プレイヤーを騙すな
阿久津の作ったゲーム。
それは、魔法学園を退学させられそうになっている主人公が、学校側から与えられた最後の猶予――三十日間を街で過ごし、そのあいだに成果を上げることで、卒業に必要な単位を獲得していくというものだった。
……どこかで見たことがあるストーリーだな。
まあ、それはいい。
なんかエッチなゲームだったので、たぶんそのあたりで相殺されている。
……いや、相殺されていないから炎上しているのだが。
「異性の先輩にセクハラじみたゲームを送りつけてきた件については、まあいいよ。別に」
「そこはいいんすか?」
「それより、まずこの期限についてだ」
三十日。
ゲーム開始時、プレイヤーにはそう伝えられる。
三十日のあいだに街で仕事をしたり、依頼をこなしたり、人と交流したりしながら、必要な単位を稼ぐ。
要するに、その限られた時間をどう使うか考えることが、このゲームの肝なのだろう。
「期限を付けないと、永遠に稼がれてヌルゲーになりますからね」
「もうその考え方から少し怪しいんだが……まあ、それは後でいい」
私は一度、息を吸った。
「予告なしの足切りをするな」
「足切り?」
「五日目だよ」
そう。
ゲーム内では、プレイヤーに三十日間の猶予があると説明される。
だから当然、プレイヤーは三十日という期間をどう使うか考える。
最初の数日は街を見て回ってもいい。
効率のいい仕事を探してもいい。
住民と交流してイベントを起こしてもいい。
そうやって、自分なりの攻略方法を探していくゲームなのだと思っていた。
——五日目までは。
『様子を見に来ましたが……これはもうダメなようですね』
突然、学園からやってきた教師にそう言われた。
そして、そのままゲームオーバーになった。
私はしばらく画面を見つめた。
意味がわからなかった。
「なんで五日目でゲームオーバーになるんだ?」
「その時点で一定以上の単位を稼いでないと、もう間に合わない判定になるんですよ」
「それをプレイヤーに伝えたか?」
「いや?」
「なんで?」
「だって、それを自分で見つけるのもゲームじゃないですか」
「……」
マジかこいつ。
「いいか?三十日間あります、と言われたら、プレイヤーは三十日間使えると思うんだよ」
「いや、三十日ちゃんと使えますよ?」
「五日目で殺してるだろ」
「一定の成果を出してれば、そのまま続けられます」
「その一定の成果とやらを先に言え」
しかも、このゲーム。
チュートリアルを含めて、オープニングだけで三十分ほどある。
セーブデータを分けていなければ、そこからやり直しだ。
だが、本当に恐ろしいのはそこではない。
このゲームにはオートセーブが搭載されている。
親切だと思うだろう?
私もそう思った。
だからこそ、罠になる。
オートセーブがあることに安心して手動セーブを作っていなかった場合、五日目の足切り直前のデータしか残っていない。
そこから何度やり直しても、必要な単位には届かない。
つまり、詰みである。
残された選択肢はひとつ。
ニューゲーム。
三十分のオープニングから、もう一度。
……なんの精神修行だろうか、これは。
「『期間内に一定の成果がなければ、途中でゲームオーバーになります』って条件を、ゲームの中で一度も告げてない。それはプレイヤーに対する裏切り行為だよ」
「そこまで言うんすか」
「言うよ」
私は即答した。
「プレイヤーに対して適当に作ることと、レトロゲー特有の空気っていうのは、イコールじゃないんだ」
「でも、昔のゲームって説明不足だったり、理不尽だったりしたじゃないっすか」
「それはそうだよ。でもね」
私は指を一本立てる。
「昔のゲームだって、プレイヤーにどう遊んでほしいのか。その部分については真摯だったと思うよ」
もちろん、すべてのゲームがそうだったとは言わない。
昔だってクソゲーはあった。
というか、たぶん今よりたくさんあった。
ただ、昔のゲームがいま遊ぶと不親切に感じる理由には、それなりの事情がある。
「例えば容量の問題だ。昔は容量の制約で、必要な説明をゲームの中に入れられなかったり、シナリオを全部収録できなかったり、そもそも入れたいデータそのものが入らなかったりしただろう」
「まあ、それはありそうっすね」
「でも、それで終わりじゃない。ゲームの中に入れられないなら説明書に書く。別の見せ方を考える。限られた容量の中で工夫する。制約があるなりに、どうにかプレイヤーへ伝えようとはしていたはずだ」
技術も違う。
蓄積されたノウハウも違う。
いまなら当たり前になっているチュートリアルの作り方や、プレイヤーを自然に誘導する方法だって、最初から完成されていたわけではない。
「だから、昔のゲームにはできていなかったことも多い。それは仕方ないと思うよ」
「じゃあ、俺のも——」
「君は現代に生きてるだろ」
「はい」
「しかも容量余ってるだろ」
「めっちゃ余ってますね」
「じゃあ説明しろ」
「はい」
素直でよろしい。
「『昔のゲームは不親切だった』って部分だけ切り取って、不親切であること自体をゲーム性みたいに扱うのは違うんだよ。昔のゲームを参考にするなら、不便だったところじゃなくて、その制約の中でどう面白くしようとしていたのかを参考にしなさい」
「……なるほど」
「少なくとも五日目に突然先生がやってきて、『もうダメですね』で人生を終わらせるのはレトロゲームの味じゃない」
「人生は終わってないっす。退学するだけです」
「三十分のオープニングを、もう一度最初から見せられる私のゲーム人生は、一度そこで終わったよ」
実際、あの瞬間の私はキーボードを机に叩きつけた。
その拍子にCtrlキーがひとつ飛んでいったので、相当イライラしていたのだと思う。
おにぎりの罠を踏んで、おにぎりになった直後に敵の炎を食らい、そのまま焼きおにぎりにされて風来ライフを終了させられたときですら、ここまではキレなかった。
……いや。
あのときもコントローラーを投げたな。
じゃあ、同じくらいかもしれない。
「ともかく——説明していないルールで、プレイヤーを殺すな」




