蒼獅子の騎士団長
「まず大貴族とは言え、ベルゼルド卿が我々に捜査を依頼しないという時点で何か裏があると思っています」
「私も同感だ。宛名不明の手紙から始まった一件だったが、まさかここまできな臭い一件とは」
ブルーリオン騎士団がカイ・ベルゼルトを探す理由。それは数ヶ月前に届いた宛名不明の1通の手紙から始まった物だった。
飾り気の無い、むしろ既製品ではない。即席で作った封筒の中に入った布の切れ端。そこに短く書かれたたった一文。
【カイ・ベルゼルトを】
乱雑に、走り書きのような筆跡で書き記されたそれは、全てを書き切れずに投函された様子。
少なくともゆっくりと丁寧に書いているだけの時間や余裕は無かったのだとだけは読み取ることが出来る。
ブルーリオン騎士団には毎日のように数百件にも及ぶ依頼などの書簡や手紙が届く。
政府や貴族からの要請。民間人からの依頼。子供達からのファンレターもあれば、中には犯罪者達からの恨み辛みの籠ったメッセージや、イタズラの手紙も届く。
そんな毎日来る数百の手紙を振り分けるのがブルーリオン騎士団の新人達の仕事でもあったりするのだが、その手紙とも言えるか怪しい物はすんでのところでエルナの目に止まり、騎士団長のガルディスの下まで届いた。
という経緯があった。
イタズラ、或いはまだ字を覚えたての子供からの手紙として処理されそうだったそれをすんでのところで止めたエルナの行動はまさにファインプレーだったと言える。
この小さな違和感から発見された物を手掛かりにカイ・ベルゼルトという人物のことを調べて行くと、いくつもの不可解な点が浮かんで来たのだから。
「やはり、ギルド側も何か把握しているのでしょうか?」
「恐らくな。そしてこれが非常にナイーブな一件だという事もギルドは認識しているのだろう。セイル・ノクティスという探索者が何か事情を知っているのも含めて、な」
でなければ、セイル・ノクティスのことをギルドマスターが庇い立てする理由がない。
ガルディスはそう結論付ける。ただし、今ある情報ではコレが限界だった。
セイル・ノクティスが何のためにカイ・ベルゼルトを誘拐、あるいは連れ回しているのかも。
ベルゼルト家の幾つかの不審な動きも。
カイ・ベルゼルトの本来の両親の失踪も含めて、まだあまりにも情報が少ない。
そんな状況にガルディスは一見すると関係がありそうで無さそうな、曖昧なラインのこれらの事件は幾つかの思惑が交差した、かなりややこしく、そして大きな事件になることをこれまでの経験則で何となく予感していた。
「……我々が保護出来なかったのが、悔やまれるな」
「私達の下に『加護持ち』が現れた、という情報が入ったのは既にカイ少年がベルゼルト卿に引き取られた後でしたから」
「思えば、もしかするとそこから既に事件は始まっていたのかも知れん。だからこそ、悔やまれる」
実のところ、カイ・ベルゼルトが誘拐されたという情報を掴むよりもさらに前に一度だけ、カイと思われる『加護持ち』の子供がソレイユに現れた。
という情報をブルーリオン騎士団は得ていた。
『加護』というスキルは非常に強力で、過去に現れた加護と名の付いたスキルを保有した者達は歴史に名を連ねる者達ばかり。
殆どが勇者や賢者などと後世に伝えられている。それほど強力なスキルはアストリア王国もそうだが、この大陸全体の文化などにも深く根付いたものとなっている。
このブルーリオン騎士団もかつていた勇者が創立に関わっているとされ、勇者伝説。ひいては『加護持ち』と呼ばれる者達には切っても切れない縁があると言える。
そして加護持ちが実際に現れた。
その情報が入って来た時、騎士団長のガルディスは素早くその少年の保護をするべきだと判断し、ソレイユへと自ら向かったのだ。
しかし、既に加護持ちの少年の姿はソレイユには無かった。
大貴族ベルゼルト家に養子として引き取られて行ったと、カイの両親から直々に告げられたのだ




