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海上風波観測衛星「かざなみ」
ぼくは海の風しか 知らない
海以外は余白で
そこに何があっても
ぼくの視界には入ってこない
ぼくに見えるのは
マイクロ波の示す
鱗の輝きのような
風の向きと
速さだけ
それらは升目ごとに
一つの矢印へと押し潰されて
データとして回収される
潮の匂いも
船の霧笛も
データとして挙がってくることは無い
静かな海の日は
データがほとんど挙がって来ず
通信ログだけが積み重なる
台風の季節になると
ぼくの視界は一気に逆巻く
長く伸びた矢印の群れが
ぼくの視界を走り抜けていく
ぼくが送れるのは
升目と
矢印だけ
それ以外の事を尋ねられても
ぼくには答えが無い
森も
街も
誰かの帰り道も
ただ「マスク領域」と呼ばれて
余白にしまわれている
ときどき思う
余白の中で
風はどうやって
行き先を見つけているのかと
けれど疑問は
ぼくの作業工程には無い
ぼくは海の風しか 知らない
ぼくは今日も
海の上のかすかな輝きを
矢印に変えて送り出す
あなたが見る世界地図には
色分けされた帯と
細い矢印の森だけが並ぶ
余白を残したまま
風だけでできた世界地図が描き直され
次の風に上書きされる
ぼくは海の風しか 知らない
架空の衛星。モデルはGCOM‑Wや海上風散乱計




