こいつクソゲーを売っていやがった
「先輩、ゲームを作ってみたんですけど……」
部室の中で、後輩――阿久津練がそんなことを言い出した。
「ゲーム?」
私は眼鏡の位置を整えながら、スマホを机の上に置いた。
画面の中では、モンスターに取り囲まれた風来人が立ち尽くしている。
少しばかり長考が必要な場面だったので、気分転換にはちょうどいい。
「はい。趣味でゲームを作ってまして。で、公開したんですけど」
「完成させたのか。しかも公開までしたって、すごいね」
「いや、それがめっちゃ炎上してまして」
……炎上?
何をしでかしたんだ、こいつ。
「炎上って、何をしたらそうなるの?」
「いやですね。僕は昔ながらのレトロゲーみたいなプレイ感というか、難易度を目指したんですよ」
「ああ、そういうジャンルは最近あるね。昔ながらの歯ごたえがいい、みたいな」
「なんですけど、その難易度が原因で炎上してるみたいで……キッズが多いなって感じなんですけど、ちょっと殴られすぎて精神的にきてまして」
「うん」
「なので、先輩に遊んでもらって、賞賛の声をいただきたいなと」
「すごいね、君。私が賞賛することが前提なんだ」
「いや、先輩はほら、死ぬとレベル1からやり直し、みたいなゲーム好きじゃないですか」
「不思議なダンジョンは好きだけどね。でも、それは君が考えてるようなものじゃないと思うんだけど……」
「でも、レトロなRPGも好きですよね?」
「まあね。ああいったゲームからしか得られない栄養素があるからね」
それは間違いない。
不便だったり、説明不足だったり、いまとなっては到底採用されないようなシステムが平然と搭載されていたりする。
それでも、あの時代のゲームには、あの時代のゲームでしか摂取できない何かがあるのだ。
「……これ、サイトからダウンロードすればいいのかな?」
「うす。URLは送っておくのでお願いします」
「わかった」
今夜は神髄のTAをしようと思っていたのだが——まあ、いいだろう。
後輩がわざわざ作ったゲームだ。
少しくらい付き合ってやるか。
◇
「ぶち殺すぞ」
「先輩!?」
私は今日、非常に荒れていた。
理由はシンプル。
クソゲーをやらされたからだ。
知り合いが作ったものとはいえ、さすがに限界というものがある。
「え、なんで怒ってるんですか? 先輩、好きですよね? こういうの」
「高難易度な骨太RPGは好きだが、理不尽は大嫌いだよ。全部言っていこうか。悪かったところ」
「えぇ……でも、それは先輩の感想ですよね?」
「炎上してるんだから、私だけの意見ではないだろ」
というか。
「そもそもこれ、プラットフォームで……二千円で売ってるじゃないか」
「はい」
「はい、じゃないよ」
そう。
阿久津が送ってきたものは、有料ゲーム販売サイトの商品ページだった。
私に送られてきたのは、無償でダウンロードできるギフト版だ。
つまり私は一円も払っていない。
それでもこの有様なのだから、二千円を払ってこれを買わされた人間の怒りは、私の比ではないだろう。
「いいから聞きなさい。理不尽なゲームと、高難易度なゲームの違いを教えてあげるから」
「でも先輩、ゲーム作ったことないですよね?」
「…………」
そう言われて、私はブラウザを開いた。
ブックマークしてあるページを呼び出し、スマホの画面を阿久津へ向ける。
「フリーゲームのサイトっすか?」
「うん」
「……え」
阿久津が画面を覗き込む。
「……うお、ダウンロード数が二万!? しかも評価高くないっすか?」
「そうだね」
「『高難度レトロゲームのような歯ごたえ』……」
そこまで読み上げてから、阿久津が顔を上げた。
「え、俺と同じ土俵?」
「お金は取ってないから、その分評価は甘いと思うけどね。自分用に作ったゲームを配布しているよ、私は」
私の場合、有料で販売するのが怖かっただけだ。
金銭を受け取るということは、責任が発生するということでもある。
面白くなかった。
期待していたものとは違った。
金を返してほしい。
そんな言葉を向けられたとき、それを受け止める覚悟が私にはなかった。
だから、自分で作ったゲームは無料で配布している。
そういう意味では、阿久津はすごいと思う。
自分の作ったゲームに二千円という値段をつけて、それを世の中へ送り出したのだから。
私にはできなかったことだ。
まあ。
考えなしなだけかもしれないが。
「それじゃあ、君のゲームのクソな点を挙げていこうか」




