蒼獅子の騎士団長
「ヴァルド。貴方の考えや主張、やり方を無理に否定するつもりは私にはありません」
正義とは人それぞれだ。ブルーリオン騎士団という秩序を重視する騎士団ですら、誰もが同じ方向を向いているわけでは無いことを、人材育成に重きを置く部隊を率いているエルナは理解していた。
「ですが、誰も彼もを敵であるように扱うことは止めるべきです。同じ考えの味方は集まるかも知れませんが、敵はそれ以上に増えますよ」
「そりゃ良い。敵になる奴はいつかそうなる奴らだ。炙り出せるなら、炙り出せるだけ出せた方が効率良いだろ」
「そういう話では……」
ヴァルドはその典型的な例だった。エルナの全体の調和と秩序を重んじるやり方は、ヴァルドからすると煩わしく、遅い。
盗賊や殺人などの凶悪な犯罪を引き起こした相手なら、そのやり方でも良いかも知れない。だが、全てが全てそうではない。
世の中にはギリギリで踏みとどまっている人もいる。その人は潜在的にはいつか犯罪を引き起こすかも知れない。その可能性は他の人よりは高いだろう。
しかし、踏みとどまっているのだ。それはいけないことだと踏みとどまり、ギリギリで引き返している。
ギリギリで引き返しているのなら、踏みとどまれているのなら。それは良心や倫理観がしっかりとあるからだと言える。
それをわざわざ飛び越えさせる理由をこちらから作るような行為を自分達がしてはいけない。
エルナが言いたい事はそう言うことなのだが、残念ながらヴァルドの耳には届かない。
「温室育ちのお前にゃわからんだろうがな。人間なんてのは基本的にゴミクズだ。だから犯罪をどれだけ取り締まっても取り締まっても、この騎士団はちっとも暇にならない」
「……」
むしろ、ヴァルドの主張にエルナは黙るしかなかった。それもまた真実だからだ。
どれだけ犯罪を取り締まっても、ブルーリオン騎士団はずっと忙しいままだ。本当に人間が善の存在であるなら、犯罪を取り締まって行けばいずれ自分達は必要ではなくなる。
そうあるべきなのが、理想的であると言うのは分かっている。それでも、ブルーリオン騎士団が年に数えきれないほどの犯罪を取り締まってもなお、犯罪は起こり続ける。
人の悪意を止めるのは想像している以上に遥かに難しい。
「ゴミは捨てなきゃ減らねぇんだよ。溜め続けたらいずれゴミが世界を埋め尽くす。そうなる前に対処するのが俺達の役割だ」
「そのために、犯罪者扱いをしても良いと?」
「それが一番効率が良い。バカは金に靡くが、そんなバカでも恐怖の前には身が竦むんだからな」
ヴァルドのやり方はあまりにも強引だ。ただし、その暴力的なやり方にはヴァルドなりの正義が確かにある。
エルナはそれを強く否定することは出来なかった。ヴァルドが主張するそれはエルナも心のどこかで感じている事だからだ。
ブルーリオン騎士団という仕事は否が応でも人の悪意を目にする機会が多い。この悪意をどうにかするにはどうすれば良いのか、と考えるのも自分達の仕事の内。
その中でヴァルドのような考えが頭をよぎることはどうしたってあったエルナだが、それでも彼女は首を横に振って見せる。
「それでも、私は貴方のやり方には反対します。そのやり方はいずれどこかで破綻して、身を滅ぼしますよ」
「お互い様だろ。精々足元を掬われないこった」
物事はいつか破綻する。それは自然の摂理であることを2人は感覚的に理解しつつ、お互いの理屈の方が先に破綻すると忠告し合う。
ヴァルドには増えすぎた敵によって滅ぼされる可能性を、エルナには見逃した存在に裏切られ後ろから刺される可能性を。
「ちんたらやってろよ。その間に俺が解決してやるよ」
「……この件は私が預かっているものです。貴方の出る幕はありません」
「片手間で終わらせてやっても良いんだぜ? 忙しいお前には難しいかも知れねぇがな?」
言いたいことを大体言い終えたのか、ヴァルドは身を翻してその場を立ち去りながら、鼻で笑うようにしながらカイ・ベルゼルトの捜索についての介入をほのめかす。
それにはエルナも強い不快感を示すが、ヴァルドはそれすらも嘲笑ってその場を去っていくのであった。




