稼ぎを制限しすぎるな
「次にだけど……稼ぎをもっと容認しろ」
「どういうことです?」
このゲームの問題点として挙げられるのが、稼ぎを要求するゲームであるにもかかわらず、その稼ぎ自体が妙に困難なことだ。
まず、モンスターとの戦闘による消耗が激しい。
これはいい。
敵と戦えば傷つくし、魔法を使えば魔力を消耗する。限られたリソースをどう使うか考えさせるのは、ゲームとして普通のことだ。
問題は、そのリソースを回復する手段が極端に少ないことだった。
回復魔法は消費が大きく、回復系のスキルにも使用回数の制限がある。
そのうえ、回復アイテムはほとんど手に入らない。
では、どうやって回復するのか?
答えは簡単。
家に帰って寝る。
眠れば体力も魔力も全回復する。
実にわかりやすい。
ただし——寝ると一日が経過する。
そう……あの五日目の足切りに、一歩近づく。
「レベルを上げようとすると戦闘しないといけない。でも、戦闘すると回復のために寝る必要が出てくる。寝ると日数が進む」
「そういうリソース管理を楽しんでもらおうかなと」
「そこだけ聞くと、まともなゲームっぽいんだけどね」
実際に遊ぶと、そうはいかない。
まともにレベル上げをしようとすれば、回復のために何度も日数を消費することになる。
そして、のんびりレベルを上げていると五日目の足切りに引っかかる。
ならば、どうするか。
私は考えた。
そして辿り着いた——このゲームにおける効率的かつ狂気じみたレベル上げ方法に。
まず、エンカウントする直前にセーブする。
敵と遭遇する。
こちらのリソース消費が大きくなりそうな敵だった場合、リセット。
そしてロードして再戦。
これを繰り返して、できるだけ少ない消耗で倒せる敵が出るまで粘る。
それを延々と繰り返す。
正直、ぶん投げてやろうかと思ったが——曲がりなりにも後輩が作ったものということで頑張ったのだ。褒めてほしい。
「…………」
「工夫してますね、先輩」
「これを工夫と呼んでいいのか、私はいま真剣に悩んでるよ」
もちろん、私だって最初からそんな遊び方をしたかったわけではない。
戦闘が駄目なら、戦闘をしない方法で稼げばいい。
そう考えて、街の中を調べてみた。
冒険者ギルドの依頼。
住民からの頼みごと。
採集。
配達。
ほかにも、それなりの数の仕事が用意されている。
ならば、戦わずにそれらをこなして単位を稼げばいい。
——そう思った。
だが、甘かった。
ギルドの依頼には、一定以上のレベルが求められる。
住民からの頼みごとでも、素材を持ってきてほしいと言われる。
そして、その素材はモンスターがいる場所に落ちている。
あるいは、モンスターそのものが落とす。
結局、戦わなければならない。
戦いからは逃げられない。
「逃げ道を用意したように見せかけて、全部戦闘に戻ってくるのやめてくれない?」
「RPGなんで」
「RPGだからって、何でも戦わせればいいわけじゃないんだよ」
戦闘のたびにセーブして、出てくる敵を確認。
面倒な敵ならリセット。
ロードして、都合のいい敵が出るまでやり直す。
そんな遊び方を前提にしたレトロRPGなんて、さすがに私は聞いたことがない。
……いや、あるのか?
世の中は広い。
私が知らないだけで、どこかには存在するのかもしれない。
……できれば存在していてほしくないが。
「でも、昔のレトロゲーって、こんな感じでしたよね?」
「期限がないから全然別物だよ」
そう……昔のゲームにも、敵が強くて簡単には勝てないものはあった。
そのためにレベル上げが必要だったり、装備を整えたり、戦い方を工夫したりすることを求められるゲームも珍しくない。
だが、基本的に期限はない。
負けそうになったら街へ戻る。
回復して、また戦う。
何度もそれを繰り返しながら少しずつ経験値を稼ぎ、レベルを上げ、装備を整え、昨日まで勝てなかった敵に勝てるようになる。
そういう積み重ねができる。
このゲームには、それがない。
「加えて——敵の落とすお金が少なすぎる」
「そこもっすか?」
「そこもだよ」
敵を倒したときに得られる報酬が、恐ろしく少ない。
雑魚敵を一体倒して、1G。
少しマシな敵でも、2G。
対して、次の段階の装備を買おうとすれば500G以上必要になる。
単純計算してみよう。
一戦2Gとしても、250回勝利しなければ500Gには届かない。
もちろん、実際にはもっと少ない金額しか落とさない敵もいるので、必要な戦闘回数はさらに増える。
だが、そこまで戦い続けることはできない。
戦えば体力も魔力も減る。
回復リソースは少ない。
全回復するには寝る必要がある。
寝れば一日が経過する。
そして——足切りが近づいてくる。
うん、本当にこの足切りが邪魔だな。
「敵が強いこと自体はいいんだよ」
「ですよね?」
「稼ぎが必要なのもいい」
「ですよね?」
「回復手段が限られてるゲームだってある。期限付きのゲームだってある。敵がお金をあまり落とさないゲームだって、それ単体なら別に成立する」
「じゃあ問題ないじゃないっすか」
「全部同時に入れるな」
「えぇ……」
要するに——すべての仕様が、すべての逃げ道を潰しているのだ。
敵が強いなら、レベルを上げたい。
だが、レベルを上げるために戦えば消耗する。
消耗したなら、回復したい。
だが、回復するために寝れば日数が進む。
ならば装備を整えて、一戦あたりの消耗を減らしたい。
だが、装備を買うためには大量の金が必要になる。
金を稼ぐためには、大量に戦わなければならない。
だが、大量に戦えば——また消耗する。
そして、そのすべてを悠長にやっていると……五日目。
『様子を見に来ましたが……これはもうダメなようですね』
先生がやってくる。
最悪のコンボである。
「というか、阿久津」
「はい?」
「君、プレイヤーが強くなるの嫌いなの?」
「そんなことないっすよ!?」
阿久津は慌てて首を振った。
「むしろ、この厳しい戦いを乗り越えて、どんどん上を目指してほしいというか……成長していく楽しさを味わってほしくて」
「じゃあ、稼ぎをもっと容認する作りにしろ」
「うっ」
「強くなってほしいのに、強くなるための行動を全部邪魔してどうするんだよ」
この程度で凹まれては困る。
なにしろ、まだまだ言いたいことは山ほどあるのだ。
私はひとまず深呼吸をした。
そして、次のクレーム——いや、直すべき部分へのツッコミを続けるため思い出す。
昨夜、私を苦しめたあのゲームを。
あの地獄のようなクソゲーを。
私はもう一度、怒りを……いや言うべきことを記憶の底から掘り起こすことにした。




