蒼獅子の騎士団長
アストレア王国が治めるセントレア大陸。その北東に鎮座する大陸最高峰の山々『勇士の山脈』。
そこに拠点を構える『ブルーリオン騎士団』。その拠点の一室で騎士団長、ガルディス・レオグランは直属の部下の1人である部隊長。エルナ・リュミエールから報告を受けていた。
「カイ少年の決定的な情報は未だ上がらず、か」
「はい。申し訳ありません。どうにも、ギルド側が我々を煙に撒いている節もありまして、思うような協力も得られず」
「いや、彼女がギルドマスターである以上、こういう事態がいつか起こることは予見していた」
ブルーリオン騎士団はカイ・ベルゼルトをかなり本気で探していた。何せ、この捜査を指示しているのは何を隠そう騎士団長であるガルディスなのだから。
そのガルディスは思っている以上に難航しているカイ・ベルゼルトの捜索に陳謝するが、ガルディスはそれを咎めるどころか、仕方がないと納得すら示していた。
「その、かなりやり手と言いますか」
「私の学生時代の旧友だからと言って言葉を選ぶ必要は無い。彼女は昔からクレバーな人物でな。特に道理の通っていないことに関しては敏感かつ、不条理などに対しては鋭い嗅覚のようなモノを持っていた」
「嗅覚、ですか?」
「何と言うかな。我々は得た情報と事実で物事を捉え行動するが、彼女は全くの逆でね。自分が見て、受け取った感覚の中の僅かな違和感を逃さないのだ」
ギルドマスター、と呼ばれる人は昔から印象に残る人だったようだ。その教え子でもあるセイル・ノクティスを始め、ブルーリオン騎士団の団長にすら鮮烈なイメージを与える程には強烈な人物であることは彼の口ぶりから容易に想像がつく。
それをエルナ・リュミエールも苦笑い気味に顔を引き攣らせながら、団長の話を聞いていた。
「ははは、理解するのはそれを直接目にしないと中々理解するのは難しいだろう。例えばそうだな……。勘違いで悪者になってしまった同級生のその勘違いの部分に感覚だけで気付ける。そして、そのせいで誰かが要らない不幸を被ることを彼女は良しとしない」
「そんなことが……?」
「私達の感覚では無理だろう。証拠を積み重ね、慎重に事実を暴く我々のやり方とは根本的に違う。しかし、彼女はそれをほぼ確実に嗅ぎ取っていた。その嗅覚というか、第六感と言うべきかは、彼女の探索者としての功績にも如実に表れているのさ」
「……」
エルナ・リュミエールは感嘆の声を上げることすら出来ず。逆に息を呑んだ。通りで自分程度では全く敵わないと思わせられる相手だと、再認識する。
彼女はまさにそのギルドマスターにセイル・ノクティスとその関係者の情報の提出を求めたのだが、ギルドマスターの剣幕と迫力に完全に呑まれてしまい、尻尾を巻いて逃げ帰って来たのだから。
女傑。そう呼ぶに相応しい人であり、正直憧れる。そんなことをエルナ・リュミエールは内に秘めつつ、上司である騎士団長ガルディスの言葉を待つ。
「彼女は道理は通す人物だ。むしろ、道理の通らないことは大嫌いだ。本来なら、彼女は求められれば探索者の情報を必要なだけ開示するハズ」
「はい、ですので今回の対応には現場はざわついておりまして……」
ギルド側がブルーリオン騎士団の情報開示要請に応えない、なんてことは今まで無かった。お互い、管轄は違うが人々の生活を守る仕事をしている。
そう思っていた相手が急に手のひらを返して来た事にブルーリオン騎士団の団員の中には少しの動揺とギルドに対する猜疑感が出ているのもまた事実。
エルナ・リュミエールはこれを非常に良くないことと捉えており、どのように解決するか頭を悩ませている事でもあった。
「その件については私から団員たちに説明しよう」
「お手数をおかけします」
ギルドマスターの扱いについては自分は全く力になれない。そう悟ったエルナ・リュミエールは団長にそれを丸投げ、もとい管轄を移管する。
特にギルドに対する不信感を募らせている団員達には団長の言葉はよく効くだろう。秩序と規律に重きを置くブルーリオン騎士団の団員が独断で行動することはほぼ無いと言えるが、巨大な組織同士の軋轢は極力避けるべき事柄。
自分の手には負えない、というのが彼女の率直な感想だっただけにこの決定には安堵する。
「むしろ。彼女が情報を開示しないという方針を取ったことに私は注目している」
「……と、言いますと?」
ガルディスの言葉の意図を汲み取れ切れなかったエルナは素直に聞き返し、ガルディスの答えを待つ。




