新手の拷問かなにか?
とりあえず、自分を落ち着けるためにも、ここまで言ってきたことを整理してみよう。
期限。
戦闘バランス。
稼ぎ。
回復リソース。
そして移動。
……うん。
並べてみると、ゲームの基礎部分がだいたい壊滅しているな。
「阿久津」
「なんすか?」
「よくこれ二千円で売ろうと思ったね」
「整理した途端に一番ひどいこと言いません!?」
仕方ないだろう。
私だって、こうして改めて並べるまでは気づかなかったのだ。
なんというか……クソな部分が多すぎて、一つひとつを個別の問題として認識していた。
だがこうして並べてみると、期限に追われながら、消耗の激しい戦闘を繰り返し、ろくに稼げず、回復もできず、そのうえ鈍足で広いマップを歩かされるゲームである。
字面だけでもつらい。
だが——まだある。
恐ろしいことに、まだあるのだ。
「いや、まずさ。あれ、これ言ったっけ……? オープニングとチュートリアル、長すぎないかい? 自由行動が売りのゲームだよね?」
「そこは没入感を得てもらおうかと思いまして!」
没入感……そうか。
没入感かぁ……。
オープニングでは、主人公がどうして魔法学園を追い出され、外で単位を稼ぐことになったのかが描かれている。
そこ自体はいい。
物語の導入なのだから、必要な説明だってあるだろう。
問題は——長いのだ。
とにかくテキストが長い。
しかも、スキップできない。
有志が無料で配布しているプラグインをひとつ導入すれば、テキストスキップくらい簡単に実装できるというのに……。
加えて、演出である。
オープニングイベントではキャラクターたちが画面内を歩き回る。
いや、オープニングだけではない。
このゲーム、イベント全般でキャラクターがやたらと動くのだ。
そして、先ほど移動速度の話をしたので、もうおわかりだろう。
遅い。
イベント中であろうと、キャラクターの歩みは牛歩のごとし。
恐ろしく遅く、目的地まで、のんびり歩いていく。
当然、その間こちらの操作は受け付けない。
プレイヤーにできることといえば、黙ってその様子を眺めるか、その間にスマホでソシャゲのデイリークエストでも消化するくらいのものだ。
これで没入感と言われても困る。
私はもう別のゲームを遊んでいる。
さらに、何かするたびにエフェクトやアニメーションが入る。
ひとつひとつは数秒でも、それが積み重なることで、あらゆる場面のテンポを確実に殺していた。
没入感?
虚無のような映画を延々と見せられている気分だった。
没入感以前に、これは精神修行か何かなのではないだろうか。
そして、チュートリアルにも問題がある。
普通、戦闘のチュートリアルなら『攻撃してみましょう』と言われて、一度攻撃する。
『次は魔法を使ってみましょう』と言われ、魔法を使う。
そんな具合に、ひとつずつ操作を覚えていくものだろう。
だが、このゲームは違う。
『まずは攻撃してみましょう』
言われるがまま、攻撃する。
そして——そのまま敵が死ぬまで通常攻撃を続けさせられる。
だいたい7ターンくらいかかった。
「通常攻撃の使い方をしっかり覚えてもらおうかと」
「一回殴ればわかるよ!」
「でも、それだと通常攻撃だけでも敵を倒せるってことが——」
「そんなことまで証明させなくていいんだよ!」
ようやく敵を倒したかと思えば、次は魔法。
その次は必殺技。
さらに別のシステム。
ひとつ説明するたびに、それを実際の戦闘で延々と試させられる。
そのうえ、戦闘中にも説明口調の会話が挟まる。
テンポは遅い。
スキップもできない。
プレイヤーはもう理解しているのに、ゲーム側がいつまでも先へ進ませてくれない。
「いいか、阿久津。チュートリアルっていうのは、プレイヤーが理解したかを確認する場所であって、理解したことを長い時間をかけて証明させる場所じゃないんだよ」
「そこまで嫌でした?」
「嫌だったよ」
ここまでなら、まだよかった。
いや——よくはない。
だが、このゲームには、それらすべてを致命傷に変える仕様が存在する。
最大の問題点。
ゲームオーバーになったら——最初からである。
オープニングスキップはできない。
「…………」
私は黙った。
「阿久津」
「はい?」
「君、プレイヤーになにか恨みある?」
「あるわけないじゃないですか。でも、これはレトロゲーとしては必要な要素で――」
「必要じゃない」
「即答!?」
「さっきから何度も言ってるだろ。レトロゲーって言葉を、不便な仕様を正当化する免罪符にするな」
ゲームオーバーになったら最初から……そういうゲームが昔に存在していたこと自体は否定しない。
セーブという仕組みそのものがなかったり、パスワード方式だったり、そもそもゲーム一本のボリュームが今とはまるで違っていた時代もある。
だが——。
「三十分のオープニングと長いチュートリアルを用意して、何度もゲームオーバーになる高難易度にして、そのうえゲームオーバーになったら全部やり直し。しかもスキップ不可」
指を折りながら、ひとつずつ数えていく。
「これ、全部同時に入れる必要ある?」
「……レトロ感を出すために——」
「レトロゲームに謝れ」
「なんか先輩、俺よりこのゲーム直す気になってません?」
「二千円取ってるゲームを、このまま放置させるほうが寝覚めが悪い」
そう——こいつは、このクソゲーで金を取っているのである。
ならば、二千円を支払ってしまった哀れなユーザーたちに対して、せめてちゃんと遊べるゲームとして再開発するくらいの責任はあるだろう。
私だって、ここまで遊んでしまった以上、途中で放り出すのはなんだか腹立たしい。
どうせなら、まともなゲームになるところまで見届けてやりたい。
——と。
そこで、ふと気づいた。
いや、待てよ?
そもそも、これだけわかりやすい問題が山ほどあるのに、どうして発売まで誰も止めなかった?
少なくとも、最初から最後まで一度遊べば、いくつかは気づくはずだ。
私は嫌な予感を覚えながら、阿久津を見る。
「……なぁ、お前」
「はい?」
「これ、テストプレイはしたのか?」




