協力者
「何とかなったみたいね」
「あぁ。流石に肝が冷えた」
「あれ、何かあったんですか?」
俺がひと息ついたのを見て、リリアが一番の不安材料を乗り越えたことを察して声をかけて来る。それでようやく、カイも何かがあったことを察したようで、不安そうな声色に、俺は首を横に振る。
「念のための警戒ってヤツだ。念には念を入れないとどこで何が来るか分からないからな」
「今、ちょうど『天律聖教』の人とすれ違ってね。何にもないとは思ったけど、この前のことがあるでしょ?」
状況を説明されて、カイは納得したようでちらりと荷台から顔を覗かせて、もう随分と遠くなった『天律聖教』の関係者を乗せた馬車の後ろ姿を見る。
空を見ても旋回していた鴉の姿は無い。恐らくはあの修道士が飛ばした警戒用の鴉なんだろう。
ってことはあの馬車の中にいるのはかなり地位のある存在ってことだ。豪華な馬車に御者に護衛役だろう修道士。更には偵察用の鴉まで使って移動するってなると相当な維持費がかかるしな。
優秀な人材を使うのには金がかかるのが世の常。そしてそれに糸目をつけないのがお偉いさんだ。
多分、あの調子だと馬車の中にも護衛がいただろうな。
「気になったのは修道士が持っていた石だ。リリア、お前あんなのあるの知ってたか?」
「私に聞かれてもね。でもまぁ、少なくともあっちこっち歩いて回っていた1年前に『天律聖教』の関係者がそんなもの持ってるなんて話、聞いたこと無いわね」
「石?」
若い修道士が首から下げていた小さな石。指先どころか小指の爪の半分あるか無いか、ってサイズ感だったがそれでも俺には『天律聖教』の連中がそんなのを首から下げていた記憶は無い。
ましてや魔物や精霊に反応するなんて効果のある物があるなんて尚更だ。そんな便利な物があるなら便利な物が大好きな探索者の方まで噂が回っていると思うんだが。
実際、リリアもそんな話は聞いたことが無いという。しばらく実家に帰っていたリリアだが、そんな話なら小耳くらいには挟むだろう。
俺も便利屋稼業で殆ど隠居状態だったとは言え、ギルド支部にはほぼ毎日顔を出していた。
その中でも魔物や精霊に反応する石がある、なんて話は聞いたことも無かった。
「ここ最近の話なのか……?」
「かもね。それよりも気になるのは、その石、何かに反応してたみたいじゃない?」
「そうっぽいが……。正直眉唾物感もぬぐえないからなぁ……」
ここ最近で支給され始まったのなら、俺達が知らないのもの納得だ。だがそれ以上に気になることはあの石が一瞬だけ何かに反応したことだ。
だが、俺は正直に言ってあの石の性能とやらには猜疑的だ。何せ、魔物や精霊にピンポイントに反応するなんてそんな都合のいい話があるかって話だからだ。
魔物や精霊どちらも自然に発生する物であり、簡単に言えば魔力で強化された動物と自然現象ってところか。
動物は魔物、自然現象は精霊と呼ばれている。
魔物は分かりやすい。普通の動物よりもデカくて凶暴だ。特に肉食の魔物は人を平気で狩る。だから探索者の仕事の1つはこの魔物を間引くことだ。
目撃報告をもとに巣や群れを探し、それを討伐する。最もメジャーで、探索者とはどんな仕事なのかをイメージしろと言われたら、多くの人が連想するのはこういう仕事をしている人達だろう。
実際はもうちょいレパートリーあるけど、その話はどうでも良い。
精霊は自然現象そのものが魔力を得たパターンでこれも色々いる。風の精霊、水の精霊、火の精霊、土の精霊。
大抵は無害なんだが、たまに悪さをする奴がいてそれも討伐の対象だ。
中には災害を引き起こすような危険な奴もいるくらいだ。場合によっては魔物より危険だって言って良い。
そんな存在を感知する方法ってのは今まで発明されていない。理由は簡単。世界は魔力に満ちているからだ。
魔物も精霊も魔力を持っているが、そもそもこの世界に生きていると魔力は絶対に少なからず持っている。それが多いか少ないかの違いしかない。
魔力を感知して魔物や精霊化を判別する。なんて道具、今の技術では作れない。少なくとも俺はそんな技術を見たことも聞いたことも無かった。
「とりあえず、警戒しておきましょ。そういうモノがあるかも知れない、って」
「だな」
本当かどうかも分かっていない物にビビっていたって仕方ない。とにかく、ワインヒルを目指すか。
そこに監視調査課の支部があるらしいからな。色々、情報提供とかしてもらわねぇと。




