移動速度でストレスがマッハ
「次はそう、単純なことなんだけど……キャラが歩くの遅すぎない?」
戦闘以外ですぐに思いつく問題点——それは、移動だった。
RPGにおいて、移動速度というのは案外馬鹿にできない。
極端に遅くなければ、それだけで致命的というわけではない。だが、マップの広さや移動する頻度によって、適切な速度というものは変わってくる。
なんせ、フィールドを自分の足で歩き回るタイプのRPGである以上、移動によるストレスとは常に付き合うことになるのだ。
最近のゲームでは、その負担を減らすためにファストトラベルが用意されていることも多い。
阿久津のゲームにも、一応それはあった……一応。
問題は、ファストトラベルを使える場所が限られていること。
そして、移動できる行き先そのものが少ないこと。
そのうえ——。
「なんで、こんなに歩くの遅いの?」
「そんな遅いっすか?」
「遅いよ」
なぜか知らないが、このゲームの主人公は歩くのが妙に遅い。
画面を眺めながら、私はふと昔遊んだゲームを思い出した。
『がんばれゴエモン外伝 きえた黄金キセル』
まさか令和のゲームを遊んでいて、移動速度の比較対象としてファミコン時代のRPGが頭に浮かぶとは思わなかった。
いまは令和だぞ。
しかも、マップがそこそこ広い。
そのため、ただ目的地へ向かって歩いているだけで、じわじわと時間を奪われていく。
そして、このゲームは徒歩によるランダムエンカウント方式だ。
つまり、先ほど話した敵の厳選をしようとすると、遅い足で歩き回ってエンカウントを繰り返し、面倒な敵が出るたびにロードすることになる。
そのたびに、またのろのろと歩き直しだ。
当然、イライラは加速する。
「移動速度が遅いゲームが全部悪いとは言わないよ。狭いマップなら気にならないこともあるし、ゆっくり景色を見せたいゲームなら、それが演出になることだってある」
「ですよね」
「でも君のゲーム、広いマップを何度も往復させるだろ」
「はい」
「じゃあ速くしろ」
「身も蓋もないっすね! でも、ちゃんと救済措置はありますよ!」
「聞こうじゃないか」
「ラスボスを倒したあとの隠しダンジョン、その報酬でダッシュできるようになります!」
「待て」
私は眉間を押さえた。
「まず、ラスボスなんているのか、このゲーム」
「いますよ?」
「しかも隠しダンジョン?」
「ありますね」
「その報酬でダッシュ?」
「はい!」
私は、すーっと息を吸った。
「もうダッシュいらない時期だろ、それは!」
叫んだ。
「いいか? 移動速度っていうのは、常に付きまとうストレス要因なんだ。なんならクリアするまで、ずっと付き合わされるストレス要因なんだよ」
私は阿久津を指さした。
「なのに、クリア後にダッシュ解禁って……お前、それはもう移動そのものがいらない時期なんだよ!」
「いや、でも隠しダンジョンが——」
「ダッシュはもういらないんだよ!」
思わず机を叩く。
「その時点でプレイヤーに残されてることなんて、『このクソゲーが!!』って叫びながら、ゲームをゴミ箱に放り込むことくらいなんだよ!」
「そこまで!?」
「いらない報酬をつけるな! 最初からダッシュを実装しろ!」
世の中には、三回ゴミ箱に放り込んでからが本番——なんて言われる名作だって存在する。
だが、残念ながらこのゲームには、今のところそこまで付き合うだけの価値を見いだせない。
クリアまで辿り着いたプレイヤーに残された最後のタスク。
それは、ゲームをゴミ箱へ放り込むことだけなのだ。
「帰ったら即、ダッシュ機能を解禁しろ! 最初から高速で移動できるようにしろ!」
私は勢いのまま指を折る。
「あと、ファストトラベルをワープポイントからしか使えない仕様もやめろ! 移動先も増やせ! とにかく移動そのものにストレスを課すな!」
「すげぇ言ってきますね……そんなにっすか?」
「致命的だから突っ込んでるんだよ!」
くそ……怒りが隠しきれない。
いや、隠す必要があるのかどうかも、もうわからない。
だが、まだだ。
こんなものでは終わらない。
まだまだ言いたいことはあるのだ。




