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便利屋セイルは女神にならない ~使うほど身体が侵食される女神変身スキルで、訳あり少年を守る話~  作者: 伊崎詩音
交易の街 ワインヒル

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交易の街 ワインヒル


「この捜査は『ブルーリオン騎士団』が自発的に始めたもののようなんです」


つまりベルゼルト卿はカイが自分から逃げたとは届け出ていない。考えてみたら当然かも知れない。


ただでさえ、ギルド側にすら正式な手続きを踏んでない養子縁組かも知れないと思われたカイのことをベルゼルト卿側が『ブルーリオン騎士団』に知らせようものなら、あっという間にベルゼルト卿が不利になるだろう。


さらに『ブルーリオン騎士団』の捜査能力があれば、カイが虐待を受けていたと知るのはそう難しくないハズだ。

その子供が逃げ出したなんて知られれば更に疑惑は深まる。認めれば、ベルゼルト家の体裁や外聞は相当ヤバいことになるだろう。


大貴族の犯罪行為。『ブルーリオン騎士団』はそれこそ本腰を上げて調査することになるだろう。

そうなったらいくらベルゼルト卿言えどもその立場は崩壊すると言っていい。


貴族も法には敵わない。過去に『ブルーリオン騎士団』にガサ入れされて家ごと取り潰しになった貴族だっているからな。


「そのためか捜査の目は非常にフラットです。セイルさんが事情を知っているかも知れないという話についても、一方的に犯罪者と判断しているのではなく、あくまで重要参考人として出頭するようにギルド側に打診が来ています」


これらの書類はその過程で入手した物です。とミリアさんは締めくくった。


成程、分からん。何がわからんってなんで『ブルーリオン騎士団』は行方不明になった子供を探すのに自発的に捜査を始めたのか、って話だ。


『ブルーリオン騎士団』は自警団的な成り立ちで事件の捜査や犯人の逮捕を行う組織だが、行方不明なんかの捜査は基本的に依頼があって初めて始まるハズだ。

アテなんて殆ど無いからな、行方不明なんてのは。そもそもに、行方不明なんじゃなくて自分から逃げた可能性だってあるわけだ。


それこそ、カイみたいにな。それをわざわざ自分達から嗅ぎ付けて勝手に捜査するわけにはいかないだろう。

『ブルーリオン騎士団』が自発的に捜査を開始するのは人の命に関わることと、盗賊なんかだ。


ざっくり言うと暴力沙汰には『ブルーリオン騎士団』は爆速で動く。そんな騎士団が子供1人を探すために自発的に動くってのは違和感がある。


「確かに、きな臭いな」


「えぇ、私も最初はなんのことかわかりませんでしたが、これを聞いて課長の言っていた意味がわかりました」


ギルドの監視調査課の課長、ガルド・ベイレンのおっさんが別れ際に『ブルーリオン騎士団』が妙な動きをしていた、って言っていたのも分かった。

恐らくガルドのおっさんはこのことを言っていたんだろうな。


どうして『ブルーリオン騎士団』がカイとベルゼルト卿の件に首を突っ込んでいるのかは分からないが、俺達を探しているのは事実。


「で、ギルマスはなんて騎士団に言ったのよ? セイルが出頭するように言って来たんでしょ?」


「『バカ弟子がどこに行ったかなんて知る訳ないだろ』と突っぱねたそうです」


傑作だ。まさにババアらしい。リリアと2人で爆笑だ。ホント、『ブルーリオン騎士団』にそこまで強気に出られるなんて前代未聞だろ。

騎士連中が右往左往している様子が目に浮かぶ。ホント、腹芸なら下手な貴族より上だよあのババアはよ。


「ブルーリオン騎士団はベルゼルト卿の私兵とは違います」


ミリアさんがカイへ説明する。重要なことだ。カイもブルーリオンって騎士団について理解を深めておいた方が良い。


「法に従って捜査を行います。乱暴に連れ去るようなことは、基本的にはしません。その点は安心して良いでしょう」


「基本的には、ね」


リリアが念を押すように言う。法に忠実ってのは普通に考えれば良いことだ。抜け穴を突いて来たり、バレなければ何をしても良いって考えでもなく、悪事や後ろ暗いことを平気でして来てそれを揉み消すようなこともして来ない。


だが、それが全て俺達にとって都合の良いことであることかどうかは話が別だ。


何より法律上のカイの保護者はベルゼルト卿だ。騎士団が俺達を見つけた場合、事情を聞くより先にカイを保護しベルゼルト家へ返す可能性は十分ある。


そのために俺達と戦うことに『ブルーリオン騎士団』は躊躇しないだろう。その行為は法というルールを守るためであり、連中にとって正義の行いだからな。


「ブルーリオンだからと言って、油断はしないでください。彼らは正義を執行しますが、正義が最善の結果を生み出すかどうかは話が別です」


「……」


カイにとっちゃ難しい話だろうな。子供にとって『ブルーリオン騎士団』は正義の味方。自分達を助けてくれる存在、だからな。

それに頼るな、と言われて流石のカイも混乱せずにはいられない様子だった。


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