交易の街 ワインヒル
『ブルーリオン騎士団』。以前、ソレイユの街で出会った『監視調査課』の課長、ガルド・ベイレンにそれとなく忠告されていた相手だ。
アストレア王国の治安と秩序を守る騎士団で、国の直轄機関じゃないことが最大の特徴だな。
大抵、こういう騎士団ってのは国が管理してるもんだ。何せ、犯罪の捜査や犯人の追跡、逮捕をする組織だからな。普通はそうなる。
だが、アストレア王国はかつて幾人か実在した勇者という存在が国の成り立ちや歴史に深く関わっている。
この『ブルーリオン騎士団』はその勇者に直接影響を受けた騎士団だ。国が組織を作ったんじゃなく、勇者という存在によって自然に形成された自警団、という認識が正しいだろう。
そんな法と秩序を重んじる『ブルーリオン騎士団』の紋章が記された書類が俺達の手元にある理由とは、ってワケだ。
「ブルーリオン騎士団も、オリエンスでカイさんについて調査しています」
「ベルゼルト卿からの依頼か?」
真っ先に浮かぶのはベルゼルト卿が業を煮やして『ブルーリオン騎士団』に依頼を出した、というケースだ。
事情を知らなければ、自分が養子にとった子供が行方不明になった貴族からの捜索依頼だ。リスクはあるとは言え、見つからないことに我慢が効かなくなったと考えればこういう手段は考えられる。
「いえ、行方不明になった貴族の養子の捜索という名目での捜査のようです」
この書類をどういう手段で手に入れたのかは俺はわからんが騎士団がカイ・ベルゼルドを探している、っていうのは明言されている。
名門貴族の屋敷から消えた八歳の養子。セイル・ノクティスという探索者に連れ去られた可能性がある。
それを騎士団が把握している。そういう内容だ。
「完全に誘拐犯扱いじゃねぇか」
「立場上はそうなるでしょうね」
リリアに言われて書類をテーブルに投げて、座っているソファーの背もたれに寄りかかってから天井を見上げる。
かー、とうとう『ブルーリオン騎士団』からも追われる立場かよ。
ベルゼルト卿。天律聖教。ブルーリオン騎士団。どれもこれも厄介な連中から追われているとなるともはや八方塞がり感も強い。
というか、これから逃げ切れるヤツいんのかよ。いや、まぁ、やるけどよ。
逃げる気は毛頭ない。ここにいる奴らはそういう思いでここに集まってるわけだしな。一筋縄ではいかない厄介なメンツが揃っている自信はあるぜ。
「その点ですが、少し気になる点があります」
「ん? その点って?」
「『ブルーリオン騎士団』の捜査の矛先、とでも言いましょうか。そこが私の予想とは少しズレた方向と言いますか、そもそもこの捜査はベルゼルト卿の依頼では無いようなのです」
「おん?」
どういうこった? 『ブルーリオン騎士団』はベルゼルト卿の依頼で動いているもんだと思っていたが、どうにもそうじゃないらしい。
じゃあ、誰の依頼だ?
「別に私はさっきのセイルさんの発言を肯定してませんよ?」
そう言えば、確かに。俺がベルゼルト卿からの依頼で動いているのか? という質問にミリアさんはイエスとは言ってないな。完全に俺の勘違いだ。そうだって思い込みだな。
いや、だがそうなるとやっぱり誰からの依頼だ。って話になる。ベルゼルト卿じゃないなら、一体誰がカイを探している? まさか、両親か?
「残念ながらそうではありません」
「ちょっと前のめりじゃない? ちょっとお茶飲んで落ち着きなさい」
「……だな。いや、悪かった」
あれこれ思考が走るが、それを2人に諫められる。そうだよな。俺が焦ってどうすんだ。不安なのはカイの方だってのによ。
カイの両親が行方不明になって、俺の方が浮足だっちゃ本末転倒だ。俺こそ、常に冷静でいねぇとな。
茶を飲み、横で大人しくしているカイの頭をポンポンと撫でてから息を吐いて気分をリセットする。
それを見て、ミリアさんは更に話をつづけた。




