蒼獅子の騎士団長
ブルーリオン騎士団はそれを聞き、引き下がった。というより引き下がる他無かった。
加護持ちともなれば、有力な貴族や組織から引く手数多になることは容易に想像が出来た。
実在する伝説。『加護』のスキルを手元に置いておけることのその利用価値はあまりにも魅力的だからだ。
故にブルーリオン騎士団はカイをいち早く保護したかった。
無論、何の打算も無かったかと言われれば否だ。
創立時点で勇者が関わっていたとされるブルーリオン騎士団に再び『加護』のスキルを持った少年が加わる。
そうもなれば、騎士団の士気は上がり、その威光と勢いはセントラリア大陸全土の犯罪を萎縮させる効果があるだろう。
だが、それ以上にガルディスが心配したのは、カイの意思が汲まれないまま、貴族や組織が一方的に身内に引き摺り込み、自分達の権力を高めるための材料として使う可能性についてだった。
「ブルーリオンの騎士団長などと言っても所詮はコレだ」
貴族などは特に権力争いに余念が無い。自分達の一族がどれだけ高い地位に登り詰められるか。
どれだけ善意の顔を表に出していても、腹の底は基本的に血筋の安泰と繁栄。
その為には手段を選ばない貴族も少なくない。
ブルーリオン騎士団はそれを抑制し、過度に貴族が増長しないようにするための組織でもある。
だからこそ、新たに現れたという『加護』スキルを持つというカイという少年を保護したかったのだが。
あまりにもベルゼルト家の動きが早かった。
聞けば、たまたまソレイユの街に来ており、年頃となってスキルを診断しに来た少年が偶然にも加護持ちだった。
そしてその場で彼を養子に迎え入れることを提案したのだと言う。
提案、とは言うものの貴族から平民への提案なんてものは殆ど命令に近い。
カイの両親に実質の拒否権など、無いに等しかっただろう。
そして、ベルゼルト家という大貴族を相手にするにはいくらブルーリオン騎士団言えど、何の策も無しに突っかかることは難しかった。
無用なトラブルを避けるためにガルディスは加護持ちの少年の保護からは手を引く判断をして、この結果だ。
「とんだ笑い種だ。私自らが動いておきながら、止めるどころか見過ごしていたのだからな」
「……ですが団長。あの時はそうするのが最適解でした。無理にベルゼルト家にガサ入れをしようものなら、どのようなことになるか」
「そんな事、本来なら考えるまでもなくカイ少年を保護するべきだったのだよ。我々は法と秩序と守るブルーリオン騎士団。それが貴族の権力に屈し、防げたかも知れない事件を引きこさせたのなら、我々の存在意義などあって無いようなものだ」
団長自らにそう言われれば、部隊長であるエルナに口出し出来ることは何も無い。
押し黙ることしか出来ずにいると、報告を受けていた団長が座っていた椅子からスッと立ち上がった。
「カイ・ベルゼルトについての捜査は引き続き頼む。あらゆる方面から探り、少しでも情報を集めるのだ」
「はっ」
「私も同級生のよしみでギルドマスターに直談判しに行こう。……手酷く怒鳴り散らされるだろうがね」
止められなかった事件に、ブルーリオン騎士団はその威信を賭けて捜査にあたる。
そういうメッセージだと受け取ったエルナはビシりと敬礼をし、ガルディスからの指示を受ける。
ガルディスの方も自ら動き、ギルドマスターに直接話を聞きに行くようだ。
その結末自体は予想が出来ている様子で苦笑いを浮かべているが、現在、最もカイ・ベルゼルトの情報を握っているのは恐らくギルド。
そこから情報を引き出すのが、事件解決の最も早い近道であることは明白だ。
「では、失礼致します」
そうしてエルナは部屋から退出し、ガルディスも他の業務へと取り掛かる。
付きっきりとはいかないのが日々激務の中にあるブルーリオン騎士団の辛いところであった。




