蒼獅子の騎士団長
「随分と甘っちょろいことをやっているんだな」
エルナが騎士団長ガルディスの部屋から出るとすぐに声をかけられる。
団長の執務室の入り口。そのすぐ横の壁に寄りかかるようにしていたのはエルナと同じ、部隊長のヴァルド・グレイアスという男だった。
「仮にも団長の執務室に聞き耳を立てている方がどうかと思うわ」
「お前らがコソコソと何かをしているを見てな。何をしているのかと思えば、ガキ1人の捜索に何を手こずっている」
ブルーリオン騎士団、蒼牙隊。と呼ばれる部隊を束ねるヴァルドを一言で表すなら手荒い、だろう。
蒼牙隊はブルーリオン騎士団の中でも指折りの武闘派集団であり、主に凶悪犯罪や盗賊団などの組織犯罪に対応する部隊になる。
必然的に戦いを生業とすることが多く、ブルーリオンの中でも非常に血の気が多く、好戦的な部隊と言えるだろう。
対してエルナ・リュミエールが率いる黎明隊は比較的若い騎士が多く配属されている育成部隊だ。
様々な仕事を広く熟すのが特徴的であり、最も人民に触れる機会の多い部隊の一つでもある。
ここで育成、教育された騎士達は後々に適正な部隊へと配属されて行く。
そんな割と対極的な部隊をそれぞれ率いる2人は、当然ながらあまり相性がよろしく無いと言えた。
「話を聞いているようで聞いていなかったようですね。この事件は貴方の想像よりも遥かに繊細な事件なんですよ」
「はっ、そうやって後手に回ってるからどんどん泥沼になっていくんだ。お前も、団長も、甘過ぎる。所詮、相手は犯罪者かそれに近い連中。力で捩じ伏せて、情報を吐かせた方がガキの確保だって速い」
「思考回路が単純な人は悩まなくて良いですね。それが出来れば苦労しないと、さっきから言っているんですよ?」
2人の間に目に見えない火花が散る。
確実に安全に牛歩と分かっていてもブルーリオン騎士団らしい解決を図るエルナと、犯罪者には遠慮は要らず多少は荒っぽくてもスピード解決こそが重要だという主張のヴァルド。
法と秩序を重んじるブルーリオン騎士団としてはエルナのやり方が大勢を占めるだろう。
このやり方の利点は多くの人々の支持を得やすいことや犯罪者が適切なルールに則って裁きを受けることにある。
欠点は解決に時間がかかることだ。場合によっては被害者に修復不可能な損害を与える可能性があるだろう。
対してヴァルドのやり方は荒っぽく、場合によってはルールから逸脱するやり方だ。
周囲からの反感を買いやすく、不和も生みやすいリスクのあるやり方だが、最大の当事者である被害者からすると最もスピード感のある解決策であったりもする。
確実な解決か、即日の解決か。
全を見るか、個を見るかという言い方も出来る。どちらにせよ一長一短であり、どちらの主張にも確かな正義が存在している。
「まずは事件の全容を把握する必要があります。全体が分かればウィークポイントを確実に詰められる。事態は混迷の中ですが、致命的な事件は未だ発生していませんから」
「まだ、なだけだろうが。ガキなんてすぐ死ぬんだ。探索者なんて犯罪を犯してねぇだけの危険な連中を野放しにしてるからこんなことになる」
「……貴方のその探索者嫌いにも理解に苦しみます。個人的な感情を仕事に持ち込むのは二流ですよ」
「事実だろ。あんなの荒くれ者の集団だ。金のためにならなんだって出来る連中を何故信用出来る?」
エルナとヴァルドの話は平行線。決して交わることのない主張はまるで同じ騎士団に所属しているとは思えないほどだ。
更にはヴァルドは根っからの探索者嫌いと来ている。
探索者は担当している職務が別の同業者という感覚を持っているエルナにとって、これもまたヴァルドと衝突する理由の一つであった。
何より、荒くれ者の集団はどっちか。蒼牙隊の荒っぽさに比べれば、探索者という職業の人々は優秀であればあるほど人が出来ている。
とエルナは憤慨しながらも、口にはしない。言うだけ無駄だからだ。
ヴァルドというのはそういう男だ。
犯罪を許さず、手段は選ばず、同業他社は毛嫌いする。
ヴァルドが探索者を嫌っている理由もエルナは一応知ってはいる。
それは同情に値するものであることも承知しているが、やはりそれを理由に探索者を犯罪者予備軍とするヴァルドの言い方には反論する。
それは、危険な考えだとエルナは認識していた。




