交易の街 ワインヒル
昨夜はそのままカイが寝付くまで隣にいることになった。
一人で大丈夫だと言っていたが、俺が隣のベッドに移ろうとすると露骨に不安そうな顔をするもんだから、結局で寝ることになった。
朝になって目を覚ましたカイは、申し訳なさそうに何度も謝って来た。別に謝ることじゃねぇんだけどな。
不安がってる子供をほっとくほど、ろくでなしではないつもりだ。
それにあんな話を聞いた日に一人で平気な顔をして眠れる方がおかしいだろ。あんなの大人でも数日は寝不足になるぜ。
実の両親が行方不明だってはなしなんだからな。
その後、朝食を終えた後、俺達は再び資料室へ集まった。
「カイさんのご両親について、調査で分かったことをお話します。よろしいですか?」
「……はい、お願いします」
今日の話の中心はカイの両親についてだ。昨日はカイが寝ていたってのもあって、そこから踏み込んだ話はしてなかったからな。
それを今からってワケだが、直接の当事者であるカイに確認を取る。
8歳児にこんな重い話をしなくても、とも思うが、同時に子供だからと言って自分の両親の話を伝えられないというのも酷い話になるだろう。
ショッキングな話になるのは分かり切っている。だからミリアさんはカイを見て、大丈夫か? と確認をしてから話をする。
カイも首を縦に振り、覚悟を決めて背筋を伸ばし、拳を膝の上でぎゅっと握り締めていた。
それを見て、分かりましたとミリアさんも意を決し、数枚の書類を机に並べる。調査資料、ってヤツだな。
色々書いてあるし写真もある。数枚ある写真のうちの一枚はカイが暮らしていた家の写真のようだ。
カイの両親が暮らしていた家は、今もオリエンスに残っている。ただし、一年以上誰も住んでいない。
家財道具も、衣服も、仕事道具も残されたまま。長い旅へ出る準備をした痕跡は無い、とのことだ。
写真にも家の中のものが幾つかあり、確かに家財道具一式が残ったまま。台所に至ってはまだ洗っていない食器がそのままになっていた。
「財布や貴重品も?」
「財布などは見つかっていません。ただし、生活に必要な物の殆どは残されています」
計画的な転居や旅行、とは考えにくいよな。
まるで夜逃げだ。それにしたって家財が残り過ぎているレベルで、その日、突然家を出なければならない事情があったか、本人達の意思とは無関係に連れ出された可能性が高いと資料にも書いてあった。
「近所の人は、何か見てないの?」
「ベルゼルト家の使者と思われる人物が、何度か家を訪ねていたという証言があります。カイ君を養子に出したという話は周囲に広まっていたようで、周辺の住民はその話をしているんだろう、と言っていました」
カイが息を呑む。名門貴族の使者が一般家庭を訪ねるなんて珍しい。だからこそ、一年以上経った今でも記憶に残っていたんだろうな。
しかも数回。そしてそこの家の一人息子が貴族に養子に出された、なんて噂が広まっていれば、尚更だろう。
ベルゼルト家の紋章が入った馬車。身なりの良い男達。近所の住民が覚えていたのは、その程度らしいが、とにかくベルゼルト家はカイを連れて行った後もそこそこの頻度でカイの実家を訪れていたみたいだ。
「最後に両親が確認された日にも、馬車が来ていたんです?」
「そこまでは確認出来ていません。ただ、姿を消す数日前に訪ねて来たという証言はあります」
「限りなく黒に近いな」
「状況証拠だけです。断定は出来ません」
ミリアさんの言葉は正しい。ベルゼルト卿が両親を消したと決めつけるのは簡単だ。
だが、明確な証拠が無い。
証拠も無いのに敵だと決めつけて動けば、こっちが足元を掬われる。
相手は大貴族だ。この程度の話は蹴散らせるし、逆にこっちが不利にさせられる可能性の方があるだろうよ。
「もう一つ、気になることがあります」
ミリアさんが別の書類を机に置く。紙の上部には、青い獅子の印が押されていた。
それを見て、俺達は更に厄介な状況が加速していることを何となく悟った。




