便利屋セイル
「……まだ?」
「まだです」
パンツ一丁にさせられて、身体の隅々をジロジロと見られる。ここまでジロジロと見られるとやましさとかより恥ずかしさの方が勝つ。
28の男が、年下の女性にジロジロと見られるこの状況。誰かに見られたら間違いなく変態の烙印を押されるぜ。
それだけは勘弁願いたいところ。ミリアさんも仕事だから仕方ないとはいえ、よく半裸の男をジロジロと見られるもんだなと感心すらある。
そんだけ仕事に真面目ってことなんだけどな。もうちょっと恥じらい持っても良いんじゃねぇか?
「確かに侵食の進行は見られませんね。前回のそれと差異がありません」
彼女のスキル『自動記録』は見聞きした物を自動的に記録して、それを後で物理的に出力することが出来るものだ。
監査記録課所属のギルド職員からすれば、理想的なスキルの1つだろうな。そのミリアさんが言うんだから、今回の『ディバインシフター』の使用での身体の侵食は見られなかったってのは確実だな。
「だから言っただろ? 大丈夫だって」
「そう言って放っておくとあなたは黙ってスキルを使いますから」
しっかり釘を刺されて、今回のチェックは終わりだ。全く、酷い目に遭ったぜ。
脱いで近くのテーブルに置いてあった自分の服をせっせと着込んでいく。その間に、自分でも侵食の度合いをそれとなく確認した。
顔立ちがそこそこ綺麗とは言え、俺も男。何もしなきゃ髭だのすね毛だの分かりやすい男らしい特徴ってのは自然と出て来る。
他にも骨格とか、筋肉の付き方とかな。どんなに女っぽい、男っぽいと言われている人でも根本的な男女の特徴ってのは変えようが無いもんだ。
だから、別に俺は女と間違われることは無い。髭を剃り忘れることだってあるし、顔立ちや体格は普通に男。声だってそうだ。
そんな男の特徴ばかりの身体の部分部分にほんの少しだけ毛が薄い部分や妙に色白な部分とか、肌が綺麗な部分とか、そういうのがある。
分かりやすいのは指だな。両手で合わせて10本の指、その中で1本だけ妙に細くて綺麗な女の指が混ざっている。
普段はこれを隠すために薄い皮の手袋をしているから、これがバレたことは無い。
皮の手袋は探索者のマストアイテムの1つだし、肌を出している奴なんてもってのほかだしな。
探索者にお洒落なんて二の次。実用性を突き詰めなきゃ自分の命がなんぼあっても足りない。
おかげで、俺の身体のあちこちにぽつぽつとあるちょっとした不自然な部分は誰にも見られることは無かった。
「何度も言います。『ディバインシフター』の使用は控えてください。侵食が進めばどんなことになるか分かりません。50%以上の出力での行使は特に論外です」
「わかってるって。それを考えて本部から離れたし、デカい支部にも行かなかったんだ。ここが一番安全で、使用する可能性も低い。そうだろ?」
俺はこのセントラリア王国。その王都『アストレア』にあるギルド本部でブイブイ言わせている探索者パーティーの一員だったんだ。
その頃は『ディバインシフター』のデメリットもまだ分かって無かった。そもそも、このスキルがどういうモノなのかを理解したのは14歳くらいの時だったからな。
あの頃の苦労はそれはそれで今の糧になってるが、それは置いておいて。
『ディバインシフター』のデメリットが発覚してから、俺の生活ってのは一変した。
偶然、それに気が付いたミリアさんによって露見したわけだが、結果として俺とパーティーの間に大きな溝が出来た。
正確にはパーティーのリーダー。俺の幼馴染で親友だった男と大喧嘩したことがその溝の本質なんだが、今はそれは良いだろ。
とにかく、『ディバインシフター』のデメリットの発覚によって、俺はその力を大きく制限するしかなくなった。
何せ使用者の身体を侵食するとか言うスキル。『女神』になれるって時点で頭がおかしいってのに、前例のないデメリットスキル。
使い続けるとどうなるのか、誰も分からなかった。分かっていることと言えば、このまま何も考えずに使っているといずれ俺が俺じゃない誰かになるってこと。
生きたまま他人になる。考えるだけでも末恐ろしい結末を待っている事だけが漠然とわかっている。
だから『ディバインシフター』を使用を極力避けるためにも名を上げた本部ギルドを離れて、セントラリア王国の中でも温暖で平和とされる西側。
その港町『エスメラルダ』へと俺は腰を落ち着けたんだ。




