を受け取る以上、その作品に対して責任が生まれる。
面白くなかった。
期待していたものと違った。
払った金に見合わなかった。
そんな言葉を向けられたとき、それを受け止める覚悟が私にはなかった。
だから無料で配った。
作者の自己満足を優先したいなら、それこそ私みたいにフリーゲームにすればいい。
——いや。
それだって、本当は免罪符にはならない。
無料であろうと、ゲームを遊んでもらう以上、相手の時間を使わせることになる。
一時間遊んでもらえば、その人の人生を一時間もらったのと同じだ。
どんな創作であれ、人の時間を受け取っている。
そこは、作る側がちゃんと自覚しておくべきだと思う。
阿久津には、それが足りていない……というより。
たぶん、こいつは自分が何を作りたいかということばかり考えていて、それを受け取る側がどう感じるのかという視点が、丸ごと抜け落ちているのだ。
「とりあえず、最低限遊べるクソゲーに直すぞ。私も手伝う」
「いや、でも先輩の手を煩わせるわけには……」
「言っただろ?」
私は阿久津を見る。
「『二千円取ってるゲームを、このまま放置させるほうが寝覚めが悪い』って」
ここまで内情を知ってしまうと、もう他人事では済ませられない。
なんというか——このまま放置したら、犯罪に加担しているような気分になってくる。
見て見ぬふりはできなかった。
「まずは、いままで言ったところを全部直す。期限まわり、稼ぎ、回復、移動速度、ファストトラベル、イベントスキップ、チュートリアル。それから――」
「まだあるんすか?」
「あるよ」
「マジかぁ……」
「安心しろ。私も付き合うから」
「その言い方、全然安心できないんすけど」
こうして私は、後輩が作ったクソゲーを最低限遊べるクソゲーへと改修する——そんな地獄に、自ら足を踏み入れることになった。




