蒼獅子の騎士団長
「先も言ったように彼女は道理を通す。つまり不必要にルールを破ることを嫌う人間だ。その彼女がこのような行動を取った、と言うことは」
「必要なことだと判断したから、ですか?」
ギルドマスターは不条理なこと、理不尽なこと、特に不義理に関しては人一倍厳しい。一見、破天荒で滅茶苦茶な人だが、その実態は最初にガルディスがクレバーと表現したように合理的で現実主義的な考えを持つ人である。
そんな人が、ブルーリオン騎士団との関係性を悪化させるようなことをしてまで、やると言うことはそれをした方が良い。する必要があったから、ということ。
「そうだ。恐らく、彼女は自分の持っている感覚に従って、セイル・ノクティスは守った方が良いと判断したのだろう」
「何故です? 仮にセイル・ノクティスが無実の罪を掛けられているのだとしても、それらはじっくりと調査をすれば……」
「守りたいのがセイル・ノクティスだけではない、としたら?」
「……?」
どういうことだ? とエルナ・リュミエールは首を傾げた。今はギルドマスターがセイル・ノクティスを庇い、守る必要がどうしてあるのか、という話をしている。
だと言うにそれだけではない可能性を示されても彼女の頭には?が浮かぶだけだ。
そもそもブルーリオン騎士団との関係を悪化させてまでセイル・ノクティスを庇う必要性についてもまだ見当が付いていないと言うのに。更にその先、というのはまだ彼女の経験則では読み切れない領域であった。
「セイル・ノクティスはカイ・ベルゼルトを誘拐した可能性がある。そうだろう?」
「えぇ。エスメラルダでの目撃情報からすると、そうなります」
「だとするなら、1つ妙な点がある。何故、彼は未だに身代金の要求をしていない?」
確かに、とエルナ・リュミエールは納得する。貴族の子供を攫う目的と言うのはほぼ確実に身代金目的だ。
貴族は裕福だ。庶民にとっては大金でも、貴族にとってははした金のような時はままある。
それで自分の子供を取り戻せるのなら、安い物。そう考える貴族もそれなりにいる。だからこそ、貴族の子供は狙われやすい傾向にある。
「彼は、何のためにカイ少年を」
「少なくともベルゼルド卿が私兵騎士を使って捜索を始めてから数か月は経過している。それでもなお、身代金の請求が無いと言うことは、彼には別の目的があるということになる」
「例えば?」
「そこまでは分からないさ」
ここまで来て梯子を外されて、エルナ・リュミエールはガクッと膝を折りそうになる。身代金以外の理由の可能性が高いとしたうえで、それ以上の理由は分からないと言われたらそれはそうなのだが。
「憶測では物は話さない、ですか」
「あぁ、ここから先は推理ではなくただの憶測になる。だからわからない」
確実な捜査を求められるブルーリオン騎士団において事実と情報に基づいて行われる推理と、ただの想像でしかない憶測には明確な線引きがある。
セイル・ノクティスには身代金以外の目的がある、というのは事実に基づいた推理だが、その理由については情報が一切ない。だから憶測だから話さない。
というのがガルディスの主張だ。それにはエルナ・リュミエールも理解を示す。彼女のまたブルーリオン騎士団の一員であるからだ。
「だが、セイル・ノクティスをギルド側が庇うということはギルド側もセイル・ノクティスの目的をある程度把握し、それに理解を示しているということだ」
「不義理を嫌うギルドマスターなら尚更、ですよね……」
「あぁ、だから私はセイル・ノクティスがカイ少年が誘拐した犯人とその被害者、という単純な形ではない可能性を考えている。それは、君も感じていることだろう?」
「それは、はい」
ブルーリオン騎士団、団長のガルディスと部隊長の1人であるエルナ。2人はそもそもとしてこの事件に違和感を覚えている2人でもあるのだ。




